20日(土)のSANKEI EXPRESS紙に掲載された連載【湘南の風 古都の波】です。渡辺照明記者の写真はこちらで。
http://www.sankeibiz.jp/express/news/141222/exg1412221545006-n1.htm
【湘南の風 古都の波】昭和の家のおもてなし
生け垣のサザンカから一枚ずつ花びらが散っていく。雲間に秋の日が差すと、緑の上の赤がひときわ印象的だ。今年最後の3連休だった11月22日からの3日間、鎌倉はこれ以上ないほどの行楽日和に恵まれ、たくさんの人でにぎわった。
3日目の24日(月・勤労感謝の日)は朝のうちこそ重く雲が垂れ込め、♪モズが枯れ木で~の冬景色。それが午前10時を過ぎたあたりから、穏やかな小春日和に転じた。
朝の霧が昼前に晴れる。海に近いせいか鎌倉にはそんな日が多い。同じサトウハチロー作詞でも、♪ちいさい秋みつけた~の1日に速やかに移行していく。
長谷の光則寺は鎌倉有数の花の寺として知られる。その門前にある邸宅も庭の芝生が日の光を浴び、輝いていた。敷地約300坪。縁側に座り、ひなたぼっこをしながら庭を眺める。小津安二郎の映画の登場人物になったような気分だ。
建物自体は昭和50年代の後半に建てられている。古民家と呼ぶほどには古くない。だが、当時の大工さんが丁寧に作った邸宅は、歴史の蓄積する鎌倉の中で、昭和を伝える遺産の一つと言っていいだろう。
ここに住んでいた所有者の両親が建て、家にも庭にも、思い出がたくさん詰まっている。手放したくはない。だが、いまは仕事の都合があり、離れて暮らさざるを得ない。
鎌倉にはそんな事情を抱えた邸宅が少なくない。
住む人がいなければ家も庭も荒れてしまう。維持、管理にも費用がかかる。かといって、手放してしまえば、集合住宅が建つか、小さな建売住宅に細分化されるか。それもまた、しのびない。どうしたらいいのか。邸宅の主である女性は考えた。
≪輝く「光の泡」 冬の鎌倉に走る≫
急勾配の坂道を上がると傍らに「ここの地盤は海抜15メートル」の標識。海辺からほんの少し高いだけで、周囲は山里の趣に包まれる。参道の両側にはそれぞれ「行時山」「光則寺」と書かれた石柱。邸宅はその内側にあり、お寺の土地に建てられている。
ふだんは人けのないその邸宅の庭に、勤労感謝の日には午前11時を過ぎたあたりからたくさんの人が訪れた。
鎌倉散策を楽しむ人たちが邸宅の内部に入る機会はあまりない。旧前田侯爵家別邸だった鎌倉文学館のように、公共の施設として一般に公開されているものもあるが少数だろう。
一方で、空き家にして放置するわけにもいかず、管理に困っているケースは少なくない。うまく生かせる方法はないだろうか。長谷の邸宅の所有者は、古民家の有効活用などに取り組むNPO法人Takara鎌倉の島津克代子代表らと相談し、新たな可能性を探ることになった。
「両親が愛し、慈しみ、手を入れた建物と庭が、荒れて朽ち果てていくのは残念です。自分で利用できないのなら地域の宝物として生かしていきたい」
再び住むようになるまで庭も家も生きている状態で維持していたい。そのためにはどうしたらいいか。
そんな希望から生まれた構想だ。具体的には来年春から鎌倉に住む芸術家の作品発表の場や鎌倉文化の体験会、結婚式の会場などに活用しつつ、維持費の確保を目指す。
勤労感謝の日にはそのプレイベントとして公開し、訪れた人たちに昼食を提供した。「地元の人にうまく使ってもらい、そのことで都会の人たちが鎌倉に来て豊かな町だなと思ってもらえればうれしい」とオーナーの女性は語る。
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秋から冬へ、この時期は季節の移り変わりがとりわけ早く感じられる。勤労感謝の日の5日後、11月29日の土曜日には、江ノ電の鎌倉駅など4駅で駅舎のイルミネーションが始まった。駅ごとにテーマがある。
鎌倉=光の駅舎
長谷=色づく光の木々
鎌倉高校前=光の泡
江ノ島=星降る駅舎
相模湾に面した鎌倉高校前駅は、江ノ電15駅の中で唯一、海が見える駅だ。単線の線路と国道134号の向こうに広がる夜の海はもう真っ暗だったが、「光の泡」が一段と輝いて見えるのも、その闇の深さがあるからだろう。昼と夜、光と闇の対比もまた、冬の鎌倉の魅力である。
駅のイルミネーションは来年2月15日まで点灯。通常は午後10時までだが、鎌倉、江ノ島の社寺が初詣客でにぎわう大みそかは終夜点灯になる。