U=Uをどう伝えるのか TOP-HAT News第122号(2018年10月号) 

 抗レトロウイルス治療の成果として、HIVに感染している人が治療によって体内のウイルス量を低く抑える状態を維持できれば、その人から他の人に性行為でHIVが感染するリスクは実質的にゼロになる。

 これがU=UUndetectable = Untransmittable、検出限界以下なら感染しない)というキャンペーンのメッセージです。TOP-HAT News122号(201810月号)の「はじめに」では、米疾病管理予防センター(CDC)が8月に発表したファクトシートを紹介しつつ、U=Uキャンペーンの目的は何か、そしてどんな成果が期待でき、何が課題となっているのか、U=Uをめぐる議論について考えてみました。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第122号(201810月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに U=Uをどう伝えるのか

 

2  新規感染者報告が11年ぶりに1000件を下回る 2017エイズ動向委員会年報

 

3 今年はKnow your status』(感染の有無を知ろう) UNAIDS

 

4 クロニクル京都1990s 森美術館で開催中

 

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1 はじめに U=Uをどう伝えるのか

 HIVの治療が感染予防にもたらす効果を踏まえ、U=UUndetectable = Untransmittable、検出限界以下なら感染しない)というメッセージを分かりやすく伝えようとする動きが国際的に活発化しています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は今年7月、オランダのアムステルダムで開かれた第22回国際エイズ会議(AIDS2018)の直前にU=U説明書を発表しました。日本語版もAPI-Netエイズ予防情報ネット)でダウンロードできます。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20180802

 

 8月には米疾病管理予防センター(CDC)が最新の研究成果に基づいてT as P(予防としての治療)とU=Uに関するファクトシートをまとめ、『HIV治療薬の服薬を処方通りに続け、ウイルス量を検出限界以下に抑え、かつその状態を維持していれば、HIV陽性者からHIV陰性のパートナーへの性感染リスクは実質的にない(effectively no risk)』と述べています。

分かりやすく、といっているそばから略語だらけでは、そもそも分かりにくいですね。少し説明しておきましょう。

 T as PTは治療(Treatment)、P Prevention(予防)の頭文字です。抗レトロウイルス薬の服薬を続けHIV陽性者の体内のウイルス量が減れば、本人の健康を維持できるだけでなく、他の人へのHIV感染も予防できるということです。

 U=Uは、治療により血液中のウイルス量が検出できないほど低く抑えられていれば、性行為でHIV陽性者からパートナーにHIVが感染することはない。T as Pの成果として、HIV陽性者に対するスティグマや社会的な差別を払拭するために、この点を強調したメッセージです。

 略語ではありませんが、「effectively no risk」についてはCDCのファクトシートでこう説明しています。

 『統計的にゼロリスクとは言えないものの、これまでの研究で極めて大きなカップル年にわたるフォローアップを行い、それでも感染事例は観察されていない。言い換えれば、リスクは無視できるということだ』

 注釈続きですいません。「カップル年」はカップル数と期間をかけ合わせた考え方で、「100カップル年」といえば、100組のカップルが1年間とか、10組が10年間といった計算になります。

 ファクトシートによると、最近の3つの大規模研究で、一方がHIV陽性で他方は陰性という『HIV不一致』の異性間カップ500組以上、男性同士のカップ1100組以上を調査し、HIV陽性の人が検出限界以下のウイルス量を維持しているカップルの間では、コンドームを使用していなくてもHIV性感染は一件も起きていないことが分かりました。統計上は誤差の範囲を見込むのでゼロとは断言できない。でも、現実の世界ではこれだけ調べて一件もないのだから「リスクはない」という結論です。

 米国の政府系保健機関は協力してT as PU=Uを分かりやすく伝える工夫に取り組んでおいるそうで、ファクトシートによると、そのためには以下の情報をきちんと知らせる必要があります。

 

 ・抗レトロウイルス治療を開始してからウイルス量が検出限界以下になるまでの期間

・定期的なウイルス量検査の重要性

・治療継続の重要性

HIV治療中断時の対応

・他の性感染症の予防策

・ウイルス抑制の利益に関する知識や理解

・ウイルス量が検出限界以下にならない人に対するスティグマの防止

 

 CDCによると、男性とセックスをする男性12000人を対象にした最近の調査では、HIV陰性の人の半数以上とHIV陽性者の3分の1近くが、「検出限界以下のウイルス量によってもたらされる利益」は誤りだと答えています。科学的なエビデンスは確立したといっても、社会的にはそのメッセージがなかなか広がっていきません。どうしてなのかということは科学者だけが考える問題ではないでしょう。

 また、「T as P」はHIV予防に有効だとしても、他の性感染症の予防策にはなりません。この点も視野に入れ、混乱を招かないようなメッセージが必要です。

 様々な事情でウイルス量が検出限界以下の状態を維持できない人もいます。米国の調査では、過去1年にわたりウイルス量の抑制を維持していた人は、HIVケアを受けている人の3分の2にとどまっています。

 つまり、HIVの治療につながっていたとしても、3割以上の人がU=Uの状態を維持できないでいます。また、HIV検査をためらう人、検査で感染が判明しても治療につながりたくない人もいます。

U=U」は、HIV陽性者に対するスティグマを解消し、社会的な差別をなくしていくうえで極めて強力なメッセージではありますが、一方で「どんどん検査して感染が分かったら即治療」といったメッセージを一本調子で繰り返していたのでは、社会的な理解はなかなか広がらないという現実もまたあります。

日本国内でも昨年の第31回日本エイズ学会学術集会・総会でU=Uキャンペーンが紹介され、その後も継続しています。検査と治療の利益とともに、海外での経験も踏まえ、課題についても議論を重ね、分かりやすく丁寧にメセージを伝えていくことがキャンペーンの有効性を高めるためには不可欠です。

 エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログでCDCファクトシートの日本語仮訳を掲載しました。あわせてご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/201810/article_4.html

 

 

 

2  新規感染者報告が11年ぶりに1000件を下回る 2017エイズ動向委員会年報

 厚生労働省エイズ動向委員会が2017年のエイズ発生動向年報を発表しました。昨年の年間新規HIV感染者・エイズ患者報告数は以下のようになっています。

 

新規HIV感染者報告数  976 件(過去 11 位)

新規エイズ患者報告数   413 件(過去 11 位)

計         1389 件(過去 11 位)

 

 感染者・患者報告の合計が1300人台に下がったのは2006年の1358件(406件、952件)以来11年ぶりです。また、新規感染者報告が1000件を下回ったのも11年ぶりでした。年報はAPI-Netエイズ予防情報ネット)で公表されています。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/2017/17nenpo/17nenpo_menu.html

 

 

 

3 今年はKnow your status』(感染の有無を知ろう) UNAIDS

 121日が世界エイズデーとなったのは1988年からで、今年は30周年の節目を迎えます。国連合同エイズ計画(UNAIDS)がその30周年のテーマを発表しました。

 

 Know your status』(感染の有無を知ろう)

 

 UNAIDSの公式サイトには『自らの感染を知らない人たちに働きかけ、その人たちが質の高いケアと予防のサービスにつながれるようにする必要があります』とその趣旨を説明する紹介記事が掲載されています。

 『残念なことにHIV検査を阻む障壁は数多く残っています。スティグマと差別はいまも人びとをHIV検査から遠ざけています。検査における個人情報の保護はいまなお重要な課題です。体調を崩し、症状が出てから初めて検査を受ける人がまだたくさんいます』

 世界も日本も共通の課題を抱えています。HATプロジェクトのブログで日本語仮訳をご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/201809/article_4.html

 

 

 

4 クロニクル京都1990s 森美術館で開催中

 HIV/エイズセクシャリティについて多彩な表現活動が展開された1990年代の京都の動きをアーカイブ資料で伝える展覧会『クロニクル京都1990s ダイアモンズ・アー・フォーエバー、アートスケープ、そして私は誰かと踊る』が106日(土)から東京・六本木ヒルズ森美術館で開催されています。開催期間は2019120日(日)までです。

 《1990年代の京都、特に左京区では、アート、アクティビズム、クラブカルチャーなどが共存し、多様な表現活動が自由に行なわれていました。ダムタイプなど京都市立芸術大学出身者のまわりに、現代美術、ドラァグクィーン・パーティー「ダイアモンズ・アー・フォーエバー」、HIVエイズの啓発を行うAPPエイズ・ポスター・プロジェクト)、セクシュアリティを問い直す活動、様々な活動の拠点としてのアートスケープなど、多くのコミュニティがゆるやかに形成されていました。「そして私は誰かと踊る/And I Dance with Somebody」は「AIDS」の頭文字を使ったキャッチフレーズで、「第10回国際エイズ会議」のためにAPPによって考案されたものです》 (森美術館公式サイトから)

 この展覧会は『六本木ヒルズ森美術館15周年記念展 カタストロフと美術のちから展』との同時開催です。入場料などの詳細は公式サイトをご覧ください。

 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamresearch006/index.html

 

 

 

 

豊穣の願いを込めて式の的 秋の材木座海岸で流鏑馬

 さわやかな秋の日曜日でした。長谷川さんは新宿御苑に繰り出したのかな。鎌倉の材木座海岸では明治150年を記念して鎌倉流鏑馬かまくらやぶさめ)が開催されました。

 

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 ずらっと「1」が並んで、11月11日午前11時開始。来賓のあいさつなどもあるので、実際に始まったのは正午ちょっと前ぐらいでしょうか。砂浜は大変な人でした。その向こうの海も・・・。

 

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 大変なことになっていました。思い思いといいますか。暖かかったとはいえ、にぎやかですね。

 

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 こちらは式の的。五色の円は米、麦、ひえ、あわ、豆を表しているそうで、五穀豊穣を願って矢を射ます。

 

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 的は三カ所あるので、射終えたらすぐに次の矢をつがえる必要があります。馬が速すぎると、次の的に間に合わない。ただし、遅すぎてもタイミングが合わない。なかなか難しいようです。

 

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 一巡したら、海辺の秋空を背にスタート地点(何か特別な呼び名があるのでしょうね。知らなくてすいません)へと戻ります。

 

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 次は的が板に変わりました。

 

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 こちらは矢が当たると、パリンと割れます。

 

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 最後は土器の的。段々、小さくなりますね。当たったかな? たぶん・・・。いい休日でした。

 

去年の報告書ですが・・・『エイズ流行終結 90-90-90ターゲットの進捗報告』 エイズと社会ウェブ版358

 出し遅れの証文みたいで恐縮ですが、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2017年7月20日に発表した報告書の日本語仮訳です。1年以上遅れて、ようやくAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載してもらいました。 

api-net.jfap.or.jp


 《世界・日本の状況》欄の『UNAIDS「ENDING AIDS PROGRESS TOWARDS THE 90-90-90 TARGETS(エイズ流行終結 90-90-90ターゲットの進捗報告)』をクリックしてください。日本語仮訳のPDF版を読むことができます。

 

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 とはいえ、日本語に訳したのは前半のほぼ半分、約100ページの総論部分だけです。後半の各地域別データについては英文のままですが、悪しからず。
 これだけの分量を訳し、PDF化する作業に時間がかかってしまい、もう次の年の報告書が出ていますね。データもすべて更新されています。
 それでも、載せておく必要があるかなあと考えたのは、2017年の報告書は、90-90-90ターゲットに向けた高速対応実施の中間報告にあたるからです。
 2020年を達成目標年とする90-90-90ターゲットは、2014年にオーストラリアのメルボルンで開かれた第20回国際エイズ会議で発表されています。つまり、2017年が真ん中の年にあたるわけですね。
 報告書は全体として、世界のHIV/エイズ対策は目覚ましい成果を上げているけれど、本気で90-90-90ターゲットを達成しようと思っているのなら、なお一層の努力が必要であるという内容です。
 参考までに付け加えると、その1年後の(つまり2018年の)報告書は『Miles to Go(道はまだ遠い)』というタイトルです。このままでは目標達成はかなり厳しいという認識に変わっています。
 本来ならそちらも訳した方がいいのでしょうが、さすがに疲れ切ってしまいました。
 

東京都エイズ予防月間 11月16日から 東京都エイズ通信第134号

 気ぜわしくなってきましたね。2018年も余すところあと2か月足らず。お知らせするのがちょっと遅くなりましたが、東京都エイズ通信の第134号(201810月号)が発行されました。 

archives.mag2.com

   ◇

平成3011日から平成301026日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者       278件  (310件)

AIDS患者          54件  ( 79件)

合計              332件  (389件)

HIV感染者数、AIDS患者数ともに昨年同時期を下回っています。

   ◇

 報告数の合計が10か月間で332件ということは1か月平均33.2件。年間の報告数が400件を下回るかどうか微妙なところです。10年前の2008年には報告数の年間合計が545件でした。それを考えると減少傾向がかなりはっきりしています。ただし、あくまで報告レベルです。性的に活発な年齢層の人口は総数として減少傾向にあることも考えておく必要があります。流行は縮小しているという結論はまだ出し切れませんが、仮に横ばいだったとしても、これまでにやってきたことが一定の成果を上げているとは言えそうです。

 詳細な分析は専門家にゆだねるとして、今回のエイズ通信には、東京都エイズ予防月間(1116日~1215日)のお知らせも掲載されています。121日の世界エイズデーを中心にした1カ月ですね。

 今年のテーマは『みんなで描こうステキなミライ』です。

 して、そのココロは・・・ということで、より詳しくはこちらを見ていただきましょう。 

東京都エイズ予防月間 東京都福祉保健局

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ダッシュボードができました エイズと社会ウェッブ版357

ところで、ダッシュボードって何?

そら、あの、よくあるやろ、ビルなどでごみをシュっと捨てる・・・。

ダストシュートや、それは。

バスケットのほら、かっこええで。

ダンクシュート! もうええわ。

 

統計の話には極端に弱いおじさんといたしましては、訳しながらだんだんやけくそになってきました。滑り方も半端じゃありません、というか中途半端です。

ダッシュボードはですね、たとえば車の運転席や飛行機の操縦席などにある計器盤を指すようです。

で、この場合はどう訳す? ちょっと苦労しますね。まあ、カタカナでいいか。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに掲載されたFeature Newsの日本語仮訳です。背景をよく知らず、車の運転にも詳しくないので、推測しながら訳しました。要するにこういうことでしょうか。アジア太平洋地域のHIV/エイズ関連の様々なデータを集めたエイズ・データハブというのがすでにあって、そのもろもろのデータを図やグラフ、一覧表などで見ることができる「計器盤」ができました・・・。

 データハブについてはこちらをご覧ください。

  https://www.aidsdatahub.org/

 トップページの右側にクリックして地図やグラフなどに跳べるダッシュボードがあります。話をもとに戻して、英文のFeature Newsはこちら。www.unaids.org

 

 『UNAIDSが開発したこのプラットフォームはHIV疫学とエイズ対策に関連するデータと指標を地図やグラフ、図表、ファクトシートなどでビジュアル化し、国別、キーポピュレーション別に利用できる』

 データはもちろん大切ですが、UNAIDSの推計は新しく発表されるごとに、過去のデータまでさかのぼって更新されてしまうので、1年前のデータでも次の推計が発表されれば使えなくなってしまいます。たとえば20年前の年間新規HIV感染者数の推計値を調べようと思っても、去年の発表と今年の発表では数字が違っている。正確さを期す余り、受け手に混乱を強いるという悲しい結果をもたらしているようにも思うのだけど、そんなことを言っても、エビデンス信奉者は効く耳を持たないでしょうね。

 『域内ではUNAIDSが収集、発表してきたデータに言及せずに報告書を作成したり、スピーチを行ったりすることはできない』

 はいはい。市井のおじさんとしては、なんだかと思いつつも、正確なデータの必要性を認めることにはもちろん、やぶさかではありません。以下、『New data dashboard launched in the Asia and the Pacific region』の日本語仮訳です。

 

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アジア太平洋地域の新たなデータ・ダッシュボードを開設

     2018112日 Feature Story

  エイズ・データハブにあるアジア太平洋地域のHIV情報をより戦略的に活用するための新たなデータ・ダッシュボードが1030日、開設された。

 UNAIDSが開発したこのプラットフォームはHIV疫学とエイズ対策に関連するデータと指標を地図やグラフ、図表、ファクトシートなどでビジュアル化し、国別、キーポピュレーション別に利用できる。また、統合した分析や個別のデータへのアクセスもしやすく、HIVに関連した戦略的情報の収集と分析、資料照会などが一か所でできるようになっている。

 「2030年のエイズ流行終結に向けた具体的なターゲットに合わせるには、アジア太平洋地域が2016年の政治宣言で約束したエイズ終結の軌道に乗っているかどうかを確認しなければなりません。データは、これまでにどこまで成果が上がり、これからどんな課題に取り組まなければならないかを示すものです」とUNAIDSアジア太平洋地域サポートチームのイーモン・マーフィ所長はいう。

 HIVの流行に関する正確で信頼度の高いデータはエイズ対策の基盤となる。流行状況を詳しく把握できるのは、長年にわたるデータの収集と分析と提供の結果であり、それが必要な時に必要な人と場所に適切なプログラムを提供する助けとなる。各国がエイズ終結に向けて成果を上げるには、エイズ対策に関する質の高いデータを集め、分野横断的な分析を進めることが不可欠となっている。

 UNAIDSとデータハブチームは、域内の各国と協力し、エイズ対策に関するデータを収集、分析し、戦略的な情報を作成、活用できるよう各国の能力強化を助けてきた。域内ではUNAIDSが収集、発表してきたデータに言及せずに報告書を作成したり、スピーチを行ったりすることはできない。

 データハブチームは市民社会、とりわけ若年層のデータリテラシーを高めるために緊密な協力を行っている。「調査とデータは、コミュニティにおける生きた経験とともに、効果的なHIV対策に必要なエビデンスを提供することになります。エイズ・データハブはコミュニティベースのワーカーが、よりよいサービスと資金、プログラムの拡大を求めていくために不可欠なツールとなっているのです」とAPCOMのミッドナイト・プンカセットワタナ事務局長はいう。

 

 

Feature story

New data dashboard launched in the Asia and the Pacific region

02 November 2018

A new data dashboard to enhance the HIV strategic information products that were already available on the AIDS Data Hub for the Asia and the Pacific region was launched on 30 October.

Developed by UNAIDS, the platform allows users to visualize data and indicators related to HIV epidemiology and the AIDS response in the region through customizable maps, graphs, tables and fact sheets by indicator, country and key population. It also facilitates integrated analysis and gives access to granular data. The data dashboard is a one-stop shop that offers HIV-related strategic information, data analysis products and reference documents.

With concrete targets to be met on the way to end the AIDS epidemic by 2030, it is vital to have the right data tracking whether the Asia and the Pacific region is on course to meet the commitments made in the 2016 United Nations Political Declaration on Ending AIDS. Data show us how far we have come and how far we have to go,” said Eamonn Murphy, Director of the UNAIDS Regional Support Team for Asia and the Pacific.

Accurate and credible data on the HIV epidemic are the cornerstone of the AIDS response. Over the years, a detailed understanding of the HIV epidemic has been built up through the collection, analysis and dissemination of data, helping programmes to reach the right people in the right place and at the right time. Having high-quality data on the AIDS response coupled with cutting-edge analysis has been critical for countries to track their progress towards ending the AIDS epidemic.

UNAIDS and the Data Hub team work with all the countries in the region to collect and analyse data on their AIDS responses and to help build their capacity to generate and use strategic information. In the region, no major report, speech or policy initiative on HIV is launched or made without referring to data collected and released by UNAIDS.

The Data Hub team works closely with civil society, particularly on strengthening the capacity of young community members on data literacy and the interpretation and use of data. “Research and data, coupled with the lived experience of our community, provide the evidence we need for an effective response to HIV. The AIDS Data Hub is an essential tool for helping community-based HIV workers across the Asia–Pacific region access relevant research and data to amplify their advocacy for better services, more funding and the scaling up of programming,” said Midnight Poonkasetwattana, the Executive Director of APCOM.

 

2020年7月末で活動終了へ AAA エイズと社会ウェブ版356

 音楽業界を中心にエイズ啓発活動を続けてきたAct Against AIDSAAA)が公式サイトに『これからの啓発活動についてのお知らせ ~【AAA 90-90-90 by 2020】』という告知記事を掲載しています。

 『この四半世紀におよぶ活動を平成という時代が終わろうとしているこの時期をひとつの区切りとし、東京オリンピックを迎える20207月末にて役割を終えさせていただく予定です』

www.actagainstaids.com

 1993年から継続してきた活動を20207月で終了するというお知らせですね。

 毎年121日の世界エイズデーを中心に全国各地で続けられてきた『AAAコンサート』、そのコンサートの収益金などをもとに制作された啓発パンフレット、そして海外施設への支援・・・。

 そうか、そうですか。必ずそこにあるものだと思っていたこれらの活動についに終止符を打つ時が来ますか。

 突然のお知らせには、残念だという思う一方で、これだけの長い期間にわたり、充実した啓発活動を続けてこられたことに対し、感謝しきれないほどの感謝の念でいっぱいです。

 『今年で26年目に入ったAAAとしましては、設立当初の目的である「無知の状態からのエイズ啓発」という意味においては、一定の成果をあげることができたのではないかと考えています。もちろん、エイズは依然としてこの世に存在し、日本でも新たな感染者が報告されています』

 『しかしながら、われわれの活動が、エイズについて考えたり、友人や家族、パートナーと会話するきっかけ作りとなり、同時にまた、日本における社会貢献活動の活性化にもわずかながらでも寄与できたのではないかと考えています』

 大いに寄与していただいたと思います。ありがとうございました。

 でもまだ、過去形ではありませんね。これから活動終了の時が来るまで、AAAは【90-90-90 by 2020】の啓発活動に力を入れていくそうです。

2020年は国連の90-90-90ターゲットの達成目標年です。HIV陽性者の90%が検査で自らの感染を知り、そのうちの90%が治療を受け、さらにその90%が体内のHIV量を検出限界以下に抑えた状態を維持するというターゲットですね。

 このターゲットを達成すれば世界中のHIV陽性者の73%90%×90%×90%)は体内のウイルス量が現在の検査では検出できないほど少なくなるので、他の人に性感染するリスクが実質的にゼロになるということです20207月末までは、あと19カ月、引き続きよろしくお願いします。

予防対策、やばいぞ・・・HIV資金報告書が指摘 エイズと社会ウェブ版355

 HIV予防の資金について継続的な追跡調査を行っているThe Resource Tracking for HIV Prevention R&D Working GroupHIV予防研究開発資金把握作業グループ)が2018年版の報告書を発表しました。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに掲載された紹介記事を日本語に訳しました。仮訳を下の方に載せておきます。

予防技術の開発は進んでいるものの、それを支える資金投資はこの5年間、減少を続けており、この状態が続けば、2030年までに公衆衛生上の危機としてのエイズ流行を終結に導くことは極めて難しい。報告書はこう警告しています。

 この作業グループの事務局を中心になって担っているのは、AVACという国際組織です。公式サイトを見ると、1995年に活動を開始し、以前はthe AIDS Vaccine Advocacy Coalitionの略称でした。エイズワクチンの開発を応援するアクティビストの団体だったようですが、いまは『AVAC Global Advocacy for HIV Prevention』となっています。対象をワクチンに限定せず、生物医学的な予防対策全体の研究開発を応援しているようですね。

 報告書は、その生物医学的研究の成果については、エイズ流行終結に対する楽観的な見方を伝える報告が多いことを指摘する一方、そうした研究を支える資金投資については、この5年間、減少を続けており、過去10年余りの間で最も低いレベルにまで落ち込んでいるそうです。

 成果がある程度、上がってくれば、政治の指導者は「もういいだろう」という感覚になり、資金を他に回したくなる。問題課題はどっさりあり、HIV/エイズだけが緊急課題というわけではありませんよということでしょう。当たり前過ぎる反応で涙が出てきます。そうしたことは緻密な頭脳の医学者には無理やり数値化して示せるようなエビデンスがないから想像できないんでしょうかね。おっと、こういう憎まれ口は、思っていても控えておきましょう。はやりすたりに流されない主張というものも必要です。

 最近はトランプ政権下の米国の動きが世界中に混乱をもたらす大きな要因になっていますが、この辺りの影響はどうなんでしょうか。報告書はこう指摘しています

『米国政府は引き続き、HIV予防研究の最大の資金拠出者であり、2017年の資金全体のほぼ4分の3を占めている。しかし、それでも6%の減少であり、米国の資金貢献は過去5年間で最も低い83000万ドルとなっている。報告書はエイズ対策資金の確保に関する政治的意思が不安定になっていることに大きな懸念を表明している』

HIV/エイズ対策では優等生的な評価も高かったブラジルもきな臭いことになっていました。世の中は相変わらず、心配だらけ。とりあえずは116日の米中間選挙、どうなるんでしょうね。

 

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世界的なHIV予防対策の目標達成は厳しい

  2018.10.28 UNAIDSFeature Story

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2018/october/resource-tracking-for-hiv-prevention-r-d

 

 世界が新規感染の抑制に取り組む中で、HIV予防研究の世界では、有効性試験の結果に基づき、楽観的な見通しが広がっている。大規模なHIVワクチンと抗体の有効性試験が進行中であり、予防の選択肢としての抗レトロウイルス薬の効果についてもさらに追跡研究が進められている。

 しかし、HIV予防研究開発資金把握作業グループによる新たな報告によると、HIV予防に関する研究開発投資は、増額によって新たな研究を支えるどころか、実質的には減少していることが示されている。

 実は2017年までの5年間、HIV研究資金は毎年、減少を続け、この10年以上の間で最も低いレベルまで落ち込んでいる。2017年のHIV予防研究開発資金は前年より3.5%4000万ドル)減り、11億ドルとなった。

 「間違えないようにしましょう。予防は危機に直面しています。これ以上の資金難には耐えきれなくなっています」とAVACHIV予防アドボカシー団体)のミッチェル・ウォーレン事務局長はいう。「研究の成果で新たな予防オプションが現実のものになりつつあるこの時期に、HIV予防の研究資金が減少を続けている。このような事態は受け入れられません。公衆衛生上の危機としてのエイズ終結には、HIV予防研究への持続的な投資を確保し、新たなツールを生み出していく必要があります」

 2020年までに年間の新規HIV感染を50万件以下に抑える(2017年は年間180万件)というUNAIDSの高速対応ターゲットを実現するには、男性器包皮切除や曝露前予防服薬(PrEP)など既存の予防手段の拡大をはかるだけでなく、予防の選択肢としての長期持続型抗レトロウイルス薬やワクチンといった革新的な新手段の開発を進めなければならないと報告書は警告している。

 実際にHIV予防研究の全領域をタイムリーなかたちで前に進めていけるかどうかは、資金を持続的に確保できるかどうかにかかっている。わずかな資金の減少であっても、エイズ流行終結に向け、有望な予防手段の開発が遅れたり、開発できなくなったりする原因になる。

 「毎日5000人が新たにHIVに感染している現実の中で、HIVの影響を最も大きく受けている人たちのために、いま効果が認められているHIV予防プログラムの規模を拡大すること、そして新たなテクノロジーとソリューションに使えるものにするための投資を行うことは、ともに重要です」 と国連合同エイズ計画(UNAIDS)のティム・マルチノー事務局次長は語る。「両方を実現することが、新規感染を防ぎ、人びとの命を救い、生涯に及ぶ抗レトロウイルス治療のコストの上昇を抑えることにもなります」

 米国政府は引き続き、HIV予防研究の最大の資金拠出者であり、2017年の資金全体のほぼ4分の3を占めている。しかし、それでも6%の減少であり、米国の資金貢献は過去5年間で最も低い83000万ドルとなっている。報告書はエイズ対策資金の確保に関する政治的意思が不安定になっていることに大きな懸念を表明している。

 研究者や対策担当者、支援者、資金提供者らが今週、スペインのマドリードで開かれるHIV予防研究会議(HIVR4P2018)でHIV予防研究の成果を検証する。流行終結に向けたHIVの科学研究と蓄積された知識に関しては楽観的な見方が多い。だが、資金と政治環境はそうした見方に水を差し、今後のHIV対策やHIVが提起する課題に対する世界の対応能力には大きな懸念が生じている。

 報告書と予防研究への投資に関するインフォグラフィックスは、オンラインの

www.hivresourcetracking.org 

およびソーシャルメディア #HIVPxinvestment でみることができる。

HIV予防研究開発資金把握作業グループ(以前は、ワクチンとマイクロビサイド資金把握作業グループ)は2000年以降、生物医学的な予防オプションの研究開発投資と支出の動向を把握するために包括的な手法を採用している。AVACが作業グループの事務局を主導し、国際エイズワクチン構想(IAVI)とUNAIDSが加わっている。

 

 

 

Global HIV prevention targets at risk

29 October 2018

As the world grapples with how to speed up reductions in new HIV infections, great optimism is coming from the world of HIV prevention research with a slate of efficacy trials across the prevention pipeline. Major HIV vaccine and antibody efficacy trials are under way, as is critical follow-on research for proven antiretroviral-based prevention options.

However, a new report by the Resource Tracking for HIV Prevention R&D Working Group shows that rather than bolstering the new research by increasing investments into these exciting new advances, resources for HIV prevention research and development are actually slowing down.

In fact, in 2017, HIV research funding declined for the fifth consecutive year, falling to its lowest level in more than a decade. In 2017, funding for HIV prevention research and development decreased by 3.5% (US$ 40 million) from the previous year, falling to US$ 1.1 billion.

 Make no mistake, we are in a prevention crisis and we cannot afford a further funding crisis,” said Mitchell Warren, AVAC Executive Director. “It is unacceptable that donor funding for HIV prevention research continues to fall year after year even as research is moving new options closer to reality. We need continued and sustained investment to keep HIV prevention research on track to provide the new tools that will move the world closer to ending AIDS as a public health threat.”

The report warns that meeting the UNAIDS HIV prevention Fast-Track target of less than 500 000 new infections by 2020 (new HIV infections were at 1.8 million in 2017) will not only require the expansion of existing options such as voluntary medical male circumcision and pre-exposure prophylaxis, but also the development of innovative new products, including long-acting antiretroviral-based prevention options and a vaccine.

Indeed, sustained funding will be critical to keep the full gamut of HIV prevention research moving forward in a timely manner, as even small declines in funding could delay or sideline promising new HIV prevention options that are needed to end the AIDS epidemic.

With 5000 people becoming infected with HIV every day, it is critical that we both scale up the effective HIV prevention programmes we currently have and invest in new technologies and solutions so that they can become a reality for the populations most affected by HIV,” said Tim Martineau, UNAIDS Deputy Executive Director, a.i. “Doing both will avert new infections, save lives and reduce the rising costs of life-long antiretroviral treatment.”

The Government of the United States of America continues to be the major funder of HIV prevention research, contributing almost three quarters of overall funding in 2017. However, this was also a decrease of almost 6%, bringing funding from the United States to a five year low of US$ 830 million. The report highlights that the uncertainty around continued political will to fund the AIDS response is a serious concern.

This week, researchers, implementers, advocates and funders are gathering at the HIV Research for Prevention (HIVR4P 2018) conference in Madrid, Spain, to review progress in HIV prevention research. There is much to be optimistic about in HIV science and in the accumulated knowledge of how to end the epidemic; however, the sobering changes in the funding and policy environments are raising some serious concerns about the future of the response to HIV and the world’s ability to respond to the continued challenges that HIV presents.

The report and infographics on prevention research investment are online at www.hivresourcetracking.org and on social media with #HIVPxinvestment.

Since 2000, the Resource Tracking for HIV Prevention R&D Working Group (formerly the HIV Vaccines & Microbicides Resource Tracking Working Group) has employed a comprehensive methodology to track trends in research and development investments and expenditures for biomedical HIV prevention options. AVAC leads the secretariat of the working group, which also includes the International AIDS Vaccine Initiative and UNAIDS.