U=Uをどう伝えるのか TOP-HAT News第122号(2018年10月号) 

 抗レトロウイルス治療の成果として、HIVに感染している人が治療によって体内のウイルス量を低く抑える状態を維持できれば、その人から他の人に性行為でHIVが感染するリスクは実質的にゼロになる。

 これがU=UUndetectable = Untransmittable、検出限界以下なら感染しない)というキャンペーンのメッセージです。TOP-HAT News122号(201810月号)の「はじめに」では、米疾病管理予防センター(CDC)が8月に発表したファクトシートを紹介しつつ、U=Uキャンペーンの目的は何か、そしてどんな成果が期待でき、何が課題となっているのか、U=Uをめぐる議論について考えてみました。

 

 

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        第122号(201810月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに U=Uをどう伝えるのか

 

2  新規感染者報告が11年ぶりに1000件を下回る 2017エイズ動向委員会年報

 

3 今年はKnow your status』(感染の有無を知ろう) UNAIDS

 

4 クロニクル京都1990s 森美術館で開催中

 

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1 はじめに U=Uをどう伝えるのか

 HIVの治療が感染予防にもたらす効果を踏まえ、U=UUndetectable = Untransmittable、検出限界以下なら感染しない)というメッセージを分かりやすく伝えようとする動きが国際的に活発化しています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は今年7月、オランダのアムステルダムで開かれた第22回国際エイズ会議(AIDS2018)の直前にU=U説明書を発表しました。日本語版もAPI-Netエイズ予防情報ネット)でダウンロードできます。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20180802

 

 8月には米疾病管理予防センター(CDC)が最新の研究成果に基づいてT as P(予防としての治療)とU=Uに関するファクトシートをまとめ、『HIV治療薬の服薬を処方通りに続け、ウイルス量を検出限界以下に抑え、かつその状態を維持していれば、HIV陽性者からHIV陰性のパートナーへの性感染リスクは実質的にない(effectively no risk)』と述べています。

分かりやすく、といっているそばから略語だらけでは、そもそも分かりにくいですね。少し説明しておきましょう。

 T as PTは治療(Treatment)、P Prevention(予防)の頭文字です。抗レトロウイルス薬の服薬を続けHIV陽性者の体内のウイルス量が減れば、本人の健康を維持できるだけでなく、他の人へのHIV感染も予防できるということです。

 U=Uは、治療により血液中のウイルス量が検出できないほど低く抑えられていれば、性行為でHIV陽性者からパートナーにHIVが感染することはない。T as Pの成果として、HIV陽性者に対するスティグマや社会的な差別を払拭するために、この点を強調したメッセージです。

 略語ではありませんが、「effectively no risk」についてはCDCのファクトシートでこう説明しています。

 『統計的にゼロリスクとは言えないものの、これまでの研究で極めて大きなカップル年にわたるフォローアップを行い、それでも感染事例は観察されていない。言い換えれば、リスクは無視できるということだ』

 注釈続きですいません。「カップル年」はカップル数と期間をかけ合わせた考え方で、「100カップル年」といえば、100組のカップルが1年間とか、10組が10年間といった計算になります。

 ファクトシートによると、最近の3つの大規模研究で、一方がHIV陽性で他方は陰性という『HIV不一致』の異性間カップ500組以上、男性同士のカップ1100組以上を調査し、HIV陽性の人が検出限界以下のウイルス量を維持しているカップルの間では、コンドームを使用していなくてもHIV性感染は一件も起きていないことが分かりました。統計上は誤差の範囲を見込むのでゼロとは断言できない。でも、現実の世界ではこれだけ調べて一件もないのだから「リスクはない」という結論です。

 米国の政府系保健機関は協力してT as PU=Uを分かりやすく伝える工夫に取り組んでおいるそうで、ファクトシートによると、そのためには以下の情報をきちんと知らせる必要があります。

 

 ・抗レトロウイルス治療を開始してからウイルス量が検出限界以下になるまでの期間

・定期的なウイルス量検査の重要性

・治療継続の重要性

HIV治療中断時の対応

・他の性感染症の予防策

・ウイルス抑制の利益に関する知識や理解

・ウイルス量が検出限界以下にならない人に対するスティグマの防止

 

 CDCによると、男性とセックスをする男性12000人を対象にした最近の調査では、HIV陰性の人の半数以上とHIV陽性者の3分の1近くが、「検出限界以下のウイルス量によってもたらされる利益」は誤りだと答えています。科学的なエビデンスは確立したといっても、社会的にはそのメッセージがなかなか広がっていきません。どうしてなのかということは科学者だけが考える問題ではないでしょう。

 また、「T as P」はHIV予防に有効だとしても、他の性感染症の予防策にはなりません。この点も視野に入れ、混乱を招かないようなメッセージが必要です。

 様々な事情でウイルス量が検出限界以下の状態を維持できない人もいます。米国の調査では、過去1年にわたりウイルス量の抑制を維持していた人は、HIVケアを受けている人の3分の2にとどまっています。

 つまり、HIVの治療につながっていたとしても、3割以上の人がU=Uの状態を維持できないでいます。また、HIV検査をためらう人、検査で感染が判明しても治療につながりたくない人もいます。

U=U」は、HIV陽性者に対するスティグマを解消し、社会的な差別をなくしていくうえで極めて強力なメッセージではありますが、一方で「どんどん検査して感染が分かったら即治療」といったメッセージを一本調子で繰り返していたのでは、社会的な理解はなかなか広がらないという現実もまたあります。

日本国内でも昨年の第31回日本エイズ学会学術集会・総会でU=Uキャンペーンが紹介され、その後も継続しています。検査と治療の利益とともに、海外での経験も踏まえ、課題についても議論を重ね、分かりやすく丁寧にメセージを伝えていくことがキャンペーンの有効性を高めるためには不可欠です。

 エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログでCDCファクトシートの日本語仮訳を掲載しました。あわせてご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/201810/article_4.html

 

 

 

2  新規感染者報告が11年ぶりに1000件を下回る 2017エイズ動向委員会年報

 厚生労働省エイズ動向委員会が2017年のエイズ発生動向年報を発表しました。昨年の年間新規HIV感染者・エイズ患者報告数は以下のようになっています。

 

新規HIV感染者報告数  976 件(過去 11 位)

新規エイズ患者報告数   413 件(過去 11 位)

計         1389 件(過去 11 位)

 

 感染者・患者報告の合計が1300人台に下がったのは2006年の1358件(406件、952件)以来11年ぶりです。また、新規感染者報告が1000件を下回ったのも11年ぶりでした。年報はAPI-Netエイズ予防情報ネット)で公表されています。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/2017/17nenpo/17nenpo_menu.html

 

 

 

3 今年はKnow your status』(感染の有無を知ろう) UNAIDS

 121日が世界エイズデーとなったのは1988年からで、今年は30周年の節目を迎えます。国連合同エイズ計画(UNAIDS)がその30周年のテーマを発表しました。

 

 Know your status』(感染の有無を知ろう)

 

 UNAIDSの公式サイトには『自らの感染を知らない人たちに働きかけ、その人たちが質の高いケアと予防のサービスにつながれるようにする必要があります』とその趣旨を説明する紹介記事が掲載されています。

 『残念なことにHIV検査を阻む障壁は数多く残っています。スティグマと差別はいまも人びとをHIV検査から遠ざけています。検査における個人情報の保護はいまなお重要な課題です。体調を崩し、症状が出てから初めて検査を受ける人がまだたくさんいます』

 世界も日本も共通の課題を抱えています。HATプロジェクトのブログで日本語仮訳をご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/201809/article_4.html

 

 

 

4 クロニクル京都1990s 森美術館で開催中

 HIV/エイズセクシャリティについて多彩な表現活動が展開された1990年代の京都の動きをアーカイブ資料で伝える展覧会『クロニクル京都1990s ダイアモンズ・アー・フォーエバー、アートスケープ、そして私は誰かと踊る』が106日(土)から東京・六本木ヒルズ森美術館で開催されています。開催期間は2019120日(日)までです。

 《1990年代の京都、特に左京区では、アート、アクティビズム、クラブカルチャーなどが共存し、多様な表現活動が自由に行なわれていました。ダムタイプなど京都市立芸術大学出身者のまわりに、現代美術、ドラァグクィーン・パーティー「ダイアモンズ・アー・フォーエバー」、HIVエイズの啓発を行うAPPエイズ・ポスター・プロジェクト)、セクシュアリティを問い直す活動、様々な活動の拠点としてのアートスケープなど、多くのコミュニティがゆるやかに形成されていました。「そして私は誰かと踊る/And I Dance with Somebody」は「AIDS」の頭文字を使ったキャッチフレーズで、「第10回国際エイズ会議」のためにAPPによって考案されたものです》 (森美術館公式サイトから)

 この展覧会は『六本木ヒルズ森美術館15周年記念展 カタストロフと美術のちから展』との同時開催です。入場料などの詳細は公式サイトをご覧ください。

 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamresearch006/index.html