「はじめに」で綴るエイズ対策史 その5

 《課長と部下2人が残業をしていた。部下の1人が指先を切って出血したので、もう1人が手当をしようとすると、指を切った部下があわてて「さわっちゃだめ」と制止する。会社には黙っていたが、HIVに感染しているのだという。HIV陽性者であることをカミングアウトする結果になった部下に対し、課長は何と言葉をかけるのか。課長になったと思って考えてください》『課長さんどうします 講演会傍聴記』から


 「はじめに」で綴るエイズ対策史 その5 をTOP-HAT Forum(東京都HIV/AIDS談話室)のサイトに掲載しました。2010年4月から7月までの4本(第21~23号)。各号の目次は以下の通りです。
 
《サッカーW杯にかける希望》(第20号 2010年4月)
《議論に筋目を 第24回日本エイズ学会ニューズレター発刊》(第21号 2010年5月)
《感染報告の減少をどう受け止めるか》(第22号 2010年6月)
《オフィス街のエイズ講演会》(第23号 2010年7月)

 サッカーのW杯が6月に開幕し、ほぼ1カ月にわたり熱戦が展開されました。開催国・南アフリカは世界最大のHIV陽性者人口を抱える国であり、2000年(と2016年)には国際エイズ会議が開かれています。これを見逃す手はないでしょうということで、さっそく取り上げました。
 「垣根を越えよう」をテーマにした11月の日本エイズ学会学術集会・総会では、準備段階からニューズレターを発行しています。啓発という意味でも注目の試みでした(ただし担当者はへとへと)。
 健康落語の立川らく朝さんは当時、二つ目でしたが、2015年4月に真打ちに昇進されています。

 東京都の講演会では、その日のサッカーW杯日本対パラグアイ戦をすかさず取り上げ・・・。
 《日本は惜しかったですねえ。惜しかったけれど、パラグアイもあまり調子は良くなかったそうです。腹具合が悪かった・・・》
 つかみだけでなく、講演全体も見事でした。傍聴記もあわせて、ぜひお読みください。
 http://www.tophat.jp/material/d.html

(追加) 冒頭で紹介した『課長さんどうします 講演会傍聴記』は私の感想文ですが、2010年当時の課長さんだけでなく、現在の課長さんにも聞いてみたいですね。

 どうします?

 

 

 

復刻シリーズ3 浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100

 先ほどの復刻シリーズ2は2012年の年間報告数の速報値段階での話でした。こちらはその3カ月後に確定値が発表された段階での感想文。この年は速報値と確定値の誤差がわずか3ということで、件数としてはほぼ同じでした。委員長コメントも《今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象》です。ただし、状況認識は変わっていません。私の感想も同じことの繰り返しというか・・・。

 《日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある》

 

 

◎浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100  (2013.5.23)

 エイズ動向委員会が22日に発表した2012年の新規HIV感染者報告と新規エイズ患者報告の年間確定値はAPI-Netにも掲載された。詳細はAPI-Netの『平成24年発生動向年報』でご覧いただくとして、ここでは少し、私の感想を書いておこう。まずは、2002年からの年間確定値の推移。動向年報概要にはグラフで傾向が分かりやすく示されているが、ローテクが売りの当ブログは数字で示しておく。数字は左から、対象年、合計報告数(感染者報告数、患者報告数) 合計報告数に占める患者報告数の割合になる。

 

 02年   922  ( 614,  308 )     33.4%

 03年   976    (640,  336 )  34.4%

 04年   1165 ( 780,   385 ) 33.0%

 05年  1199 ( 832,  367 ) 30.6%

 06年  1358 ( 952,  406 ) 29.9%

 07年  1500 ( 1082,  418 ) 27.9%

 08年     1557    ( 1126,   431 )   27.7%

    09年  1452 ( 1021,   431 )      29.7%

 10年  1544  ( 1075,  469 )      30.4%

 11年  1529 ( 1056,  473 )    30.9%

 12年   1449  ( 1002,   447 )      30.8%

 

 委員長コメントにもあるように新規感染者報告、患者報告ともに07年、08年あたりから横ばい傾向にある。年間の患者感染者報告の合計は04年に1000件の大台を超え、3年後の07年には1500件レベルに達し・・・というかたちで急増傾向を示していたが、08年の1557件以降、横ばい傾向に転じた。この3年は横ばいからさらに微減の傾向といえるかもしれない。ただし、これはあくまでも報告の話。実際の感染が増加しているのか、横ばいなのか、減っているのかを示すデータではない。2月の速報値段階の委員長コメントでは、報告数の推移を踏まえ、岩本愛吉委員長が「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とかなり踏み込んだ見解を示していた。この点について当ブログでも当時、そうかもしれないし、そうでないかもしれない、ああでもない、こうでもないと2回もぐだぐだと書いている。

 

 《「感染横ばいの可能性」2012年速報値でエイズ動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90 》 

 《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》

 

 速報値段階と比べ、確定値の報告数は3件しか増えていないが、今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象を受けた。2000年ごろからの国内のHIV感染の増加は主にMSM(男性と性行為をする男性)の間での感染拡大によるものと見られていたし、実際の対策もそうした認識のもとでゲイコミュニティにフォーカスしていた。たとえば06年度から5年間の《エイズ予防のための戦略研究》の《首都圏および阪神圏の男性同性愛者を対象としたHIV抗体検査の普及強化プログラムの有効性に関する地域介入研究》などがそうした動きの一つといえる。

http://www.jfap.or.jp/strategic_study/htmls/page09_2.html

 

 その対策の成果が現在の報告ベースにおける横ばい傾向に反映している可能性は十分にある。したがって速報値ベースでの「経年傾向として、新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とする委員長見解にも可能性レベルではあるが、一定の説得力はあるだろう。ただし、報告データからそれが読み取れるようになった時期に(つまり、この1、2年ということだけど)、その要因と考えられる条件(たとえば戦略研究の成果を引き継ぎ、さらに発展させるような対策)が存在しているのかどうか。この点は少々、疑問ですある。むしろエイズの流行に対する社会的な関心の低下がそうした条件を崩しているのではないか。個人的にはそんな印象も受ける。また、MSM対策で築いた基盤を生かし、他の感染経路における感染の拡大を防ぐ動きが生まれるといった波及効果も、現状ではあまり期待できそうにない。

 

《一方で、20012年においても、新規HIV感染者報告数は1002件、新規AIDS患者報告数は447件と、年間1500件程度の新規報告があり、また、新規AIDS患者報告数が3割を占める状況が続いている》

 

 かりに実際に感染が拡大から横ばいの傾向に転じているとしても、それは「年間1500件程度の新規報告」があるという前提での話です。もちろん、日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある。

 

 今回の委員長コメントはその意味で、速報値段階よりも危惧の部分への目配りを利かせたという感じも伝わり、ひとまず妥当な判断なのではないかと思う。

 

 

復刻シリーズ2 「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

 失われたブログからの復刻シリーズ第2段です。2013年2月のエイズ動向委員会で発表された2012年の年間新規HIV感染者エイズ患者報告の速報値について取り上げた《「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント》およびその続報の《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》を掲載します。

動向委員会はこのときに初めて、報告だけでなく、国内における実際の感染も「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示しました。

《あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう》

かなり踏み込んだ判断だったと思います。以下はそのときの私の感想。評価はしつつも、どっちつかずのことを言っていたわけですね。ま、「傍観者」といわれてもしかたがないかな。せめて「伴走者」ではありたいと思うけど、実際、「傍観者」なんだし・・・。

《様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ》

 

 

 

◎「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

 (2013.2.13)

厚労省エイズ動向委員会が22日、昨年1年間の新規HIV感染者・エイズ患者の速報値を発表した。2011年12月26日から12年12月30日までの約1年間の四半期ごとの速報値を合計したもので、報告数は以下のようになっている。

 

 新規HIV感染者報告 1001件 (過去6位)

 新規エイズ患者報告   445件 (過去3位)

    合計     1446件  (過去6位)

 

今回の速報値について動向委員会の岩本愛吉委員長は「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」との委員長コメントを発表した。

http://api-net.jfap.or.jp/status/2013/1302/20130222_coment.pdf

 

 動向委員会のデータはあくまで報告数であり、国内の感染の現状を表わすものではない。報告数はこの3年ほど横ばいないしは微減の傾向を示していたが、そこには検査・相談件数の減少からうかがえる社会的な関心の低下も要因として考えられることから、動向委員会はこれまで、実際の感染は拡大の傾向が続いているとの見方をとっていた。しかし、今回は速報値段階とはいえ、新規感染者、患者報告がともに前年より減少しており、報告データを詳細に検討したうえで、「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示すことになった。あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう。

 

 考えられる要因はいくつかある。抗レトロウイルス治療が進歩し、HIVに感染した人の体内のウイルス量を長期にわたって大きく減らすことが可能になった。このことがHIVに感染した人のエイズ発症を防ぎ健康状態を保つという治療効果だけでなく、他の人への感染を防ぐ予防上の効果ももたらすことが最近、さまざまな研究成果から繰り返し指摘されている。つまり、自らの感染を早期に把握し、適切な治療を受ける人が増えれば、結果としてHIV感染が成立する機会も減る。したがって、新規感染の拡大が抑えられるという構図である。日本は長期のデフレにあえいできたとはいえ、なお安定した保健医療基盤と経済力を有しており、治療の進歩を予防対策上の成果につなげる条件にも恵まれている。ただし、そうした条件があっても、HIV感染が分かれば、不利益が大きくなるような社会では、検査を必要とする人ほど検査を避けることにもなりかねない。検査の普及が予防に結びつくには、HIVに感染している可能性のある人が安心して検査を受けられる環境を整えていく必要がある。世界のエイズ対策でキーポピュレーション(HIV/エイズの流行に大きな影響を受け、対策の鍵を握る人たち)の参加が重視され、わが国のエイズ予防指針で、特別な配慮を必要とする個別施策層への支援が強調されているのもそのためである。

 

 エイズ動向委員会の昨年の速報値を見ると、同性間の性感染が新規HIV感染者報告で報告全体の72%、新規エイズ患者報告で54%を占めている。一方でこの10年を振り返ると、エイズ予防のための戦略研究やHIV/AIDS予防啓発のためのコミュニティセンターの開設など、個別施策層の中でも、とりわけ男性と性行為をする男性(MSM)を対象にした予防啓発活動や支援対策にかなり重点を置いた施策が展開されてきた。感染が最も起きているところに対策の資源をシフトしていくという意味では、妥当な政策判断だったというべきだろう。治療の進歩を予防対策にも生かすという観点から、こうした地道な対策の積み重ねがもたらした成果はもっと重視されていい。同時にこのことは、HIV感染の流行がMSMの間での感染から他の個別施策層へと移行することがあるとすれば、その動向をいち早く察知し、それぞれの個別施策層に対応する当事者と協力して対策を組み立てていく必要があることも示している。引き続き動向把握には緊張感を持ってあたる必要がある。

 

 新規感染の拡大に歯止めがかかったのか、あるいはそこから縮小に向かうのか。動向委員会は「横ばいの可能性がある」という見方を打ち出したが、私には実はまだ、よく分からない。東京都のデータを見ると、11年には新規HIV感染者報告もエイズ患者報告も大きく減少したが、12年はまた増加に転じている。今回の全国レベルの速報値とは動きがやや異なる。その時期、地域によって一律には論じられないのかもしれない。また、診療や陽性者支援の現場の人たちから皮膚感覚ベースの話を聞くと、必ずしも拡大傾向に歯止めがかかったとは言えない感触を持つ人も多い。一時的に成果と見えたものに安心して対策に熱が入らなくなると、かえって次の感染拡大の要因を作ってしまう懸念もある。

 

 様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ。

 

 

 

 

◎しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について (2013.2.25)

 厚労省エイズ動向委員会が2月22日、わが国のHIV感染について「横ばいとなっている可能性がある」という新しい判断を示したことは先日、紹介した。どうも新聞の記事にはあまり取り上げられず、載ったとしても「報告が横ばい」と解釈しているようで、私にはこれは誤解というか、動向委員会のメッセージが正しく伝わっていないように思う。もちろん報告の数字も横ばいではあるが、新規HIV感染者・エイズ患者の報告数の合計で見ると、これはもう2007年ぐらいから1500件前後で推移しているので、目新しい傾向ではない。そうではなくて、今回は報告のデータを検討した結果、実際の国内の感染も横ばいになっているという判断を打ち出したわけで、これは何人かの動向委員に確かめてみても、いままでにはない判断だという。10年前の2002年の感染者・患者報告の合計は922件と1000件未満だったから、1500件前後での横ばいというのは、感染のフェイズが一段、上がったところでの横ばいということでもある。地道な対策の成果ということはできるが、同時にそれは横ばいから減少に転じたわけではないというメッセージでもある。これで対策をゆるめてもいいというような気分が広がれば、また拡大基調に戻ってしまうという微妙な分岐点だろう。重複になるが、念のためにもう一度、書いておく。

 

 

米国内の新規HIV感染は6年前より18%減少 CDC

 全米のHIV新規感染は《2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている》ということで、年間ベースの比較では18%の減ということです。

 米国政府のエイズ啓発サイトAIDS.govのブログに2月14日付で掲載されたCDC報告の日本語仮訳。昨年末か今年の初めにすでに公表されていたように思いますが、2月13日~16日にシアトルでレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI2017)が開かれたのを機会に資料を整理して発表したようですね。

 米国内のHIV新規感染の減少についてはハイ・インパクト予防(HIP)アプローチが機能しているとして、(自画自賛とまではいいませんが、ともかく)自ら評価するとともに、成果には集団や地域によるばらつきがあるため、このアプローチをさらに進めていく必要があることも指摘しています。

 HIPは簡単に説明すると《最も影響の大きい人口層や地域に特別な配慮をしつつ、科学的に証明され、費用対効果が高く、効果の測定が可能な対策》ということだそうです。HIPの成果をさらに高めるため、今後は以下のような対応に力を入れるようですね。

 ・HIV検査の簡素化し、利便性を高め、ルーティン化する;

 ・HIV感染が判明したその日からHIV陽性者がケアと治療を受けられるようにする;

 ・HIVに感染していない人が、包括的注射器サービスやPrEPなどすでに示した予防に関する情報とツールを得られるようにする。

  アメリカはこうなっていますよ(ただし、政治の激震でそれもかわるかもしれませんが、とにかくいまはまだ、こうなっている)ということを知っておく必要はあります。だからこそ、仮訳作りにもいそしみました。

 ただし、アメリカではここまでやっているのに、日本はガラパゴス化しちゃって・・・みたいな方向に話が拡大していくと、ちょっとややこしくなってきますね。

 

blog.aids.gov

  

米国内の新規HIV感染は6年前より18%減少

 この減少は米国のHIV予防と治療普及の努力が成果を上げていることを示している。ただし、コミュニティによってその成果は一様ではない

2017.2.14 米疾病管理予防センター(CDC)  AIDS.govのブログから

 2014年の米国内の年間新規HIV感染件数は2008年当時より18%減ったとする米疾病管理予防センター(CDC)の最新推計が本日、シアトルのレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI)で報告された。2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている。しかし、国内のすべての集団で同じように成果が上がっているわけではない。

 「わが国のHIV予防ハイ・インパクト・アプローチは機能しています。私たちにはツールがあり、HIVから自由になるためにそのツールを活用しています」とCDCのHIV/エイズ・ウイルス性肝炎・性感染症結核予防センターのジャナサン・マーミン所長はいう。「このデータは、全米、各州、各地方が一丸となった予防と治療の努力の成果です。こうした対策が最も必要とする人たちに届くよう、さらに努力を続ける必要があります」

 米国内の年間新規HIV感染推計の最新分析は、HIV予防の成果を示している。全国的な減少に加え、CDCは、2008年から14年までの感染経路のトレンドも分析、検証したうえで、感染減少の以下のような傾向も確認した。

 

 ・薬物使用者の感染は56%減(3900人から1700人へ)

 ・異性間の性感染は36%減(1万3400人から8600人へ)

 ・13歳から24歳までの若いゲイ男性は18%減(940人から770人へ)

 ・いくつかの州とワシントンDCではかなり減少 ― ワシントンDC(この6年間に毎年10%ずつ減少)、メリーランド州(毎年8%ずつ減少)、ペンシルバニア州(毎年7%ずつ減少)、ジョージア州(毎年6%ずつ減少)、ニューヨーク州ノースカロライナ州(毎年5%ずつ減少)、イリノイ州(毎年4%ずつ減少)、テキサス州(毎年2%ずつ減少)

 

 さらに、年間推計が得られた35州とワシントンDCでは、増加しているところはなく、減少もしくは横ばいだった。

 この減少傾向は主に、HIVの感染を知り、ウイルス量の抑制を果たすHIV陽性者が増えたこと、つまり効果的な治療によりHIV感染のコントロールができるようになった結果であるとCDCの研究者は考えている。これは公衆衛生上の最優先課題である。HIV陽性者の健康が改善されたことに加え、抗レトロウイルス薬による早期治療でHIV陽性者から他の人へのHIV感染のリスクも劇的に減っていることを研究は示している。

 曝露前予防投薬(PrEP)の使用拡大も最近の新規感染予防には大きな役割を果たしているようだ。CDCは2012年にPrEPに関する暫定臨床ガイドラインを発表し、HIVに感染していない人が、抗レトロウイルス薬を毎日、服用することで、性感染のリスクを90%以上、引き下げられるとしている。米食品医薬品局(FDA)も2012年にHIV予防目的でPrEPを承認した。

 「検査や教育の努力と合わせ、これらの新しい予防ツールの力を最大限に生かしていけば、この国のHIV流行終結に希望が生まれます」とCDCのユージン・マックレイHIV/エイズ予防部長は語っている。「HIVに感染している人にも、していない人にも、HIV治療薬が利益をもたらすことの力を科学が明らかにしているのです」

 

 

HIV感染のリスクが大きい人たちのためにこの成果を生かす

 ゲイ、バイセクシュアル男性は、2008年から2014年の間に年間の新規HIV感染件数が唯一、減少していない集団だった。白人および若年のゲイ、バイセクシュアル男性では減少したが、他の層の増加で相殺されている。ゲイ、バイセクシュアル男性全体の年間新規感染は約2万6000人、また黒人のゲイ、バイセクシュアル男性では年間約1万人でほぼ横ばいとなっている。それまでに10年以上、増加が続いていたことを考えると希望の持てる傾向とはいえる。だが、気がかりなのは年齢、民族集団によっては年間の新規感染が増加していることだ。

 

 ・25-34歳のゲイ、バイセクシュアル男性では35%増加(7200人から9700人へ)

 ・ラテンアメリカ系ゲイ、バイセクシュアル男性では20%増加(6100人から7300人へ)

 

 データでは地域的な不均衡も現れている。2014年には新規感染の50%が、全米人口の37%を占める南部諸州で起きたと推定されている。人種、民族別の年間HIV新規感染についてはさらに分析が進められることになる。

 「残念ながらコミュニティや人口層によって成果のばらつきがあります」とマックレイ博士はいう。「ハイ-インパクト予防戦略の成果を州や地方レベルに広げるためには継続が必要です。感染を把握するための検査の普及をはかり、効果的なHIV治療を受けるHIV陽性者の割合を増やし、予防ツールの効果を最大限に高める必要があります」

 2014年の注射薬物使用者のHIV新規感染は、2008年当時に比べると減少してはいるが、その成果もオピオイドの流行によって台無しになるおそれがある。

 「薬物注射使用者のHIV感染を減らした劇的な成果も、わが国のオピオイドの流行で危うくなっています」とマーミン博士は語る。「包括的な注射器サービスプログラムを拡大する必要があります。薬物使用を増やすことなく、HIV感染のリスクを減らし、薬物使用者が薬物使用を止めるのを助けるサービスにつなげるプログラムです」

 

 

CDCは効果が高く、費用対効果の高い対策に焦点をあてる

 CDCはハイ-インパクト予防(HIP)アプローチを実施することで予防対策の成果をさらに高めようとしている。HIPは、最も影響の大きい人口層や地域に特別な配慮をしつつ、科学的に証明され、費用対効果が高く、効果の測定が可能な対策である。その一環として、CDCは全米、各州、地方のパートナーとともに以下の活動を進めている:

 

 ・HIV検査の簡素化し、利便性を高め、ルーティン化する;

 ・HIV感染が判明したその日からHIV陽性者がケアと治療を受けられるようにする;

 ・HIVに感染していない人が、包括的注射器サービスやPrEPなどすでに示したような予防に関する情報とツールを得られるようにする

 

 CDCのHIV予防資金の大半は、最も緊急を要する地元のニーズを反映したプログラムに対応できるよう州や地方の保健部局に提供されている。

 

 

 

 

New HIV Infections Drop 18 Percent in Six Years

  February 14, 2017 • By Centers for Disease Control and Prevention

 

Decline signals HIV prevention and treatment efforts in the U.S. are paying off, but not all communities are seeing the same progress.

 

The number of annual HIV infections in the United States fell 18 percent between 2008 and 2014 — from an estimated 45,700 to 37,600 — according to new estimates from the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) presented today at the Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI) in Seattle. Progress, however, was not the same among all populations or areas of the country.

 

“The nation’s new high-impact approach to HIV prevention Exit Disclaimer is working. We have the tools, and we are using them to bring us closer to a future free of HIV,” said Jonathan Mermin, M.D., director of CDC’s National Center for HIV/AIDS, Viral Hepatitis, STD, and TB Prevention. “These data reflect the success of collective prevention and treatment efforts at national, state and local levels. We must ensure the interventions that work reach those who need them most.”

 

The most recent analysis of the number of new HIV infections estimated to occur each year in the U.S. provides a sign of progress in HIV prevention. In addition to the national decline, a new CDC analysis also examined trends by transmission route from 2008 to 2014 and found annual HIV infections dropped:

 

    56 percent among people who inject drugs (from 3,900 to 1,700);

    36 percent among heterosexuals (from 13,400 to 8,600);

    18 percent among young gay and bisexual males ages 13 to 24 (from 9,400 to 7,700);

    18 percent among white gay and bisexual males (from 9,000 to 7,400);

    And substantially in some states and Washington, D.C. — Washington, D.C. (dropping 10 percent each year over the six-year period); Maryland (down about 8 percent annually); Pennsylvania (down about 7 percent annually); Georgia (down about 6 percent annually); New York and North Carolina (both down about 5 percent annually); Illinois (down about 4 percent annually); and Texas (down about 2 percent annually).

 

Furthermore, CDC researchers did not find any increases in annual HIV infections in the 35 states and Washington, D.C., where annual HIV infections could be estimated — they decreased or remained stable in all of those areas.

 

CDC researchers believe the declines in annual HIV infections are due, in large part, to efforts to increase the number of people living with HIV who know their HIV status and are virally suppressed — meaning their HIV infection is under control through effective treatment. This is a top public health priority. Studies have shown that, in addition to improving the health of people living with HIV, early treatment with antiretroviral medications dramatically reduces a person’s risk of transmitting the virus to others.

 

Increases in the use of pre-exposure prophylaxis, or PrEP, may also have played a role in preventing new infections in recent years. CDC issued interim clinical guidelines in 2012 for PrEP, a pill that people who do not have HIV can take daily to reduce their risk of infection from sex by more than 90 percent. The FDA approved PrEP for HIV prevention in 2012.

 

“Maximizing the power of these new prevention tools in conjunction with testing and education efforts, offers the hope of ending the HIV epidemic in this nation,” said Eugene McCray, M.D., director of CDC’s Division of HIV/AIDS Prevention. “Science has shown us the power of HIV treatment medicines in benefitting people with and without HIV.”

 

 

Progress must accelerate for people at greatest risk

 

Gay and bisexual men were the only group that did not experience an overall decline in annual HIV infections from 2008 to 2014. This is because reduced infections among whites and the youngest gay and bisexual men were offset by increases in other groups. Annual infections remained stable at about 26,000 per year among gay and bisexual men overall and about 10,000 infections per year among black gay and bisexual men — a hopeful sign after more than a decade of increases in these populations. However, concerning trends emerged among gay and bisexual males of certain ages and ethnicities, with annual infections increasing:

 

    35 percent among 25- to 34-year-old gay and bisexual males (from 7,200 to 9,700);

    20 percent among Latino gay and bisexual males (from 6,100 to 7,300);

 

These data also show regional disparities in southern states, which are home to 37 percent of the U.S. population but accounted for 50 percent of estimated infections in 2014. Future analyses will examine racial and ethnic disparities of annual HIV infections.

 

 “Unfortunately, progress remains uneven across communities and populations,” said Dr. McCray. “High-impact prevention strategies must continue to be developed and implemented at the state and local levels to accelerate progress. That means more testing to diagnose infections, increasing the proportion of people with HIV who are taking HIV treatment effectively and maximizing the impact of all available prevention tools.”

 

While HIV infections fell from 2008 to 2014 among people who inject drugs, this progress may be threatened by the nation’s opioid epidemic.

 

“The opioid epidemic in our country is jeopardizing the dramatic progress we’ve made in reducing HIV among people who inject drugs,” said Dr. Mermin. “We need to expand the reach of comprehensive syringe services programs, which reduce the risk of HIV infection without increasing drug use, and can link people to vital services to help them stop using drugs.”

 

 

CDC focuses on high-impact, cost-effective solutions

 

CDC is working to accelerate prevention progress by implementing its High-Impact Prevention (HIP) approach. HIP involves delivering scientifically proven, cost-effective, and scalable interventions, with particular attention to the most heavily affected populations and geographic areas.

 

As part of HIP, CDC is taking action with national, state and local partners to help ensure:

 

    HIV testing is simple, available and routine;

    People living with HIV get care and treatment, starting the day they are diagnosed;

    And that people who are not infected with HIV have prevention information and tools, such as comprehensive syringe services programs and PrEP, as indicated.

 

The bulk of CDC’s HIV prevention funding is provided to state and local health departments who tailor their programming to address the most urgent local needs.

 

『ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク』 基本メッセージとコンセンサス声明

 前置き

 昨日も声明本体を含む前半部を紹介しましたが、米国のU=Uキャンペーンなどが発表している『ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク』というコンセンサス声明の日本語仮訳です。英文はPrevention Access Campaignというサイトに掲載されています。 

www.preventionaccess.org

 仮訳には後半の専門家のコメントの引用なども加えてあります。冒頭の基本メッセージ部分には次のように書かれています。
 《HIV陽性者、医療提供者、そしてHIVに感染するリスクが潜在的にある人たちの多くは、治療の成功がHIV感染の予防に与える効果の大きさについて十分に認識できていません。 HIV感染のリスクに関するメッセージの多くは、時代遅れの研究に基づき、組織と資金確保上の制約や永続的なセックス否定の政策、HIV関連のスティグマと差別の影響を受けているのです》
 これが声明を出すに至った動機ということでしょうね。一方で次のようにも指摘しています。
 《同時に、HIV陽性者の多くが、治療のアクセスを制限する様々な要因(たとえば、不適切な保健医療システム、貧困、人種差別、拒否感情、スティグマ、差別、犯罪化)や先行するARTの治療による耐性ウイルス、ARTの毒性などにより、検出限界以下のHIV量に達しているわけではないということも認識する必要があります。治療しないことを選ぶ人もいるでしょうし、治療開始の用意ができていない人もいます》

 当ブログ2月9日付に日本語仮訳を掲載したGNP+の声明《恐怖と感染性と検出限界以下について》、および2月17日付の《先日の記事『 恐怖と感染性と検出限界以下について』のフォローアップ》もあわせてご覧下さい。
 こうやってみると、まず医学研究のエビデンスを前面に打ち出したコンセンサス声明が発表され、そうはいっても・・・ということで、GNP+が自らの見解を示す声明を出した。ところが、その声明にはコンセンサス声明の推進者であるU=Uキャンペーンを非難するトーンが強く出ていたので、コンセンサス声明の関係者から逆に強く反発され、見解のフォローアップを出すに至った・・・。
 あくまで情報がない中での私の個人的推測ですが、時系列的には何となくそんな構図で納得できるような印象を受けています。

 

    ◇

 

コンセンサス声明  賛同者更新2017.2.3現在

 https://www.preventionaccess.org/consensus

 

ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク

     基本メッセージとコンセンサス声明

 

 抗レトロウイルス治療(ART)を受け、血液中のウイルス量が6カ月以上、検出限界以下となっているHIV陽性者(PLHIV)からのHIV感染のリスクは、存在しないと見なせる。このことはすでにエビデンスに基づいて確認されています。検出可能なレベルでもHIVは常に感染するわけではないとはいえ、HIV陽性のパートナーのウイルス量が検出限界以下であれば、本人の健康を守ると同時に新たなHIV感染を防ぐことにもなります。[i]

 しかし、HIV陽性者、医療提供者、そしてHIVに感染するリスクが潜在的にある人たちの多くは、治療の成功がHIV感染の予防に与える効果の大きさについて十分に認識できていません。 [ii]  HIV感染のリスクに関するメッセージの多くは、時代遅れの研究に基づき、組織と資金確保上の制約や永続的なセックス否定の政策、HIV関連のスティグマと差別の影響を受けているのです。

 ウイルス量が検出限界以下となったHIV陽性者からのHIV感染リスクに関する以下のコンセンサス声明は、この課題の検証に当たった主要な研究の各主任研究者から支持を得ています。HIV陽性者とその親しいパートナー、医療提供者にとって、ARTがうまくいっている人たちからのHIV性感染のリスクに関する正確な情報を得ることは重要です。

 同時に、HIV陽性者の多くが、治療のアクセスを制限する様々な要因(たとえば、不適切な保健医療システム、貧困、人種差別、拒否感情、スティグマ、差別、犯罪化)や先行するARTの治療による耐性ウイルス、ARTの毒性などにより、検出限界以下のHIV量に達しているわけではないということも認識する必要があります。治療しないことを選ぶ人もいるでしょうし、治療開始の用意ができていない人もいます。

 

 ARTの成功で感染が防げることを理解すれば、HIVに関連するスティグマを減らし、HIV陽性者が有効な治療を開始し、継続することを助けるのです。

 

 以下に掲載する声明は、次のような個人および組織から支持されています(訳注:個人、団体名は略。英文サイトをご覧下さい)

 

ARTを受け血液中のウイルス量が検出限界以下となっているHIV陽性者からの性感染のリスクは、無視できるレベルとなっています。使用する医薬品によっても異なりますが、少なくとも6カ月間、治療を続ければ、ウイルス量は検出限界以下になるでしょう。HIV量を継続して信頼できる状態で抑制していくには、適切な治療薬を選び、治療をきちんと継続できるようにしていく必要があります。HIV量が抑えられているかどうかは、個人の健康を維持するためにも、公衆衛生上の利益をもたらすためにも、モニターしていく必要があります。

 注: 性パートナーへのHIV感染を防ぐには、HIV量を検出限界以下に抑える必要があります。コンドームもHIV感染の予防を助けるとともに他の性感染症(STIs)と妊娠を防ぐ助けになります。どのようなHIV予防の手段を選択するのかは、それぞれの人の性行為やその状況、関係によって異なるでしょう。たとえば、複数の相手とセックスをする人、一夫一婦ではない関係の人の場合、他の性感染症も予防するためにコンドーム使用を考えることになるでしょう。

 

「NEGLIGIBLE(無視できる)」= 非常に小さい、あるいは考える必要がないほど重要性が低い;ほとんど意味のない。

 

専門家による追加のコメント、情報源、説明[iii]

 

1 「永続的にウイルスが抑制できていれば、あなたのパートナーに感染することはありません・・・繰り返します。ディスコーダントなカップル(1人がHIV陽性、もう1人陰性のカップル)では、HIV陽性の人のウイルス量が「永続的に」抑えられていれば・・・数カ月にわたって体内システムにウイルスがみつからなければ・・・、その人からHIVに感染する可能性はゼロです。この点をはっきりさせておきましょう:ゼロです。その人が翌日から2週間、治療を中止し、リバウンドがあれば可能性は高まります。「永続的」なウイルス抑制というのはこのためです。治療をきちんと続けていけば、永続的にウイルスは抑制されています」 Carl Dieffenbach博士、米NIHエイズ部長、NIHビデオインタビュー(2016年11月)

2 「HIV陽性者が治療を開始してからウイルス増殖が完全に抑えられるまでに2、3カ月かかります。カップルはその短いウインドウ期間中、コンドームを使用すべきです。一方で、HIV陰性のパートナーが曝露前予防(PrEP)のために抗レトロウイルス薬を使うこともできます」 マイロン・コーエン博士 ノースカロライナ大学国際保健感染症研究所長、米:HPTN052主任研究員、POZマガジン(2016年9月)

3 HIV陽性者の体内のウイルス量を検出限界以下のレベルに抑えることは「本人の生命を救うだけでなく、他の人への感染を防ぐことにもなる。したがって、治療とケアを受け、ウイルス量が検出限界以下になる人の割合が増えれば、それだけ流行の終結に近づくことになります」 アンソニー・ファウチ博士 米国立アレルギー・感染症研究所長 NIHビデオインタビュー(2016年8月)

4 「・・・ひとたび治療を始め、ウイルス量を十分に抑制できる状態で続けていれば、自分自身をHIVから守るだけでなく・・・性パートナーにHIVが感染することもなくなります」 Carl Dieffenbach博士、NIHエイズ部長、NIHビデオインタビュー(2016年8月)

5 「いまや私たちは確信をもって、HIV治療薬を処方されたとおりに服用し、6カ月以上ウイルス量が検出限界以下になれば、コンドームを使用していても使用していなくても、HIVが他の人に感染することはないということができます」  マイケル・ブレイディ博士 テレンス・ヒギンズ・トラスト、ディレクター。英ロンドン(2016年7月)

6 「現実の世界でも、臨床試験の経験でも、ウイルス量が抑えられた個人からのHIV感染リスクは無視できることをエビデンスが説得力をもって確認しています。 予防としての治療、曝露前予防服薬(PrEP)、そしてコンドームのような伝統的な予防手段が、ハームリダクションに基づくHIV予防ツールキットを構成し、ひとり一人がそれぞれの事情に則し、よく情報をえたうえで、自らの健康の維持とHIVおよび性感染症予防を実現するための選択ができるようになったのです」 Demetre C Daskalakis博士、公衆衛生修士、ニューヨーク市保健精神衛生局HIV/エイズ予防管理部門アシスタントコミッショナー(2016年7月)

7 「ウイルス抑制を長期にわたって持続できるかどうか心配する人がいます。答えはイエスです。ウイルス量が抑制された人からの感染ゼロのデータはすでに1万人年(のフォローアップ)に達しています」 マイロン・コーエン博士、メドページ;NEJM(2016年7月)

8 「HIV陽性のパートナーのウイルス量がARTで抑えられていて、コンドームを使わないでセックスを行ったことを報告しているHIV陽性と陰性の異性間カップルおよびMSMカップルでは・・・カップル間のHIV感染の報告例は記録されていない」 PARTNER研究からの5万8000例の性行為における報告。アリソン・ロジャー博士ほか、JAMA(2016年7月)

9 「これらの結果は容易に理解できます。コンドームなしの性行為を行った延べ5万8000人にHIV感染は起きていない・・・[PARTNER研究]の推計は、ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV感染のリスクが事実上ゼロであることを最大限に示しています」 サイモン・コリンズ PARTNER運営委員会、i-BASE(2016年7月)

10 「[スイス]声明はARTを受けウイルス量が少なくとも6カ月にわたって抑制されているHIV陽性者の感染性について取り上げた[最初のポジションステートメントでした]。エイズ関連課題に関する[スイス連邦]委員会は専門家の評価に基づき、治療を受けているHIV陽性者からのHIV感染リスクは無視できると考えました」 Pietro Vernazza博士 スイス サンクト・ガレンのキャントナル病院感染症科部長、PARTNER実行委員会。Swiss Medical Weekly(2016年1月、2008年のスイス声明を確認)

11 「HPTN研究ではARTを開始して間もない(数日)の間の感染例しか確認されていません。(スイス声明で規定されているように)治療開始6カ月後からの感染を対象にすれば、感染リスクゼロの効果は100%になります」 Pietro Vernazza博士、Swiss Medical Weekly(2016年1月)

12 「私たちは・・・治療がHIV感染の拡大を防ぎ、感染した人の健康を改善していることを厳密に確認してきました」 トーマス R. フリードマン博士 米疾病管理予防センター(CDC)、ニューイングランド医学雑誌 HPTN052とPARTNER研究から(2015年12月)

13 「一定期間しっかりと薬を服用していれば、この研究における感染の確率は実質的にゼロです」 マイロン・コーエン博士 ノースカロライナ大学国際保健感染症研究所長、米:HPTN052主任研究員、plusのインタビュー(2015年8月)

14 「ウイルス量が検出限界以下なら[HIV陽性者は]パートナーに感染を広げることはありません・・・」 デヴィッド・クーパー教授 社会感染免疫カービー研究所、ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア:ABC AUインタビュー(2015年5月)

15 ウイルス量が検出限界以下の人から他の人へのHIV感染の可能性について研究から何が言えるかと尋ねられ、発表者のアリソン・ロジャーはこう語った:「最善の推計では、リスクはゼロです」 PARTNER研究暫定結果報告。アリソン・ロジャー博士 英ロンドン、ユニバーシティ・カレッジ:PARTNER筆頭報告者 NAM-AIDSMap(2014年3月)

17 「多くの人が自らの状態を知りたいと思っています。感染はしないことを確認したい、通常の生活を続けたいと考えるからです。何十人もの人が訪れ、こんな話をしています。『感染しているとしても、他の人には感染しないのだから、検査を受けたい』。勇気づけられます」 マイロン・コーエン博士 ノースカロライナ大学国際保健感染症研究所長、米:HPTN052主任研究員:MEDPAGE Today(2013年1月)

18 「現実の問題として、もしも治療の機会を提供できれば、感染はゼロになるでしょう」 フリオ・モンタナ―博士 カナダ・ブリティッシュコロンビア Centre for Excellence in HIV/AIDS所長、IDC ディレクター、Physician Program Director for HIV/AIDS PHC TED TalkでHPTN052に言及(2011年11月)

 

注および謝辞は略(添付の英文をご覧下さい)

 

#UequalsU   #FactsNotFear  #ScienceNotStigma 

  賛同者更新2017.2.3現在

 

 

Consensus Statement

 Endorsements Updated as of February 3, 2017

https://www.preventionaccess.org/consensus

 

 

RISK OF SEXUAL TRANSMISSION OF HIV FROM A PERSON LIVING WITH HIV WHO HAS AN UNDETECTABLE VIRAL LOAD

   Messaging Primer & Consensus Statement

 

#UequalsU   #FactsNotFear  #ScienceNotStigma

 

Endorsements Updated as of February 3, 2017

 

 

 

RISK OF SEXUAL TRANSMISSION OF HIV FROM A PERSON LIVING WITH HIV WHO HAS AN UNDETECTABLE VIRAL LOAD 

 

Messaging Primer & Consensus Statement

 

 

There is now evidence-based confirmation that the risk of HIV transmission from a person living with HIV (PLHIV), who is on Antiretroviral Therapy (ART) and has achieved an undetectable viral load in their blood for at least 6 months is negligible to non-existent. While HIV is not always transmitted even with a detectable viral load, when the partner with HIV has an undetectable viral load this both protects their own health and prevents new HIV infections.[i] 

 

However, the majority of PLHIV, medical providers and those potentially at risk of acquiring HIV are not aware of the extent to which successful treatment prevents HIV transmission.[ii] Much of the messaging about HIV transmission risk is based on outdated research and is influenced by agency or funding restraints and politics which perpetuate sex-negativity, HIV-related stigma and discrimination.

 

The consensus statement below, addressing HIV transmission risk from PLHIV who have an undetectable viral load, is endorsed by principal investigators from each of the leading studies that examined this issue. It is important that PLHIV, their intimate partners and their healthcare providers have accurate information about risks of sexual transmission of HIV from those successfully on ART.

 

At the same time, it is important to recognize that many PLHIV may not be in a position to reach an undetectable status because of factors limiting treatment access (e.g., inadequate health systems, poverty, racism, denial, stigma, discrimination, and criminalization), pre-existing ART treatment resulting in resistance or ART toxicities. Some may choose not to be treated or may not be ready to start treatment.

 

Understanding that successful ART prevents transmission can help reduce HIV-related stigma and encourage PLHIV to initiate and adhere to a successful treatment regimen.

 

 

The following statement has been endorsed by:(略)

 

 

People living with HIV on ART with an undetectable viral load in their blood have a negligible risk of sexual transmission of HIV.  Depending on the drugs employed it may take as long as six months for the viral load to become undetectable. Continued and reliable HIV suppression requires selection of appropriate agents and excellent adherence to treatment. HIV viral suppression should be monitored to assure both personal health and public health benefits.

 

NOTE:   An undetectable HIV viral load only prevents HIV transmission to sexual partners. Condoms also help prevent HIV transmission as well as other STIs and pregnancy. The choice of HIV prevention method may be different depending upon a person’s sexual practices, circumstances and relationships. For instance, if someone is having sex with multiple partners or in a non-monogamous relationship, they might consider using condoms to prevent other STIs.

 

“NEGLIGIBLE” = so small or unimportant as to be not worth considering; insignificant.

 

 

ADDITIONAL EXPERT QUOTES, SOURCES, AND EXPLANATIONS [iii]

 

  1. “If you are durably virologically suppressed you will not transmit to your partner... I'll say this again, for somebody who is in a discordant couple, if the person [with HIV] is virologically suppressed, 'durably' --there is no virus in their system, hasn't been for several months -- your chance of acquiring HIV from that person is ZERO. Let's be clear about that: ZERO. If that person the next day stops therapy for two weeks and rebounds, your chance goes up. That's why we talk about 'durable' viral suppression...You're as durably virologically suppressed as good as your adherence”.  Dr. Carl Dieffenbach, Director of the Division of AIDS, NIH.  NIH Video interview (November, 2016)

 

  1. “When an HIV positive person first starts on treatment, it takes a few months before viral growth is completely suppressed. During that short window of time, the couple should use condoms. Alternatively, the HIV negative partner might use antiretroviral agents as pre-exposure prophylaxis [PrEP].” Dr. Myron Cohen Chief, Division of Infectious Diseases, UNC School of Medicine, North Carolina, USA; Principal Investigator, HPTN 052. POZ magazine (September, 2016)

 

  1. Suppressing the viral load of a person living with HIV to undetectable levels "not only saves their lives but prevents them from infecting others. So the higher percentage of people who are on treatment, in care and get their viral loads to undetectable, the closer you get to literally ending the epidemic.” Dr. Anthony Fauci, Director of NAID, NIH. NIH Video Interview (August, 2016)

 

  1. “..Once you begin therapy, you stay on therapy, with full virologic suppression you not only have protection from your own HIV….. but you also are not capable of transmitting HIV to a sexual partner. With successful antiretroviral treatment, that individual is no longer infectious.” Dr. Carl Dieffenbach, Director of the Division of AIDS, National Institutes of Health. NIH Video interview (August, 2016)

 

  1. “We can now say with confidence that if you are taking HIV medication as prescribed, and have had an undetectable viral load for over six months, you cannot pass on HIV with or without a condom." Dr. Michael Brady, Medical Director, Terrence Higgins Trust, London, England (July, 2016)

 

  1. "The force of evidence in both real world and clinical trial experience confirms that individuals with suppressed viral loads have a negligible risk of transmitting HIV. Treatment as prevention, pre-exposure prophylaxis, and traditional prevention measures, like condoms, make up an HIV prevention toolkit based in harm-reduction that allows individuals to make personalized and enlightened decisions to both maintain their health and prevent HIV and STI transmission.” Dr. Demetre C Daskalakis, MPH - Assistant Commissioner, Bureau of HIV/AIDS Prevention and Control New York City Department of Health and Mental Hygiene (July, 2016)

 

  1. “Does this work over a long period of time for people who are anxious to be suppressed? The answer is absolutely yes, we now have 10,000 person years (of follow-up) with zero transmissions from people who are suppressed." Dr. Myron Cohen. Medpage; NEJM. (July, 2016)

 

  1. “Among serodifferent heterosexual and MSM couples in which the HIV-positive partner was using suppressive ART and who reported condomless sex…there were no documented cases of within-couple HIV transmission” among 58,000 condomless sex acts. Reporting on PARTNER study Dr. Alison Rodger, et al. JAMA. (July, 2016)

 

  1. “These results are simple to understand – zero transmissions from over 58,000 individual times that people had sex without condoms…[PARTNER study] provides the strongest estimate of actual risk of HIV transmission when an HIV positive person has undetectable viral load – and that this risk is effectively zero.“ Simon Collins, Steering Committee, PARTNER, i-BASE (July, 2016)

 

  1. "The [Swiss] statement [was the first position statement that] addressed the infectiousness of an HIV-positive person once the virus was stably suppressed for at least 6 months with ART. [T]he [Swiss Federal Commission for AIDS-related Issues] felt, based on an expert evaluation of HIV transmission risk under therapy, that the risk of HIV transmission in such a situation was negligible.” Dr. Pietro Vernazza, chief of the Infectious Disease Division, Cantonal Hospital in St. Gallen, Switzerland; Executive Committee, PARTNER Swiss Medical Weekly (Jan., 2016, confirming the original 2008 Swiss statement)'

 

  1. “[T]he HPTN 052 study saw only cases of transmission during ART that occurred shortly (days) after the initiation of therapy. If only transmissions after the first six months of ART are considered (as stipulated in the Swiss statement) the efficacy would have been 100% with a transmission risk of zero.” Dr. Pietro Vernazza, Swiss Medical Weekly (Jan., 2016)

 

  1. “We have…rigorous confirmation that treatment prevents the spread of HIV and improves the health of infected people.” Dr. Thomas R. Frieden, Center for Disease Control Director, USA New England Journal of Medicine sourcing HPTN 052 & PARTNER studies (Dec., 2015)

 

  1. "If people are taking their pills reliably and they're taking them for some period of time, the probability of transmission in this study is actually zero." Dr. Myron Cohen, Chief, Division of Infectious Diseases, UNC School of Medicine, North Carolina, USA; Principal Investigator, HPTN 052 Interview with plus (August, 2015)

 

  1. “[People with HIV] will not pass on the infection, if the virus is undetectable, to their partners...” Professor David Cooper - Director of the Kirby Institute for Infection and Immunity in Society. University of NSW, Australia; ABC AU interview (May, 2015)

 

  1. When asked what the study tells us about the chance of someone with an undetectable viral load transmitting HIV, presenter Alison Rodger said: "Our best estimate is it's zero." Reporting on PARTNER study interim results. Dr. Alison Rodger, University College London, United Kingdom; Lead Author PARTNER, NAM -AIDSMap (March, 2014)

 

  1. People living with HIV “are leading lives that are normal in quality and length. With effective treatment, they are not infectious.” Health care workers on effective HIV treatment are “totally safe.” Professor Dame Sally Davies, Chief Medical Officer, England. The Telegraph (Aug., 2013)

 

  1. "Many people want to know their status, because they want to be rendered not contagious, because of confidence in living their lives normally. So I've heard dozens of stories of people who came in and said, 'I want to be tested, because if I'm infected I don't want to be transmissible.' Inspiring.” Dr. Myron Cohen, Chief, Division of Infectious Diseases, UNC School of Medicine, North Carolina, USA; Principal Investigator, HPTN 052; MEDPAGE Today (Jan., 2013)

 

18.“In reality, if you give the treatment the opportunity to get on with its work, you will have zero transmission.” Dr. Julio Montaner,  Director of the British Columbia Centre for Excellence in HIV/AIDS; Director of IDC and Physician Program Director for HIV/AIDS PHC:  TED Talk referring to HPTN 052 (Nov., 2011)

 

 

 

[i] Much of the current prevention messaging refers to this as Treatment as Prevention or TasP.  As of the writing of this primer, there have been no confirmed cases of HIV transmission from a person with an undetectable viral load in any studies. The official cut-off point for an undetectable viral load as defined by the WHO ranges from <50 copies/ml in high income countries to <1,000 copies/ml in low to middle-income countries. For the purposes of this statement, an undetectable viral load is defined as under <200 copies/ml, which is also the measurement for viral suppression.

 

 

 

[ii] Only a small proportion of HIV-positive people in a large US treatment study regarded themselves as non-infectious after up to three years on antiretroviral therapy (ART), and a third of participants regarded their chance of infecting a partner as still ‘high’, even though only 10% of participants actually had a detectable viral load.” NAM- AIDSMap (2016)

 

 

 

[iii] Acknowledgements: In addition to PAC’s Founding Task Force, Professor Carrie Foote (Indiana University-Indianapolis) and Edwin Bernard (HIV Justice Network), reviewed and provided valuable input on the Primer.

 

 

 

#UequalsU   #FactsNotFear  #ScienceNotStigma

 

Thank you to the pioneering researchers and doctors who endorsed the first consensus statement on negligible risk: Dr. Myron Cohen, Dr. Demetre C. Daskalakis, Dr. Andrew Grulich, Dr. Jens Lundgren, Dr. Julio Montaner and Dr. Pietro Vernazza. Thank you to Murray Penner (NASTAD); PAC's Founding Task Force; Professor Carrie Foote (Indiana University-Indianapolis); Edwin Bernard (HIV Justice Network); Matt Rose (National Minority AIDS Council-NMAC); Peter Staley; Gus Cairns (NAM-AIDSMap); and Mark S. King (MyFabulousDisease.com). Thank you to Tom Viola and Broadway Cares / Equity Fights AIDS for their generous lead funding.

 

Special thank you to Professor Pietro Vernazza for his pioneering research and bold advocacy to greatly improve the lives of people living with HIV.  His work is finally being vindicated today.

 

 

 

『ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク』 コンセンサス声明

米国のU=Uキャンペーンなどが発表している『ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク』というコンセンサス声明の日本語仮訳です。

 翻訳リクエストもいただいているので、取り急ぎ声明部分および冒頭の基本メッセージだけ紹介します。専門家のコメントがその後にどっさりあるので、そちらは作業が進み次第、追加し、後ほど整理したかたちで掲載しなおしますのでよろしく。

 

コンセンサス声明  賛同者更新2017.2.3現在

 https://www.preventionaccess.org/consensus

 

ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク

     基本メッセージとコンセンサス声明

  #UequalsU   #FactsNotFear  #ScienceNotStigma 

  賛同者更新2017.2.3現在

 

ウイルス量が検出限界以下のHIV陽性者からのHIV性感染のリスク

     基本メッセージとコンセンサス声明

 

 抗レトロウイルス治療(ART)を受け、血液中のウイルス量が6カ月以上、検出限界以下となっているHIV陽性者(PLHIV)からのHIV感染のリスクは、存在しないと見なせることはすでにビデンスに基づいて確認されています。検出可能なレベルでもHIVは常に感染するわけではないとはいえ、HIV陽性のパートナーのウイルス量が検出限界以下であれば、本人の健康を守ると同時に新たなHIV感染を防ぐことにもなります。[i]

 しかし、PLHIV、医療提供者、そしてHIVに感染する潜在的リスクのある人たちの多くは、治療の成功がHIV感染の予防に与える効果の大きさについて十分に認識できていません。 [ii]  HIV感染のリスクに関するメッセージの多くは、時代遅れの研究に基づき、組織と資金確保上の制約や永続的なセックス否定の政策、HIV関連のスティグマと差別の影響を受けているのです。

 ウイルス量が検出限界以下となったHIV陽性者からのHIV感染リスクに関する以下のコンセンサス声明は、この課題の検証に当たった主要な研究の各主任研究者から支持を得ています。HIV陽性者とその親しいパートナー、医療提供者にとって、ARTがうまくいっている人たちからのHIV性感染のリスクに関する正確な情報を得ることは重要です。

 同時に、HIV陽性者の多くが、治療のアクセスを制限する様々な要因(たとえば、不適切な保健医療システム、貧困、人種差別、拒否感情、スティグマ、差別、犯罪化)や先行するARTの治療による耐性ウイルス、ARTの毒性などにより、検出限界以下のHIV量に達しているわけではないということも認識する必要があります。治療しないことを選ぶ人もいるでしょうし、治療開始の用意ができていない人もいます。

 

 ARTの成功で感染が防げることを理解すれば、HIVに関連するスティグマを減らし、HIV陽性者が有効な治療を開始し、継続することを助けることにもなります。

 

 以下の声明は、以下の個人および組織から支持されています(訳注:個人、団体名は略。英文サイトをご覧下さい)

 

ARTを受け血液中のウイルス量が検出限界以下となっているHIV陽性者からの性感染のリスクは、無視できるレベルとなっています。使用する医薬品によっても異なりますが、少なくとも6カ月間、治療を続ければ、ウイルス量は検出限界以下になるでしょう。HIV量を継続して信頼できる状態で抑制していくには、適切な治療薬を選び、治療をきちんと継続できるようにしていく必要があります。HIV量が抑えられているかどうかは、個人の健康を維持するためにも、公衆衛生上の利益をもたらすためにも、モニターしていく必要があります。

 注: 性パートナーへのHIV感染を防ぐには、HIV量は検出限界以下に抑える必要があります。コンドームもHIV感染の予防を助けるとともに他の性感染症(STIs)と妊娠を防ぐ助けになります。どのようなHIV予防の手段を選択するのかは、それぞれの人の性行為やその状況、関係によって異なるでしょう。たとえば、複数の相手とセックスをする人、一夫一婦ではない関係の人の場合、他の性感染症も予防するためコンドーム使用を考えることになるでしょう。

 

「NEGLIGIBLE(無視できる)」= 非常に小さい、あるいは考える必要がないほど重要性が低い;ほとんど意味のない。

《先日の記事『 恐怖と感染性と検出限界以下について』のフォローアップ》GNP+

 2月8日付で『 恐怖と感染性と検出限界以下について』という声明を発表した世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)が1週間後の15日付で公式サイトにフォローアップの文書を発表しています。その日本語仮訳です。

声明の中で批判的に紹介しているU=U(Undetectable = Untransmittable)キャンペーンの関係者からかなり強く反発する意見が寄せられたのでしょうか。『この声明に対するキャンペーン支持者からの反応を受け、GNP+は改めてこの重要な課題に対する我々の立場を明確にするため、以下の追加声明を発表する』と書かれています。

    ◇

《先日の記事『 恐怖と感染性と検出限界以下について』のフォローアップ》

 http://www.gnpplus.net/follow-up-on-previous-article-on-fear-infectiousness-undetectability/

 

 GNP+は先週、体内のウイルス抑制を実現したHIV陽性者の非感染性に関するU=U(Undetectable = Untransmittable)キャンペーンなどのキャンペーンメッセージに対し、異なる視点を提供する声明を明らかにした。この声明に対するキャンペーン支持者からの反応を受け、GNP+は改めてこの重要な課題に対する我々の立場を明確にするため、以下の追加声明を発表する。

 『 恐怖と感染性と検出限界以下について』という私たちの声明がU=Uキャンペーンを不当に批判しているとの意見があることをGNP+は認識している。私たちはこの批判を真剣に受け止め、いくつかの点で不用意であったことをお詫びする。

 私たちは、U=Uキャンペーンの使命を傷つけようとする意図でが声明を発表したわけではない。私たちはここ数年、HIV治療の予防に対するエビデンスが明らかにされてきたことがHIV陽性者を大いに勇気づけていることを認識している:こうしたエビデンスはもっと広く伝えられ、理解されなければならない。感染のリスクをなくすうえでARVが有効なことをメッセージとして伝え、U=Uキャンペーンがスティグマや差別の問題に強く注意を喚起してきた側面もある。

 それでも私たちが声明を発表したのは、以下の3つの点でより広範な議論を促すためだった。

 

 1:治療の目的としては治療が優先すること、とりわけ治療のアクセスが限られていたり、HIV陽性の多様な人びとの間でアクセスが不均衡だったりするような状況のもとでは治療のための治療を優先させなければならないというメッセージと、予防としての治療に関するメッセージとのバランスを取る必要がある。

 2:予防としての治療のメッセージのみを強調することは、予防をひたすらHIV陽性者の責任とする不愉快な「陽性者による予防」プログラムを思い出させる。

3:予防としての治療の成果は世界の多くの地域で、多くの文脈において評価できるものだとしても、治療のアクセスは世界の半数以上のHIV陽性者にいまなお届いていない。しかも、治療が限られている地域では、多様なHIV陽性者の間でアクセスの不均衡が存在している。ウイルス量を測定できることはほとんどなく、多くの人が経済的にウイルス量検査など受けられない状態である。

 

 多数のHIV陽性者にとって、治療を開始し、継続し、ウイルス量を測定し、検出限界以下であることを確認するなどということは不可能以外の何ものでもない。そうした現実をもたらしている政治的、経済的な状況に取り組むことこそがHIV対策の緊急の課題であるとGNP+は確信している。

 U=Uキャンペーンだけを予防として治療のメッセージの見本として取り上げることの誤りは認めるものの、検出限界以下の達成を強調することが、治療を受けているかいないかにかかわらずHIV陽性者の取り上げ方として問題なのではないかという懸念は依然、私たちにはある。

 2020年まではあと3年しか残っていない。90-90-90ターゲット(HIV陽性者の90%が自らの感染を知り、その90%が治療にアクセスし、さらに治療を受けているうちの90%がウイルスを検出限界以下に抑制する)の実現に向けた進展は、世界の多くの地域で極めて遅れている。世界のHIV陽性者約3670万人の54%はARVs(抗レトロウイルス薬)が必要なのに治療へのアクセスを得られないでいる人たちなのだ。信頼のおけるHIV治療とケアを受けられる先進国のHIV陽性者には予防としての治療は歓迎すべきものかもしれないし、スティグマや差別と闘い、不合理で効果などない犯罪化法規を変えていく力になるものかもしれない。ただし、治療のアクセスが低く、保健基盤の弱体な国々の何百万というHIV陽性者には、予防としての治療のメッセージは、地元のHIV陽性者のネットワークと協力しながら注意深く広げていく必要がある。

 GNP+の声明は、批判を招く一方、治療のための治療へのアドボカシーおよび、強化に関する重要かつタイムリーな議論を復活させるものでもあった。同時に、いまや治療と予防との壁を取り払う科学的な成果とエビデンスが示されているとのメッセージも伝えていく必要もある。こうした議論は補完的なものであって、対立するものではない。

 私たちは自らの多様なコミュニティ内部で、対話や論争、意見対立とそれを乗り越える展望を継続的に生み出していくことができるよう、これまで以上に用心深く、安全な場所を守っていかなければならない。私たちはHIV陽性者への治療アクセス確保を擁護するU=Uキャンペーンのメッセージを認め、支持する。

 GNP+は、治療アクセスやポジティブな健康、尊厳、予防の枠組みの中での検出性にかかわりなく、すべてのHIV陽性者の健康と安全と幸福を重視し、引き続きインクルーシブな言葉を使っていくことを約束する。この線に沿って、すべての関係者がこの課題についてさらに建設的な対話を進めていくことを歓迎する。

 

 

 

Follow Up on previous article: On Fear, Infectiousness, Undetectability

 

Last week, GNP+ published a statement offering an alternative perspective on the messaging of campaigns on the uninfectiousness of people living with HIV who achieve viral suppression, including the U=U (Undetectable = Untransmittable) campaign. Following reactions from supporters of the campaign, GNP+ releases the following statement clarifying our position on this important issue.

 

GNP+ acknowledges that certain arguments made in our On Fear, Infectiousness, Undetectability statement were unduly critical of the U=U campaign. We take these criticisms seriously and apologize for the way in which some of our points were insensitively framed.

 

Our intention in publishing the statement was not to undermine the mission of the U=U campaign. We recognize the significant and important empowerment aspects for people living with HIV in knowing the advancements in evidence over the last few years in HIV treatment as prevention; evidence that should be communicated and understood more broadly. In some contexts, the U=U campaign brings much needed attention to issues of stigma and discrimination through the messaging on the efficacy of ARVs to eliminate the risk of transmission.

 

Our intention in publishing our statement was however to promote a broader discussion around three main areas.

 

One: the need for balancing messages on treatment as prevention with messages that reaffirm the prioritisation of treatment as treatment, in particular in contexts where treatment access is limited and/or unequally accessed by all people living with HIV, in all their diversity.

 

Two: treatment as prevention messages as a stand-alone bring uncomfortable reminders of ‘prevention with positives’ programmes that put the responsibility of prevention solely on people living with HIV.

 

Three:  that while treatment as prevention benefits can be celebrated, in much of the world, and in many contexts, treatment access remains far out of reach for more than half of people living with HIV. Further, where limited treatment is available, there exist inequities in access among the diversity of people living with HIV. Moreover, viral load diagnostics are scarce and, for many, viral load tests are unaffordable.

 

GNP+ believes the response to HIV needs to urgently address the current political and economic limitations that make it all but impossible for many PLHIV in many contexts to get on treatment, stay on treatment, demand viral load testing and achieve undetectable status.

 

While we were wrong to single out the U=U campaign as the example of treatment as prevention messaging, we stand by our concern that the attainment of undetectability remains, for many, a problematic manner by which to describe PLHIV, regardless of whether or not they are on treatment.

 

With less than 3 years left until 2020, progress towards the 90-90-90 targets (90% of people living with HIV knowing their HIV status, 90% of people who know their HIV-positive status accessing treatment and 90% of people on treatment having suppressed viral loads) remain seriously off track in many parts of the world. Approximately 54% of the roughly 36.7 million people worldwide living with HIV who are in need of ARVs but lack treatment access. For PLHIV in the developed countries who currently may have reliable and uninterrupted access to HIV treatment and care – treatment as prevention is to be celebrated, is empowering, and can fight stigma and discrimination and challenge irrational and ineffective criminalisation laws. For millions of PLHIV in countries with low treatment access and weak health systems, however, treatment as prevention messages must be developed carefully in collaboration with local networks of people living with HIV

 

GNP+’s statement, while controversial, has revived important and timely discussions about the need for increased advocacy for treatment for treatment for those who need it; as well as for the need to amplify the messages that we now have the science and evidence to bring down the wall of dichotomy between treatment and prevention. These arguments are complementary, not contradictory.

 

We must remain ever vigilant to preserve safe space within our diverse community for ongoing dialogue, debate, disagreement and alternative perspectives. We recognise and support the empowering message that the U=U campaign champions for PLHIV whose access to treatment is assured.

 

GNP+ remains committed towards advancing the use of inclusive language that prioritises the health, safety and wellbeing of all PLHIV, regardless of their treatment access and/or detectability status within a framework of positive health, dignity and prevention. In this line, we would like to invite all relevant stakeholders into constructive dialogues to further discuss these issues.