COVID-19対策にコミュニティを中心にした人権アプローチを要請  UNAIDS エイズと社会ウェブ版459

 新型コロナウイルス感染症COVID-19について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月20日、プレスリリースを発表しました。ほぼ40年に及ぶHIV/エイズの流行というパンデミックに対峙することで得られた教訓を踏まえ、新型コロナ対策のガイダンス(手引書)『COVID-19時代の人権:コミュニティ主導の効果的対策に向けたHIV流行の教訓』を作成しましたという発表です。

 リリースによると、ガイダンスでは各国に対し、人権尊重を基本にしたアプローチでコミュニティの参加を促進し、持続可能で効果の高い対策を実現するよう呼びかけています。

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www.unaids.org

『このガイダンスは国際的な人権関連法や取り決めを踏まえ、感染症対策の課題は公衆衛生と人権のバランスをどうとるかではなく、人権の原則に基づかない限り対策の成果は期待できないということを明確に示している。ガイダンスはコミュニティ、公衆衛生分野、学者、国連関係者からなる国際専門家グループによってまとめられた』

 ここは重要な論点です。流行が欧米に拡大したとたん、どういうわけか先進諸国の動揺が激しく、極端な排外的政策が強め強めに打ち出される。まるでそれを競い合っているような印象すらあります。

 「日本では、人権の問題があるから中国のような思い切った対策が取れない」などとさも残念そうに言われ、思わず、本気で言っているの?と相手の顔を観たくなるようなこともありました。

 でも、いまや世界の名だたる大都市で、外出が禁止され、買い物は一日一回、しかも許可証がないとダメ・・・。こんなことがいつまでも続けられるわけはないので、どこかで長期戦を覚悟し、我に返る転換点がくるのではないでしょうか。

 重症化リスクの高い高齢者としては、みんなで年寄りを守ろうという戦略は極めてありがたく、感謝の念にたえない。その気持ちは大いに強調しておきたいのですが、ついつい、これはないぞという思いにかられるニュースも少なくありません。お医者さんも医療崩壊を防ぐためなら、社会が崩壊することも辞せずなどと思っているわけではないでしょう。どちらも崩壊しないように努力しなければならない。

 個人的には努力と縁遠い人生を送ってきてしまいましたが、努力というのはたぶん、そういうときに辛抱強く使う単語なんでしょうね。

 各国の指導者に少し頭を冷やそうと呼びかけても、いまはあまり聞く耳を持たないかもしれません。でもね、それでもアピールしておく必要はありそうです。

 ただし、UNAIDSのプレスリリースを読んだだけでは、どうも建前的な原則論の印象は免れません。HIV/エイズ対策の貴重な経験の質量が反映しきれていないというか・・・。

 少し時間はかかるかもしれないけれど、ガイダンスそのものも訳しておいた方がいいかなあ。とりあえず以下、リリースの日本語仮訳です。

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COVID-19アウトブレークに対し、コミュニティを中心にした人権アプローチを UNAIDSが要請 プレスリリース

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2020/march/20200320_human-rights-approach-covid-19

 

ジュネーブ 2020年3月20日 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は各国に対し、人権を基本にしたアプローチでCOVID-19の世界的アウトブレークに臨むよう求めている。このアプローチは、コミュニティを中心に据え、すべての人の人権と尊厳を尊重することを強調している。各国政府やコミュニティ、その他のステークホルダーが、パンデミックを封じ込めるための対策を策定し、実施するうえで助けになるよう、UNAIDSはHIV対策の経験に基づく新たなガイダンス(手引き)『COVID-19時代の人権:コミュニティ主導の効果的対策に向けたHIV流行の教訓』を作成した。 

 このガイダンスは国際的な人権関連法や取り決めを踏まえ、感染症対策の課題は公衆衛生と人権のバランスをどうとるかではなく、人権の原則に基づかない限り対策の成果は期待できないということを明確に示している。ガイダンスはコミュニティ、公衆衛生分野、学者、国連関係者からなる国際専門家グループによってまとめられた。

 「人権とコミュニティのリーダーシップに基づくものでなければ、地球規模の感染症対策は成功しません」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は言う。「HIV対策に最も大きな成果を上げてきた国々は、コミュニティを力づけ、検査の普及、および必要な場合には治療の提供を進め、自分自身と他の人たちがウイルスに感染することを防いできました」

 ガイダンスは、エイズ対策から得られた教訓を紹介し、公衆衛生上の緊急事態に効果的に対応するには人権に基づくアプローチが不可欠であることを示している。社会的に弱い立場の人たちへの対応を重視し、流行の影響を受けている個人やコミュニティが直面するスティグマや差別と闘うこと、人権を侵害する障壁を取り除くこと、コミュニティと公衆衛生当局との信頼関係を築くこと、医療の最前線のスタッフを守ることなどがそうしたアプローチには含まれている。

 ガイダンスが認めているように、感染症の流行は、すでに存在している社会的な不平等をあからさまにし、激化させる傾向があり、その影響は社会から疎外され、弱い立場に置かれている集団の人びとが大きく受けることが多い。人びとが医療支援とアドバイスを最も必要としているときにその提供を妨げる財政上およびその他の障壁は、その人たち自身のためにも、より広範な公衆衛生上の成果を求めるうえでも、取り除かなければならない。

 ガイダンスはまた、COVID-19の流行に影響を受けている人たちに対する全面的な移動制限や処罰にも反対している。そうした対策は最も弱い立場の人たちに対し、極端に影響が大きく、健康面でさらに重大な障壁を生み出す傾向があるからだ。規制については人権を尊重し、必要かつ均衡のとれたものであり、エビデンスに配慮して実施期間も最小限に抑えなければならない。人びとが自分自身と他の人を自発的に守るよう行動することを奨励する対策の方が、より大きな効果を期待することができる。

 「すべての人にとって、深刻かつ困難な状況です」とビヤニマ事務局長はいう。「この困難を切り抜けるためには、HIVの流行のような他の世界的パンデミック対策からの貴重な経験を生かさなければなりません:人権に基づき、コミュニティが積極的に参加し、誰も取り残さないようにする対策です」

 

 

 

PRESS RELEASE

UNAIDS calls for a human rights approach to the COVID-19 outbreak that puts communities at the centre

 

GENEVA, 20 March 2020—UNAIDS is calling on countries to adopt a human rights-based approach in responding to the global outbreak of COVID-19 that puts communities at the centre and respects the rights and dignity of all. To help guide governments, communities and other stakeholders in planning and implementing measures to contain the pandemic, UNAIDS has produced a new guidance document that draws on key lessons from the response to the HIV epidemic: Rights in the time of COVID-19: lessons from HIV for an effective, community-led response.  

 

The new guidance from UNAIDS is grounded in international human rights law and obligations and makes it clear that responding to an epidemic is not a question of balancing public health and human rights but rather that a successful and effective response requires us to adhere to human rights principles. The guidance has been developed by a group of international experts from communities, the public health arena, academia and the United Nations.   

 

“Successful responses to global epidemics are always grounded in a respect for human rights and community leadership,” said Winnie Byanyima, UNAIDS Executive Director. “Countries that have made the biggest inroads in reducing the impact of HIV have done so by adopting approaches that empower communities to screen, test and seek treatment if necessary and to protect themselves and others from acquiring the virus.”

 

The guidance presents key lessons from the AIDS response that are crucial for an effective human rights-based approach to public health emergencies. They range from tackling stigma and discrimination faced by affected individuals and communities to prioritizing measures for reaching the most vulnerable, removing human rights barriers, establishing trust between communities and public health authorities and protecting critical frontline medical staff.

 

As the document recognizes, epidemics tend to expose and exacerbate existing inequalities in society, with their impact often felt most among marginalized and vulnerable groups of people. Financial and other barriers that prevent people from seeking medical help and advice when they need to must be removed, both for their own good and for improved broader public health outcomes.

 

The guidance also warns against blanket compulsory travel restrictions and criminal sanctions against people affected by epidemics such as COVID-19. Such measures tend to have a disproportionate effect on the most vulnerable and create more barriers to health. Restrictions that are imposed must respect human rights and be necessary, proportionate, evidence-informed and of limited duration. Empowering people to protect themselves and others through voluntary measures can have a greater effect.

 

 “This is a serious and difficult situation for everyone,” said Ms Byanyima, “To come through, we must draw on our valuable experience from responding to other global epidemics, such as HIV: ground the response in human rights, engage communities and leave no one behind.”