初日からいろいろあるぞ新時代 第33回日本エイズ学会 エイズと社会ウェブ版436

 『HIVサイエンス新時代 HIV Science New Age』をテーマにした第33回日本エイズ学会学術集会・総会が27日(水)、熊本市中央区桜町の熊本城ホールで開幕しました。会期は29日(金)までの3日間です。

 http://www.c-linkage.co.jp/aids33/index.html

  私は今回、公益財団法人エイズ予防財団の理事として・・・というよりも何といいましょうか、下請け作業員のような立場で旅費宿泊費を支給していただき、参加にこぎつけました。

 したがって午前中は展示ブースの設営に集中。小学生のころから図画工作は苦手科目のひとつだったので、ポスターが心なしか歪んで張られるなど、プロ並みとはいきませんが、それなりににぎやかになったのでは・・・。

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 午後は、この季節になぜか冷房がしっかり効いた年寄泣かせの第2会場で、U=Uに関するセッションに続き、ポジティブトーク、メモリアルサービスの連続3セッションに臨みました。臨むといっても、聞いているだけですが、ずっしりと手ごたえのあるプログラムでした。

 U=Uのセッションでは、医療倫理分野の専門家からU=Uについて、現在の予防戦略を変えるものではないと指摘がありました。HIV検査の普及を大きく阻むものがスティグマであり、その意味では従来の課題を抱え続けていることを再確認する指摘です。

 したがって、U=UはHIVにまつわるスティグマと差別の解消にその本質があり、予防戦略の観点からは、コンビネーション予防の重要性を再確認し、そこにU=Uのコンセプトを改めて位置づけていく必要があります。個人的にはこれは極めて妥当な現状認識ではないかと思います。

 一方で、医療提供者側からは、U=Uの時代なんだからもう差別の必要はないといった微妙な認識のずれがあり、そこからコミュニティと医療提供者の間で同床異夢のような期待の乖離が生じてのではないか。私にとってはそんな感想を持ったというか、かねがね抱いていた疑問を再確認するような印象を受けました。

 ここから相互理解を進める努力が必要なことを確認できたという点では、意義深いセッションだったように思います。

 引き続いて開かれたポジティブトークは、HIV陽性者が自らの体験や考え方、希望などを語るセッションです。2017年の第31回エイズ学会(東京)で初の試みとして開かれ、昨年の大阪に続き、今年で3回目になります。

 今回は3人のHIV陽性者がお話しをされました。それぞれの内容に触れることはここでは遠慮しておきますが、エイズ学会にとっては不可欠のセッションになってきたように思います。来年も第4回トークが開かれるはずです。

 メモリアルサービスはエイズ関連の原因で亡くなった人、あるいはエイズ対策に深いかかわりを持ちつつ亡くなった人をしのぶ催しです。このセッションもエイズ学会の中で生まれ、今年で9回目を迎えました。

 死者の存在が、いまHIV/エイズ対策を進めていく力になるという点でいえば、HIV陽性者自身が自らを語るポジティブトークとはと対をなすかたちのセッションでしょう。

 

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 冒頭で今学会の松下修三会長があいさつに立ちました。照明を落とした会場で、科学者らしく理路整然とした口調で話し始めた松下会長が「スティグマの問題、社会の問題、(このセッションが)それを変えていくきっかけになれば」といった後、ぐっと言葉に詰まりました。そして「私も何人も思い出しました」とだけ言って挨拶は終わります。おそらくはもう少し伝えたいことがあったのだが、治療を通じて出会ったたくさんの人たちの顔が浮かび、言葉が続かなかったのではないかと私は想像しました。

 PrEPをめぐる評価などで、私は松下さんとはやや異なる見解を持っています。でもそうした各論レベルの相違を超えて、信頼したいと思わせる何かがこの研究者にはある。それはおそらく、コミュニティとの連携と交流を重視する確固とした姿勢と、それを裏打ちする熱い魂があるからではないか。そんな気持ちを(普段はまったく忘れていますが)再確認する貴重な機会だったのかもしれません。