歌声は楽しく、強く、そして切なく 『Gay Men’s Chorus 2019』 エイズと社会ウェブ版435

 世界エイズデー(12月1日)を中心にした東京エイズウィークスのキックオフ・イベント『Gay Men’s Chorus 2019』が11月23日午後3時から東京都新宿区戸山の国立国際医療研究センター中央棟B1アトリウムで開かれました。ゲイ・トランス男性による合唱ミニコンサートです。 

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 このコンサートは今年で5回目になります。第1回は2015年11月29日午後、第29回日本エイズ学会学術集会・総会(2015年11月30、12月1日、東京ドームホテル)のプレイベントとして開かれています。国際医療研究センターが会場になったのは、第29回エイズ学会の会長が同センターの岡慎一エイズ治療・研究開発センター長だったからです。

 このコンサートがその後も継続し、世界エイズデーの恒例行事となったのは、有志で参加するコーラスメンバーの皆さんの熱意と岡センター長をはじめとするエイズ治療・研究開発センターのスタッフのご尽力によるものでしょう。

 おかげで冷静沈着で知られる(と本人は思っている)私のようなおじさんも、この季節にはじんわりと心温まるひと時を過ごすことができます。

 今年は約50人が登壇し、客席には約200人が集まりました(私のざっとした計測なので、もうちょっと多いかもしれません)。披露された曲目は以下の通りです。

恋するフォーチュンクッキーAKB48

♪ 春に〜作詞:谷川俊太郎/作曲:木下牧子

♪ ディズニー・メドレー

♪ A HAPPY NEW YEAR〜松任谷由実

♪ Climb Ev’ry Mountain〜『サウンド・オブ・ミュージック』より

上を向いて歩こう坂本九

 楽しそうでしょ。でも、歌の力は楽しいだけではありませんよ。HIV/エイズとの闘いという文脈の中で、個人的に注目したのは真ん中の「ディズニー・メドレー」でした。私にはすべての曲を識別することはできませんでしたが、さわりの演奏だけという曲も含めると全9曲で構成されていたということです。

 その中の一曲、1992年のアカデミー賞歌曲賞を受賞した『美女と野獣』の主題曲は作詞ハワード・アッシュマン、作曲アラン・メンケン。この2人のアカデミー賞受賞は1989年の『リトルマーメイド』に次いで2回目でした。

 ただし、『美女と野獣』のときには、アッシュマンは授賞式には姿を見せていません。映画の完成をみることなく、エイズで亡くなっていたからです。

 このあたりの事情については、ぷれいす東京代表でコーラスメンバーの一人でもある生島嗣さんが、ぷれいす東京公式サイトに『ディズニー・メドレーとHIV/AIDS』というコラムを書いています。 

ptokyo.org

 『ハワード・アッシュマンという人物、彼の闘病を知った上で、歌詞を振り返れば、彼の思いがまた、伝わってくるかもしれない』

 授賞式の動画もあります。プレゼンターはライザ・ミネリシャーリー・マクレーンですね。 

www.youtube.com

 映画が公開されたのは受賞前年の1991年でした。息をするのも苦しく、切なかった時代です。その試練を経て、治療の進歩がHIVというウイルスに感染した人たちの命を救えるようになった。このことを忘れるわけにはいきません。

 ミニコンサートではコーラスメンバー全員が『U=U』のTシャツを着ていました。冒頭であいさつを行った岡慎一センター長も同じTシャツ姿でした。

 Undetectable = Untransmittable(体内のHIV量が治療で検出限界以下になれば、他の人に感染することはない)の頭文字。それはHIV陽性者やHIV感染の高いリスクにさらされている人たちに対するスティグマや差別を跳ね返すための重要なメッセージであることを伝えたい。そんな思いを込めたTシャツでしょう。

 だからこそ歌は楽しく。外は冷たい雨でしたが、ステージも客席も、暖かい雰囲気に包まれたコンサートでした。

 参考までにU=Uについては、こちらもご覧ください。(LIVING TOGETHERも忘れないで読んでね) 

aidsweeks.tokyo