『パキスタン:HIVのアウトブレークに影響を受けたコミュニティに近いところでサービスを提供』 エイズと社会ウェブ版398

パキスタンのシンド州ラルカナ地区で発生したHIV感染のアウトブレークについて、UNAIDS公式サイトに73日付Feature Storyで続報が掲載されています。

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アウトブレークでHIVに感染した2歳の女児とその母親が紹介されています(仮名ですが)。医療体制が十分でないため、必要な治療を受けるには自宅から約50キロ離れた病院まで通わなければならなかった。

しかし、村の近くの小児科センターがもうすぐ施設を充実させて再オープンするので、これからは近くで治療が受けられるようになるというストーリーです。近くといっても10キロ離れています。

お医者さんから言われたことを守って服薬を続ければ、娘は成長し、結婚して子供を産むこともできる。母親はそう語っています。このような希望が語れるようになったのも、目覚ましい治療の進歩があるからですが、医療体制の整っていないところでは、治療を継続することもまた大変です。

報告ではアウトブレークとその対応状況を次のように説明しています。

6月末までにラルカナ地区では877人が新たにHIV感染の診断を受けている。その80%15歳未満の子供が占めている。計721人がケアプログラムに登録され、482人(うち15歳未満の子供365人)が治療を開始している》

緊急の対応と長期的なケアの継続を見据え、子供たちの救済に本格的に動き出していますというのが記事の趣旨でしょうが、データからは逆に困難さが浮かび上がってきます。

薬があれば、それでなんとかなるという状況ではありません。もろもろの条件整備が必要です。

検査や治療を必要とする人の生活の場に近いところで、必要な医療を提供する。分かっていても現実にはなかなか追いつけません。

そもそも今回のアウトブレークも無許可の医師、偽医師による安全性を無視した医療行為が原因だったのではないかと考えられています。注射器、注射針の使いまわしや非衛生的な輸血行為が感染を広げたようです。

その背景には偽医師に頼らなければ、病気の治療も受けられないという現実があるのでしょうね。

先日、本田徹医師のご著書の読後感想文でも紹介したようにHIV/エイズ対策では、検査や治療のサービスを必要とする人たちの生活の場に近いところで、そのサービスを提供できるようにすることが、検査や治療の普及につながり、それが新規感染の予防にも効果をもたらすとされています。

このところ報告書などでしばしば目にするdifferentiated careというのは、直訳すると分化型ケアとなっていますが、要は患者にとって検査やケアを受けやすい場所で受けられるようにしましょうということです。そして、その切り札となるのが、医師から看護師、看護師からコミュニティヘルスワーカーへの権限の委譲だとされています。コミュニティの(つまり近所の)ヘルスワーカーで対応できることはこの際、お任せしましょうという考え方ですね。

ただし、こうしたイノベーションが成功するには、コミュニティでケアを担う人を確保し、その能力を高めなければなりません。

だとすれば・・・と医療に関する素人としては思います。偽医師やモグリ先生とされている人にきちんと安全や衛生管理の知識と技術を身に付けてもらい、良質のケアを提供できるコミュニティヘルスワーカーとして育てたらどうなんでしょうか。

中には、どうにもならない人もいるかもしれませんが、研修の効果は高いかもしれません。意外に頼りになる人も出てくるのではないかという気もします。 

あくまで、外野席からの単なる感想なので、それが可能なら苦労はしないよ、とお叱りを受けるかもしれませんね。以下、Feature Storyの日本語仮訳です。

 

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パキスタンHIVのアウトブレークに影響を受けたコミュニティに近いところでサービスを提供

 2019.7.3 UNAIDS Feature Story

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2019/july/20190703_Pakistan

 

 パキスタンのラルカナで発生したHIVアウトブレークに対応するため、影響を受けた家族向けに新改装した小児科センターがラトデロでオープンする。運営開始は7月半ばの見通しだ。

 2歳の女児の母であるアリア(仮名)は、ラルカナ地区のラトデロタルカにあるミルプール・ブット村に住んでいる。このアウトブレークのために家族は大混乱に陥った。

 「何日か前に娘がHIV感染と診断されたばかりなのに、こんなに弱っています。食べるものを与えても受け付けません」とアリアはいう。サメラ(仮名)は診断後、抗レトロウイルス治療を開始するようラルカナのシーク・ザイードこども病院に紹介された。その病院は一家の住む家からは50キロも離れている。 

 「サメラのために発泡錠剤や解熱剤をもらいました。治療を始めてから、彼女の容体はよくなっています。熱は下がり、下痢も治りました」と母親として説明した。

 夫の仕事は農業で、収入は12ドルに満たない。「家族が10人もいるので生活は苦しい」とアリアは説明する。

 道路事情は悪く、経済的にもアリアと娘が自分の村から地区の中心であるラルカナまで通うのは難しい。だが、いまはそこに行かなければ必要な治療が受けられないのだ。

 4月末にラルカナでHIVアウトブレークが最初に報じられて以来、影響を受けた人たちに近いところでHIVサービスを提供できるようにするため、UNAIDSUNICEF世界保健機関WHO)、シンド州エイズ対策プログラム(SACP)その他のパートナーはラトデロに新たな小児科センターの開設を求めていた。その結果、および「シンド州HIVアウトブレーク対応計画20195月~20204月」の枠組みの中で、アリアとその娘が住む地区でもHIV治療が受けられるようにするため、UNICEFがタルカ中央病院の小児科センターを改装した。新しいセンターがオープンすれば、サメラは自宅から10キロの施設で治療が受けられるようになる。

 「サメラは大丈夫でしょう。結婚して子供を産むこともできるようになります。お医者さんがそう言っていました。そのために彼女はずっと治療を受けなければならないのです。お医者さんの指示に従います。娘の命が救われるのですから」とアリアはいう。

 6月末までにラルカナ地区では877人が新たにHIV感染の診断を受けている。その80%15歳未満の子供が占めている。計721人がケアプログラムに登録され、482人(うち15歳未満の子供365人)が治療を開始している。

 「UNAIDSはアウトブレークに緊急に対応し、同時に長期のプログラム実施が持続できるよう政府、市民社会組織、HIV陽性者協会、国連機関その他すべてのパートナーと協力して活動しています」とUNAIDSパキスタンアフガニスタン事務所のマリア・エレーナ・ボロメロ所長と語っている。

 

Pakistan: bringing services closer to communities affected by the HIV outbreak

03 July 2019

A newly refurbished paediatric centre is to open in Ratodero, Pakistan, to serve families affected by the recent HIV outbreak in the district of Larkana. It is expected that the centre will be operational by mid-July.

Alia (not her real name), the mother of a two-year old girl, lives in the village of Mirpur Bhutto, in Ratodero Taluka in Larkana district.  Alia’s world has been turned upside down since her family was caught up in the HIV outbreak in the area.   

My daughter was diagnosed with HIV just a few days ago, but she became so weak so quickly. She couldn’t eat anything we gave to her,” says Alia. After Sameera’s (not her real name) diagnosis, she was referred to Sheikh Zayed Children Hospital in Larkana to start antiretroviral therapy.  The hospital is more than 50 kilometres away from the family home.

I got these dispersible tablets for Sameera and some fever medicine, and since she started her treatment, I have seen some improvements in my daughter’s health. Her fever has gone and before there was diarrhoea from which she also recovered,” explains Sameera’s mother.

Alia’s husband is a farmer and earns less than two dollars a day. “We can hardly support our family of ten members,” she explains. 

Poor road conditions and economic constraints make it difficult for Alia and her daughter to travel from their village to the district capital Larkana, currently the nearest health facility where her daughter can receive the treatment she needs.

Since the HIV outbreak was first reported in Larkana at the end of April, UNAIDS, UNICEF, the World Health Organization, the Sindh AIDS Control Programme and other partners have been calling for a new paediatric treatment centre in Ratodero to bring HIV services closer to the affected communities. As a result of these efforts and in the framework of the “Sindh HIV Outbreak Response Plan, May 2019-Apr 2020,” UNICEF is refurbishing the paediatric HIV treatment centre at Taluka Headquarters hospital in Rotadero, ensuring that treatment will be available in the area where Alia and her daughter live. When the new centre opens, HIV treatment services for Sameera will be less than 10 kilometres away.    

I know my Sameera will be fine and that she will get married and have children. This is what the doctor told me. For this to happen she must continue her treatment forever.  I will follow the doctor’s instructions because this is what will save my daughter’s life,” says Alia.

By the end of June, 877 people had been newly diagnosed with HIV in the Larkana district. More than 80% of the new cases are among children aged under 15 years old. A total of 721 people had already been registered in care programmes and 482 people (365 of them children under the age of 15) were on treatment.

 UNAIDS is working closely with the government, civil society organizations, the association of people living with HIV, UN agencies and all other partners to ensure that both the immediate response to the HIV outbreak and longer-term programmatic measures will be implemented and sustained,” said Maria Elena Borromeo, UNAIDS Country Director for Pakistan and Afghanistan.