『HIV検査サービスに関する WHO・UNAIDS声明: 新たな機会と 継続的な課題』

 世界保健機関(WHO)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)が8月28日に発表した共同声明《WHO, UNAIDS statement on HIV testing services: new opportunities and ongoing challenges》の日本語PDF版がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されました。

api-net.jfap.or.jp

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 すいません、画像はタイトルが英文のままですが、日本語版はタイトルも日本語になっています。

HIV検査サービスに関する WHO・UNAIDS声明: 新たな機会と 継続的な課題』
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「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」を終結に導くための大前提として、国際社会は現在、90-90-90ターゲットを2020年までに実現することを共通目標としています。
 HIV陽性者の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%が抗レトロウイルス治療を受け、さらに治療を受けている人の90%が体内のウイルス量をきわめて低く抑える状態を実現するという目標です。
 その最初の90を実現するには検査の普及が不可欠なので、そのためにどうしたらいいのかを簡潔にまとめた声明です。『人権の重視と公衆衛生アプローチ』を検査の2大原則とし、『義務的もしくは強制的検査は推奨しない』と明記しています。また、インフォームドコンセントの必要性に言及するとともに、すべてのHIV検査サービスは以下の「5つのC」を守る必要があることも改めて強調しています。
 1. Consent(同意)
 2. Confidentiality(秘密保護)
 3. Counselling(カウンセリング)
 4. Correct status(正確な検査結果)
 5. Connections(連携)
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 以下、私の感想です。悪しからず。
 2020年の90-90-90ターゲット達成は、昨年6月のエイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合の政治宣言で、国際社会の共通目標として位置付けられています。この政治宣言にはもちろん、日本も賛成しています。検査の普及は近く告示される新たなエイズ予防指針の重要な柱として位置付けられるはずです。
 WHOとUNAIDSの声明は、主として低・中所得国に向けて、つまり治療の普及が急務である低・中所得国の現状を踏まえて出されたという面が多分にあるのではないかと思います。

 ただし、それでは日本のような高所得国は関係ないのかというと、もちろんそうではないでしょう。国連総会ハイレベル会合の2016政治宣言も、そしてさらに同じ年の1月からスタートした持続可能な開発目標(SDGs)も、先進国、途上国の努力と責務をともに前提としたグローバルスタンダードの約束です。

 とりわけ、90-90-90ターゲットの最初の90に関して言えば、わが国は低・中所得国と課題を共有していると思われる面が多分にあります。なぜそうなのかということは、たとえば、『人権の重視と公衆衛生アプローチ』が検査の2大原則であるといった共同声明の指摘を読むと、ああ、そうなのかと腑に落ちるように納得できる。そうした現実がわが国にもまた、あるのではないでしょうか。

 経済的な観点からいえば、あるいは医療基盤の面で見れば、日本はHIV検査も治療もケアも支援も十分に支えきれる資源を有しています。人的な資源も含め、そうだと思います。だからこそ、世界にもまれなほどに年間の新規感染もエイズ関連の死亡も低くおさえてこられたのです。ことHIV/エイズの流行に関して言えば、こんな国はちょっとありません。もちろんこの成果は、関係各方面の努力のたまものだと思います。

 ただし、いつまでもこの状態が続くと楽観視して構えていることはできません。40年にも満たないエイズの流行の歴史をみれば、東アジア地域はHIVというウイルスが比較的、遅れて入ってきた地域だったという事情も日本の成果の背景にはあります。それでもなお、年間の新規感染報告が過去10年間、横ばいから減少へとなかなか転じていかない。横ばいで抑え続けてこられたことだけでも大変な成果ではあるのですが、そこから縮小への道筋に踏み出せるかどうか。あるいは徐々に増加の傾向に移行するのか。

 報告ベースの横ばいが10年も続いていることは、現在がその重要な分岐点であること示すものではないか。素人考えにすぎませんが、私などはそう感じてます。

 では、どうすればいいのか。この際、四の五の言わさずに片っ端から検査する仕組みの整備を目指せばいいではないか。そんな誘惑に駆られる人たちは、少なくとも医療関係者には、いないだろうとは思いますが、ひょっとしたら、いるかもしれません。いそうな気も・・・だんだんしてきました。

 行政官はどうなのか、さらには政治家はどうなのか、という問題もあります。2016政治宣言が示しているグローバルスタンダードには逆行しますが、日本の場合、政治のリーダーシップがこの分野で発揮されない方がむしろいいのではないか・・・最近はそんな自虐的な気分にも、うっかりすると落ち込んでしまいそうです。

 あまりシニカルになってもいけませんね。インフォームド・コンセントや「5つのC」の重要性は、わが国でもしっかりと理解しておく必要があります。言わずもがなのことを付け加えれば、保健医療提供者や各自治体の保健政策担当部局、HIV/エイズ対策に取り組むNGO/NPO、企業の人事担当者といった人たちには必読の文書ではないかと思います。