大観衆はどこにいるか ワールドラグビー報告書『Impact Beyond 2019』

 ラグビーワールドカップ(W杯)2019の開幕を控え、去年のいまごろは日本代表、大丈夫かなあ、ラグビーへの関心はいまいち盛り上がっていないようだし、大会も不発に終わってしまうのでは・・・と不安というか、悲観論というか、そうした心配の方が期待以上に強い時期だったのではないかと思います。

 いまから夢のような秋が始まろうとしているという期待感は、少なくとも私にはあまりなかった。ま、ご承知のようにというか、いつもの通りといいますか、私の予想は見事に外れ、そのことを大いに喜ぶ結果になったのだけど。

 ラグビーW杯(ワールドカップ)の主催団体であるWORLD RUGBYが、昨秋のワールドカップ日本大会の成果をまとめた報告書『Impact Beyond 2019』を9月9日付けで公開しました。日本ラグビーフットボール協会の公式サイトで、お知らせと報告書の日本語PDF版を見ることができます。 

www.rugby-japan.jp

 報告書は表紙と裏表紙を含め30ページ。ワールドカップ大会そのものというよりも、大会を日本で開催したことによる社会的、経済的、そして国際的な波及効果を中心にまとめられています。

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 《RWC2019を日本で開催したことによって、アジア全体では初めてラグビーを経験した人の数は225万人にのぼりました(2016年以降)。そのうちの43.1%は女子。伝統国以外で初、アジアで初めて開催されたワールドカップによって、ラグビーがより多くの国で広く親しまれるスポーツに成長しています》(報告書のポイントから)

 まさしく、Beyond、♪丘を越えていこうよ~ですね。

 アジアのラグビーファン人口1億4400万人。これはワールドラグビーにとって大いに魅力です。しかも、まだまだノビシロがある・・・。ビル・ボーモント会長も報告書のあいさつでこう書いています。

《ワールドラグビーの理事会がラグビーワールドカップ2019を日本で開催すると決定した時、日本大会が、世界で最も人口が多く、若年層が多いアジアのラグビーにとって強力なゲームチェンジャーとなる可能性を秘めていると信じていました》

 そうだったのだろうとは思います。でも、いまだから言えるという感じもしないことはありません。あいまいな記憶に頼って恐縮ですが、準備段階では確か、日本じゃダメだから、開催国は南アに変えるかといった議論が巷に流れていた時期もありました。

 まあ、東京でオリンピック・パラリンピックが開催できないのなら、ロンドンが代わってもいいんだぜ、などという話もあったくらいですから、スポーツ情勢、ますます不可解ということでしょうか。

 でも、とにかく、この成果は素晴らしい。日本のラグビー界も前途洋々・・・と一時は思いましたが、そうは問屋が卸しませんよ。大会前にはW杯の大成功が予想できなかったのと同じように、1年後には世界がコロナで大混乱に陥ることも予想はできず、日本国内でもBeyond2019の盛り上がりは急降下してしまった印象です。

 なにせ、数あるスポーツの中でも、走ってぶつかり、密集でもみ合うという点でいえば、三密度も、濃厚接触度も際立って高い。過敏に反応しだしたら練習もできないし・・・という悩ましい状況に直面し、数多くの学校や企業やクラブや同好のグループがそこから苦労してチーム作りを進めている状況です。

 観戦するファンも、試合の後でビールを飲みながら、みんなでワイワイ。実はそれが楽しみだったのに、そんなのダメダメと言われるとつらいなあ・・・というわけで、この1年、ラグビー界は上昇と下降のローラーコースター状態でしたが、報告書のもろもろのデータをみると、眉唾かなあと思うものも含め、妙に元気が出ます。

 たとえば、21ページには、一つの国で、一つの試合の中継をどれだけの人が視聴したかを示すグラフが載っています。

 スコットランド戦 5480万人 

 南アフリカ戦   4890万人

 サモア戦     4700万人

 アイルランド戦  2950万人

 ロシア戦     2600万人

 歴代の上位5試合はすべて、2019大会の日本代表の試合、しかも日本国内の視聴者数でした。日本代表の第2戦、アイルランド代表に勝った試合(2019年9月28日)で、国内のラグビー人気が一気に加速したことも数字で示されています。

 この試合ですね。見出しは大金星です。すごいね。 

 https://www.rugbyworldcup.com/news/487635

 もうすぐ1年。アイルランド代表は対戦時点で世界ランク2位(対戦の1週間前には世界ランク1位)でした。その強豪に勝つなんて、誰が信じられる?

 大観衆はラグビー観戦の醍醐味ですが、実際にはテレビではらはら、ドキドキしていた人の方が圧倒的に多い。数字はこのことも改めて裏付けています。

 ファンゾーンに集まった人たちも含め、感染・・・違った、観戦のあり方も状況に応じて異なります。1年延期となった東京オリンピックパラリンピックの開催にも通じるところがありますが、巨大大会を支える大観衆はどこにいるのか、今後のスポーツの大会は、そのあたりを考えながら準備を進めてほしい。

 箱モノはそれなりのスペースを確保しつつ、入場者の上限を抑える方向で考えていけば、スタジアムの巨大化に歯止めがかかるかもしれません。どこかで折り合いをつけ、その分を観る人の視点に立った中継テクノロジーの充実化に向けることで、開催者負担の軽減にもつながります。

 本格的な秋の到来を控え、国内ラグビーの各種大会もぼちぼち始まってきました。無観客が予定される試合もあるでしょう。観客を入れるにしても、出入場時の混雑を考えれば密は避けたい。観る人の心をつなぐ同時性の共有という意味でも、テレビにはさまざまな困難をBeyondし、できれば無料で、スポンサーもこまめにつけて、大小の試合中継に積極的に取り組んでいただけたら嬉しいなあと末端のファンは切に思います。