サンウルブズ撤退 どう考えたって、そんなの割り切れない

 ラグビー日本代表の強化手段として3年前からスーパーラグビーに参戦しているサンウルブズが、2020年シーズンを最後に撤退することが決まりました。3月にこのニュースを聞いた時には「あらら、どうしてこういうことになっちゃうの!?」と悲しいような、あきれたような、なんとも割り切れない気持ちでした。

 私だけでなく、この気持ちを共有する人は少なくないようです。せっかく積み上げてきたものをいとも簡単に放棄していいのか。私の周囲のラグビー好きの皆さんからは、一度ならず、二度、三度、四度・・・と指折り数えていたのでは間に合わないくらい何回もそうした意見を聞きました。

 どうにも割り切れない。末端のファンのそんな思いに応えてくれる記事が423日のスポニチのサイトに載っています。
www.sponichi.co.jp

  

 太陽というのはサンウルブズのサンにひっかけた見出しでしょうね。記事は『チームを運営するジャパンエスアールの初代代表理事を務めた田代芳孝特別顧問(68)』の話を中心にまとめられています。おそらく執筆にあたった記者も田代氏の見方に大いなる共感を抱きつつ、記事をまとめられたのではないでしょうか。

 「寂しさというより、怒りと申し訳なさ。なぜもっと大事にしないのか。チーフスやワラタスに勝って、喜ぶような醍醐味(だいごみ)が他にあるのか。SRの魅力を超えるものが簡単にできるとは、とても思えない。それを考えれば、日本協会は必死で残留する努力をしなければいけなかった」

 記事の中で田代氏はこう語っています。「そうだ、そうだ」と思わず言いたくなりますね。

 公平を期すために一応、明らかにしておくと、私と田代氏は旧知のラグビー仲間であり、その意味ではどうしても見方が田代氏寄りになってしまうかもしれません。

 そうしたバイアスがある程度、避けられないというリスクを織り込んで考えたとしても、この時期に撤退はないだろうと思います。

 日本協会の説明を一連の報道から判断すると、サンウルブズ残留に協会が消極的だったのは、スーパーラグビー主催団体であるSANZAAR(サンザー)から法外な財務負担を求められたからだったということのようです。ただし、田代氏の話からするとニュアンスはかなり異なっています。

 記事の中で田代氏はサンザーについて「割と臨機応変マリノスCEOも本当は残したいと思っているはず」と語っています。

国際的なラグビー地政学といった視点に立てば、この辺りも腑に落ちます。世界のラグビー界が現在、抱えている最大の課題は競技としてのマーケットが南半球と欧州の強豪国に偏在していることであり、真にグローバルスポーツとは言い切れない面も実はあります。この壁を打ち破るには、人口の多いアジアに何とか普及をはかりたい。世界のラグビー界がそれを切望していることは想像に難くありません。

だからこそ、2019W杯の日本開催もあり得たわけだし、W杯のホスト国になる以上、それなりの観客動員は果たしたい。それには日本代表が世界の強豪に伍して戦えるということを準備過程で示しておかなければならない・・・ということで、この辺りは、阿吽の呼吸といいますか、オフロードパスといいますか、日本の都合と世界の都合がうまく重なります。しかも、その目標達成のツールとして少々、無茶かもしれないけれどというリスクも織り込み済みでスーパーラグビー参戦という決断があったはずです。

しかも、しかも、スーパーラグビーの中でサンウルブズは確かにまだ弱小下位球団ではありますが、今シーズンなどは強豪チームと互角の戦いを続け、ちょっと前なら、どう逆立ちしても勝てないと思われていたチーフス戦やワラタス戦でも勝利を挙げています。

これ以上のプロモーションがありますか、と私なら言いたい。

ラグビーという競技はかつて国内で6万の大観衆を集める人気を誇っていましたが、W杯が始まり、連戦連敗でとても世界とは戦えないという印象が固定化するにつれて、人気も長期低落化の傾向をたどるようになりました。

それでもなお、国内で伝統芸能のような競技としてコアなファンだけが観戦するスポーツでいいのか。いったん世界をみた以上、それでは収まるまい。スポニチの記事はこう書いています。

《田代氏は「もう一度、参戦できるように交渉すべき。存在価値をファンと選手は感じているのだから」と断言した》

そうだ、そうだと私も一ファンとして思う。サンザーよ、アジアのマーケットはでかいぞ・・・、おっと、そんなに高飛車に出てはまとまる話もまとまりませんね。アジアのマーケットは大きいですよ。

粘り強く相手の意とするところは何かを把握する努力を怠らなければ、交渉の余地はまだありそうな感じもします。田代氏にももう一汗、かいてもらう場面が生まれることを期待したいですね。