トランプ米政権の排外主義的移民政策を批判し、2020年の第23回国際エイズ会議(AIDS2020)の開催地を米カリフォルニア州のサンフランシスコ、オークランド両市から米国外に移すことを求めていたアクティビストグループが、対抗手段としてAIDS2020開催期間中にメキシコシティでHIV2020という代替会議を開催することを発表しています。
その公式サイトの一部を日本語に訳し、末尾に掲載しました。あくまで私的な仮訳です。誤りがあったらご指摘ください。
開催の理由は、トランプ政権の米国で2020年に国際エイズ会議が開かれた場合、排他的な入国管理政策のために会議に参加したくても、安心して参加することができない人がいる。そうした人たちが参加できる代替国際イベントを米国外で開くということですね。
その開催都市はメキシコシティです。意味深ですね。第一にトランプさんは不法移民の流入を食い止めるという理由でメキシコとの国境地帯に「壁を作る」と息巻いています。政府機能が停止してもその主張を曲げようとしません。代替イベントの開催地としてそのメキシコの首都を選ぶ。これ以上、効果的に政治的メッセージを発信できる場所はありません。
第二にメキシコシティでは今年7月21~24日に第10回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2019)が開かれます。国際エイズ会議の間の年に国際エイズ学会(IAS)が開く医学中心の会議です。いやあ、ヒリヒリしますね。こういうことを書くとたちまち袋叩きにあいそうですが、アクティビストは人の神経を逆なでするのがうまいというか・・・。こうなると、今年の会議(IAS2019)の会場も波乱含みです。
ただし、来年の代替会議は話題にはなるものの、規模はそう大きくならないのではないかという印象も個人的にはあります。HIVアクティビストvsトランプ大統領の構図は、必ずしも代替会議(HIV2020)vs第23回国際エイズ会議(AIDS2020)の図式とは重ならないと思うからです。
間にもう一つ、トランプ政権vs第23回国際エイズ会議(AIDS2020)組織委員会という要因が入ります。
代替会議の発表よりは少し前の話になりますが、AIDS2020の公式サイトには昨年10月23日付けで『AIDS2020会議調整委員会からの公開書簡』という文書が掲載されています。
途中の一段落だけ、その書簡の日本語仮訳も紹介しておきましょう。
『会議のホストシティやホスト国はそれぞれ入国管理の問題を抱えていました。そして米国では特別の課題に直面していることも認識しています。しかし、政治に強く関与することが会議の意義を支えることにもなります。カリフォルニア州は比類なき政治のリーダーシップを示してきました。カリフォルニア、とりわけオークランドとサンフランシスコには、移民政策や難民受け入れを含め、不当な政策に抵抗してきた長い歴史があります』
ということで、会議そのものがトランプ政権とのガチンコ勝負になる可能性もあります。外野席から煽ってもいけませんね。会議の準備過程で、分裂か、結集か、というHIVコミュニティ内部での議論もヒートアップしていきそうですが、基本的には結集の流れが強いのではないでしょうか。
ただし、それは代替会議を認めないということではありません。規模の違いはあっても両方がそれなりに成果を収めてくれればいいなあというのが、どっちつかずのおじさんの感想です。
以下、HIV2020のサイトの部分仮訳です。
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HIV2020
コミュニティは地球規模で対策の再生を求める
2020年7月6~8日、メキシコシティ、メキシコ(注:AIDS2020は7月6~10日)
HIV2020とは何か
世界的なキーポピュレーション主導のネットワークやHIV陽性者ネットワーク、治療アクティビスト、そしてサポーターの人たちがコミュニティ主導の国際的代替イベントを組織するために連合体をつくりました。
タイトルはHIV2020:コミュニティは地球規模で対策の再生を求める。2020年7月6~8日にメキシコシティで開催を予定しています。国際エイズ会議の前半と同じ日程です。
2020年に米国に入国し、AIDS2020に参加できない個人が安心して参加できるコミュニティ主導の代替イベントをHIV2020連合が開催するのです。地球規模のHIV対策におけるコミュニティの主導的な役割を再確認するイベントでもあります。
HIV2020会議はなぜ必要か
ドナルド・トランプ大統領が選ばれて以来、米国の人権状況は悪化しています。中東やアフリカ、カリブ・ラテンアメリカ地域からの移住者、有色人種、薬物使用者、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人たち、セックスワーカックスワーカーや薬物使用者に対する法的な規制があることが、私たちのコミュニティの入国を困難にしています。
米国内のHIV陽性者ネットワークを含む世界のコミュニティ擁護団体が提言したにもかかわらず、国際エイズ学会(IAS)は2020年の次期国際エイズ会議を米国内で開催することを決めています。この決定により、世界各地のHIV運動がジレンマに直面し、HIV対策のメインストリームの担い手たちは中東、アフリカ、カリブ・ラテンアメリカ地域出身者、薬物使用者、セックスワーカー、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人たちに対する差別的な入国管理政策を唯々諾々と受け入れる姿勢であることが明らかになりました。
この決定はまた、世界のHIV対策への投資が縮小する中で、何百万ドルもの費用をかけ大規模会議を開くことがコミュニティにとって本当に重要で妥当なものなのかどうかという疑問を改めて浮上させるものでもあります。治療費およびスティグマ、差別暴力、犯罪視といったHIV予防、ケア、支援に対する障壁は世界中でHIV対策を妨げているのです。
HIV2020
Community Reclaiming the Global Response
July 6-8, 2020 • Mexico City, Mexico
What HIV2020 Is All About
An alliance of global key population-led networks, networks of people living with HIV, treatment activists, and our supporters, has formed to organize an alternative international community-led event.
Titled, HIV2020: Community Reclaiming the Global Response, the event is scheduled to take place in Mexico City, July 6-8, 2020, and will run concurrently with the first half of the international AIDS conference.
The HIV2020 alliance has decided to organize the community-led event to provide a safe alternative for individuals who cannot or will not enter the U.S. in 2020 or who cannot afford to attend AIDS2020. It will also offer new opportunities to reaffirm the leading role communities play in the global HIV response.
The Need for an HIV 2020 Conference
Human rights conditions in the United States of America (U.S.) have worsened, since the presidential election of Donald Trump. This is especially true for immigrants from Middle Eastern, African, Caribbean and Latin American countries, as well as for people of color, people who use drugs, lesbian, gay, bisexual and transgender people, and sex workers. Legal travel restrictions imposed by the U.S. on sex workers and people who use drugs, will make it very difficult for our communities to enter the country.
Against the recommendations of community advocates worldwide, including the national networks of people living with HIV in the U.S., the International AIDS Society (IAS) chose the U.S. as the site for its next International AIDS Conference in 2020. Their decision creates a dilemma for many in the global HIV movement and reveals a willingness by mainstream HIV actors to tolerate the discrimination of people from Middle Eastern, African, Caribbean and Latin American countries, people who use drugs, sex workers, transgender people in U.S. immigration and travel policies.
The decision also resurfaces questions about the importance and community-relevance of large, multi-million-dollar conferences in the face of shrinking investment in the global HIV response. The costs of medicines and other barriers to HIV prevention, care, and treatment services like stigma, discrimination, violence, and criminalization, continue to plague the HIV response worldwide.