4369 【湘南の風 古都の波】秋の夜空 静と動が描かれる

 

 遅くなってもうしわけありません。毎月第3土曜日のSANKEI EXPRESS紙の連載【湘南の風 古都の波】の11月掲載分。秋の夜空をフィーチャーしました。渡辺照明記者の写真がなければ、何を書いているんだか・・・の記事ですね。写真はEXのサイトでご覧下さい。
 
http://www.sankeibiz.jp/express/news/141117/exg1411171635001-n1.htm

【湘南の風 古都の波】秋の夜空 静と動が描かれる

 しんと静まりかえっているようでも、秋の夜空は光に満ちている。材木座海岸に近い浄土宗大本山光明寺の裏山から、渡辺照明記者が30分かけて撮影した、その見事な輝きをご覧いただこう。

 星降る大空。直線を描く飛行機の航跡。その下には大きく旋回するヘリコプターの跡。慌ただしい日々の生活を抜けだして夜の海と空に対峙する。

 わずか30分の間、じっと待っていることで、日常の静と動が、これほどにもくっきりと描かれる。海岸線を彩る人工の光にも、胸が締め付けられるようないとおしさを覚える。これもまた、秋という季節のなせる技なのか。

 光明寺は鎌倉時代の寛元元(1243)年創建と伝えられ、秋のお十夜法要には境内がたくさんの人と露店でにぎわう。

 中世の物流拠点として栄えた往時の材木座では、大小の船が、広壮な山門を見上げつつ、港に入ったのだろうか。現在の山門は幕末の弘化4(1847)年に再築されたものだが、いまなお間口約16メートル、奥行き約7メートル、高さ約20メートルの威容を保っている。

裏山の天照山中腹からは境内の向こうに広がる相模湾、そして視界がよければ富士山の姿もくっきりと見ることができる。

 1979年には、神奈川県が選定した「かながわの景勝50選」にも選ばれており、今年6月に展望台が新たに整備されたことで、訪れる人は一段と見事な景観を楽しむことができるようになった。

 ≪きょうだけしか見られない 荘厳さにため息≫

 温暖な鎌倉にも秋が駆け足で通り過ぎようとしている。いい季節はどうしてこんなにも速く、そして短いのだろうか。昼の間は柔らかな秋の日差しが照りつけていても、日が沈み、山から海に北風が吹くころになると、体感気温はぐっと下がる。

 それでも鎌倉散策の最後は海に沈む夕日で締めくくりたい。11月に入っても、砂浜はそんな人たちでにぎわっている。冬が近づき、太陽の軌道が少しずつ南に傾いていくと、日が沈む場所も、山側から海へと移動していくからだ。

 言わずもがなのことを付け加えておくと、相模湾の向こうには大きく伊豆半島が張りだしているので、鎌倉の海岸から見る夕日が海に沈むことは実はない。伊豆の山々の向こうに沈んでいくのだ。

ただし、遠く水平線の彼方の半島は低く、かすかにしか見えないことも多い。そんなときには、半島に沈む夕日でも、海にとけ込んでいく印象になる。

 中途半端な知識に煩わされることなく、目の前に繰り広げられるその日、一回きりの景観を大いに堪能しようではないか。

 このページの海の写真は前ページと同じ光明寺裏山の展望台から撮影した。時期は2週間ほど遅く、撮影時間は日没前だから逆に少し早い。

 同じ位置に立っても、同じ時は二度とない。上空は曇っているのに、伊豆半島はあまりにもくっきりと見える。そんな日もある。

 富士山は残念ながら雲に隠れて見えなかったが、雲間から海に向かって日が差し込む様子は荘厳だ。海上近くの大気は、上空とは対照的に透明度が高く、波は穏やかだった。伊豆半島効果もあって、海岸というよりもむしろ、湖畔にたたずむ気分になる。

 鎌倉は毎年、紅葉の訪れが遅い。樹木の種類によってはすでに色づいているところも部分的にあるが、獅子舞や瑞泉寺など谷戸の奥の紅葉名所が見ごろになるのは11月の終わりから12月にかけてだろう。

 海に近い鎌倉では、潮風の影響で内陸部のように見事な紅葉は期待できませんよという人もいる。確かに、鎌倉は紅葉よりも新緑やアジサイの印象の方が強い。だが、先ほどの獅子舞や瑞泉寺、扇ガ谷の海蔵寺、北鎌倉の明月院など、海からは山の裏側にあって潮風が遮られている場所の木々の色づきは見事である。

 また、長谷寺は境内が海に近接しているが、見事な紅葉が毎年、ライトアップされている。ひとくくりにはできないようだ。お寺の人たちの努力もあるのだろうが、自然は深いと言わざるをえない。