読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

復刻シリーズ2 「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

復刻シリーズ

 失われたブログからの復刻シリーズ第2段です。2013年2月のエイズ動向委員会で発表された2012年の年間新規HIV感染者エイズ患者報告の速報値について取り上げた《「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント》およびその続報の《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》を掲載します。

動向委員会はこのときに初めて、報告だけでなく、国内における実際の感染も「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示しました。

《あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう》

かなり踏み込んだ判断だったと思います。以下はそのときの私の感想。評価はしつつも、どっちつかずのことを言っていたわけですね。ま、「傍観者」といわれてもしかたがないかな。せめて「伴走者」ではありたいと思うけど、実際、「傍観者」なんだし・・・。

《様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ》

 

 

 

◎「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

 (2013.2.13)

厚労省エイズ動向委員会が22日、昨年1年間の新規HIV感染者・エイズ患者の速報値を発表した。2011年12月26日から12年12月30日までの約1年間の四半期ごとの速報値を合計したもので、報告数は以下のようになっている。

 

 新規HIV感染者報告 1001件 (過去6位)

 新規エイズ患者報告   445件 (過去3位)

    合計     1446件  (過去6位)

 

今回の速報値について動向委員会の岩本愛吉委員長は「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」との委員長コメントを発表した。

http://api-net.jfap.or.jp/status/2013/1302/20130222_coment.pdf

 

 動向委員会のデータはあくまで報告数であり、国内の感染の現状を表わすものではない。報告数はこの3年ほど横ばいないしは微減の傾向を示していたが、そこには検査・相談件数の減少からうかがえる社会的な関心の低下も要因として考えられることから、動向委員会はこれまで、実際の感染は拡大の傾向が続いているとの見方をとっていた。しかし、今回は速報値段階とはいえ、新規感染者、患者報告がともに前年より減少しており、報告データを詳細に検討したうえで、「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示すことになった。あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう。

 

 考えられる要因はいくつかある。抗レトロウイルス治療が進歩し、HIVに感染した人の体内のウイルス量を長期にわたって大きく減らすことが可能になった。このことがHIVに感染した人のエイズ発症を防ぎ健康状態を保つという治療効果だけでなく、他の人への感染を防ぐ予防上の効果ももたらすことが最近、さまざまな研究成果から繰り返し指摘されている。つまり、自らの感染を早期に把握し、適切な治療を受ける人が増えれば、結果としてHIV感染が成立する機会も減る。したがって、新規感染の拡大が抑えられるという構図である。日本は長期のデフレにあえいできたとはいえ、なお安定した保健医療基盤と経済力を有しており、治療の進歩を予防対策上の成果につなげる条件にも恵まれている。ただし、そうした条件があっても、HIV感染が分かれば、不利益が大きくなるような社会では、検査を必要とする人ほど検査を避けることにもなりかねない。検査の普及が予防に結びつくには、HIVに感染している可能性のある人が安心して検査を受けられる環境を整えていく必要がある。世界のエイズ対策でキーポピュレーション(HIV/エイズの流行に大きな影響を受け、対策の鍵を握る人たち)の参加が重視され、わが国のエイズ予防指針で、特別な配慮を必要とする個別施策層への支援が強調されているのもそのためである。

 

 エイズ動向委員会の昨年の速報値を見ると、同性間の性感染が新規HIV感染者報告で報告全体の72%、新規エイズ患者報告で54%を占めている。一方でこの10年を振り返ると、エイズ予防のための戦略研究やHIV/AIDS予防啓発のためのコミュニティセンターの開設など、個別施策層の中でも、とりわけ男性と性行為をする男性(MSM)を対象にした予防啓発活動や支援対策にかなり重点を置いた施策が展開されてきた。感染が最も起きているところに対策の資源をシフトしていくという意味では、妥当な政策判断だったというべきだろう。治療の進歩を予防対策にも生かすという観点から、こうした地道な対策の積み重ねがもたらした成果はもっと重視されていい。同時にこのことは、HIV感染の流行がMSMの間での感染から他の個別施策層へと移行することがあるとすれば、その動向をいち早く察知し、それぞれの個別施策層に対応する当事者と協力して対策を組み立てていく必要があることも示している。引き続き動向把握には緊張感を持ってあたる必要がある。

 

 新規感染の拡大に歯止めがかかったのか、あるいはそこから縮小に向かうのか。動向委員会は「横ばいの可能性がある」という見方を打ち出したが、私には実はまだ、よく分からない。東京都のデータを見ると、11年には新規HIV感染者報告もエイズ患者報告も大きく減少したが、12年はまた増加に転じている。今回の全国レベルの速報値とは動きがやや異なる。その時期、地域によって一律には論じられないのかもしれない。また、診療や陽性者支援の現場の人たちから皮膚感覚ベースの話を聞くと、必ずしも拡大傾向に歯止めがかかったとは言えない感触を持つ人も多い。一時的に成果と見えたものに安心して対策に熱が入らなくなると、かえって次の感染拡大の要因を作ってしまう懸念もある。

 

 様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ。

 

 

 

 

◎しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について (2013.2.25)

 厚労省エイズ動向委員会が2月22日、わが国のHIV感染について「横ばいとなっている可能性がある」という新しい判断を示したことは先日、紹介した。どうも新聞の記事にはあまり取り上げられず、載ったとしても「報告が横ばい」と解釈しているようで、私にはこれは誤解というか、動向委員会のメッセージが正しく伝わっていないように思う。もちろん報告の数字も横ばいではあるが、新規HIV感染者・エイズ患者の報告数の合計で見ると、これはもう2007年ぐらいから1500件前後で推移しているので、目新しい傾向ではない。そうではなくて、今回は報告のデータを検討した結果、実際の国内の感染も横ばいになっているという判断を打ち出したわけで、これは何人かの動向委員に確かめてみても、いままでにはない判断だという。10年前の2002年の感染者・患者報告の合計は922件と1000件未満だったから、1500件前後での横ばいというのは、感染のフェイズが一段、上がったところでの横ばいということでもある。地道な対策の成果ということはできるが、同時にそれは横ばいから減少に転じたわけではないというメッセージでもある。これで対策をゆるめてもいいというような気分が広がれば、また拡大基調に戻ってしまうという微妙な分岐点だろう。重複になるが、念のためにもう一度、書いておく。