いまこそ相乗効果を:エイズ動向委員会報告から エイズと社会ウェブ版 510 

 

 国内における昨年(2019年)の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の年間確定値がまとまりました。API-Net(エイズ予防情報ネット)の『日本の状況』のページに9月15日付けで2020年上半期の報告速報とあわせ、厚生労働省エイズ動向委員会の委員長コメント(9月15日発表)が掲載されています。 

api-net.jfap.or.jp

  例年だと、前年の年間確定値の方が重視され、上半期の報告はあくまで途中経過という受け止め方になります。ただし、今年は新型コロナウイルスの影響があるので、上半期の数字の方が注目率は高くなりそうです。

 それでもまあ、記録としてまずは、年間確定値の方から見ていきましょう。2019年の年間報告数は以下の通りです。

 新規HIV感染者報告数     903件(過去20年で14番目)

 新規エイズ患者報告数   333件(過去20年で17番目)

 合計報告数       1236件(過去20年で14番目)

 2000年以降の確定値をグラフにするとこんな感じですね。 

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 また、報告数が初めて1500件となった2007年からの報告数を表にするとこうなります。2017年に作った表にその後の報告数を継ぎ足していったので、表のタイトルは『報告数1500件時代の10年 (2007-2016)』となっていますが、悪しからず。

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 2018年の合計数(1317件)と比べると81件少なくなっており、3年連続の減少となりました。1500件時代の10年から1300件時代に移行したといっていいでしょう。

 また、報告数全体に占めるエイズ患者報告数の割合も26.9%まで下がっています。低下していれば、それだけHIV陽性者が早期に自らの感染を知り、治療につながれることを示していると考えることができます。つまり複合的な感染予防対策の成果が上がっていることの傍証となる数字です。

 あくまで報告レベルではありますが、治療の普及や様々な予防啓発活動の成果で、実際のHIV感染も国内では減少傾向に移行したのではないか。不明を恥じるようで恐縮ですが、そのように認識を改める必要があるかなと個人的には思っています。

 ただし、これはあくまで2019年末時点での話。2020年はまだ上半期の速報値段階ですが、新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響でHIV感染の動向も先行きが分からなくなってきました。個人的にはHIV感染の再燃が懸念される状況ではないかと思います。

 今年(2020年)前半の報告については、第1四半期と第2四半期に分けて報告されていますが、ここでは両方を足して上半期の速報値と考えていきましょう。

 2020年上半期の新規HIV感染者報告数は347件(前年同時期428件)、新規エイズ患者報告数は154件(前年同時期147件)です。感染者報告数は大きく減り、エイズ患者報告数はほぼ横ばいですが微増しています。これは実際の感染が減ったというよりもむしろ、感染から比較的早い時期に検査を受けて自らの感染を知る人が減少していることを示している可能性があります。

 保健所などのHIV検査や相談件数は4~6月に激減しています。一方で、献血血液の『10 万件当たりの陽性件数(速報値)は、1.049 件(前年同時期0.799 件)』」という報告も気になります。

 エイズ動向委員会の委員長コメントの「まとめ」の欄では、やや遠回しの表現で新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行(とその対策)の影響に言及しつつ、こうした現状に対し次のような懸念を表明しています。

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4.エイズで発見された患者の割合は、令和2年第2四半期において、約36%であった。これについては、エイズで見つかる患者数は前年同時期の変化が小さい一方で、新規HIV感染者が減少したことが影響したものと考えられる。

新型コロナウイルス感染症の影響による検査数の変化等含め、このような状況を注視していく必要がある。

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 HIV/エイズ対策の経験の蓄積から得られた教訓やインフラをCOVID-19対策に生かし、そのことを通して逆にHIV/エイズ対策の基盤も強化していくという相乗効果への認識と行動が必要です。これまでにも増して、いま必要なのです。

 国際的なCOVID-19対策の文脈では、すでに繰り返し強調され、それでもなかなかうまくいかないねという状況の中で日本国内もまた例外ではない。改めて指摘するまでもなく、HIV/エイズ対策の現場にいる人たちには先刻ご承知のことだと思いますが、ここはあえて念を押し、「改めて指摘」しておきましょう。それがパンデミックです。