4307 『2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言』2  エイズと社会ウエブ版142

 

 世界エイズキャンペーン(WAC)が2005年の世界エイズデーの前に発表した文書『2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言』の日本語仮訳紹介の2回目です。この文書は

1.  はじめに                               

 2.  この5年間は分かりきったことの説明? それとも破られた約束の日記帳? 

 3.  終わりに

3部構成で、今回は最も長い真ん中の部分です。

 

   ◇

 

2.この5年間は分かりきったことの説明? それとも破られた約束の日記帳?

 国連エイズ特別総会のコミットメント宣言に関する以下の年表が、判断の助けになるだろう。

 

2001年】

 重要な要素の確認: 

世界貿易機関WTO)加盟国はドーハで貿易の不均衡を認め、対応策として公衆衛生上の危機を克服するため貿易関連の知的所有権TRIPS)の柔軟な取り扱いを奨励した。 

  国連開発計画(UNDP)は技術の進歩がすべての人に等しく利益を提供していないことを認めた。また、HIV/エイズマラリア結核に関する研究を増やすこと、「貧しい人々」の利益のための保健研究をさらに進めることの必要性を認識した。

  世界保健機関WHO)のグロハルム・ブルントラント事務局長(当時)は「エイズと保健のための世界基金」の創設を求めた。

  国連のコフィ・アナン事務総長は1カ月後、「エイズとの戦争のための資金」を求め、2カ月後には国連エイズ特別総会でそのアピールを繰り返した。 

  ジェノバの主要8カ国(G8)首脳会議は、後に世界エイズ結核マラリア対策基金として実現するアイデアを支持した。G8会議はドーハにおいて(特定の状況下での)TRIPSの柔軟な取り扱いが認められたことを支持した。

 

 具体的な約束: 

  過去5年間で最も重要かつ具体的な約束は20016月の国連エイズ特別総会で採択された。総会は全加盟国一致で「地球規模の危機-地球規模の行 動」のタイトルをもつコミットメント宣言(DoC)を採択している。DoCHIV/エイズの流行の拡大を止め、縮小に転ずるために、2003 20052010年に測定可能な目標を含む具体的なターゲットの全体像を示した。DoCは、その時点では採択から間もなかったミレニアム開発目標(とく に目標6)と連動し、HIV/エイズの発生を減らすことを目指している。UNGASSHIV/エイズの標的は以下の諸分野である。

   ・リーダーシップ

   ・予防 

   ・ケア・サポート・治療

   ・人権

   ・バルナラビリティの減少

   ・子供

   ・社会・経済的影響の軽減

   ・資金 

   ・紛争や災害地域でのHIV/エイズ

   DoCは全部で103の公約とターゲットに言及している。

 

 その他の重要な地政学的出来事

  ニューヨークの世界貿易センタービル破壊(以後、数多くの開発関連の会合や報告書で国家安全保障が中心課題となる)

 

2002年】

 重要な要素の確認:

  UNDPの報告書はガバナンスの効果にかかわる問題が開発に深い影響を及ぼしていることを示唆した。また、多くの国で知的所有権が安価で入手可能な治療薬の提供を妨げていると述べている。報告書はさらにアジアにおけるHIV新規感染の急速な拡大を指摘している。

 

 意向表明:

  2001年とは異なり、G8首脳会議はHIV/エイズの流行が大きな問題であることを明確に指摘した。共同声明は、新規感染を減らし、HIV陽性者のケアと支援を提供するためにG8が援助すべき分野を示している。

  WHOのグロハルム・ブルントラント事務局長は、2005年末までに300万人に抗レトロウイルス薬を提供するWHOの意向を初めて表明した。

 

 重要な地政学的およびその他の出来事:

  国際エイズ会議(IAC)が「知識と約束」をテーマに開かれた。

  GFATMの設立理事会が開かれた。

 

2003年】

 重要な要素の確認:

  2001年コミットメント宣言の最初の大きな検証が国連総会で行われ、HIV/エイズの流行がもたらす問題の拡大を確認した。

  UNDPミレニアム開発目標に焦点をあて、HIV/エイズの影響が開発課題全般に広範な影響を与えていることを強調した。

 

 意向表明:

  国連加盟国は(コミットメント宣言の検証の中で)アドボカシーとHIV/エイズ治療のアクセスの分野にもっと力を入れて取り組むべきだと提案した。

  WTOは「開発のための財源確保」をテーマに会合を開いた。加盟国は社会福祉基盤、HIV/エイズと闘うための各国の努力(教育など)、重債務国に対する債務救済などの分野への投資に合意した。 

  エビアンG8首脳会議は世界基金への関与を続けることを確認し、債務救済の必要性を再確認した。

 

 具体的な約束:

  WHO2005年までに貧困国のHIV陽性者300万人にARVsを提供するための「3バイ5」キャンペーンを開始した。

  米国のブッシュ大統領HIV/エイズ対策に5年間で150億ドルを投入する大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)を発表した。

 

2004年】

 重要な要素の確認:

  UNDP報告書は文化に対する(2003年の)HIV感染の流行の影響およびHIV/エイズに最も深刻な影響を受けている地域の人間開発指標(HDI)低下傾向に焦点をあてた。

 

意向表明:

  バンコクの国際エイズ会議では、さまざまな分野の関係集団やコミュニティから多数の重要な宣言が出された。その中には具体的な行動に責任をもつことを表明するもの、個々の課題について認識していることを確認するもの、その課題と取り組む用意があることを示すものなどもあった。最も重要なのはそれぞれのグループに明確な基準が作られたことだろう。

  ダブリンおよびビリニュス宣言で欧州連合EU)は欧州の観点からHIV/エイズを課題としてとらえた。EUは予防、治療、ケアのサービスについて差別をせず、ジャジメンタルにならずに提供することを確認した。

 

 具体的な約束:

  ダブリン宣言は数多くの約束を行った。その中には、UNAIDSの活動にEUの組織、機関が積極的に参加する;女性、少女がHIV感染のリスクから自らを守る力を高め、バルナラビリティを減らすための各国および域内の戦略と計画を2005年までに打ち出す;プログラムの規模拡大により2010年までにHIV感染の高いリスクにさらされ、HIV/エイズにバルナラブルな人たちの80%が広範な予防プログラムを受けられるようにする;欧州と中央アジアの乳幼児のHIV感染を2010年までになくす-などが含まれている。宣言はさらに欧州諸国が宣言の進捗状況をモニターすることを約束した。

  ビリニュス宣言は、ダブリン宣言を正式に認め、欧州諸国が効果的なHIV/エイズ対策を確立して進捗状況を検証すること、そのプロセスに市民社会が参加できるようにすることを宣言すべきだとしている。

 

 地政学的およびその他の重要な出来事:

  ネルソン・マンデラは彼の息子がエイズで死亡したことを明らかにした。

 

2005年】

 重要な要素の確認

  国連加盟国に向けたコミットメント宣言の実施状況に関する2005年事務総長報告書は多数の重要課題と進展を阻む障害物を強調し、以下の結論を出した。「HIV/エイズの流行の封じ込めに成功しはじめていることをうかがわせる国は、少数ではあるが増えている。この点は明るい兆候だが、流行は全体としてみれば拡大を続け、コミットメント宣言で示されたターゲットの多くは世界各地で達成できずに終わるおそれが強い。・・・治療プログラムは、世界で最もバルナラブルな家庭、コミュニティ、国々で流行の影響の深刻化を回避できるほどには普及していない」

  事務総長報告書は「推奨される行動のステップ」を明確に示してはいるものの、誰に対してそれを求めているのかはあいまいである。

  UNDP報告書は国際的なHIV対策の進展が見られないことに極めて批判的である。エイズは開発に対し大きな打撃を与えるであろうという1990年の最初の報告書に逆戻りしてしまうほどだ。報告書はHIV/エイズに対する国際間の協力に大きな改善が必要になっていることを提言している。

  2005年のグレンイーグルスG8首脳会合は、アフリカにおける援助の拡大、ガバナンスの改善、債務救済を求めたアフリカ委員会報告書に大きな影響 を受け、共同声明で主にアフリカに焦点をあてた。声明は開発に及ぼすHIV/エイズの影響の大きさを認識し、UNAIDSWHO、その他の国際機関に対し「2010年までに必要な人すべてに治療へのユニバーサル・アクセスが確保される状態に可能な限り近づくことを目指してHIV予防、治療、ケアのパッケージを作り、実施する」ことを求めている。

 

意向表明:

  G8の呼びかけは2005国連世界サミットでより大きな広がりを獲得し、加盟国は成果文書で、「2010年までに必要な人すべてに治療へのユニ バーサル・アクセスが確保される状態に可能な限り近づくことを目指してHIV予防、治療、ケアのパッケージを作り、実施すること」を公約した。

  英国のトニー・ブレア首相はEUを代表して世界エイズデーのスピーチを行い、2004年のダブリン、ビリニュス宣言を確認するとともに、性およびリプロダクティブ・ヘルスに関する情報とサービスへのユニバーサル・アクセス、薬物注射使用者へのヘルス・プロモーションとハーム・リダクションのためのサービス提供、男性用・女性用コンドームへの確実なアクセス、性教育へのユニバーサル・アクセス、新技術(たとえばマイクロビサイド)の開発、職場におけるユニバーサルな感染防止策などの強力なエイズ対策にEUとして取り組むことを提案した。ブレア首相はまた、EU2006年のコミットメント宣言検証に 取り組むことを約束した。

 

具体的な約束:

  G8首脳は2010年までに政府開発援助(ODA)を年間500億ドルに増やすと約束した。

 

 地政学的その他の重要な出来事(2005年末まで):

 WHO:「3バイ5」計画-いくつかの国でARVアクセスは大きく改善されたものの、2005年末までの目標達成には遠く及ばなかった。

  国連加盟国:200512月までにコミットメント宣言の進捗状況に関する各国のリポートを提出。

  世界エイズキャンペーンのテーマ(20052010年):「キープ・ザ・プロミス」

   WTOの香港会合が200512月に開かれ、債務削減、TRIPS関連事項、途上国のための世界貿易への平等なアクセスなど同年前半のG8会合で検討された課題を取り上げる。会合は2006年末に予定されているドーハ開発アジェンダ2001)の最終合意に向け、幅広い論点の議論に決着をつけることが期待されている。