HIVとエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合)の日本語仮訳について エイズと社会ウェブ版235

 ニューヨークの国連総会ハイレベル会合で先月8日に採択された2016政治宣言の日本語仮訳をHATプロジェクトのブログに掲載しました。長いので5分割して掲載してあります。

 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合)その1~その5
 http://asajp.at.webry.info/ 

 また、英文はUNAIDSの公式サイトにPDF版で公開されています。見比べるのも大変でしょうが、翻訳の間違い、あるいはこれはこう訳した方がいいのでは・・・など、お気づきの点がありましたらご指摘ください。
 http://www.hlm2016aids.unaids.org/wp-content/uploads/2016/06/2016-political-declaration-HIV-AIDS_en.pdf

 なお、その1からその5まで、それぞれの最初の部分に簡単な解説(というよりも、ほとんど訳者の愚痴)を付してあります。餅入りあんパンはおいしいけれど、愚痴入り解説はいただけませんねなどといいつつ、その「いただけない部分」を各回ごとに再掲します。

 

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 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合) その1
 http://asajp.at.webry.info/201607/article_4.html
  ニューヨークのエイズ流行終結に関する国連総会ハイレベル会合で6月8日、国連加盟193カ国によって採択された「HIVエイズに関する2016年政治宣言」の日本語仮訳です。全文は26ページ、79パラグラフもあり、かなり長いので何回かに分けて掲載します。
 その1はパラグラフ1から30までです。総論部分と言っていいでしょう。
 英語の原文(PDF版)は国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに載っています。日本語仮訳は誤って訳している部分があるかもしれないので、あくまで参考としてお読みいただき、引用などをされる場合は仮訳で目星をつけたうえで、英文を参照していただくようお願いします。

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 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合) その2
  http://asajp.at.webry.info/201607/article_5.html
 パラ31から58までです。《2011-16:かつてない成果を生かし、置き去りにされた人たちの存在を認める》(パラ31~54)では、前回のハイレベル会合が開催された2011年6月から現在までの成果と課題を振り返っています。
 《2016-2021:世界のリーダーシップ:HIVエイズへの高速対応に結束》(パラ55~58)は今年から5年間で何をなすべきかの各論に関する導入部。今回の宣言は今年1月にスタートした15年間の『持続可能な開発目標(SDGs)』との関係を重視し、SDGs体制の中での位置づけを強く意識した内容になっています。
 パラグラフは全部で79あり、そのうちの58までというと、全体の7割以上を占めている印象になりそうですが、実際にはここまでで全体の3割ちょっと。パラ59以降に具体的な約束が盛り込まれていきます。たとえばパラ59は資金をめぐる約束ですが、これがなんとパラ59(a)から59(p)まで16段落に分かれています。以後のパラグラフも同じような調子。あれも入れろ、これも入れろ、そして一方ではこれは外せ・・・と様々な力学が働いた結果でしょうね。それぞれに重要ではあるのでしょうが、訳す方は泣くよ。

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 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合) その3
 http://asajp.at.webry.info/201607/article_6.html
 各論に入りました。パラ59は投資、パラ60は検査と治療へのアクセスに関する約束です。

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 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合) その4
 http://asajp.at.webry.info/201607/article_7.html
 パラ61(a)~(o)はジェンダーと女性に関する項目。62(a)~(j)はサービスを利用しやすくする工夫、63(a)~(g)は法律や政策、慣行の検証に関する約束です。
 各論部分の構造をざっくり説明しておくと、SDGsの17目標のうち5目標と5つのパラ(かなり長い)とが以下のような対応関係になっています。
 ・パラ60検査と治療へのアクセスに関する約束(その3で紹介)とSDGs3(すべての人に健康と福祉を)
 ・パラ61ジェンダーと女性に関する項目とSDGs5(ジェンダー平等を実現しよう)
 ・パラ62のサービス利用はSDGs10(人や国の不平等をなくそう)
 ・パラ63の法律や政策、慣行の検証はSDGs16(平和と公正をすべての人に)
 ・パラ64のHIV陽性者ら関係者の参加促進(その5で紹介)はSDGs17(パートナーシップで目標を達成しよう)

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 HIVエイズに関する政治宣言(2016年国連総会ハイレベル会合) その5
 http://asajp.at.webry.info/201607/article_8.html
 宣言の最後の部分です。各論に続き、まとめに入ります。2030年のエイズ流行終結に向けたターゲットとして、2020年には若者・成人(15歳以上)のHIV新規感染を現在より75%減らすことなどを、数値として明示したうえで約束しています。そのための各地域別の目標も人数で示されています。
 スローガンとしての「終結」に繰り返し言及していると、ついつい「何をもって終結とするか」という基本部分がだんだんとあいまいになってしまいそうですが、あくまで「公衆衛生上の脅威としての」流行の終結です。新規感染がゼロになる→HIVに感染している人がいなくなるということではありません。
 参考までに人数で示しておくと、2020年の新規感染が50万人以下、そして2030年の新規感染が20万人以下、この状態が実現できれば「公衆衛生上のエイズ流行は終結したとみなしましょう」ということになっているようです。
 第一関門である2020年ターゲットは実現できるのか、できないのか、いまはまだ分かりません。無理じゃないのと思う一方で、いまから「できっこないよ」などと言いたくはないとも思います。その成否を確認し、さらに2030年を目指してどうすべきかを検討する次のハイレベル会合は「第75回国連総会会期より遅くならない」時期に開くということです。
 第75回総会の会期は確か、2020年9月から2021年9月はじめまででしたね。2020年以前に開いてもまだ途中経過だし、具体的には2021年6月開催ということでしょうか。
ああ、ようやく仮訳が終わった。もって回った表現だらけの文書とおさらばできるのかと思えば、それだけでも嬉しいような気もしてきます。
 おっと、仮訳地獄からはおさらばはできても、この宣言からおさらばするわけにはいきませんね。一応、日本政府も採択に加わって決めた約束です。しっかり活用しましょう。頼まれもしないのに辛気くさい仮訳作業を続けてきたのもそのためでした。
 一度に読み通すのは大変であり、苦痛でもあると思うので、折に触れて適当に拾い読みしながら参考にしていただければ幸いです。