4215 UNITAIDのドゥニ・ブルーン事務局長が日本記者クラブで会見 エイズと社会ウエブ版125


 航空券連帯税を主要財源として、途上国にエイズ結核マラリアの治療薬を提供するユニットエイド(UNITAID)のドゥニ・ブルーン事務局長が10月8日(火)午後、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行いました。会見動画はYou Tubeの日本記者クラブチャンネルで見ることができます。 
http://www.youtube.com/watch?v=B0X5RAIySv4&feature=player_embedded

 上記サイトでは、会見司会者(産経新聞特別記者、宮田一雄)による簡単なレポートもあわせて掲載されているので、ご参考までにご覧ください。

    ◇

 ということで、追加の感想です。

 ユニットエイドは国際連帯税を新たな財源として位置づける革新的資金メカニズムであると同時に、航空券連帯勢で得られた資金の力を背景として、製薬会社と交渉し、途上国向けにもっと安く治療薬を卸してほしいと交渉する機能を担っています。

 製薬会社の方も、そりゃ、あんた、まとめて買ってくれるなら、こっちだって野暮なことはいいませんよ・・・と会見司会者が勝手に想像していたような身もふたもないことは言わないでしょうが、高度なビジネス戦略の観点から、そうした交渉に積極的に対応することには、やぶさかではないようです。その結果、売る方にも買う方にも好循環が期待できる状況が生まれるとすれば、なかなか期待がもてそうな感じがします。

 しかも、じゃあ、そのお金の負担をした人はどうかというと、国際線の航空券にせいぜい何百円かのプラスαの負担をするだけなので、まあ、外国に旅行するこっちゃし、それで困難な病に苦しむ人を助けることができるのなら、嫌とは言いません。いいでしょう、一役買いましょう・・・と、けっこうハッピーな気分になる。ユニットエイドが行った調査では、おおむねそのような結果が出ているということでした。

 国際保健は途上国の開発、ひいてはそれを世界の安定と繁栄につなげたいと思っている国際社会にとっては、最重要課題であり、中でもエイズ結核マラリアといった感染症との闘いは、21世紀の最初の10年において国際社会がそれなりの努力を傾けた結果、目覚ましい成果を達成した分野ということができます。それなりで、目覚ましいになっちゃうわけですから、これはまさしくコストパフォーマンスの良い投資というべきなのですが、その大きな成果をもってしても現状は、何とか接戦に持ち込むところまで来たというところでしょう。しかも、まさにこれからだぞ!というせめぎ合いの一番の難所に差し掛かったところで、資金はどうするのというプリミティブな問題に直面しています。

 たとえばエイズ対策について言えば、掛け声が勇ましい割に資金の見通しは厳しく、これでは競り負けてしまうのではないかという危惧もあります。TICADで5月に来日したユニットエイドのブルーン事務局長が再度、日本を訪れたのも、こうした状況を打開すべく、貴国においてもぜひ航空連帯税導入の機運を盛り上げてほしいという思いがあるからでしょう。何年か前に比べると、航空券税に対する日本の反応は非常に前向きになっていると会見ではお話しされていました。でも、そうかなという疑問もちょっとあります。確かに、薄く広くは国際貢献の一つのキーワードなのかもしれませんが、折悪しく日本国内では消費税の議論に関心が向いてしまっているので、ちょっと切り出しにくい時期なのかもしれません。それとこれとは別みたいな切り分けが、理屈では分かっていても、感情的には、また税金を取る話なの!?ということになりはしないか。内向き気分を脱するためにも、日本経済の再生に期待したいですね。

 ところで、HIV/エイズ分野の話としては、今年7月にWHOが抗レトロウイルス治療のガイドラインを改定し、早期治療の必要性をこれまで以上に強調するとともに、3種類の抗レトロウイルス薬の最初の組み合わせ分を1日1回1錠の服用で続けられる治療薬を推奨しています。この薬は1人1年分の価格が160ドルなんだそうですが、ユニットエイドが120ドルにまで下げれば購入するという交渉を行い、来年1月から途上国のHIV陽性者に提供できるようにするプログラムをスタートさせることになったそうです。もちろん、これは日本国内の話ではなく、途上国のHIV陽性者に向けたプログラムなのですが、こうしたかたちで飲みやすい薬の開発を進めるインセンティブがより働くようになるとすれば、それはめぐりめぐって、日本国内のHIV陽性者の希望にもなり、そのことがまた、HIVに感染しているかもしれないという不安を抱えている人が安心してHIV検査を受けられるような社会的雰囲気を醸成していく。さらにそれがHIV感染の予防対策に資することになり、治療と予防のポジティブな連関(間に支援というキーワードが入ればの話ですが・・・)が成立していく。そんな構図を考えれば、あながち日本とは無関係な話というわけでもありませんね。