エイズ流行を終結させるには愛が必要だ 第19回国際エイズ会議(2012年7月)におけるエルトン・ジョン演説

(前置きの前置き)

 ダーバンの第21回国際エイズ会議(AIDS2016)が終わったばかりのこの時期に、紛らわしい投稿をして恐縮ですが、4年前に米ワシントンDCで開かれた第19回国際エイズ会議(AIDS2012)で英国のロックスター、エルトン・ジョンさんが行った演説の日本語仮訳です。Facebookの過去の投稿紹介の誘いに乗って、そういえばあの仮訳は、izaのブログに掲載したんだったと思いだし、クリックして見ましたが、すでにそのブログは閉鎖され、したがって仮訳もみることができません。でも、記録としては残しておきたいと思うので、過去の記録を引っ張り出し、はてなブログに引っ越して継続しているこの『ビギナーズ鎌倉』に再録します。エルトン・ジョンさんはダーバンの国際エイズ会議でも積極的に発言していましたが、こちらは4年前のスピーチです。

 なお、エルトン・ジョンエイズ財団の公式サイトにはなんと、英文の演説原稿が掲載されていました。 

Text of Sir Elton John’s Address at AIDS 2012 | Elton John AIDS Foundation

 以下の前口上部分では、ビデオを苦労して聞き取り翻訳しましたという趣旨のことが書いてありますが、後で原稿が公開されたんですね。今回はその英文原稿にあわせ、仮訳も全面改定しました。したがって、前口上でぐだぐだと愚痴を述べ立てている部分は不要になったわけですが、愚痴はもはや私の身体の一部と化しているという事情もあり(どんな事情や)、削るのもしのびないので、残しておきます。悪しからず。

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◎第19回国際エイズ会議でエルトン・ジョンさんが演説 (2012.7.30)

 米ワシントンDCで開かれた第19回国際エイズ会議(AIDS2012)2日目の7月23日、『Can Public-Private Partnerships Help Those who Think Globally, Act Locally?』というセッションでロックスターのエルトン・ジョンが行った基調演説の動画映像をもとに日本語仮訳を試みた。うまく聞き取れず、すっ飛ばしたり、こんな感じかなあと類推したりして補った部分もあるので、発言要旨の紹介といったところか。

(注) 誤解があるといけないので補足すると、Independent紙のサイトにはかなり刈り込んだバージョンの文字原稿が載っている。それも参考にして動画映像からの演説を聴き取っていった。この原稿がなければ、私の英語力では大意すらつかめなかっただろう。

http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/elton-john-science-can-stop-aids-but-to-end-the-plague-we-need-love-7966167.html

 

時間がある方には(おそろしく手間がかかると思うけど)、動画で演説をチェックし、「ここはこういう風にした方がいい」といったアドバイスをお願いしたい。

エルトン・ジョンは自らの体験を語り、エイズの流行に終わりをもたらすには「医学とお金だけでなく、それ以上のものが必要です。愛が必要です」と強調している。また、愛という言葉がいやなら「思いやりでも、親切でも、理解でも、共感でも、好きなように呼んでください。考えていることは同じです。エイズの流行を終わらせたいのなら、もっと人間性や愛が必要です」と繰り返した。

エイズという病気の原因はウイルスだけど、エイズの流行はそうではない」「流行は偏見や憎しみ、誤解、無知と無関心によって拡大する」と考えるからだ。

予防としての治療やワクチン開発などを否定するものではないが、演説後のパネルディスカッションでは「今日はhuman side of AIDSに重点を置いた」と語っている。それが最も大切なことを国際保健の並み居る専門家の前で念押ししたかったのだろう。パネルにはジェムズ・チャウ氏も参加した。来日時には日本記者クラブで会見し、新宿二丁目のaktaで日本のエイズアクティビストやジャーナリストと懇親した中国のジャーナリストだ。

 

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ワシントンDCの第19回国際エイズ会議(AIDS2012)におけるエルトン・ジョン演説

http://globalhealth.kff.org/AIDS2012/July-23/Can-Public-Private.aspx

 

 ありがとうルイス、そして皆さんこんにちは。この壇上に立てることは大きな栄誉です。

ひとつの物語から始めます。自らのセクシャリティを受け入れようとしてきた若者の話です。若者には酒と薬で混乱した過去がありました。HIV感染の予防策をとらないセックスをし、感染の極めて高いリスクにさらされていました。どん底でした。生活は混乱を極めていました。破滅的でした。怒っていました。どうにもならなかったのです。

正直なところ彼は死亡するはずでした。ほとんど死亡しかけてもいました。でも、驚くべきことが起こりました。人々が彼に思いやりと愛を示したのです。尊重し、理解してくれました。手をさしのべ、立ち直るチャンスを提供しました。そして、彼は立ち直りました。すべてが変わったのです。いまは素晴らしい生活です。愛するパートナーとかわいい息子がいます。この22年、ずっとシラフでした。そしていま、彼は皆さんの前に立ち、演説をしています。

皆さん、本来なら私は今日ここにはいません。死んでいます。木製の箱に入り、6フィート地下に埋められていまるはずです。1980 年代にHIVに感染し、1990年年代に死んでいたでしょう。フレディ・マーキュリーのように。ロック・ハドソンのように。そして、あなたたちと私の友人や愛する人たちと同じように。

いかにして私は生き残ったのか。いつも不思議に思います。答えはわかりません。これからも分らないでしょう。

しかし、どうして私がここにいるのか。それは分ります。あなたたちに、そして聞いてくれる人には誰にでも、私の命を救ってくれたメッセージ・・・実行すれば何百万もの人を救うことになるメッセージを伝えるためです。

あなたが何者であるか、誰を愛しているか・・・

どこで、どのように暮らしているか・・・

何をしてきたか、あるいは、してこなかったか・・・

そうしたことは関係ありません。誰もが思いやりと尊厳に値します。誰もが、誰もが、誰もが、愛に値します。

どうして、こんなことを言うのか。

エイズという病気の原因はウイルスだけど、エイズの流行はそうではないからです。

エイズの流行は偏見によって拡大します。憎しみ、誤解、無知と無関心によって拡大するのです。

エイズの終わりについて、多くのことが語られています。もっともな話です。私たちはエイズの流行を終わらせることができる。皆さんのおかげです。あなたたちの研究と支援活動のおかげで、生命を救う治療も予防策もあるのです。

しかし、それだけでは十分ではありません。この病気を最終的に打ち負かすには十分ではないのです。あなたにも、私にも、それは分っています。医学だけでなく、お金だけでもなく、それ以上のものが必要です。

愛が必要です。

この言葉が嫌だったら、少し不快に感じるようなら、他の言葉の方がいいのなら、ほかの言葉にしましょう。思いやりでも、親切でも、理解でも、共感でもかまいません。好きなように呼んでください。同じことです。エイズの流行を終わらせたいのなら、人間性が―愛が―もっと必要です。

私は今日、エイズ・メモリアルキルトの展示に臨んできたばかりです。会場は亡くなった人への愛に満ちていました。そしていま、私たちに必要なのは生きている人たちへの愛です。

皮肉が好きな人たちは、そんな感情的なことでウイルスに勝てるものかと言うかもしれません。答えは簡単です。とりわけ、エイズ終結に人生を捧げ、いまこの会場にいる皆さんには簡単でしょう。

周囲の誰かがHIV陽性だと分ったときに人はどのように反応するのか。30年におよぶ流行の中で、私たちはそれをずっと見てきました。具合の悪い人を見て、どう非難するかと考える人もいます。彼女がHIVに感染した? それは自分の責任だ。薬物使用者だからだ、あるいは売春婦だからだ。彼はエイズだって? ゲイだからだ。貧困のせいだ。そういう人だから病気になったに違いない。背徳的な生活をしているからだ。病気になり、死んでもしょうがない。自業自得だ。

 しかし、病を受けた人に接し、愛する理由を考える人もいます。あなたは病気ですか。私もいつか病気になるでしょう。闘っているのですね。私もそうです。あなたはもうすぐ死ぬのですか。私もいつか死ぬときがくるでしょう。何か私にできることはありますか。どうしたら愛を示すことができるでしょうか。

 31年の間に3000万人もの人が亡くなっています。あなたも私も、両方の反応を見てきました。ウガンダには憎悪、ウクライナには偏見、米国には無関心があります。

 私たちはゲイ男性が差別され、殺されさえするのを見てきました。HIV陽性者が家族から追放され、コミュニティから汚名を着せられるのを見てきました。エイズ孤児が捨てられています。レイプされ、迫害される子供たちがいます。こうした恐怖や無視や憎悪のすべてが私には耐えられない。

 しかし、私たちは愛も見てきました。そうでしょう。タイの僧侶が薬物依存の人たちのために働いています。ソーシャルワーカーHIV陽性の受刑者を助けています。企業はもうけよりも命を優先させています。インドではカソリックの修道女や神父がセックスワーカーを助けるのを見てきました・・・バチカンがどう言おうと、イエスはこの人たちにほほえみかけるでしょう。ジョージ・W・ブッシュ氏と米国の保守政治家たちが、アフリカのHIV陽性者の命を救うために何百億ドルもの資金拠出を誓約するのも見てきました。

 これらすべての愛がなかったら、どうなっていたでしょう。どこにもたどりつけません。どこにも、です。すべての思いやり、すべての愛のおかげで、800万を超える人がいま、治療を受けています。心にかけ行動した人たちのおかげで、この流行の終わりが視野に入るようになってきました。蜃気楼ではありません。現実です。まさしく現実なのです。

 しかし、流行を終わらせるには、もっと思いやりが必要です。おそろしいほどたくさん必要です。目的を達するのに、どうして思いやりなのかと聞く人がいるかもしれません。説明しましょう。

 注射薬物使用者の新規感染を終わりにしたいと思いませんか。薬物使用者を監禁したり、孤独のうちにエイズや依存症で死亡させたりすることでは、新規感染はなくせません。病気を広げ、苦しみを大きくするだけです。必要なのは支援です。清潔な注射針と治療です。裁くかわりに、助けるのです。嫌うかわりに、愛する必要があります。

 アフリカのMSMの新規感染を抑えたいと思いませんか。ゲイ男性に石を投げたり、反同性愛法を成立させたりすることでは、それはできません。お願いだから、いまは12世紀ではなく、21世紀です。すべての人に思いやりを示してください。マラウイジョイス・バンダ大統領のように。あなたが思いやりを示せば、だれも闇に隠れずにすむようになります。治療を求めることを恐れる人もいなくなるでしょう。

 南アフリカエイズの流行を止めたいと思いませんか。それなら、HIV陽性者に対し自らの状態を知ることに誇りを持とうと告げ、思いやりを示しましょう。南アフリカ政府はまさしくそれを始めており、うまくいっています。HIV陽性の人を抱きしめ、個人の行動の変化を祝福しましょう。検査を受けようとする人を祝福しましょう。それは、誰もが検査を受け、必要なら治療を始められるようにするための思いやりです。

 アメリカのエイズの流行を終わらせたいと思いませんか。それなら、治療を受けるお金がない人、長い待機リスト上の人たちに対する思いやりを示してください。ワシントンDCでは、HIV陽性者のほとんどが貧しい黒人で忘れられた人たちです。世界で最も豊かな大国の首都ですら、こうした状態なのです。

 アメリカ人は途上国のHIV陽性者に大きな愛を示してきました。自国の新規感染を止めたいのなら同じようにすべきです。

 必要なのはあと少しの資金、あと少しの理解です。対話と行動を変える言葉の力です。私の友人のエリザベス・グレイザーやエリザベス・テイラー、ラリー・クレイマー、ライアン・ホワイトらが10年以上前から教えてくれた思いやりです。私が世間知らずだとか、おかしくなっているとか思われるかもしれません。ええ、私はいま、7千人の国際保健の専門家に、愛でエイズの流行を終わらせることができるという話をしているのです。

 それ以上に必要なものがあることは私も分っています。予防プログラムに資金が必要です。治療プログラムを広げる必要があります。研究を続ける必要があります。ワクチンを開発しなければなりません。会議参加者はすべて、ユニバーサルな治療と予防、ワクチンの夢を実現したいと思っています。その日がくるのを毎日、夢見ています。その夢を現実に変えようとしている人すべてに神の祝福があるでしょう。

 ただし、その夢が実現したとしても、ワクチンが使えるようになったとしても、それで十分ではないでしょう。ワクチンは東ヨーロッパで偏見を止めることはできません。ウガンダホモフォビアを止めることはできません。南アフリカでレイプを止めることはできません。アジアでワクチンを入手できない貧しい人々を助けることはできません。アメリカでHIVに感染している人を犯罪者として扱う法律を変えることはできません。

 医学は病気を治すことはできても、医学だけで感染症の流行を終わらせることはできません。はい、いまは正確で安価なHIVの在宅検査もあります。しかし、感染が分っても誰も助けてくれないと思っている人に検査を受けるよう説得することはできません。あなたの人生はあてにしていませんよと言われるような社会で、どうして検査を受けようという気になるのですか。

 

 はい、予防にも役立つ素晴らしい治療法がいまはあります。しかし、偏見とホモフォビアを恐れてHIV感染を明らかにできない状態で、どうやってHIV陽性者が治療を受けられるようになるのですか。

はい、私も皆さんと同じようにワクチンの発見を希望し、祈りもしています。しかし、ワクチンを必要とする人を社会から切り捨てようとしているような政府が、必要な人にワクチンを届けることはできません。

だからこそ思いやりが大切です。愛が治療になるのです。

世界中で何百万もの人が、自分がどういう人間かということで自らを恥じています。HIV陽性であるために、セクシャリティのために、貧困のために自らを恥じています。自分の生き方や抱えている病気や愛する相手のことで、何か間違ったことをしたのではないかと思い、恥辱を感じているのです。人間以下であり、価値がないと思っているのです。

 恥辱と偏見が支援や治療を求めるのを妨げ、自らを守ることを妨げています。私もかつてそうした恥辱の意識を持っていました。そのためにほとんど死にかけたくらいです。世界中で多くの人がそうした感情のために死に追い込まれようとしています。こうした状態を止めなければならない。恥辱を愛に、偏見を思いやりに変えなければならない。取り残される人があってはならない。これが疫病の流行を止める方法です。

 1995年に私は新曲「ビリーヴ」を発表し、その一節で私は愛を信じている、それがすべて、と歌っています。愛に国境はない。愛はシンプルだ。憎悪がそう思わない人を作る。それは病気にかかっているのだ。

 愛こそが世界で最も強い力を持っていると私は心から信じています。自分の経験からそれを知っているのです。依存症からの回復過程における暗黒の日々に、見知らぬ人たちから大きな思いやりを受けてきました。名前を聞いたこともない人たちからも、です。回復治療を受けていたクリニックの看護師さん、私がロックスターであることなど知らなかった他の患者さんが私を助けてくれました。

周囲の人は誰もが親切で、思いやりがあり、受け入れてくれました。そのような愛が私を変えたのです。私の命を救ってくれました。

 あなたを信じ、助けてくれる人たちからの愛という贈り物、それは最高の贈り物です。お金がかかるわけではありません。しかし、世界で最も貴重なものです。

 その贈り物を受け取る資格は誰にでもあります。みんながその贈り物を受けているわけではありません。でも、私とあなたが、私たちができることはあります。しなければならないこともあります。約束します。そうすれば、この31年に及ぶ悪夢から目覚め、新しい日が訪れるでしょう。ありがとう。