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復刻シリーズ3 浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100

 先ほどの復刻シリーズ2は2012年の年間報告数の速報値段階での話でした。こちらはその3カ月後に確定値が発表された段階での感想文。この年は速報値と確定値の誤差がわずか3ということで、件数としてはほぼ同じでした。委員長コメントも《今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象》です。ただし、状況認識は変わっていません。私の感想も同じことの繰り返しというか・・・。

 《日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある》

 

 

◎浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100  (2013.5.23)

 エイズ動向委員会が22日に発表した2012年の新規HIV感染者報告と新規エイズ患者報告の年間確定値はAPI-Netにも掲載された。詳細はAPI-Netの『平成24年発生動向年報』でご覧いただくとして、ここでは少し、私の感想を書いておこう。まずは、2002年からの年間確定値の推移。動向年報概要にはグラフで傾向が分かりやすく示されているが、ローテクが売りの当ブログは数字で示しておく。数字は左から、対象年、合計報告数(感染者報告数、患者報告数) 合計報告数に占める患者報告数の割合になる。

 

 02年   922  ( 614,  308 )     33.4%

 03年   976    (640,  336 )  34.4%

 04年   1165 ( 780,   385 ) 33.0%

 05年  1199 ( 832,  367 ) 30.6%

 06年  1358 ( 952,  406 ) 29.9%

 07年  1500 ( 1082,  418 ) 27.9%

 08年     1557    ( 1126,   431 )   27.7%

    09年  1452 ( 1021,   431 )      29.7%

 10年  1544  ( 1075,  469 )      30.4%

 11年  1529 ( 1056,  473 )    30.9%

 12年   1449  ( 1002,   447 )      30.8%

 

 委員長コメントにもあるように新規感染者報告、患者報告ともに07年、08年あたりから横ばい傾向にある。年間の患者感染者報告の合計は04年に1000件の大台を超え、3年後の07年には1500件レベルに達し・・・というかたちで急増傾向を示していたが、08年の1557件以降、横ばい傾向に転じた。この3年は横ばいからさらに微減の傾向といえるかもしれない。ただし、これはあくまでも報告の話。実際の感染が増加しているのか、横ばいなのか、減っているのかを示すデータではない。2月の速報値段階の委員長コメントでは、報告数の推移を踏まえ、岩本愛吉委員長が「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とかなり踏み込んだ見解を示していた。この点について当ブログでも当時、そうかもしれないし、そうでないかもしれない、ああでもない、こうでもないと2回もぐだぐだと書いている。

 

 《「感染横ばいの可能性」2012年速報値でエイズ動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90 》 

 《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》

 

 速報値段階と比べ、確定値の報告数は3件しか増えていないが、今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象を受けた。2000年ごろからの国内のHIV感染の増加は主にMSM(男性と性行為をする男性)の間での感染拡大によるものと見られていたし、実際の対策もそうした認識のもとでゲイコミュニティにフォーカスしていた。たとえば06年度から5年間の《エイズ予防のための戦略研究》の《首都圏および阪神圏の男性同性愛者を対象としたHIV抗体検査の普及強化プログラムの有効性に関する地域介入研究》などがそうした動きの一つといえる。

http://www.jfap.or.jp/strategic_study/htmls/page09_2.html

 

 その対策の成果が現在の報告ベースにおける横ばい傾向に反映している可能性は十分にある。したがって速報値ベースでの「経年傾向として、新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とする委員長見解にも可能性レベルではあるが、一定の説得力はあるだろう。ただし、報告データからそれが読み取れるようになった時期に(つまり、この1、2年ということだけど)、その要因と考えられる条件(たとえば戦略研究の成果を引き継ぎ、さらに発展させるような対策)が存在しているのかどうか。この点は少々、疑問ですある。むしろエイズの流行に対する社会的な関心の低下がそうした条件を崩しているのではないか。個人的にはそんな印象も受ける。また、MSM対策で築いた基盤を生かし、他の感染経路における感染の拡大を防ぐ動きが生まれるといった波及効果も、現状ではあまり期待できそうにない。

 

《一方で、20012年においても、新規HIV感染者報告数は1002件、新規AIDS患者報告数は447件と、年間1500件程度の新規報告があり、また、新規AIDS患者報告数が3割を占める状況が続いている》

 

 かりに実際に感染が拡大から横ばいの傾向に転じているとしても、それは「年間1500件程度の新規報告」があるという前提での話です。もちろん、日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある。

 

 今回の委員長コメントはその意味で、速報値段階よりも危惧の部分への目配りを利かせたという感じも伝わり、ひとまず妥当な判断なのではないかと思う。