無党派層のための首都決戦ガイド3  消えた女性候補

 1999年の都知事選の際の連載の3回目です。この際だから5回全部再掲しちゃおう。

 

無党派層のための首都決戦ガイド3

 消えた女性候補 「副知事なら」という均等感覚

 

 女性が働きやすい社会を目指す改正男女雇用機会均等法は、首都の顔・東京都知事を選ぶ選挙戦の真っ最中の一日に施行された。偶然の同時進行現象ではあるが、有力六候補を含む十九人の都知事選候補は、皮肉なことに、すべて男性で占められている。

 改正均等法は職場での男女間の差別的取り扱いを禁じており、求人広告も「営業マン」は「営業スタッフ」あるいは「営業マン(男女)」などに変更しなければならない。「マン」では男の仕事のイメージが強いからだ。選挙カーから候補者への支持を呼びかける女性はかつて「ウグイス嬢」と呼ばれたものだが、それも「ウグイス係」になる。さらに「ウグイス」と呼ぶことだって女性のイメージの固定化につながりかねないので微妙である。

 選挙は職場ではないし、候補者が数の上で男女均等である必要はない。

 しかし、自治省が発表した選挙人名簿登録者数によると、東京の有権者数は知事選告示前日の三月二十四日現在、男四百八十万九千二百八十四人、女四百八十八万七千八百人で、女性の方が多い。もちろん、女性が女性に投票するとはかぎらないが、どうしても女性に投票したいと望む有権者にとって今回の選挙でその希望を生かす道はない。せいぜい男性候補を選ばないという意思表示(つまり棄権)をする程度の選択肢しか残されていないのだ。

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 作家の曽野綾子さんは産経新聞の連載コラム「自分の顔相手の顔」で都知事選について「どうして女性候補者が一人も出ないという異常事態が起きているのだろう」と次のように書いている。

 《女性が立つのに、何のさまたげもない時代だ。社会はむしろそれを待ち望んでいるのだから。しかしそれでも立候補する人が都の人口の半分の六百万人の中に一人もいないというのは、日本の女性が自発的に政治を嫌っている、としか思えない》

 曽野さんが会長を務める日本財団の秘書室に問い合せたところ、曽野さん自身は複数の政党から出馬要請を受けたが、「まったくその気がないのではっきりお断りした。三十秒で電話を切った」という。それほどの人にとっても現状は「異常事態」と映るのだ。

 今回の選挙は当初、女性候補が重要なかぎを握ると考えられ、自民党では昨年夏ごろから女性候補を立てようとする動きがあった。青島幸男知事が立候補した場合、「並の男ではとても太刀打ちできない」と考えられていたからだ。

 女性擁立の動きは今年二月に青島知事が突然、不出馬を宣言する直前まで続き、その過程で曽野さんのほか、田中真紀子衆院議員労働省の松原亘子前事務次官プロ野球セ・リーグの高原須美子会長らの名前が浮上しては消えた。いずれもインパクトがあって青島氏に勝てそうな候補」ということで挙がった名前だった。

 しかし、こうした動きの一方、都財政が破たん寸前のこの時期に、わざわざ女性が知事になることはないという消極論も根強かった。だれがやってもうまくいかないのに貧乏くじを引いた揚げ句、「やっぱり女性はだめだ」などといわれかねないからだ。

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 青島氏の不出馬がはっきりすると女性候補擁立の動きもあっさりと消えた。「青島氏に勝てるか」という基準が外れた以上、候補が女性である必要はないというわけだ。

 男性候補だけとなった選挙戦はいまや、「当選したら女性を副知事に」という公約が花盛りである。

 鳩山邦夫氏は元都議の女性を副知事予定者に指名し、遊説も一緒に行っている。柿沢弘治氏は副知事予定者にファッションデザイナーの女性の名前を挙げている。舛添要一氏は副知事の定員枠を現行の四人から七、八人に拡大し女性を副知事に起用するとしている。三上満氏は副知事のうち少なくとも一人は女性になってもらう意向だ。明石康氏は副知事の定員枠の半分は女性を起用するという。石原慎太郎氏は四人のうち少なくとも一人は女性にと考えている。

 これだけ女性が望まれているのに、どうして知事でなく副知事なのか。曽野さんが指摘するように日本の女性は政治を嫌っているのだろうか。

 二日に告示された道府県議選と政令市議選では女性候補の数は過去最高となった。都知事ではなく、副知事や議員としてなら活躍してほしい、あるいは活躍したい。この微妙なバランス感覚の存在を考えると、改正均等法の施行と二十世紀最後の統一地方選が重なったのも実は偶然ではなかったというべきなのかもしれない。