新宿二丁目とakta エイズと社会ウエブ版191

 新宿二丁目にあるコミュニティセンターaktaは、日本のHIV/エイズ対策の拠点ともいうべき役割をこの10年間、担ってきました。厚労省エイズ動向委員会報告から判断して、わが国のHIV感染は男性とセックスをする男性(MSM)の間での性感染が圧倒的多数を占めています。とりわけ、2000年代の初頭には男性同性間のHIV感染が急速に拡大する傾向が見られました。そうした傾向に対応すべく、HIV陽性者およびHIV感染の高いリスクにさらされている人たちへの予防と支援のメッセージを発信し、実際に新宿2丁目のゲイバーを一軒、一軒たずね、コンドームとパンフレットを置いてもらうデリヘルボーイズというアウトリーチ活動も地道に続けられてきました。

 

 aktaだけでなく、全国の大都市部につくられたコミュニティセンターでも、それぞれの立地に即した活動が続けられています。そのことが2006年から5年間にわたって行われた戦略研究(エイズ予防のための戦略研究)の成果と相まって、MSMコミュニティにおけるHIV新規感染の爆発的増加傾向を初期段階で抑え、新規感染報告も何とか横ばいの状態を維持できるようなかたちでの成功をもたらしてきました。

 

 ただし、その成功をもって、やった、やった、エイズは終わった!などと喜んでいられる状況ではとてもありません。いわゆる特定のコミュニティ内部での爆発的な感染の拡大はとりあえず抑えることができた。しかし、課題はたくさんあります。そうした課題の一つ一つに丹念に辛抱強く対応していかなければならないのが、エイズ対策の最も困難なところです。新聞記者の傍観者的感想で恐縮ですが、課題と思われるものをいくつか箇条書き的にあげておきましょう。

 

1 SNSソーシャルネットワークサービス)の普及により、出会いの機会を求めるためにゲイバーに行く必要が必ずしもなくなるなど出会い方が変化している。

 

2 「予防としての治療」への期待感が高まり、他の予防策(たとえばコンドーム使用)への関心が低下した。

 

3 感染の増加傾向が何とか抑えられたことを成功ととらえず、感染報告が減っていないから、これまでのゲイコミュニティ内部での予防対策の努力は「効果がなかった」「失敗だった」として切り捨てようとする医学者が一部に存在する。

 

4 財政難の中で、費用対効果の高いエイズ施策を実現してきたコミュニティセンターへの資金的な支援を「もういいだろう」といった感覚で削減しようとする動きがともすれば行政サイドに見受けられがちで、コミュニティセンターを拠点とする活動が不安定化する懸念がある。

 

5 MSM層の新たな出会い方の変化に対応した啓発、支援の活動のあり方をコミュニティセンター自身も模索し、現実に即して自ら進化を遂げていかなければならない。

 

6 感染報告の動向に基づき、MSMに焦点をあてたHIV/エイズ対策がいま、なぜ必要かということを社会一般が広く理解していけるようなかたちでの啓発のメッセージを工夫し、現実に即して費用対効果の高い対策に対する支援的な雰囲気を社会の中に醸成していく必要がある。

 

 「新宿二丁目」に詳しい方のFacebookの書き込みに、いまの新宿二丁目を「ゲイの街」ととらえるのは正確ではなく、むしろ「LGBTの当事者及びアライのコミュニティ並びに、性的マイノリティーに興味があるストレートが遊ぶ街」ととらえた方が実像に近いという指摘がありました。この場合のストレートは「異性愛者としての性自認がある人」でしょうか。私はそのストレートの男性の一人であり、新宿二丁目には時々、aktaを訪れる程度なので、「そうなのか」と半ば納得しつつ、この指摘は今後のHIV/エイズ対策の方向性を切り開くうえでも大いに参考になるのではないかと感じました。とくに5番、6番あたりの課題には大きく関係してくると思います。

 

 もちろん外野席の新聞記者などに言われるまでもなく、akta自身がおそらくはそうした変化を現場の感覚として感じ取っているでしょうし、その現場感覚に基づいて新たなコミュニティセンターのかたちを見出していく努力を始めているのではないかと思います。

 

 aktaにはコミュニティセンターaktaと特定非営利活動法人aktaの二つの顔があり、従来はあいまいだったその両者のあり方が、今年からかなり明確に分けて考えられるような体制がつくられています。このあたりの動きは楽しみですね。aktaの公式サイトはこちらです。

http://www.akta.jp/

 

 また、エイズ予防のための戦略研究」の報告書は公益財団法人エイズ予防財団の公式サイトでご覧いただけます。

 http://www.jfap.or.jp/strategic_study/index.html