研究で信頼の基盤を築く TOP-HAT News第107号

 TOP-HAT News107号(20177月)です。評価すべきものを評価し、なお、一層の成果を上げる体制を構築するにはどうしたらいいのか。巻頭は日本のエイズ対策が実はきわめて困難な分岐点にあるということを改めて認識せざるを得ない報告となりました。HATプロジェクトのブログに掲載してありますが、当ブログにも再掲しておきます。

 

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         TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第107号(20177月)
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 TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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                     エイズ&ソサエティ
研究会議 TOP-HAT News編集部

 


             
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 研究で信頼の基盤を生み出す

 

2 UPDATE エイズのイメージを変えよう』

 

3 保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明

 

4  JaNP+HIV陽性者スピーカー研修

 

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1 はじめに 研究で信頼の基盤を生み出す


 東京・新宿二丁目のコミュニティセンターakta79日(土)午後、活動報告会があり、昨年度の年次報告に続く第2部の記念トークショーでは、人間環境大学看護学部市川誠一特任教授が講演を行いました。

 

 aktaは『ゲイコミュニティの中からゲイコミュニティに向けて、HIV/AIDSをはじめとする性の健康に関する予防啓発と支援活動を行うこと』(公式サイトから)をミッション(使命)として2003年に設立。コミュニティセンターとしてはすでに14年の活動実績があります。

 

 2012年には特定非営利活動法人aktaも発足しました。アジア最大のゲイタウンといわれる新宿二丁目の中心部に活動拠点という場があることを生かし、NPO法人とコミュニティセンターの両輪体制で着実に予防啓発と支援活動の充実をはかっています。


そして、市川さんはその『ミッションを掲げた取り組みの基礎をともにつくり、活動してきた』公衆衛生分野の研究者であり、厚労省の研究班の主任研究者として、コミュニティベースの研究を主導し、その成果はaktaなど全国のコミュニティセンターの活動にフィードバックされています。今回のトークショーは東京都の委託事業でもあり、コミュニティと研究者、そして行政の連携という観点からも注目のイベントでした。


 市川さんはまた、学会など研究発表の場でも常に予定時間をオーバーして語ることで有名です。それだけ豊富な研究の蓄積があり、語りたいこと、語るべきことが多い。好意的に解釈すればそうなります。そして、立ち見がでるほどだったこの日の会場でも、聴衆のゲイアクティビストや医学研究者、行政担当者たちは、きわめて好意的かつ寛容だったので、じっくりとお話をきく良い機会になりました。

 
 講演には注目すべき論点がいくつかありあしたが、中でも今後の対策の観点から留意しなければならないのは、10代後半から20代後半にかけてのMSM(男性とセックスをする男性)層のHIV感染が増加傾向にあることです。


 何年か前から市川さんが研究班の成果報告でたびたび指摘されていたことですが、その傾向はますます顕著になっています。


 少し説明が必要ですね。エイズ動向委員会が毎年発表する新規のHIV感染者・エイズ患者報告数は2007年から年間1500人前後で推移しています。つまり、報告ベースでみればこの10年、流行は横ばいの状態が続いています。


 ただし、それは20歳前後の若年人口がその10歳上、20歳上の年齢層と比較すると2割から3割は減少している中での見かけの数字の横ばいでもあります。実際には国内のHIV感染の流行は横ばいではなく、MSMの若年層を中心に増加に転じていると見た方がよさそうです。


 わが国のHIV感染予防対策がMSM層にフォーカスされるようになったのは2000年代に入ってからでした。この10年の報告の横ばい傾向はaktaのような拠点を中心にした研究と実践の連動型予防活動がゲイコミュニティの中で様々な工夫とともに続けられてきたからでしょう。つまり、今から15年ほど前(aktaができたころ)にスタートした啓発と支援活動の成果と考えることができます。


 それ以前、つまり1990年代には、研究者からもゲイコミュニティからもMSM層に焦点をあてた研究はむしろ厭われていた時期がありました。その中にあって、こつこつと土台を築くような研究を開始し、続けてきたのが市川さんを中心にした比較的少数(圧倒的少数といった方がいいかもしれません)の研究者、およびゲイコミュニティ内部のこれまた比較的少数の人たちでした。研究者と当事者の間のこうした信頼関係の構築こそが、わが国のHIV/エイズ対策にとっては何よりも大きな財産だったし、いまも財産であり続けているというべきでしょう。


 ただし、現状はそうした活動の蓄積効果もそろそろ貯金が尽きてきたというか、少なくともこのまま横ばいが期待できる状態ではなくなりつつあります。


 
若年MSM層には予防や支援、治療に関する情報が十分に届いていない。HIV感染は再び拡大の危機を迎えている可能性が高い。これがおそらく現実です。


 若い世代の研究者、アクティビストの新たな連携による研究、およびその成果を踏まえた対策が進めていけるよう、市川さんには、話を短くまとめる技術を自らに課しつつ、基盤づくりの部分でまだまだ長くがんばっていただく必要がありそうです。

 


2
UPDATE エイズのイメージを変えよう』


 厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する世界エイズデー国内キャンペーンの今年のテーマが『UPDATE エイズのイメージを変えよう』に決まりました。
 http://www.ca-aids.jp/theme/


『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこう。そんなメッセージです。また、予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です』(コミュニティアクション公式サイトから)


 「UPDATE!」は英文表記となっていますが、ポスターやチラシで縦書きにする必要があるときにはカタカナ表記で「アップデート!」も使用できるということです。

 


3
 保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明


 世界保健機関WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)など12国連機関が630日、保健医療の場における差別解消に取り組むことを約束する共同声明を連名で発表しました。2030年を目標達成年とする持続可能な開発目標(SDGs)を誰も置き去りにすることなく実現するには保健医療場におけるスティグマや差別の解消が必要なことを強調し、とくに以下の6分野で重要度が高いとしています。


    SDG3
:健康と福祉
 SDG4 :質の高い教育
 SDG5 ジェンダーの平等と女性の地位向上
   SDG8
働きがいのある仕事と包摂的な経済成長
   SDG10
:不平等の解消;
 SDG16:平和と公正の実現


 API-Netエイズ予防情報ネット)で共同声明の日本語仮訳pdf版をみることができます。
 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html

 


4 JaNP+
HIV陽性者スピーカー研修
 特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)が1028日(土)、29日(日)の2日間、東京都内でHIV陽性者スピーカー研修を開催します。参加希望者の応募締め切りは831日(木)必着。応募方法や参加条件はJaNP+の公式サイトでご覧ください。
 http://www.janpplus.jp/project/speaker


HIV陽性者スピーカーとして活動するためには、HIV/AIDSの問題に対する客観的で多様な視点を持つことや、スピーチスキルの獲得、自分をオープンに語ることへの心構えや事前のシミュレーションなど、一定の「準備性」を確保する必要があるとJaNP+では考えており、そのためのプログラムとして「HIV陽性者スピーカー研修」を実施しています。
 多様なスピーカーが多くの人に自身の経験や思いを話すことで、HIV/AIDSを身近な問題としてとらえてもらい、また偏見や差別を解消し、「HIV陽性であっても自分らしく生きていける社会」の実現に貢献できます》