大いなる不安の中で TOP-HAT News第105号(2017年5月)

 エイズソサエティ研究会議(JASA)が東京都の委託を受けて編集しているTOP-HAT Newsの第104号(2017年4月)が発行されました。HATプロジェクトのブログでもご覧いただけますが、ここでも再掲しておきます。 

 

    ◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 大いなる不安の中で 『力強い科学、果敢なアクティビズム』

2  『HIVエイズ流行終息への道~コミュニティのたゆまぬ努力』

3 11月24~26日にメインイベント TOKYO AIDS WEEKS 2017

4  HIV検査普及週間(6月1~7日)

     ◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 大いなる不安の中で 『力強い科学、果敢なアクティビズム』

 今年に入ってかなり早い時期に発表された国際エイズ学会(IAS)の年次書簡2017には『STRONG SCIENCE, BOLD ACTIVISM』というタイトルがつけられています。日本語に訳すと『力強い科学、果敢なアクティビズム』でしょうか。

 表紙の写真はマスクをかけた女性で、そのマスクには「SILENCE IS DEATH(沈黙は死)」と小さく書かれています。かつて「果敢なアクティビズム」の担い手としてIASの医学者から恐れられることも多かったACT UPというエイズ対策団体の有名なスローガンですね。

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 それが年次書簡の表紙になる。長くエイズ対策にかかわってきた人には感慨深いものがあるはずです。

 HIV/エイズとの闘いは、医学者とアクティビストが緊張を保ちながらも立場をこえて協力し、人類史上経験したことのない感染症の流行に立ち向かってきた歴史でもあったからです。

 ただし、今年の書簡はそうした歴史に対するIASの誇りを示すと同時に、不透明な時代、そして先行きの分からない世界に対する危機感を強く感じさせるものでもありました。いがみ合っていられる場合じゃないぞ。表紙を見ただけでも、そんなメッセージが伝わってきます。

 10ページを超えるその長文書簡の前文をIASのオーウェン・ライアン事務局長は次のように書き出しています。

 『2017年の年頭、私たちのコミュニティは心配と不安でいっぱいでした。政治的、社会的な変化は期待を裏切り続け、前途に何が待ち受けているのか、まったく予想ができなくなってしまうのではないか。人権について、難民や移民の窮状について、ジェンダーの平等について、そして人としてかわした約束の効力について、心配なことばかりです』 

 その心配と不安の最たるものは、世界の感染症対策を主導してきたアメリカという大国の指導者が今年1月に交代したことでしょう。

 『地球上のいくつかの地域がナショナリズムと外国人嫌悪へとシフトしつつあるという懸念の中で、私たちの世界的な闘いの将来はどうなるのでしょうか。同時代における最大のパンデミックと闘い、獲得してきた成果がするりと手の内から滑り落ちてしまうのでしょうか』

 ライアン事務局長は『いいえ、そんなことはありません。少なくとも、いまはまだ、そうなっていません』とも書いています。

 微妙ですね。力強くはあるけれど、「いまはまだ」というあたりに、ぬぐいきれない懸念がにじみ出ています。

 2016年は6月のエイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合や7月の第21回国際エイズ会議(ダーバン会議)で治療の進歩に伴うHIV/エイズ対策の大きな成果が確認された年でしたが、事務局長は『自己満足に対する警告の年』としても受け止めています。

 『UNAIDSが発表した報告書は、国際的な予防対策の成果があがっていないことを警告しています。資金動向に関する別の報告書は、国際ドナーがエイズから離れつつあるという恐るべき事態を指摘しています』

 そうした課題と不安を抱える中で、混迷の2017年に突入し、すでに5カ月が経過しました。HIV/エイズとの闘いをこれからどのように進めていくのか。書簡は世界のエイズ対策の現状を分かりやすくまとめた2017年時点の解説書として読むこともできます。API-Net(エイズ予防情報ネット)にはエイズソサエティ研究会議のメンバーが翻訳を担当した日本語仮訳のPDF版が写真や図表も含めて掲載されています。ぜひご覧ください。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20170428

 

2  『HIVエイズ流行終息への道~コミュニティのたゆまぬ努力~』

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の人権・ジェンダー・予防・コミュニティ担当上級顧問、リチャード・ブルジンスキ氏へのインタビュー『HIVエイズ流行終息への道~コミュニティのたゆまぬ努力~』がグローバルファンド日本委員会の公式サイトに掲載されています。

 http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2017-05-16_column1

 ブルジンスキ氏は1980年代にエイズ活動家としてカナダで活動を始め、89年には国際エイズ・サービス組織評議会(ICASO)の初代事務局長に就任、国際的なHIV/エイズ対策を牽引してきました。

 UNAIDSで働くようになったのは2009年からで、ピーター・ピオット前事務局長、ミシェル・シディベ現事務局長から「エイズ活動家としての経験を活かし、UNAIDSにコミュニティの風を吹き込んで欲しい」と声をかけられたのがきっかけでした。

 IAS年次書簡にもある『力強い科学』と『果敢なアクティビズム』をつなぐキーパーソンですね。インタビューは昨年12月にブルジンスキ氏が日本を訪れた際に行われました。

 

 3 11月24~26日にメインイベント TOKYO AIDS WEEKS 2017

 世界エイズデー(12月1日)の前後に東京で展開されるTOKYO AIDS WEEKS(東京エイズウィークス)の 2017年メインイベント日程が決まりました。実行委員会が発表したプレスリリースによると、開催日は第31回日本エイズ学会学術集会・総会と同じ11月24日(金)~26日(日)、開催場所はエイズ学会会場の中野サンプラザに近い中野区産業振興センター(東京都中野区中野2-13-14)、なかのZEROホール((同2-9-7))です。

 詳細はTOKYO AIDS WEEKS 2017公式サイトを御覧ください。

 http://aidsweeks.tokyo/

 

 4  HIV検査普及週間(6月1~7日)

 毎年6月1日~7日はHIV検査普及週間です。厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱し、2006年に始まった全国キャンペーン。東京都はこの1週間を含む6月1カ月間を東京都HIV検査・相談月間としています。

 HIV検査普及週間の詳細はAPI-Netの特設ページを御覧ください。

 http://api-net.jfap.or.jp/

 エイズ予防財団のサイトから啓発パンフレット(pdf版)がダウンロードできます。

 http://www.jfap.or.jp/enlightenment/pdf/HIV_AIDS2017.pdf