【湘南の風 古都の波】ずっと昔からあった


 周囲の山のグラデュエーションもだんだん緑が濃くなってきました。SANKEI EXPRESSの連載【湘南の風 古都の波】、5月は新緑をお楽しみ下さい。渡辺照明記者の写真はこちらから。
 http://www.sankeibiz.jp/express/news/150518/exg1505181700003-n1.htm


【湘南の風 古都の波】ずっと昔からあった

 今年は冬が長かったというか、春が寒かったと考えた方が実体に近いのか、4月になっても、体が縮こまり気味だった。その反動もあるのだろうが、鎌倉の新緑が例年になく目に鮮やかだ。日差しもまぶしい。

 ゴールデンウイークがまた、連日の好天続き。こんな年は珍しいとテレビでも言う。ただでさえ人出の多いGWに今年は外国人観光客の増加という新たなトレンドも加わり、鎌倉の観光名所は至るところで人の列ができた。

 こんな時は…。

 鎌倉市街地からプチ脱出を試み、緑豊かな周囲の里山を訪れよう。

 七里ケ浜、腰越、鎌倉山などの閑静な住宅街に囲まれた鎌倉広町緑地。鎌倉駅からJR横須賀線大船駅に出て、湘南モノレールに乗り換え、西鎌倉駅で降りる。徒歩約10分。周囲の山に咲く野生のフジを楽しみながら歩いているうちに御所谷入口に出る。

 御所谷、竹ケ谷、小竹ケ谷、室ケ谷など大小の谷戸(やと、丘陵地の谷間)が連なる48ヘクタールの広大な敷地。その里山の豊かな自然を残すために今年4月から鎌倉市の都市林(動植物の生息地、生育地である樹林地帯の保護を目的とする都市公園)となった。

 地図を見ると、入口は何カ所かあるのだが、広場や管理事務所も整備されているのでここが正門でしょうね。その入口を左に折れて300メートルほど歩くと大エノキがある。大空を目指すその枝振りの見事さは写真でお楽しみいただこう。地元の人に聞いても樹齢などはよく分からないという。

 ずっと昔からあった。それで十分なのだろう。


 ≪里山の自然を残す≫

 都市林の自然を守るためには、過剰に手を入れることは避けたい。一方で訪れる人が自然に接する機会も大切にしたい。

 鎌倉広町緑地の湿地に渡された散策用の木道は、そのぎりぎりの選択の結果なのかもしれない。

 『生き物あふれる♪ 住宅地に囲まれた大自然』

 そんなサブタイトルが付いた鎌倉市の広町緑地パンフレットには次のように書かれている。

 《昭和30年代から40年代にかけての急激な都市化によって、市は市域の8分の1にも及ぶ500ヘクタールの樹林地を失いました。「広町緑地」についても同様に宅地開発の計画が持ち上がり、開発と保全をめぐりさまざまな議論がなされました》

 その結果、神奈川県と鎌倉市鎌倉市土地開発公社が開発予定地を買い取り、都市林として保全することになった。里山を大切にしたいと願う地元の人たちの熱意と活動が行政を動かす力になったようだ。

 湿地を抜け、汗を拭き拭き山道を上がると、尾根道から相模湾が見えた。木のベンチに腰掛けて海の眺望を楽しむ。広大な敷地内にはエノキ以外にも大木が点在している。サクラの大木はもう花の季節を過ぎていたが、キリの大木は連休中がちょうど紫の花の見頃。たまたま訪れただけのおじさんでも「よくぞ、残してくださいました!」と里山の保存に取り組んでこられた皆さんに感謝したくなった。

 そうか、市街地の三方をぐるりと山が囲んでいる鎌倉でも、わずか半世紀で市域の8分の1もの樹林地が失われているのか…。鎌倉駅前に戻ってから改めて新緑の低い山並みを眺める。どうしてこの町はたくさんの人をひきつけるのか。町を歩いているだけで心がほっとするのはなぜか。

 何もしないで残ったわけではありませんよ…ということで、もう一度、感謝!

 広町緑地同様、谷戸の地形を生かし、里山の風景を残した鎌倉中央公園もまた新緑に包まれていた。位置的には鎌倉の市域のほぼ真ん中。面積23.7ヘクタール。広町緑地のほぼ半分ですね。風致公園(自然の風景などのおもむきを楽しめる公園)というカテゴリーの都市公園だ。市民参加で昔ながらの農作業を伝える谷戸田では、田植えや稲刈りなども行われる。

 連休を中心にした4月27日から5月6日までの10日間、その中央公園の修景池上空に約150匹のこいのぼりが翻った。以前にまとまって寄贈されたものをこどもの日に掲揚したところ、その後も寄贈を申し出る人があり、いまも少しずつ数が増えているという。