4368 【鎌倉海びより】90 身投げは無用…

 

 こちらは本日掲載。

 

【鎌倉海びより】90 身投げは無用…
http://www.sankeibiz.jp/express/news/141111/exg1411111125001-n1.htm

 

 秋の日差しは汗ばむほど強かった。文化の日の11月3日、建長寺円覚寺の「宝物風入れ」が行われていたこともあって、北鎌倉はたくさんの人でにぎわっていた。

 秘蔵の文化財を書院に並べ、風を通す恒例行事。お寺を訪れる人には、ふだん見ることのできない書画、仏具などを拝観する貴重な機会でもある。

 その円覚寺とは道路をひとつ隔てて向かい合う東慶寺の境内を訪れた。江戸時代には、不幸な女性たちを救う「駆け込み寺」「縁切り寺」として知られた名刹。いまは鎌倉有数の花の寺でもある。

 境内には大正末期に「自殺防止」を呼びかけた石碑がある。産経新聞神奈川版に掲載された川上朝栄記者の記事でそのことを知り、お寺の方に場所を尋ねた。「二つ並んだ長い石段の脇ですよ」と、印のついた地図で丁寧に教えてくれる。

 谷戸の奥に細長く延びる境内は、紅葉間近の木々に囲まれ、西田幾多郎小林秀雄ら著名人の墓も多い。石碑はその墓地の入り口に近いところにあった=写真。

 

 大正13(1924)年に建てられ、原敬内閣で逓信大臣を務めた野田卯太郎の「身投げ無用とおことはり申す観世音」の文字が刻まれている。

 関東大震災の翌年で、社会が不安定だったこともあり、鎌倉周辺の海では自殺者が相次いでいた。もとは海岸にあったが、護岸工事などで道路脇に押しやられ、約30年前、東慶寺に引き取られたという。

 そういえば夏目漱石の『こころ』で、先生が自殺したのも鎌倉の海だったのでは…などと柄にもなく文学に思いをはせたものの、これは大間違い。高校の時以来、半世紀ぶりに読み直したら、先生と「私」の出会いが鎌倉の海水浴場で、自殺はずっと後のことでした。面目ない。