4342 エボラ対応で9月4,5日に世界保健機関(WHO)が新たな専門家協議

 

西アフリカのエボラ流行に対し、世界保健機関WHO)が実験段階の治療薬やワクチンの使用を進めるための協議を945日に行うことになりました。リベリアでは医師2人と看護師1人が米国の実験薬ZMappの治療を受け、看護師と医師1人の容体は改善、もう1人の医師は重体ではあるものの何らかの改善は見られているということです。それがZMappの効果かどうかは分からないので「逸話レベルのエビデンス」としていますが、治療効果への期待は当面、持てるという結果のようです。

 

 臨床試験を経ていない未承認のエボラ治療用実験薬の臨床応用については、811日にWHOが招集した専門家による倫理的検討の結果、《あくまで今回の流行発生という状況のもとで、一定の条件に合えば、効果や副作用がまだ明確でない未承認の方法を治療や予防目的で提供することは倫理にかなうということで協議参加者は合意に達した》との結論を出しています。

 

 未承認薬の臨床応用については、困っている人の弱みにつけ込んで人体実験を行うようなことになりかねないことから基本的には固く禁じられています。あくまで臨床試験の手順に乗っ取った安全性と効果の確認を進め、そのうえで各国の薬事当局が承認したものが初めて治療のために使われる。これが原則です。

 

 しかし、生命にかかわる病気に直面し、なおかつその病気が治るかもしれない治療法が未承認とはいえ、そこにあるのに、その治療を受ける機会すら得られず死んでいく。そのような事態を座視することが果たして倫理にかなうことになるのかというもう一つの倫理課題も状況によっては大きくクローズアップされることがあります。

 

 今回は致死率が50%を超える極めて重大な感染症のアウトブレークであり、なおかつリベリアエボラウイルスに感染した米国人の2人の医療従事者がZMappの投与を受けた後、帰国し、目覚ましい回復を示したことが報じられています。2人の回復がZMappの効果なのかどうかは分からないとされてはいるものの、米国人なら受けられる治療をアフリカの患者は受けられないのかという声は当然、起きるでしょうし、実際に起きました。

 

したがって、WHOは実験薬の臨床応用にゴーサインを出したわけですが、具体的には供給体制も整っていない中で、いつから、誰に、あるいはどの国に、優先的に供給するのかといった課題は残されたままで、11日の協議では、今後の検討にゆだねるということになっていました。そのときの協議であげられた課題は、以下のようになっています。

 

・流行発生時に適切なケアの提供に努めつつデータを収集するための倫理的な方法

・未承認の実験的治療やワクチン提供の際の優先順位を決めるための倫理基準

・新たな手段の候補が増え、そのどれもが短期的には要求を十分に満たすことができない場合に、コミュニティや各国間で公正に分配できるようにするための倫理基準

 

 これらの課題すべてに45日の新たな協議で結論が出るのかどうかは分かりません。また、致死率が50%を超える厳しい感染症だとはいえ、対症療法レベルでの懸命の治療を行うことで、病原体と闘う力(免疫)の回復を待ち、何とか生き延びることができた患者さんも半数近くはいる。そして、特効薬を待つだけでなく、いま可能なことに最善を尽くし、なんとか状況に対応しようとしている人もたくさんいる。この事実は重要です。

 

一方で、リベリア人医療従事者3人にもZMappが使われ、期待の持てる経過も示されていますが、製薬会社には当面の在庫はもうないということです。その経過報告も含めたWHOの月21日付状況評価報告の日本語仮訳を以下に紹介します。

 

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 逸話的レベルで、実験薬にエビデンス

  WHO状況評価 2014821

http://www.who.int/mediacentre/news/ebola/21-august-2014/en/

 

 医師2人と看護師1人がエボラの実験薬ZMappを受けていることをリベリアの医師らがWHOに連絡した。

 

 看護師と医師の1人が改善を示している。もう1人の医師は重体だが、何らかの改善は見られる。

 

 製薬会社によると、実験薬の供給は限定されており、在庫はない。

 

ZMappはエボラに関し、研究中の数種類の実験的治療薬、ワクチンの一つである。現状ではこれらの候補薬は極めて供給が限られている。

 

 WHO945日に可能性のあるエボラ治療とワクチンに関する協議を行う。協議では最も期待できる実験薬、ワクチンに関する専門的知見を集め、西アフリカにおけるエボラのアウトブレーク封じ込めに役立てられるかどうかを検討する。

 

 協議には100人以上が参加、その専門分野は薬剤研究やエボラの臨床対応から倫理、法学、規制問題まで幅が広い。西アフリカからは20人以上の参加が予定されている。

 

 安全性と効果に加え、臨床試験促進のための革新的モデルなども検討される。最も期待のできる薬の生産力強化の可能性についても検討される。影響を受けているアフリカ諸国の現状と課題が報告され、それをもとに議論を進めるとともに提言を行うことが期待されている。

 

 

 

Anecdotal evidence about experimental therapies

Situation assessment - 21 August 2014

 

Clinicians working in Liberia have informed WHO that 2 doctors and 1 nurse have now received the experimental Ebola therapy, ZMapp.

 

The nurse and one of the doctors show a marked improvement. The condition of the second doctor is serious but has improved somewhat.

 

According to the manufacturer, the very limited supplies of this experimental medicine are now exhausted.

 

ZMapp is one of several experimental treatments and vaccines for Ebola that are currently undergoing investigation. At present, supplies of all are extremely limited.

 

On 4–5 September, WHO will host a consultation on potential Ebola therapies and vaccines in Geneva. The consultation has been convened to gather expertise about the most promising experimental therapies and vaccines and their role in containing the Ebola outbreak in west Africa.

 

The expertise among the more than 100 participants is wide, ranging from pharmaceutical research and the clinical demands of Ebola care, to expertise on ethical, legal, and regulatory issues. More than 20 experts from west Africa are expected to attend.

 

Issues of safety and efficacy will be discussed together with innovative models for expediting clinical trials. Possible ways to ramp up production of the most promising products will also be explored.

 

Presentations about the real conditions and challenges in affected African countries are intended to anchor all discussions and shape the consensus advice that is expected to emerge.