10代の若者に焦点 All In TOP-HAT News第78号(2015年2月)から

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)やユニセフが中心になって10代のHIV感染予防に焦点を当てたキャンペーンAll Inがスタートしました。日本では10代のHIV感染報告はこれまでのところ非常に少ないのですが、それは若者のHIV感染リスクが今後も低いままであり続けるという意味ではありません。世界はなぜ、いま、10代に注目するのかということを知っておくことは、日本国内の対策を考える際も大いに参考にできるのではないかと思います。

 その参考の意味で、HATプロジェクトのブログに掲載しているTOP-HAT News第78号(2015年2月)を以下、再掲します。

http://asajp.at.webry.info/201503/article_1.html

 

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   TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第78号(2015年2月)

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 TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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      エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

    ◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 1 はじめに 10代の若者に焦点 All In

 2 『広げよう 届けよう』

 3 第28回日本エイズ学会HIV陽性者参加支援スカラシップ報告書

 4 アジア太平洋地域におけるエイズ対策への投資

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1 はじめに 10代の若者に焦点 All In

  世界の大きな流れとして、エイズ関連の死者数はほぼすべての年齢層で大きく減少していく傾向にあるのに、10代(10~19歳)だけは例外で、減っていない。国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国連児童基金(UNICEF)が関係国際機関や若者グループと協力して開始したHIV予防の若者向けキャンペーン『All In』はこう指摘しています。UNAIDSの推計によると、2013年にエイズで死亡した10代の若者は世界全体で12万人でした。平均すると毎日300人以上が亡くなっていることになります。これは若者の死亡原因としては交通事故に次いで2番目に多く、アフリカでは死因のトップを占めているということです。

  英和辞典でall inを引いてみました。口語で「疲れ切った」・・・おっと。あまりにも長く続いているので疲れ切ってしまった・・・というわけではもちろんありません。もっと素直に解釈しましょう。すべての人(all)が入る(in)。つまり若者も、政治の指導者も、あらゆる人が参加して取り組まないと解決できない問題です。とりわけ、若者自身の参加が重要なので「行動のためのプラットフォーム」として新たなキャンペーンがスタートしたということです。2月17日にケニアのナイロビで行われた発足式には、UNAIDSとUNICEFのほか、国連人口基金UNFPA)、世界保健機関(WHO)、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)、そしてPACTやY+といった国際的な若者のHIV陽性者グループ、エイズ対策グループの代表が参加し、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領がプラットフォームの創設を宣言しました。かなり大がかりなキャンペーンですね。

 All In発足式のプレスレリース、およびアンソニー・レイクUNICEF事務局長、ミシェル・シディベUNAIDS事務局長連名のOP-ED(論評)記事がUNAIDSの公式サイトに紹介されています。日本語仮訳を作成し、HATプロジェクトのブログに掲載してあるので、参考までにご覧いただければ幸いです。

エイズ流行終結に向けて若者に注目 All In 世界の指導者が結集》(プレスリリース)

http://asajp.at.webry.info/201502/article_3.html

エイズ流行の終結に向けて10代の少年少女に焦点を当てよう All In》(OP-ED)

http://asajp.at.webry.info/201502/article_4.html

 プレスリリースによると、All Inが焦点を当てるのは以下の4点です。

・若者自らが参加、行動、成長し、変革の主体になること

・計画策定のためのデータ収集体制を改善すること

・若者が必要なHIVサービスを利用できる革新的手段を開発すること

・若者のHIV対策を政策課題としてきちんと位置づけ、具体的な活動予算をつけること

 

 UNAIDSの推計では、2013年の世界の新規HIV感染者210万人のうち25万人は15-19歳の若者で、全体の約12%に相当します。男女比は1対2で少女の方が多く、OP-EDは《少女は性的な暴行を含む暴力や強制的な結婚、人身売買などの被害を受けやすく、社会的に弱い立場に置かれているため、HIV感染のリスクも高くなっている》と指摘しています。また、日本で個別施策層として位置づけられているMSM(男性とセックスをする男性)、薬物使用者、セックスワーカーの若者に対する支援についても、重要性を強調しています。

 《10代でHIVに感染する若者にはまた、ゲイまたはバイセクシャルの少年、薬物を使用していたり、性を売っていたりする少年少女も多い。その多くが検査を 受けていないし、治療も受けていない。情報を得ようとしたり、予防プログラムに参加したり、検査を受けたりしたときの周囲の反応が怖いからだ》

  わが国ではどうでしょうか。エイズ動向委員会の報告でみると、たとえば2012年は新規HIV感染者17人・エイズ患者1人、2013年は新規HIV感染者10人・エイズ患者1人となっており、報告自体は極めて少数のまま推移しています。ただし、それをもって10代の少年少女のHIV感染のリスクは低いと即断することはできません。《情報を得ようとしたり、予防プログラムに参加したり、検査を受けたりしたときの周囲の反応が怖い》という心理は日本の若者が置かれている社会的な文脈の中でも無視できないし、予防プログラムや検査、治療の機会の提供が遅れてしまう要因として次のようなOP-EDの指摘も重視しておく必要があります。

 《小児科の対象としては年齢が高く、成人向けの保健サービスの対象としては若すぎるので、10代の多くが最も気を配らなければならない時期に、その対象から外れてしまう》

  プレスリリースには『2030年までに若者のエイズ流行を終結させ、流行全体としてもエイズを公衆衛生の脅威ではなくす』という大目標の実現に向け、2020年までに《(10代の)HIV新規感染を少なくとも75%減らし、エイズ関連の死亡を65%減らす》という数値目標が示されています。そのためにはどうしたらいいのか。All Inのウェブサイト(英語版)もあわせてご覧下さい。ヒントが得られるかもしれません。

 http://allintoendadolescentaids.org/

 

2 『広げよう 届けよう』

 こちらも国連合同エイズ計画(UNAIDS)のキャンペーンの話題ですが、3月1日の第2回差別ゼロデーに向けてUNAIDSが作成した冊子『OPEN UP, REACH OUT』の日本語版を公益財団法人エイズ予防財団が作成しました。予算的な制約もあり、ネットによるpdf版のみの公開ですが、エイズ予防情報ネット(API-Net)にアップされているので、自由にダウンロードして利用できます。日本語版タイトルは『広げよう 届けよう』です。

 http://api-net.jfap.or.jp/

 

3 第28回日本エイズ学会HIV陽性者参加支援スカラシップ報告書

 昨年12月に大阪で開かれた第28回日本エイズ学会学術集会・総会にHIV陽性者参加支援スカラシップで参加した人たちの感想などをまとめた報告書が発行されました。スカラシップによる参加者は今回、36名でした。pdf版はこちらから。

 http://www.habatakifukushi.jp/square/hiv/hivcat5/hiv_10.html?3_s

 

4 アジア太平洋地域におけるエイズ対策への投資

 アジア太平洋地域のエイズ対策資金に関する報告書『結果を出すための投資―アジア太平洋諸国はエイズ終結に向け、どうすればいいのか』が1月30日、タイのバンコクで開かれたHIV/エイズに関するアジア太平洋諸国政府間会議の関連会合で発表されました。UNAIDSと世界銀行によって招集されたエイズ対策の諸分野における専門家、実践家ら11人の委員会がまとめたものです。グローバルファンドの國井修戦略投資効果局長も委員に加わっています。

  報告書によると、アジア太平洋地域には経済成長により中所得国の状態から脱しようとしている国も多い。こうした国には、海外からの援助資金が縮小する一方、国内におけるエイズ対策への政策的な優先順位が必ずしも高くないので必要な資金が確保できないというジレンマがある。報告書はこの資金ギャップを克服するため、国内資金の拡大をはかる資金確保手段の移行計画作成、HIV感染の動向を踏まえた資金の重点配分、市民社会組織の活動への資金の確保など9項目の提言を行っています。HATプロジェクトのブログにプレスリリースの日本語仮訳が掲載されています。

 http://asajp.at.webry.info/201502/article_2.html