アジアよどうする エイズと社会ウェブ版171

 世界のHIV/エイズとの闘いの中で、アジア太平洋地域はこの10年、かなり大きな成果をあげてきた地域ということができます。10年前の2005年7月に神戸で第7回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP)が開かれた時、あるいはその前年にタイのバンコクで第15回国際エイズ会議が開かれた時には、アジア太平洋地域はいま、重要な分かれ道に差しかかっていると指摘されていました。

 サハラ以南のアフリカ諸国のようにHIV感染が広く社会全体に広がってしまっている状態ではないものの、そうならない保障はない。世界人口の6割を占めるアジアで流行が本格化したら世界はどうなってしまうんだ。そんな懸念の声はかなり強くありました。

 しかし、治療の進歩と普及、そして予防対策、HIV陽性者およびHIV感染のリスクにさらされやすい人たちの人権を守る社会的な努力といったものが複合的に組み合わされて、何とか感染の急拡大をしのいできました。域内の多くの国で経済的な成長により、社会的安定と保健基盤、社会基盤の整備が曲がりなりにも進んだ。このことも成果をもたらす大きな背景要因になったというべきでしょう。

 いやあ、お互いよくがんばりましたね、めでたし、めでたし・・・と言いたいところだけど、実はここでぬか喜びしているわけにはいきません。いわゆる低中所得国の状態から離陸し、経済的に成長を遂げているアジア諸国に対しては、エイズ対策のための国際的な援助資金も減っていきます。もう、あんたのところは自国資金でできるでしょ・・・ということですね。まあ、それは致し方ないことではあるのだけど、問題はその自己資金の方ですね。こちらもそれなりの成功が裏目に出て、エイズ対策は国内政策としての優先順位がそれほど高くなくなってしまっているという悲しい事情があります。

 日本の場合はそもそも海外の援助資金などというものは要求されこそすれ、こちらから要求できるような立場ではなかった。その中で何とか国内資金でしのいできました。この点は、他のアジア太平洋諸国とはちょっと事情が異なります。ただし、現場レベルの聞くも涙、語るも涙の努力によって何とか成果をあげてきたというのに、その努力が逆にエイズ対策への社会的な関心の低下と国内資金の減少というどうにも割り切れない報酬で報いられている状況を考えれば、アジアの他の国々の現場の窮状もよく分かります。釈然としない。でも、ここで手を抜いてしまえば、いままでの成果も台無しになってしまう。この歯がみをしたいような気持ちは共通しています。していると思う、きっと。

 おっと、前置きが長くなりました。タイのバンコクでは今年1月28日から3日間、アジア太平洋地域の各国政府、市民社会組織、国際機関などの関係者約250人が集まってアジア太平洋地域HIV/エイズ政府間会議が開かれ、エイズ対策の進展状況を評価するとともに将来の課題を検討しています。その会議に関するプレスリリース、および会議最終日に発表された資金確保に関する報告書『結果を出すための投資―アジア太平洋諸国はエイズ終結に向け、どうすればいいのか』のプレスリリースが国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに紹介されています。2本ともHATプロジェクトのブログに日本語仮訳を掲載しましたので、よかったらご覧下さい。

 

・アジア太平洋地域のエイズの流行への対応を定義

 http://asajp.at.webry.info/201502/article_1.html

(解説) アジア太平洋地域のHIV/エイズ対策の課題を検討する政府間会議が1月28日から30日までタイのバンコクで開かれました。初日の UNAIDSプレスリリースの日本語仮訳です。アジア太平洋地域はHIV/エイズとの闘いで成果を収めてきたけれど、ここで気を緩めてはいけない。国際的 な援助資金は減少の傾向にあり、各国が国内のエイズ対策への投資を増やしていかなければならない。おおむねそんな内容でしょうか。すでに途上国とは言えな い国も多いのですが、それなりに成果が上がってくると課題としてのエイズ対策の優先順位は相対的に低下してなかなか国内資金の獲得も難しい。成果が上がっ たら上がったで、また試練が待ち受けています。

 

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・アジア太平洋地域における今後のエイズ対策への資金

 http://asajp.at.webry.info/201502/article_2.html

(解説) アジア太平洋諸国政府間会議のサイドイベントで発表された資金に関する報告書のプレスリリースです。なお、報告書(英文 pdf版)はこちら。

http://www.aidsdatahub.org/sites/default/files/publication/Investing_for_Results_2015.pdf
 委員会の11人のメンバーにはグローバルファンド戦略投資効果局長の國井修博士も加わっていますね。報告書は80ページもあるのでどなたか日本語に訳していただける方がいらっしゃるようでしたらよろしくお願いします。9項目提言は以下の通り(英文のままですいません)。
1 Introduce funding transition plans, supported by bridge funding options
2 Develop country ‘investment cases’ for HIV
3 Focus resources where most infections are occurring
4 Protect funding for civil society
5 Create an enabling legal environment that supports effective programmes
6 Integrate biomedical interventions into universal health care schemes
7 Develop new financing streams
8 Reduce the costs of HIV drugs and other commodities
9 Ensure reliable future access to affordable HIV drugs