4220 夕闇に余熱の秋の祝い舞 【湘南の風 古都の波】

 

 すっかり寒くなってしまいましたね。暑い暑いと言っていたら、いきなり次々に台風が押し寄せ、ふと気が付けばもう、鎌倉でも薄手のダウンジャケット(何とかという名前がついていたと思うけれど、最近はこういうのがめっきり覚えられない)姿で寺社をめぐるおじさん、おばさん層が目立つようになりました。今月の【湘南の風 古都の波】は鎌倉薪能とイナムラサーフィンクラシックのツートップ。それにしても、時間のたつのが早いですね。朝早く寝ぼけ眼をこすりながら稲村ヶ崎に繰り出したのがずいぶん昔のことのように思えます。

 

【湘南の風 古都の波】 寄せ来る大瀑布との競演
http://www.sankeibiz.jp/express/news/131019/exg1310191823000-n1.htm

 

 《夕闇に余熱の秋の祝い舞》

 10月ももう半ばになろうというのに、いったい、どうしたことなのか。あまりの気候の変調ぶりに戸惑う人も少なくなかったはずだ。

 東京都心の大手町では10月11日、最高気温が30.2度まで上がった。1875年の統計開始以来、最も遅い真夏日だったという。

 鎌倉市二階堂の鎌倉宮境内ではその11日と12日、秋の風物詩ともいえる鎌倉薪能(たきぎのう)が開かれた。

 昼の暑さと日差しの強さは、東京でも鎌倉でも、あまり大きくは変わらない。

 だが、うっそうとした古木に囲まれた境内には、日が沈むと、にわかに冷気が降りてくる。

 例年なら境内に特設された客席は、観能の時間の経過とともに、下半身からしんしんと冷え込んでいく。ベテランの観客は手回しよく厚手の上衣を用意し、膝掛け用の毛布も持参してやってくるほどだ。

 ただし、今年は季節外れの暑さのせいで、そうした用意も無用となり、寒さを気にせず舞台を楽しむ条件が整った。こういうこともあるんですね。

 鎌倉宮は1869(明治2)年、明治天皇勅命で創建された。祭神の大塔宮護良(もりなが)親王後醍醐天皇の皇子で、足利尊氏と対立して土牢に幽閉され、この地で非業の死を遂げたという。

 鎌倉市観光協会が主催する鎌倉薪能は1959(昭和34)年に始まり、今年で55回目。《節目を迎える今回は、おめでたい雰囲気の演目をご用意いたしました》(観光協会公式サイト)ということで「翁」や「高砂」、人間国宝野村万作師の狂言「蝸牛(かたつむり)」などが演じられた。


《寄せ来る大瀑布との「競演」》

 今年は関東地方を襲う台風が多く感じられる。晴れた日には鎌倉の海岸からくっきりと姿が見えるほど近い伊豆大島も、台風26号の大きな被害を受けた。いつまでも暑かった秋や台風ラッシュも、太平洋上にどっかりと居座った高気圧の影響だろうか。

伝説とまで言われたサーフィン大会、イナムラクラシックが鎌倉の稲村ケ崎で開かれたのは、台風20号が相模湾のはるか東南海上を通り抜けた9月26日のことだ。新聞やテレビのニュースでも繰り返し報じられ、すでにご存じの方が多いとは思うが、前回開かれたのは1989年、年号が昭和から平成にかわったばかりの年だった。実に24年ぶりの開催である。

 わが『湘南の風 古都の波』取材陣も写真、記事、デザイン担当と総勢3人が早朝7時から現場取材を敢行した。私情を差し挟んで恐縮ですが、ここはなんとしても取り上げないわけにはいきません。

 23年もの間、開かれずにいたのは、地元サーフィン関係者で構成する実行委員会が「大会にふさわしいサイズの波が来ない限り開催はしない」という方針を貫いてきたからだ。

 「いままではウェーティング(待機)がかかっている期間にいい波が来なかった。今年はその波が来た」

 大波に挑む若いサーファーたちの姿と強い日差しに目を細めながら、実行委員長の長沼一仁さんはこう語った。

大会に参加できるのはわが国トップクラスの招待選手に限られている。毎年8月下旬から9月下旬にかけてウェーティング期間を設け、2日前の委員会で波の状態を予想しながら開催するかどうかを決める。開催が決定すると、連絡を受けた招待サーファーたちが、当日早朝、稲村ケ崎に続々と集まってくる…という方式なのだが、23年間その機会はなかった。

 今年は8月20日~9月30日がその待機期間であり、実行委員会は当初、台風20号の動きを見ながら25日開催の可能性を探った。

 しかし、25日では、大会にふさわしいサイズの波は望めないとの判断から決定を1日保留し、最終的に26日開催が決まったのは前日の午後だった。

 それでも、たまたま海外にいた選手を除く29選手が大会にはせ参じた。イナムラクラシックに出たというだけでも、生涯の記憶に残る栄誉なのだ。海のうねりと風との絶妙なバランスが生む大波は、たとえて言えば大瀑布が次々と寄せ来るような印象だ。その伝説に挑むサーファーたちの姿は写真でじっくりとご覧いただこう。