国境なき医師団(MSF)インターナショナルのジョアンヌ・リュー会長が日本記者クラブで記者会見

 国境なき医師団(MSF)インターナショナルのジョアンヌ・リュー会長が20日午後、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行い、西アフリカのエボラ流行の現状や4年間にわたって内戦が続くシリア、さらにはウクライナ東部、アフガニスタンなどの状況を報告しました。会見の様子はYouTubeの日本記者クラブチャンネルでご覧いただけます。
 https://www.youtube.com/watch?v=FWSvtlimt_k&list=UU_iMvY293APrYBx0CJReIVw

 リュー会長はカナダ出身の小児科医で1996年からMSFの活動に加わり、2013年10月に会長に就任しています。会見の全体は動画でご覧いただくとして、ここでは私の関心領域であるエボラの流行に焦点を当てて報告します。

 その前段の予備知識としてまず、世界保健機関(WHO)の集計を見てみましょう。3月9日(月)~15日(日)の1週間のエボラ症例報告はリベリア0、シエラレオネ55、ギニア95件となっており、3国合計で150件。いずれも昨年9、10月当時と比べると大きく減少してはいるのですが、その減り具合には国によって濃淡があります。

 リベリアはこれで患者の新規報告が3週間連続で0となっています。最後の患者が回復し、検査でもうウイルスに感染していないことが確認されたのが3月3日であり、リベリア国内には15日時点で12日間、患者がいない状態が続いていることになります。この状態が42日間、続くと流行は終息したと見なされるので、今後、新たな患者報告がなければ、リベリアに関しては4月の半ばに終息宣言にこぎつけることも期待できそうです。

 一方、シエラレオネ、ギニアはそうはいかず、もう少し時間がかかりそうです。とくにギニアの患者報告は、昨秋の流行のピーク時よりは少ないものの、このところ再増加のカーブになっています。流行再燃のリスクは依然、残っています。終結を目指し、より一層の努力が必要でしょう。

 西アフリカで最初のエボラ症例が報告されたのは昨年の3月24日でした。つまり、もうすぐ1年になります。国境なき医師団は早い段階から医療支援を行い、警告もしていたのですが、流行初期の国際社会の対応は鈍かったとリュー会長は指摘しています。警告には誰も耳を貸さなかったということです。「エボラの流行発生は緊急事態に対応する現在の保健、援助システムがいかに非効率で、もたもたしたものであるかを明らかにした」とリュー会長は語っています。また、今回の教訓として、サーベイランス(発生動向監視)システム強化の必要性を強調するとともに、「システムが良かったとしても、対応しようとする政治の意思がなければ、同じ歴史を繰り返すでしょう」と指摘しています。

 流行の現状については「確かに患者が減っては来ているが、西アフリカの流行はもう忘れてもいいといえるような状態ではない。最後の患者から他の人への感染がないことを確認できるようになるには患者と接触した人の追跡調査を強化しなければならない。まだまだ容易なことではありません」と述べ、引き続き支援を継続することの重要性も強調しています。

 国境なき医師団は今回、エボラ治療薬開発のための国際的な臨床試験にも加わっています。緊急事態下における臨床試験のあり方については、薬の効果を確認するためにプラセボ(偽薬)投与の対照群を設定することの是非をめぐり、倫理面から大きな議論が巻き起こりました。偽薬で死んでいく人を見捨てるような実験が許されるのかという懐疑論と、いや、そうすることで治療薬が早く開発されれば、それだけ多くの人の生命が救えるという擁護論の対立をどう考えるのか。この質問に対してはリュー会長は「国境なき医師団としては致死率50%もある疾病に対し、プラセボ投与群(対照群)を設けることは倫理的に反するとの立場をとっています。ただし、対照群を設けずに臨床試験を行うには、より多くの患者が必要になるという問題点はあります」と答えていました。