不平等がエイズ・パンデミックの終結を阻んでいる UNAIDS エイズと社会ウェブ版633

 世界エイズデーを前に国連合同エイズ計画(UNAIDS)が新しい報告書『Dangerous Inequalities不平等の危険』を発表しました。UNAIDSは7月に年次報告書(Global AIDS Update 2022)を発表しています。そのタイトルが『In Danger(危機的状況)』。つまり今回は二番煎じ・・・じゃなかったその続編でしょう。

 

 とりあえず11月28日に発表されたプレスリリースを日本語に訳しました。ちょっと大急ぎでしたが、エイズデーに間に合ってよかった。
《このままでは世界が合意しているエイズターゲットの達成はできません。しかし、UNAIDSの新しい報告書『不平等の危険』は、いま不平等の解消に向けて緊急行動をとれば、エイズ対策を流行終結の軌道に乗せられることを示しています》
 まず警告、ただし、今からでも遅くはない・・・年次報告と同じようなことを繰り返しているという印象はぬぐえません。ま、半年で言っていることが、ころころと変わるようでは、それもまた困るのかもしれませんね。
 状況は楽観を許さない。それは確かだと思います。以下プレスリリース仮訳です。UNAIDS公式サイトのエイズデー特設ページには、報告書発表の動画も載っています。

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不平等がエイズパンデミック終結を阻んでいる UNAIDSプレスリリース
https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2022/november/20221129_dangerous-inequalities

ダルエスサラームジュネーブ 2022年11月29日 世界エイズデーを前に、不平等がエイズ終結を妨げていることが国連の分析で明らかになりました。このままでは世界が合意しているエイズターゲットの達成はできません。しかし、UNAIDSの新しい報告書『不平等の危険』は、いま不平等の解消に向けて緊急行動をとれば、エイズ対策を流行終結の軌道に乗せられることを示しています。
UNAIDSは今年7月に発表した報告書で、エイズ対策の危機を明らかにしました。世界の多くの地域で新規HIV感染が増加し、エイズ関連の死亡が続いているのです。新しい報告書はその原因が不平等にあることを示しています。報告書はまた、世界の指導者がその不平等と闘うにはどうすべきかを示し、エビデンスが明らかにされていることに勇気を持って取り組むよう呼びかけています。
『不平等の危険』は、ジェンダーにおける不平等、キーポピュレーションが直面している不平等、子供と大人の間の不平等がエイズ対策に及ぼす影響を明らかにし、財政の悪化が不平等への対処をより困難にしていることを示しています。
またジェンダーの不平等と有害なジェンダー規範が、エイズパンデミック終結をいかに遅らせているかを報告書は示しています。
「家父長制を温存したままでエイズを克服することはできません」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「女性が直面している不平等の交差に対処する必要があります。HIV感染率が高い地域では、親密なパートナーから暴力を受けた女性の感染の可能性が50%近く高くなっています。33カ国の調査では、2015年から2021年にかけて、自らの意思で性の健康について決定できる15-24歳の既婚女性は41%でした。エイズ終結と持続可能な開発目標の達成、健康・権利・繁栄の共有に向けた唯一の効果的ルートマップは、フェミニストのルートマップです。女性の権利を擁護する団体や運動はすでに最前線で果敢に活動しています。指導者はその活動を支援し、学ぶ必要があります」
ジェンダーの不平等が女性のHIVリスクにもたらす影響は、サハラ以南のアフリカで特に顕著であり、2021年の新規HIV感染の63%が女性でした。
サハラ以南のアフリカで思春期の少女と若い女性(15-24歳)がHIVに感染する可能性は、同年代の男性より3倍も高くなっています。力関係がその要因です。女子が中等教育を修了するまで学校に通えれば、HIV感染に対する脆弱性は50%減ることを示す研究もあります。さらに女性の地位向上に向けた一連の支援により、少女のリスクはさらに低下するのです。指導者は、すべての少女が学校に通えるようにすること、若すぎる結婚によって当たり前になりがちな暴力被害から女性をまもること、希望に満ちた未来を約束する経済的手段を確保することを保障しなければなりません。
権力構造を変えれば、HIVに対する少女の脆弱性を政策的に減らすことができます。
男らしさに関する有害な思い込みは、男性が医療やケアを受けることを妨げています。2021年にはHIV陽性の女性の80%が治療を受けているのに対し、男性は70%でした。パンデミックを抑えるには、世界各地でジェンダーに対する受け止め方を変革するプログラムの普及が必要です。ジェンダーの平等を推進することはすべての人の利益になります。
成人と小児の治療アクセスが不平等なのでエイズ対策が妨げられていることも、報告書は示しています。HIV陽性の成人の4分の3以上が抗レトロウイルス治療を受けている一方で、HIV陽性の子供では半数を少し上回る程度にとどまっているのです。このことが致命的な結果をもたらしています。2021年には、HIV陽性の子供は陽性者全体の4%なのに、エイズ関連の死亡者の15%を占めていました。治療のギャップを埋めることが子供の命を救うのです。
キーポピュレーションに対する差別とスティグマ、犯罪化が多くの命を奪い、世界が合意したエイズターゲットの達成を妨げています。
新たな分析によると、西部・中部アフリカ、東部・南部アフリカの両地域で、ゲイ男性など男性とセックスをする男性の新規感染は大幅に減少しているわけではありません。エイズ対策全体がうまくいっていかなかったことは、感染性ウイルスに対するキーポピュレーションの予防対策に進展が見られなかったことで説明できます。
世界で68カ国以上が依然、同性間の性的関係を犯罪としています。報告書が強調した別の分析によると、最も抑圧的な法律のあるアフリカ諸国で自らのHIV感染を知るゲイ男性など男性とセックスを男性の割合は、対策の進展が速い他の国より3倍以上低くなっています。また、セックスワークを犯罪とみなす国のセックスワーカーは、合法または部分的に合法化されている国よりもHIVに感染している可能性が7倍も高いのです。
報告書は、不平等に対する闘いが前進可能なことを示し、エイズ対策が目覚ましい成果をあげている地域を取り上げています。たとえば、キーポピュレーションのサービス普及率が低いことは、キーポピュレーションを対象とした調査でしばしば強調されてきましたが、ケニアの3つの郡では、女性セックスワーカーHIV治療普及率が女性の一般人口(15~49歳)より高くなっています。コミュニティ主導のサービスを含め、長年にわたってHIVプログラムの充実をはかってきたことが支えになりました。
「不平等に終止符を打つには何をすべきか、私たちにはすでに分かっています」とビャニマ事務局長は述べています。「すべての少女が安全を保障され元気に学校に通えるようにすることです。ジェンダーに基づく暴力と闘うことです。 女性団体を支援することです。健全なかたちの男らしさを促し、すべての人のリスクを高める有害行動に取って代わるようにすることです。HIV陽性の子供たちに向けたサービスが確実に届くようにして子供たちのニーズを満たし、治療のギャップを解消して小児エイズを永遠の終結に導くことです。同性間の性的関係、セックス ワーカー、薬物使用者を非犯罪化し、社会的に包摂できるようにするコミュニティ主導のサービスに投資を行うことです。そうすればサービスへの障壁を打ち破り、何百万という人にケアを提供することができるようになります」
ドナーによる資金提供が国内資金の増加を促す触媒になることを報告書は示しています。2018年から2021年にかけて、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)と世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)による各国へのHIV援助資金の増加は、大多数の国で政府による国内資金の拡大と相関していました。HIV関連の不平等に対処する新たな投資が緊急に必要です。それなのに、国際的な連帯と資金の拡大が最も必要とされているいま、あまりにも多くの高所得国がグローバルヘルスへの援助を削減しているのです。2021年には、HIV プログラムに利用可能な低・中所得国の資金は、必要額より80億ドル不足していました。エイズ対策を軌道に乗せるには、ドナーからの支援の増額が不可欠です。
予算はすべての人びと、とりわけHIV関連の不平等に最も大きな影響を受けている弱い立場の人たちの健康と福祉を優先する必要があります。低・中所得国に対しては、債務の大幅な免除や累進課税などを通じて、医療投資の財政的余地を広げていくべきです。エイズ終結は、終結させないでいることよりもはるかに費用がかかりません。
2021年には、年間65万人がエイズで亡くなり、150万人が新たにHIVに感染しました。
「世界の指導者は何をなすべきか。はっきりしています」とビャニマ事務局長は述べています。「一言でいえば平等化です。平等な権利を有し、サービスを平等に利用でき、最高の科学的成果と医療へのアクセスを平等に保障する。平等化の実現は、疎外された人たちだけを助けるのではありません。すべての人を助けることになるのです」

報告書発表の動画はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=9edEmkNm0-s