速報値の持つ意味は? TOP HAT News 第164号(2022年4月) エイズと社会ウェブ版612

 何回も書いているので、またかと言われそうですね。でもまあ、しつこく・・・TOP-HAT News第164号(2022年4月)の巻頭はエイズ動向委員会の年間速報値をめぐる話題です。2021年分の速報値が2022年3月15日に発表されました。新規HIV感染者・エイズ患者報告の合計は1023件です。報告ベースでは、減少傾向がより顕著になっています。

 ただし、それはあくまで報告ベースの話です。実際の感染も減っているのか、そうではないのか、ということは実は分かりません。

 確定値も報告ベースの動向把握なので、事情は同じことですが、次回の委員会開催時に公表される予定です。8月末ぐらいですね。

 厚労省エイズ動向委員会は、1990年代の前半には確か毎月開催だったと思います。でも月々の報告の増減に一喜一憂するほど、世の中はお人良しではないといいますか、ある時期から隔月開催(年6回)に変わり、21世紀に入ると四半期開催になり、2017年以降は年2回開催になりました。流行の動向を把握するにはこのぐらいの頻度でいいのかなという気もします。

 ただし、年間の報告数が次の年の秋風が吹く頃にならないとまとまらないというのも切ない。本当はそんなことはないのでしょうが、ずいぶん悠長なお役所仕事という印象も受けます。それ以前に速報値の発表が、年明けから3カ月半もたたなければ出てこないというのもなんか変。これで「速報」の名に値するのかと思ってしまうのは、当方がせっかちなせいでしょうか。

 おかげで速報値と確定値の誤差が小さくなるという副次的な効果もあるようですが、そうなると、そもそも時期遅れの速報値は必要なの?という疑問も出てきます。速報値をまずまとめて、それから確定値に取り掛かるといった段取りを改め、せめて半年以内に(つまり、年の前半のうちには)確定値を公表できるよう努力していただいた方がいいのではないか。そんな感じもしてきます。いかがでしょうか。

 この話は、年2回の動向委員会をいつ開くかということにも関連するので、それならもう動向委員会は年1回でいいか・・・みたいな議論も出てきそうですね。下手をすると、ほとんど議論もなく、そうなっちゃうかもしれません。自分で言い出しておいて恐縮ですが、世の中の「エイズはもういいだろう」感覚がますます気になってきます。いいわけはないんだけどねえ。

 

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        第164号(2022年4月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 速報値の持つ意味は?

2 小さなちからを大きくつなぐ

3 プライドセンター大阪が始動

4 『Unbox Me』キャンペーン UNAIDS

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1 はじめに 速報値の持つ意味は?

 昨年(2021年)の国内における新規HIV感染者・エイズ患者報告の速報値が3月15日、厚労省エイズ動向委員会から発表されました。API-Net(エイズ予防情報ネット)に概要が掲載されています。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

 エイズ動向委員会四半期報告の2022年[令和4年]のページで、委員長コメント(PDF版)をご覧ください。少々ややこしくなって恐縮ですが、前半は2021年第3・第4四半期の報告、そして後半部分に年間速報値の概要が紹介されています。

 

新規HIV感染者報告数 717件(過去20年間で18番目の報告数)

 新規AIDS患者報告数  306件(過去20年間で20番目の報告数)

    合計      1023件(過去20年間で18番目の報告数)

 

8月には確定値がまとまる見通しで、速報値より少し報告数が増えます。

前年の2020年は、新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値が合計1076件(2021年3月16日発表)、確定値は1095件(8月24日発表)でした。19件増えています。2019年は速報値1219件、確定値1236件で、その差は17件でした。

科学的根拠はまったくありませんが、前例踏襲で確定値は速報値より20件弱増えると仮定すると、2021年の確定値は1040件前後でしょうか。

以前に比べると、速報値と確定値の差はかなり縮小しています。例えば、報告数が最も多かった2013年の場合、速報値は1546件(2014年2月28日発表)でした。この時点では過去2番目でしたが、確定値段階で44件増えて1590件(2014年5月23日発表)となり、過去最多を記録しています。

速報値と確定値の差が縮んできたのは、年4回(3カ月に1回)開催だったエイズ動向委員会が2017年から年2回開催に変わったことも影響しているようです。速報値がまとまる年明け最初の委員会が、2月開催から3月開催に変わり、年初(年度末)の忙しい時期とはいえ、全国レベルの速報値集約にも1カ月程度の余裕ができました。誤差が小さくなれば、国内のエイズ対策の方向性を判断する際の速報値の持つ意味も変わってきます。

もちろん、報告のデータは現時点のHIV感染の動向を直接、示すものではなく、その年に検査を受けて感染していることが確認された人の数です。減少傾向は顕著になっていますが、社会的に検査を受けにくい環境が広がれば、報告数は減ります。

いまはどうなのか。実際の感染も減少しているのか、それとも何かの理由で感染はむしろ増えているけれど、報告は減っているということなのか、両方が考えられます。

2020年のコロナ流行拡大以来、検査をめぐる環境がどう変化したのか。

影響はもちろん小さくありませんが、行政の保健担当者やHIV/エイズ分野のNPOなどがそうした変化に対応し、本当に検査を必要としている人に検査が届くようにする工夫を重ねてもいます。こうした努力の積み重ねが途切れてしまわないようにする工夫も、いまはとりわけ大切です。

参考までに付け加えておくと、エイズ動向委員会の開催は2000年まで年6回でしたが、2001年から年4回に変わり、2017年以降は年2回開催になっています。それで十分なのだとしたら、速報値の報告はやめて、確定値とその分析をもう少し早めに発表できるように努力した方がいいのかもしれません。

 

 

2 小さなちからを大きくつなぐ

 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)の創設者で、3月7日に69歳で亡くなった長谷川博史さんのメモリアルサイト『小さなちからを大きくつなぐ』が開設されました。

 https://www.janpplus.jp/topic/733

 JaNP+が追悼メッセージや思い出のエピソードを募集し、3月20日までに寄せられた多数の投稿を編集、掲載しています。「小さなちからを大きくつなぐ」は長谷川さんが大切にしていた考えであり、JaNP+の原点でもあるということです。

 

 

3 プライドセンター大阪が始動

 常設のLGBTQセンターとして、プライドセンター大阪が4月1日、大阪・天満橋にオープンしました。公式サイトはこちらです。

 https://pridecenter.jp/

パンデミックで傷ついたLGBTQの心身の健康、社会的な健康の回復を支援することをミッションに掲げて設立されました。いくつかの非営利団体で協力して運営し、大阪だけでなく、今後、地方でLGBTQに関するセンターを運営する際のモデルになるよう、情報共有に努めていきたいと思います》(プレスリリースから)

 LGBTQだけでなく、その周囲の人、LGBTQに関して学びたい人など、誰でも利用できるということです。

 

 

4 『Unbox Me』キャンペーン UNAIDS

『国際トランスジェンダー認知の日』(3月31日)に先立ち、国連合同エイズ計画(UNAIDS)がプレス声明を発表して『Unbox Me』キャンペーンを開始しました。3月30日付のプレス声明によると、トランスジェンダーの子供たちの権利を擁護し《子供の時の性自認について、親や教師、さらにより広いコミュニティが認識を深めるためのキャンペーン》です。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに声明の日本語仮訳が掲載されています。

 https://asajp.at.webry.info/202204/article_2.html

 《トランスジェンダーの子供たちにとって箱の中に宝物を隠すことは、承認されそうもない自らのアイデンティティを周囲の目から隠す手段になることもあります。Unbox Meの目的はトランスジェンダーの子供たちが認知されることです。包含と受容を呼びかけるキャンペーンなのです》