HIVの検査と治療に対するCOVID-19パンデミックの影響 エイズと社会ウェブ版519

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行とその対策がHIV検査や治療お提供に与えた影響について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに、世界各国からの報告をデータが紹介されています。

 検査については10月13日付、治療については10月16日付のフィーチャーストーリー(特集記事)をご覧ください(順番が逆になるけれど、ここでは治療の方からご覧いただきましょう)。 

 

HIV治療に対するCOVID-19の影響は恐れられていたほど厳しくはない

www.unaids.org

 

・ほとんどの国でHIV検査にCOVID-19の影響

www.unaids.org

 

 どちらも英文なので、このブログでは私家版の日本語仮訳を後ろの方に載せておきます。参考にしていただければ幸いです。

 以下はリリースに書いてある範囲の情報ですが、簡単に説明しておきましょう。

 UNAIDSと世界保健機関(WHO)、国連児童基金UNICEF)は、COVID-19のパンデミックによりHIVサービスが受けている影響を把握するため、オンラインのプラットフォーム( https://hivservicestracking.unaids.org )で各国からのデータを収集しています。今回の2つのプレスリリースは7月までに集約された各国の月別データを1月時点との増減の比較で示しています。1月と同数なら比率は1、減っていれば1未満、増えていれば1以上となるので、グラフを見る際の参考にしてください。

 大きな傾向を丸めて言うと、検査には重大な影響が出ている(つまり検査を受ける人が大きく減っている)けれど、治療についてはこれまでのところ、懸念されていたほどの影響は免れているということです(おっと、見出しに書いてあるか)。

 これは日本の状況と重ね合わせても、うなずける結果ですね。もちろん7月までの中間集計なので、今後どう推移していくかは分かりません、

 治療が何とか確保できているのは医療従事者や支援グループの人たちの献身的な努力があるからでしょう。抗レトロウイルス薬の複数月処方などが浸透しつつある時期だったことも支えになったと思います。

 ただし、コロナの流行が長期化すると事情は変わってくるかもしれません。動向把握を継続する必要がありそうです。

 検査は、予想されていたことですが、厳しいですね。日本国内でも、保健所などの人的資源がコロナ対策に集中し、HIV検査までなかなか手が回らないという事情がありました。外出禁止などの措置が厳しく取られている国では、なおさら影響は大きいでしょう。コロナに対する不安が先に立って、HIVについてはとりあえず後で心配しようといった心理的な影響もありそうです。

 検査を受ける機会が減少することで、90-90-90ターゲットが目指す検査→治療開始→治療継続→体内のウイルス量抑制というシナリオも苦しくなってきます。検査が受けているダメージを早期に回復し、なおかつ治療継続への影響が懸念されたほどではないという状態を維持するという困難なタスクがこれから待ち受けています。

 個人的にはHIV/エイズの教訓をCOVID-19対策に生かして、お役に立てるところでは大いにお役に立ち、そのことが結局、HIV/エイズ対策の基盤強化にもつながるという相乗効果シナリオが声高に叫ばれるのではなく(叫んだってだれも聞かないだろうし)、通奏低音のように流れている状態を期待したい。いまはそういう時期だと思います。 

 以下2つのリリースの日本語仮訳です。

 

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HIV治療に対するCOVID-19の影響は恐れられていたほど厳しくはない

 2020年10月16日UNAIDSフィーチャーストーリー

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2020/october/20201016_covid-impact-on-hiv-treatment-less-severe-than-feared

 

 新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックHIV検査に与える影響は極めて大きいものの、HIV治療への影響は当初懸念されていたほどではないことが、最新の収集データで示されている。

各国および各地域、世界で、COVID-19がHIVサービスの提供に及ぼした混乱を調べるため、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と世界保健機(WHO)、国連児童基金UNICEF)は8月までに85カ国でデータ収集を行い、そのうち22カ国から傾向把握が可能な月数のデータが得られた。

 

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 HIV治療を受けている人の報告数の月別動向。2020年1月との比率で表示

(2019年末時点で治療を受けているHIV陽性者の数が20万人から120万人の国)

 

 HIV治療サービスに与えた影響では、2020年1月と比較した月別の比率を計算。たとえば、4月に治療を受けている人が1月と同数なら比率は1、減っていれば1未満となる。

それによると4月以降、治療を受けている人の数が1月より減っていると報告している国はジンバブエ(6月)、ペルーとガイアナ(7月)、ドミニカ共和国(4月)、シエラレオネ(5-7月)の5か国にとどまっていた。残る18か国は減っておらず、ケニアウクライナトーゴタジキスタンなどでは着実に増加している。

 

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 HIV治療を受けている人の報告数の月別動向。2020年1月との比率で表示

(2019年末時点で治療を受けているHIV陽性者の数が6万人から20万人の国)

 

 ただし、治療を受けている人の動向については、多くの国で3カ月の追跡不能期間があることが解釈の際の1つの課題となっている。この場合、4月に治療をやめた人でも、7月にならないと治療を受けていないとは見なされないからだ。

 新たに治療を開始した人の数について傾向を示すデータがある22カ国をみると、ジャマイカを除く21カ国では、1月との比較で、少なくとも1カ月は減っている月があることが示されている。新たに治療を開始した人の数が1月から7月の間に回復しているのは、これらの国のうち8カ国前後にとどまっていた。

 

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 HIV治療を受けている人の報告数の月別動向。2020年1月との比率で表示

(2019年末時点で治療を受けているHIV陽性者の数が1400人から3万6000人の国)

 

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ほとんどの国でHIV検査にCOVID-19の影響

 2020年10月13日、UNAIDSフィーチャーストーリー

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2020/october/20201013_covid19-impacting-hiv-testing-in-most-countries

 

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  HIV検査数の月別動向、2020年1月との比率で表示

 

各国から国連合同エイズ計画(UNAIDS)に月別で報告されているHIV検査と治療の中断に関するデータによると、報告のあったほぼすべての国で、HIV検査が減少していることが明らかになった。

COVID-19パンデミックにより各国、地域、および世界のHIVサービスが受けている影響を把握するため、UNAIDSと世界保健機関(WHO)、国連児童基金UNICEF)はオンラインのプラットフォーム( https://hivservicestracking.unaids.org )で各国からデータを収集してきた。

 2020年1~7月の間に、56ヵ国から少なくとも1カ月分はHIV検査データの報告があった。このうち、17カ国は経時的な傾向を計算できるだけのデータを提供している。COVID-19がHIV検査サービスに与えた影響を把握するために、2020年1月の報告分を基準にして各月の比率を計算した。たとえば、4月の検査数が1月と同じだったら比率は1。 減っていたら1未満となる。

 4月以降ほとんどの国でサービスの減少が報告され、ルワンダを除くすべての国ではHIV検査サービスの大幅な減少が継続してみられた。ミャンマーモザンビークマダガスカルルワンダアルメニアの5か国は、COVID-19以前の状態に向けて検査レベルの回復が認められるが、ガイアナやペルーなどの他の国では、検査件数は依然、低いままの状態だった。