新型コロナ対策としての臨時ベーシックインカム UNDP報告

 国連開発計画(UNDP)から『UNDP報告:臨時ベーシックインカムの導入 で世界の最貧層を保護すれば、コロナ感染者の急増を抑えられる可能性』というプレスリリースを送っていただきました。UNDP駐日代表事務所の公式サイトにも日本語訳が掲載されています。 

www.jp.undp.org

 ニューヨークで23日に発表されたUNDPの報告書『臨時ベーシックインカム開発途上国の貧困・弱者層を守るために(TemporaryBasic Income: Protecting Poor and Vulnerable People in Developing Countries)』の紹介ですね。

 『世界の最貧層を対象に臨時ベーシックインカムを直ちに導入すれば、ほぼ30億人が自宅に留まれようになり、現状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者の急増を抑えられる可能性がある』ということです。

 感染の拡大を防ぐために人と人との接触を減らす対策を取ると、たちまち収入が途絶え、暮らしていけなくなる人がいます。臨時ベーシックインカムというのは、その人たちに急場をしのぐための生活資金を支給するということでしょうね。「臨時」でなおかつ「ベーシック」というのは何か矛盾している感じがしないこともありませんが、世界はそういう屁理屈をこねている状態でもなさそうです。

 『報告書の結論によると、新規感染者が1週間に150万人を超えるペースで増加する中で、この措置は実行可能であると同時に、緊急に必要とされています。特に開発途上国では、労働者の10人に7人がインフォーマル市場で生計を立てているため、自宅に留まっていては収入が得られない状態にあるからです』

 報告書の試算によると『1カ月当たり1990億ドルあれば、132の開発途上国で貧困ライン以下か、そのわずか上で生活する27億人に一時的にベーシックインカムを保証できる』ということです。

 あれば・・・といっても円に換算すると毎月20兆円を超える金額です。あるのでしょうか。プレスリリースでは『財政的にも可能です』と述べています。

 『例えば、6か月間、臨時ベーシックインカムを配布するのに必要となるのは、2020年中に予測される新型コロナウイルス対策費のわずか12%です』

 わずか・・・でもないと思うけれど、UNDPのアヒム・シュタイナー総裁はこう語っています。

『前例のない時代には、前例のない社会的・経済的措置が必要です。その一つの選択肢として浮上してきたのが、世界の最貧層を対象とする臨時ベーシックインカムの導入です。ほんの数か月前には、不可能と見られていた措置かもしれません』

 だんだんそうかなという感じもしてきます。ただし、それですべてが解決されるわけではもちろん、ありません。

 『しかし、臨時ベーシックインカムは、コロナ禍に起因する経済的苦境の特効薬的解決策にはなりません。各国が導入できる措置としては、雇用を守ること、零細・中小企業への支援を拡大すること、デジタル・ソリューションを用いて社会的に排除された人々を特定し、手を差し伸べることが挙げられます』

 プレスリリースの受け売りばかりですいません。「臨時」だから、あくまで、とりあえずの策です。

でも、こうした視点を持つこと(あるいは、知っておくこと)は、日本がCOVID-19のパンデミックに対応するうえでも、2つの意味で重要ではないかと思います。

 もちろん、開発途上国と日本とでは、事情が大きく異なっています。いま、日本に暮らしていれば、とりあえず国内の感染拡大を抑えなくてはということに関心が集中してしまう。それはまあ、当然でしょう。高齢層のおじさんとしては相当、焦っています。

 ただし、自らのうろたえぶりを棚に上げていえば、日本の国内の対策だけでパンデミックに対応することはできません。これが一つ目の理由。

そもそもの話、だからこそパンデミックなのです。事情の異なる世界の様々な国が直面する困難な課題の解決にも、力になれることがあれば力になりたい。情けは人のためならず、であります。その気持ちがなければ、東京オリンピックパラリンピックだって、大阪万博だって、到底、開催などできません。

 そして、世界が抱える貧困と格差の課題は、程度の差こそあれ、日本がいまCOVID-19の流行で国内的に直面し、困ったなと思っている課題とも共通しているというのが二つ目の理由です。解決策には有できるものがあるかもしれません。感染の拡大を止め、なおかつ社会的に困っている人を置き去りにすることなく、社会を動かしていく。そうした対策はどうすれば実現できるのか。知恵の絞りどころです。少なくとも『前例のない時代には、前例のない社会的・経済的措置が必要です』というシュタイナーさんの指摘は、けっこう日本にも当てはまりそうな気がします。