報告の減少傾向続く エイズ動向委員会速報値 エイズと社会ウェブ版471


 厚生労働省エイズ動向委員会が開かれ(といっても時節柄、ネットによる持ち回り会議だったようです)、2019年第3、第4四半期の報告結果と2019年の年間速報値がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されています。こちらですね。
 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

 年間速報値をみていきましょう。冒頭の委員長コメントに要点がまとめられています。

【概要】
1.今回の報告期間は、令和元年の約1 年間(平成31 年1 月1 日~令和元年12 月29 日までの四半期ごとの合計)
2.新規HIV感染者報告数は、891 件(過去20 年間で、14 番目の報告数)
3.新規AIDS患者報告数は、328 件(過去20 年間で、19 番目の報告数)
4.HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数は1,219 件(過去20 年間で,14 番目の報告数)

 繰り返すと、年間の速報値は新規HIV感染者・エイズ患者報告数の合計で1219件でした。過去の確定値との比較では14番目の報告数になります。
 14年前というと2005年は1119件でした。翌2006年はぐっと増えて1358件、2007年には1500件に達しています。報告が増加を続け、こりゃあ、まずいぞという状態でした。私家版のグラフを作ったのでご覧ください。

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  今回の集計は速報値なので、数カ月後にまとめられる確定値は少し増えるかもしれません。それでも報告で見る限り、微減ながら減少傾向が続いているように思います。

 2005、6年当時、新規感染報告が増加した最大の要因は男性同性間の性感染の報告増でした。おそらくアウトブレークが起き始めていたのだと思います。

 研究者とコミュニティ、行政が呼吸を合わせて予防対策に取り組む枠組みを生かした戦略研究がほぼ時期を同じくして2006年度にスタートしました。2010年度まで5年間の大型研究でした。この研究が大都市内部のゲイコミュニティにおける感染の予防にかなり大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。

 その前史としての大阪や東京におけるコミュニティセンターの発足も含め、まさにアウトブレークの初期段階で対応することの重要さを教えるものでもあります。2005年には神戸で第7回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP7)も開かれました。2003年にSARS流行のため、いったん中止を余儀なくされ、2年後に大きな成果を収めた会議です。当時、研究や会議の準備にかかわってこられた皆さんには、いろいろとご苦労も多かったようですが、人と人が出会うことはつくづく大切だなあと思います。
 COVID-19対策のSocial Distancingの中で、当事者参加の成功体験をどう生かしていくのか、そもそも生かせるのか。私たちがHIVコミュニティというコンセプトを組み立て、その中で協力も、反目もしあってきたその経験が、もう一度、試される機会が来るとは思わなかった。この際です、大いに受けて立ちましょう。

2017年に1500件に達して以降の報告数の推移は以下の通りです。

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 なお、委員長コメントの【まとめ】は次のように指摘しています。
 
1.速報値ではあるが、令和元年の新規HIV感染者報告数及び新規AIDS患者報告数は、平成30年より減少しており、3年連続での減少となった。
2.新規HIV感染者及び新規AIDS患者報告の感染経路は、性的接触によるものが8割以上で、男性同性間性的接触によるものが多い。
3.献血における10万件当たりの陽性件数は昨年と比べて同数であった。血液製剤によるHIV感染を防ぐため、HIV感染症が疑われる場合、国民の皆様には保健所等での無料・匿名検査を利用いただきたい。
4.新規報告数全体に占めるAIDS患者報告数の割合は、依然として約3割のまま推移している。自治体におかれては、エイズ予防指針を踏まえ、利便性に配慮した検査相談体制を推進していただきたい。
5.HIV感染症は予防が可能な感染症である。HIVに感染していない者においては、適切な予防策をとること、HIVに感染した者においては、まずは自分の感染を知ることが、個人においては早期治療に、社会においては感染の拡大防止に結びつくため、重要となる。国民の皆様には、梅毒などの性感染症を含め、保健所等での無料・匿名の相談や検査の機会を積極的に利用いただきたい。