世界エイズデーに寄せる国連事務総長メッセージ エイズと社会ウェブ版439

 国連のアントニオ・グテーレス事務総長が世界エイズデー(12月1日)に寄せるメッセージを発表しました。プレスリリースは2019年11月29日付になっています。UNAIDSの事務局長のメッセージと同じ日に発表したということでしょうか。

 国連広報センター(UNIC)の公式サイトに日本語訳が掲載されているので、メッセージの全文はこちらをご覧ください。 

www.unic.or.jp

 

 最初のセンテンスは次のようになっています。

 

 Ending the AIDS epidemic by 2030, as we committed to in the Sustainable Development Goals, will require a continuous collaborative effort.

 《私たちが持続可能な開発目標(SDGs)で約束したとおり、2030年までにエイズの蔓延に終止符を打つためには、協調的な取り組みを続けることが必要になります》

 

 なるほど、collaborative effortは「協調的取り組み」と訳すのですね。ここには出てきませんが、collective effortはどう訳したらいいのか迷うこともときどきあります。「みんなで頑張りましょう」ではちょっと・・・。逆に、あなたまかせというか、どうでもいい感じになってしまいかねません。

 Ending the AIDS epidemic は「エイズの蔓延に終止符を打つ」となっています。

 「エイズ終結」「エイズ終息」などと訳すことが多いのですが、2030年に目標が果たせたとしても、流行がなくなるわけではないので、どうもしっくりこない。「エイズの蔓延に終止符を打つ」の方が実質をよく表しているのかもしれません。こちらも参考にできそうです。

 メッセージに強めのインパクトを期待して短く簡潔にまとめようとすると、実態を離れた決意表明のようになってしまいかねないこともしばしばあります。

 Ending the AIDS epidemicのメッセージに託されているのは実は「公衆衛生上の脅威としてのエイズの流行の終結」です。

 つまり、2030年になっても流行はなくなっていません。存在しています。HIV感染している人ももちろん社会の中で生活しています。

 それでも、HIV感染の流行がどんどん拡大していくような状態には至らない。新規感染は一定のレベル以下に抑えられている(だいたい現状の10分の1程度に減らせればというのが目標です)。そして、HIVに感染している人も、いない人も働いたり、学校で勉強したり、ちょっと体の調子が悪いなと思ったらお医者さんに診てもらったり・・・といったことが、安心してできる。そのあたりが目標であり、そのためには治療の進歩がもちろん大きな力になるのですが、それと同時に、場合によってはそれ以上に、HIV感染にまつわる(あるいはHIV流行のキーポピュレーションとされる人びとに対する)差別やスティグマの解消が重要になります。

 新たに登場したU=Uのメッセージは、治療の継続により、そうした日常の生活の中には性生活も含まれていますよということを伝える重要なメッセージであり、HIV陽性者に対する差別やスティグマの解消に大きく貢献することが期待されています。だからこそ逆に、メッセージを発する際には、何が言えて、何が言えないかを確認していく必要もまたあります。 

 UNAIDSがいま、コミュニティの力をアピールし、国連事務総長もまた以下のように述べているのも、ひとつにはこうした現状があるからでしょう。

 《世界のあらゆるコミュニティがこの対応を中心になって進め、人々による権利の主張を支援したり、スティグマに直面する恐れのない医療・社会サービスへのアクセスを促進したり、最も脆弱な立場に置かれ、社会から隔絶された人々にもサービスが届くようにしたり、差別的な法律の改正を強く求めたりしています》

 個人的な感想ですが、日本は新規感染を減らすという目標に関しては、もう一息というところまできています。ただし、そのあと一息に向けて、なすべきことがどっさりあるなあということも事務総長メッセージをみると、改めて感じます。コミュニティとは何かということもHIV/エイズ対策の文脈の中で考えていく必要がありそうです。

 なかなか大変ではあるけれど、不可能なタスクというわけではありません。付け加えておけば、未知の感染症の流行という将来的事態に対する準備性という意味でも、HIV/エイズの流行に対する現在進行形の対応、およびその経験の蓄積とコミュニティ重視の視点は、大きな意味を持っているはずです。

 グテーレス事務総長はメッセージを次のような言葉で締めくくっています。

 《コミュニティが参画するところには、変化が起きています。投資が成果をもたらす様子も見られます。そして平等や尊重、尊厳も現実のものとなっています。コミュニティと力を合わせれば、私たちはエイズに終止符を打てるのです》

 日本の現状を考えても、このメッセージは有効であるように思えます。国連広報センターの皆さんには、日本語訳を作成していただき感謝しています。