第4回エイズ・性感染症に関する小委員会傍聴記

 厚生科学審議会感染症部会の第4回エイズ性感染症に関する小委員会が4月11日(火)午後、厚生労働省で開催されました。エイズ予防指針と性感染症予防指針の改正に向けた議論も4回目となり、厚労省からは改正案のたたき台が示されました。

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 今回の小委員会は委員の他に参考人として、はばたき福祉事業団の大平勝美理事長、大阪薬害訴訟原告団の森戸克則理事、日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスの長谷川博史理事が出席しました。大平さんと森戸さんは第1回小委員会に続き、2回目の参考人出席。また長谷川さんも第1回の高久陽介代表理事に続きジャンププラスからの参加となりました。

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 (かなり意欲的な某参考人

 あくまで私の受けた印象ですが、今回の小委は委員のほとんどが医師であり、HIV陽性者やHIV/エイズ分野のNPOのメンバーなどは含まれていません。HIV/エイズ分野では国際的な共通原則のGIPA(HIV陽性者のより積極的な参加)の観点からしても異常な構成と言わざるを得ず、さすがにこれではまずいという反省が、岩本愛吉委員長および事務局を担当する厚労省結核感染症課にもあったのではないかと思います。なんの資格も影響力もありませんが、外野席にいる私のような者でも、さすがにこれはまずいでしょうと感じていたくらいですから・・・。

 前回は3人の参考人がそれぞれまとまったかたちで意見陳述の時間をもっていたのとは対照的に今回は、そうした特別な時間はとらず、参考人も委員と同じ立場で議論に参加する形式をとっていました。この点から考えても、的外れな感想ではないように思います。ま。あくまで推測ですけど。

たたき台については厚労省の公式サイトに近く資料としてアップされるでしょうから、それをご覧いただくとして、ここでは傍聴した範囲での私の感想をお伝えします。

 まず、大枠を押さえて起きましょう。すでにお伝えしているように現行の2つの予防指針は、以下のような章立てになっています。

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 これに対し、2月21日(火)の前回(第3回)会合では、夏季のような新たな章立てが示されました。

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 今回のたたき台もこの章立てで構成されています。性感染症予防指針の方は前と大きく変わってはいません。エイズ予防指針は現行の9章立てから7章立てに移行し、それに伴ってあちらにあった記述をこちらに移し・・・といった構成の組み直しも行われています。基本的に考え方の方向性は大きく変えていないように個人的には受け取りましたが、そうした中で重視すべき変更ポイントはふたつあるように思います。

 一つは個別施策層の対象、もう一つは治療の進歩に伴うT as Pがどのように反映されるか。具体的には検査普及の名のもとに医療機関でのOPT-Out検査に踏み込むのか、PrEPを予防手段の選択肢として組み込むのかといった点です。

 あくまで、私の現在の関心がそのあたりにあるという範囲でのポイントで、実は他の方にとってはもっと別の受け止め方があるかもしれません。そのあたりは割り引いてお読みください。

 現行指針の個別施策層は以下の5集団です。

 ・性に関する意思決定や行動選択に係る能力の形成過程にある「青少年」

 ・言語的障壁や文化的障壁のある「外国人」

 ・性的指向の側面で配慮の必要な「MSM(男性間で性行為を行う者をいう)」

 ・「性風俗産業の従事者及び利用者」

 ・静注薬物使用者を含む「薬物乱用者」

 新指針のたたき台では、このうち「青少年」と「外国人」は個別施策層の対象から外す考え方が示されています。

 青少年に対しては、対象となる範囲が広く、ひとくくりに「個別施策層」とすることが妥当かどうかという議論が以前からありました。したがって、個別施策層からは外す一方、前文で「性感染症の一つとして、HIVに関する知識の普及啓発を行うことが特に重要である」と明記することが示されています。これは妥当な判断ではないかと思います。

 「外国人」に関しては、「医療の提供」「人権の尊重」のところで配慮すべきではないかという考え方に基づくものなのですが、個人的な意見を言えばこれには異論があります。外国人のコミュニティへの医療および予防情報の提供を含めた支援と予防のアプローチは全国の各自治体およびHIV/エイズ分野のNGO/NPOが必要性を痛感し、実際に苦労して取り組んでいる課題であり、そのための施策や行動の根拠としての個別施策層の位置づけがなくなることは負の影響が大きいのではないかと考えるからです。

 この他、個別施策層に関しては「MSM」を含めた「性的指向のマイノリティ」という表現が使われていますが、そのような表記が妥当なのかどうか。HIV/エイズの流行の現状を踏まえればMSMの強調が必要ではないか、トランスジェンダーの人たちをあわせて記載すべきではないかといった意見が参考人を含め、委員の側から示され、引き続き論点となっています。

 また、現行指針の「薬物乱用者」については、たたき台では「違法な薬物使用者」と表記されており、委員からは「違法な」という善悪の判断を含めたニュアンスへの違和感から「薬物依存者」の方がいいのではないかという指摘もありました。

 一方、治療の進歩に伴う新たな予防の選択肢の重視や検査の普及の重要性は明記されているもののOPT-Out検査の導入にまでは踏み込んでいない印象です。また、PrEPに関しては、「研究開発の推進」の中で、「HIV感染のリスクの高い人に対する抗HIV薬の曝露前予防投与が有用であるとする海外報告」に言及しつつも、国内での対応は「これらの人々に対する曝露前予防投与を行うことが適当かどうかに関して研究を進める必要がある」という指摘にとどめています。個人的にはこの程度が妥当な判断ではないかと思います。

 この日の委員、参考人からの意見については委員長あずかりとし、次回はそれらの意見も反映したうえで改正案が示されることになります。