東京で再び、COVID-19の新規報告が100人を超えた日 エイズと社会ウェッブ版490

 小池さんの政治手法には、個人的にあまり賛成できないことも多いのですが、東京で新型コロナウイルス感染症COVID-19の1日当たり新規感染者報告数が100人を超えたことを伝える7月2日の記者会見は専門家の現状認識を踏まえて行われたものであり、妥当な見解を示されていると思います。私は会見に出席していないので、二次情報経由になりますが、BuzzFeed Japanによる当日の会見報告記事からは、現状をよく伝えているという印象を受けました。

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/tokyo-covid-19-200702

 小池知事は「感染が拡大しつつあると思われる」という認識も示されています。感染症対策において、指導者による対応策の方針決定が最も重要になる時期でもあります。

 会見には医療提供の立場からお二人の専門家が同席されました。会見が単なるパフォーマンスではなく、専門家による検討を踏まえた内容であることが拝察できます。

 政治指導者の記者会見に専門家がこうしたかたちで同席されることには最近、賛否を含め、いろいろな意見が聞かれますが、私は基本的に賛成です。専門家は見解を示す機会を積極的に獲得し、現状および予測しうる直近の未来に対する考え方を示してほしい。会見に出席する記者にとって、おそらくはそれが現実をより正確に把握するための理解を助けることになるでしょう。

 BuzzFeed Japanの記事はこのあたりのニュアンスも伝えています。COVID-19パンデミックのように比較的、長期にわたって社会全体を巻き込む現象に対し、息の長い取材と報道が求められる機会に遭遇すること、そして広範な関係者への取材を誠実に積み重ねていくことが、メディアとして大きな成長を果たす契機となるのではないか。そうした貴重な事例を報道の現場のはるか後方から見ているような気分でもあります。

 記事によると、小池知事は「第二波を起こさないために、堪える必要があるけれども、伸びていることが非常に嫌な感じ」と述べています。私は東京都民ではありませんが、その嫌な予感はいま、首都圏に住むかなり多くの人が持っている共通の感覚でもあるでしょう。ただし、その時の感情の赴くままに感染拡大の元凶を探すような気分になったとすれば、大きく深呼吸をしてその気分を乗り越え、感染の高いリスクに曝されている人、あるいはすでに感染している人に必要な支援が届くようにするにはどうしたらいいのか、そのプロセスをさぐることが大切です。

 そのためには「Nothing about us, Without us」(私たちに深くかかわることを私たち抜きに決めない)という大原則に帰る必要があります。データの上から、いま感染が広がりつつあると考えられている層の当事者であり、専門家であるのはどんな人たちなのか。その専門家に協力を要請するのではなく、一緒に協力していくような方策を探り、実施していくにはどうしたらいいのか。

 専門家会議といった大きなくくりではなく、その会議のもとでの研究グループでもいいから、そうした枠組みを設けてほしい。

 HIV/エイズ分野では、市川誠名古屋市立大学教授(当時・現金蘭女子大学教授)を中心にした公衆衛生学の専門家と大都市圏のゲイコミュニティのアクティビストが対等な立場で協力し、2000年代の最初の10年間に、男性とセックスをする男性(MSM)の間で起こりかけたHIV感染の急拡大(アウトブレーク)を何とか回避した事例もあります。その報告書「エイズ予防のための戦略研究」はこちらでご覧ください。 

www.jfap.or.jp

 こうした成果はいまも引き継がれ、東京や大阪、名古屋など全国6都市にあるセクシャルマイノリティのためのコミュニティセンターの活動の土台にもなっています。COVID-19対策として、いわゆる『夜の街クラスター』における感染に焦点を当て、対応策を組み立てていくときには、大いに参考になり、同時に行政機関との相互協力も可能な枠組みではないかと思います。