ピーター・ピオット博士に聞く COVID-19に関する100問100答

 「新型」コロナウイルスCOVID-19についてロンドン大学衛生熱帯医学大学院のピーター・ピオット学長が米TEDMED財団の100の質問に答えました。聞き手はTEDMED財団ディレクターのジェイ・ウォーカー氏です。

 ピオット博士はエボラウイルスの発見者の一人として知られる感染症学者であり、1995年には国連合同エイズ計画(UNAIDS)初代事務局長に就任。2008年に退任するまで世界のHIV/エイズ対策の牽引役を務めています。

 この原稿はピオット博士とTEDMED財団の承諾を得て、インタビューのPDF版テキストを日本語に翻訳しました。(インタビューは2020年3月3日に行われています) 

https://static1.squarespace.com/static/5e6b7fc44a6d8215512823b2/t/5e6baa196738445292f02e5b/1584114201695/Q%26A+with+Peter+Piot_15.pdf

TEDMED財団のインタビュー動画はこちら。www.tedmed.com

  

ピーター・ピオットとの一問一答

 TEDMED財団ディレクター、ジェイ・ウォーカーがロンドン大学衛生熱帯医学大学院のピオット学長に100の質問

 

1 TEDMED:基本的な質問から始めましょう。ウイルスとは何ですか。

 ウイルスはRNAまたはDNAの遺伝子をたんぱく質で包んだ非常に小さな粒子です。

 

2 TEDMED:どこにでもあるのですか。

 ウイルスはどこにでもあります。すべてのウイルスを集めて重さを計れば、動植物や細菌を合わせたすべての生物よりも重くなる。これは驚くべきことです。人のゲノムの10%はウイルスのDNAに由来しています。地球はまさに「ウイルスの惑星」なんです。

 

3 TEDMED:ウイルスが広がるのを防ぐのはどうしてこんなに難しいのですか。

 ウイルスの粒子は信じられないほど小さいのです。一回の咳で何百万という小さな飛沫が飛び散ります。

 

4 TEDMED:正確に言うと、どれほど小さいのでしょうか。

 小さいですよ。普通の顕微鏡では見えません。まち針の頭ほどの広さに1億個の新型コロナウイルスがのるほどです。信じられないくらい小さいのです。

 

5 TEDMED:ウイルスの粒子は何をするのですか。

 ウイルス粒子は自らの増殖のために生きた細胞の中に入り込もうとして、他の細胞、他の宿主へと感染するのです。

 

6 TEDMED:どうしてウイルスは生きた細胞に入り込もうとするのですか。

 それがウイルスの「再生産」の方法です。寄生虫のように行動します。生きた細胞に多くのウイルスを作らせるために、細胞をハイジャックするのです。細胞をハイジャックすれば、ウイルスは何十万個という自分のコピーを作らせることができるのです。その結果、ハイジャックされた細胞が死んでしまうこともしばしばあります。

 

7 TEDMED:医学者たちが「SARS-CoV2」と名付けた新型コロナウイルスに感染するとはどういうことですか。

 SARS-CoV2があなたの体の中で再生産を始めるということです。

 

8 TEDMED:SARS-CoV2とCOVID-19の違いは何ですか。

 SARS-CoV2はウイルスで、COVID-19はウイルスが広める病気のことです。

 

9 TEDMED:ウイルスは簡単に生きた細胞に入り込むことができるのですか。

 それはまず、ウイルスに合うレセプターが細胞にあるかどうかによります。例えるなら鍵が鍵穴に合っていなければ開けられないということです。人間には免疫システムがあること、または合う鍵穴が人間の細胞にはないことで、ほとんどのウイルスは防御されます。だから99%のウイルスは人にとって無害なのです。

 

10 TEDMED:ウイルスは何種類ぐらいあるのですか。そのうちどれくらいが人間に有害なのでしょうか。

 何百万というタイプのウイルスのうち、人間に害をなすことが知られているのは数百種類です。ほとんどのウイルスは無害です。

 

11 TEDMED:平均すると、ウイルスの粒子がいくつぐらいあると感染が成立するのですか。

 SARS-CoV2についてはまだ分かりません。一般的には非常に少なくても感染します。

 

12 TEDMED:どんなかたちをしているのですか。

 SARS-CoV2はスパゲティの小さな塊のような感じです。ボール状にからまり、たんぱく質の殻でおおわれています。殻の外側に突起が出ていて、太陽のコロナのように見えます。このウイルスの一族は似たような格好をしています。みなコロナのように見えるのです。

 

13 TEDMED:人間に影響を与えるコロナウイルスは何種類ありますか。

 人から人へと感染するコロナウイルスは7種類あります。4種類は軽い風邪の症状を起こします。しかし、残る3種類に感染すると死に至ることもあります。SARSとMERSの原因となるウイルス、そして新たに登場したコロナウイルスSARS-CoV2です。

 

14 TEDMED:どうして「新型」コロナウイルスと呼ぶのですか。

 新型は人にとって新しいという意味です。このウイルスは私たちがこれまで見たことのないものだったということですね。私たちの免疫システムはこの200万年、進化を続けてきました。しかし、このウイルスに関してはまだ見たことのないものだったので、人体が免疫をつくる機会はなかったのです。免疫がないことが、ウイルスの感染力が強く、致死率もそれなりにあることと相まって、SARS-CoV2の出現とともにこれほどの不安がもたらされたのです。

 

15 TEDMED:私たちが警戒すべき新型のウイルスはどのくらいの頻度で出現するのでしょうか。

 まれではありますが・・・でも、出現します。例をあげれば、HIVSARS、MERSの原因となるウイルスなどがあります。これからもまたあるでしょう。感染しやすく、有害な新しいウイルスの出現は極めて大きな問題です・・・。

 

16 TEDMED:新型コロナウイルスはどれほどたやすく広がるのですか。

 SARS-CoV2は咳や接触によって人から人へとかなりたやすく広がります。「呼吸器感染」ウイルスなのです。

 

17 TEDMED:ほかに感染する方法はあるのですか。

 便や尿を通して感染するという最近の報告もありますが、まだ確認が必要です。

 

18 TEDMED:SARSやMERSを広げたコロナウイルスと比べ、この新しいウイルスはどこが違うのでしょうか。

 SARS-CoV2には4点の大きな違いがあります:第一に感染した人の多くは何日か症状が出ません。このため気づかないうちに他の人に感染させることがあります。誰を隔離すべきなのか分からないのです。SARS-CoV2は感染力が強いのでこの点は非常に心配です。

 第二に80%のCOVID-19は軽症です。ありふれた風邪や咳程度の症状なので、自ら隔離することをしないまま、他の人に感染させてしまうのです。

 第三に症状だけではインフルエンザと混同しやすいので、インフルエンザにかかったのだと思い込み、それ以外の可能性を考えることはしません。

 第四に、そしておそらく最も重要なのは、感染の初期にはこのウイルスが上気道に集中し人から人へと容易に感染することです。のどにたくさんのウイルスがいるので、咳やくしゃみをすると何十億個ものウイルスが飛び散り、他の人に感染します。

 

19 TEDMED:このウイルスは肺炎を起こすと思っていました。のどはどう関係してくるのでしょうか。

 この病気はのどから始まることが多く(検査がしばしば咽頭ぬぐい液で行われるのもこのためです)、それから肺に向かって下りていき下気道感染になるのです。

 

20 TEDMED:「無症状」という言葉をよく聞きます。どんな意味ですか。

 症状がないという意味です。

 

21 TEDMED:新型コロナウイルスに感染しても症状がまったく出ない人もいるということですか。

 残念ながらイエスです。感染した人の多くは初めの数日間、症状が出ないままで、それから弱い咳や微熱が出てきます。SARSの場合は数日で明確な症状が出ますが、感染が起こるのは具合が悪いときだけでした。それとはまったく異なります。

 

22 TEDMED: 症状がなくても他の人への感染が起こるのですか。

 残念ながらイエスです。それが感染の拡大を抑えることを困難にしています。

 

23 TEDMED:感染を防ぐためのワクチン開発の可能性は?

 可能ではないかと考えていますが、保証はありません。失敗の可能性もあります。例えば、HIVワクチンの研究は35年も続けていますが、有効なワクチンはいまだに一つもありません。SARS-CoV2のワクチン開発については希望を持っていますが、有効性と安全性を確認する厳格な試験が必要なので、時間と人手がかかるのです。

 

24 TEDMED:新型コロナウイルスのワクチン開発が可能であり、かつ近い将来に見つかると仮定して、何百万もの人に接種を開始できるようになるのにどのくらいかかりますか。

一カ月か二カ月でワクチンの「候補」は見つかるでしょう。ただし、有効で安全であることを証明するには、厳格な試験を行う必要があります。主要な規制機関の承認を得て、人に投与できるようになるには少なくとも一年はかかります。実際には、何百万人の規模で接種を開始できるようになるには、楽観的にみても18カ月から24カ月はかかるでしょう。

 

25 TEDMED:緊急事態なのに、どうしてそんなに長くかかるのですか。

 ワクチンを発見するのにはそれほど時間はかからなくても、試験に時間がかかるのです。研究室で「候補」のワクチンが見つかったら、一連の臨床試験が必要になります。最初は動物実験、それから人を対象にした治験に入り、その規模を広げていくのです。

 

26 TEDMED:もう始まっているのですか。

 いいニュースとしては、2020年1月にSARS-COV2が発見され、分離されてから何週間もたたないうちにワクチン開発が始まっています。多くの政府や企業が資金を投じ、世界中の医学者が大急ぎで取り組んでいます。

 

27 TEDMED:各国の研究者は協力しているのですか、それとも競争しているのですか。

 両方です。どちらも悪いことではありません。ただし、全体として国際協力はうまく進んでいるようなので、期待が持てますね。

 

28 TEDMED:ワクチン開発をもっと早くすることはできますか。

 残念ですが、近道はありません。人体の免疫システムは複雑で、予測不能です。ウイルスが変異するかもしれません。子供と大人では違います。女性の反応は男性と異なるかもしれません。誰が受けても100%安全であると確認できる必要があります。そのためには、慎重に条件を設定しながら、健康で多様なボランティアに容量を変えてワクチンを試してみる必要があります。

 

29 TEDMED:新型コロナウイルスの致死率はどのくらいなのですか。

 ほとんどの研究者は感染した人の1%から2%とみています。WHOは最近、もう少し高く3%以上だろうと報告していますが、報告されていない症例や軽い症状の人は除かれているので、この推定は下がってくるでしょう。致死率は明らかに高齢者及び基礎疾患のある人で高くなっています。

 

30 TEDMED:平均の致死率に焦点をあてるべきですか。

 そういうわけにはいきません。深さが「平均」10センチの水でも溺れる人はいます。幅広い結果をもとに、特定のグループの人たちには致死率が高く、他のグループにはそれほどでもないということを認識する方が、リスクを理解する助けになります。

 

31 TEDMED:それではどんな数字やチェックポイントに注意したらいいのですか。

 感染した人の80%は軽い症状ですが、20%の人は症状が重く、ひどい場合には高熱が続き呼吸が苦しくなります。このため入院が必要になり、その中には肺炎の症状が重篤で、生死にかかわる数日間、集中治療が必要な人もいます。

 

32 TEDMED:どんなグループの人たちが最も危険な状態になりやすいのですか。

 第一に、私のような高齢者です。私は71歳なので。高齢になればなるほどリスクは高くなります。また、糖尿病や慢性閉塞性肺疾患COPD)および肺疾患、心血管疾患、免疫不全などの基礎疾患がある人もリスクが大きくなります。

 

33 TEDMED:高いリスクの人たちは、どの程度、危険なのですか。

 死亡率が10%あるいは15%に達することもあり得ます。また、健康状態によってはリスクが高くなります。こうした医学的なデータはウエブサイトで定期的にアップデートされています。

 

34 TEDMED:糖尿病など他の疾患があるとリスクはかなり高くなる。どうしてですか。

 感染性のウイルスに対する免疫の機能が弱くなっているからです。とくにこのウイルスにはその影響が大きいのです。

 

35 TEDMED:一般的に子供や若い人たちは症状があっても軽いといわれています。それは本当ですか。

 そのようですね。ただし、他の多くのCOVID-19の課題同様、確証が必要です。

 

36 TEDMED:それが事実だったとして、どうしてSARS-CoV2は子供や若い人たちではなく、高齢者への影響が大きのですか。

 正直言ってまだ分かりません。はっきりするまでには少し時間がかかるでしょう。

 

37 TEDMED:ほかに特徴的なことは。

 症状が全くなく、調子が良くても、他の人に感染させる可能性があります。こういうことは通常ではありません。HIV感染ではありましたが。

 

38 TEDMED:COVID-19を季節性インフルエンザと比較する意見をよく聞きます。正しく比較するにはどうしたらいいのでしょうか。例えば、季節性インフルエンザとCOVID-19の危険度は同じようなものなのでしょうか。

 米国では毎年3000万人近くが季節性インフルエンザにかかっています。感染した人のうち亡くなるのは1%のさらに10分の1以下です。それでも亡くなる人の数は多い。世界全体では、平均的な年でも季節性インフルエンザで亡くなる人は計30万人です。しかし、平均の致死率はコロナウイルスの方が10倍から20倍高く、インフルエンザのようにワクチンで自らを守ることもできません。

 

39 TEDMED:新型コロナウイルスもインフルエンザと同じようにたやすく感染が広がるのですか。

 インフルエンザと同じようにたやすく広がるようです。

 

40 TEDMED:原因について、比較を続けましょう。インフルエンザもウイルスによって起きるのですか。

 はい。インフルエンザの原因はインフルエンザウイルスの感染です。しかし、インフルエンザウイルスとコロナウイルスはかなり違います。インフルエンザの予防接種を受けても、新型コロナウイルスには役立ちませんが、インフルエンザのリスクは大きく減らせます。ワクチンも完治する薬もない普通の風邪は、ライノウイルスと呼ばれる別のタイプの小さなウイルスで起こります。他のコロナウイルスで起こることもあります。

 

41 TEDMED:新型コロナウイルスに感染するとどのように症状が進行するのですか。

 最初は咳が出ることが多いです。それから微熱。さらに微熱が高熱に変わり、息切れするようになります。

 

42 TEDMED:適切な治療を受けないと生死に関わるのは、どのような症状の時ですか。

多くは熱が非常に高くなり、肺に感染が広がって息切れするか、呼吸が苦しくなったときです。

 

43 TEDMED:新型コロナウイルスは、はしかやおたふく風邪水ぼうそうとはどう違うのですか。

SARS-CoV2はいまのところ、はるかに感染力は弱く、危険でもないようですが、私たちにはまだ分からないことがたくさんあります。他の疾病については、すでによく分かっていますが。

 

44 TEDMED:新型コロナウイルスの危険性が他のウイルスより小さいのだとしたら、どうしてこれほど多くの人が恐れるのでしょうか。

 私たちに死や病をもたらしうる新しいものには、ナーバスになるものです。しかし、正確な知識は恐怖を軽減してくれます。米国ならCDC.govのサイトを見てください。他の国の方は、それぞれの国の保健省のサイトやWHOのサイトをご覧ください。

 

45 TEDMED:CDCやWHO、あるいは各国保健省のサイトはどのくらいの頻度でチェックすればいいのですか。

 新型コロナウイルスについて新たに分かったことは常時アップデートしています。頻繁にチェックしてください。

 

46 TEDMED:人類がウイルスを完全に根絶したことはあるのですか。

 はい。かつて何百万もの人を死に追いやった天然痘はなくなっています。ポリオももう少しでなくせます。ゲイツ財団や米国など世界中の多くの国の貢献のおかげです。おそるべき疫病がかつて世界にはあったということを忘れてはなりません。

 

47 TEDMED:新型コロナウイルスはどのようにして世界中に広がるのですか。

 陸路、空路、海路を介してです。最近はウイルスが飛行機で移動します。乗客がSARS-CoV2を運ぶことがあるからです。

 

48 TEDMED:そうすると国際空港は、新型コロナウイルスにとっては歓迎を受けるところというわけすね。

 実際にはすでにSARS-CoV2は、米国を含むほとんどの国に存在しています。国際空港から遠く離れたところにも。

 

49 TEDMED:流行は中国から始まったので、中国から米国への入国者が、コロナウイルスを持ち込む最も大きな危険とみていいのですか。

 2019年に中国で新型コロナウイルスが出現して以来、世界の国々から2000万人が米国を訪れています。米国は4週間前に中国からのほとんどの直行便を止めていますが、それでウイルスが米国内に入るのを防げているわけではありません。中国の流行は当面、収まってきているようなので、中国のCOVID-19症例もいまは他の国から輸入されたものであることがしばしばあります。

 

50 TEDMED:別の言い方をすれば、世界のどの国でも大きな空港があれば、ここ三カ月のうちにこのウイルスは広がっていると考えておかなければならない、ということですか。

 はい。アメリカでは「馬が出た後で納屋を閉める」といいますね。でもそれは、すべての渡航を止める理由にはなりません。

 

51 TEDMED:日本のように学校を全国的に休校にするのはどうしてですか。

 イタリアやフランスなど他の国でもそうしています。ウイルスをもった子供によって感染はさらに拡がるのか、研究者にもいまは分からないことが理由でしょう。日本は拡大を遅らせるために極めて厳しい手段をとりました。たいてい子供は手を洗わないし、自分の衛生行動に無頓着なので、ウイルスを伝えやすい。インフルエンザの場合は、子供が感染拡大に大きな役割を担っています。それが多くの国が流行地域で学校を休校にする理由です。

 

52 TEDMED:感染した場合に、症状を和らげたり、ウイルスを取り除いたりする薬はありますか。

 まだ、効果が実証された薬や医師の言う「治療法」はありません。臨床試験の中では多種類の薬が試されているので、できるだけ早くよい結果がでることを期待したいですね。

 

53 TEDMED:治療薬は見つけられそうですか、どのくらいかかりそうですか。

 二、三カ月中には見つかるのではないかと思います。すでに使われている薬の「適応外」使用が、感染した人の治療の助けになりそうです。つまり、HIVのような他のウイルス感染症の治療で使われている既存薬の新しい使い方を試してみるということです。それでも効果の確認には時間がかかるし、数多く試験をしなければならないでしょう。中国が中心ですが、他の国々でも、新しい治療薬の臨床試験も進められています。期待はできそうです。

 

54 TEDMED:抗生物質はどうでしょうか。危機になるとみんな頼りたくなりますが。

 これは新しいウイルスであって、細菌ではありません。抗生物質は細菌には効きますが、ウイルスには効きません。病院で使えば細菌への二次感染症には有効でしょう。しかし、この新型コロナウイルスに対する効果はありません。

 

55 TEDMED:新しい根治療法やさまざまな治療法はどうでしょうか。インターネットでいろいろ話題になっていますが。

 間違った主張が際限もなく続いていますね。科学的に信じられるのは、信頼できるいくつかのウェブからの情報だけでしょう。ほとんどはごみ情報です。注意してください。そして無責任な噂話を広めないように。

 

56 TEDMED:マスクはどうでしょうか。ブルーのサージカルマスク、あるいはN95フェイスマスクは有効ですか。

 特定の状況以外では、マスクの価値は限られています。例えばN95マスクのタイプによりますが、外から入ってくるウイルスは50%以下しか防げません。ただし、飛沫の拡散は減らすでしょう。

 

57 TEDMED:適切に使用した時のマスクの利点はなんですか。だれがマスクをつけるべきでしょうか。

 サイズの合った良質のマスクを適切に使用すれば、病気の人が咳をしても飛沫の広がるのを抑えることができます。つまり、マスクはあなたを他の人から守るものではないということです。あなたから他の人たちを守るためのものなのです。あなたが風邪をひき、咳がでているとしたら、マスクをつけることは他の人への礼儀です。マスクにはもう一つ、追加的な効果もあります、自分の口を触らなくなるということです。手にウイルスがついていたとしても、そのウイルスが体内に入りにくくなります。マスクは保健医療従事者には利点があるので、医療機関で働いたり、高齢者のケアをしたりする人はマスクを付けなければなりません。

 

58 TEDMED:世界規模のパンデミックの中で、感染を防ぐために個人にできることはありますか。

 こまめに手を洗うこと、顔を触らないこと、咳やくしゃみをするときは肘か紙のハンカチで口を覆うこと、握手やハグをしないこと、これらがすべてリスクを下げます。具合が悪いときには外出せず、医師に電話してどうしたらいいか相談してください。そして他の人と会う時にはマスクをしてください。

 

59 TEDMED:「軽減策(mitigation)」の意味は。医学者からはこの言葉をよく聞きますが。

 「軽減策」とは、ウイルスの拡散を遅らせ、公衆衛生サービスや社会生活、経済への影響を抑えるという意味です。ワクチンができるまでの間でも、流行を遅らせることはできます。非常に重要なことなのです。

 

60 TEDMED:社会としてウイルスの拡散を遅らせる方法はほかにもありますか。

 手洗いなどの適切な衛生行動やエチケットによって拡散を遅らせることができます。そして「社会的距離を広げる手法(social distancing)」ですね。在宅ワーク、飛行機に乗らない、休校、大きな会合の禁止といったことが、SARS-CoV2の拡散を遅らせることになるでしょう。

 

61 TEDMED:ウイルスによってはもっと広がりやすいのもあるのですか。

 はい。はしかのウイルスが最悪です。はしかの場合、感染した人が2時間前にいて、そのあと無人になった部屋に入っただけでも感染することがあります。だから、予防接種率が低下すると、はしかがアウトブレークしてしまうのです。非常に厳しい病気です。普通の風邪も非常にたやすく感染します。HIVは比較的感染しにくいウイルスなのですが、それでもすでに3200万もの人が亡くなっています。

 

  1. TEDMED: このウイルスの拡散を止めるにはどうしたらよいのですか。

確実なことは誰にもわかりませんが、中国は拡散をかなり抑え込むのが可能であることを示しました。SARS-CoV2を完全になくすには、ワクチンが必要でしょう。

 

  1. TEDMED: 新型コロナウイルスが米国規模の人口に拡がるのに、どれくらいかかるでしょう。

適切な衛生行動をしても特別の対策をとらず拡がるままにすれば、SARS-CoV2の感染者数は毎週ほぼ2倍に増えるようです。50人の感染から100万人に拡がるのに14週間ほどということになります、単純計算ですが。もちろん、それを遅らせる対策は可能です。

 

  1. TEDMED: 適切な衛生行動でコロナウイルスの拡散を遅らせる効果はどの程度ですか。人びとがガイドラインに従うなら、感染者の数は大幅に減るのでしょうか。

感染者数は、一人一人がどれだけ注意をするかによって変わります。医療システムにかかる負荷を最低限に抑えるには、どんな小さな努力でも大切です。

 

  1. TEDMED: 私たちのまわりに気付かれていない感染がたくさんあるというのですか。そんなことがどうして起こるのですか。

毎年、何百万件ものインフルエンザ感染が起こっています。今年はその内いくらかは、実はCOVID-19でしょう。さらに、感染した人の多くは無症状かとても軽症かなので、感染したと気付かれることがないのです。

 

  1. TEDMED: 検査で陽性とは正確にはどういうことですか。

人から採取した体液の中にウイルスがいることが感度のよい検査でわかった、ということです。

 

  1. TEDMED: 誰もができるだけ早く検査を受けるべきだということですか。

COVID-19の検査は、もっと広い範囲で受けられるようにする方がよいでしょう。誰が感染しているのか、ウイルスがコミュニティにどれだけ拡がっているのか、まだ十分にはわかっていないからです。もっと検査の数を増やして、重要なデータを集める必要があります。

 

  1. TEDMED: 韓国はなぜ「ドライブスルー」検査の体制を作ったのでしょう。

韓国がドライブスルー検査を行うのは、感染者一人一人をできるだけ速やかに見つけて、流行を遅らせようと苦慮しているからです。

 

  1. TEDMED: 注目すべき主要な症状は何でしょう。

第一に咳です。

 

  1. TEDMED: 発熱は感染者を見わける適切な方法ですか。

高熱は感染を疑う理由になります。診察を受けるのがよいでしょう。ただし、例えば空港や検査所で、熱だけで振り分けるなら、多くの感染者が見逃がされるでしょう。

 

  1. TEDMED: 中国の病院で、熱はなくて陽性と確認された人はどれくらいですか。

中国のコロナウイルス患者の約30%は、来院時に発熱していません。

 

  1. TEDMED: 流行のピークを過ぎて感染者が大きく減ってから、新型コロナウイルスが再燃することはありますか。

天然痘はなくなり、ポリオもほとんどなくなりましたが、同じような努力をしないかぎり、SARS-CoV2 がなくなることはないでしょう。

 

  1. TEDMED: 長期的に新型コロナウイルスを克服するには、地球規模の広範なワクチン接種しかない、ということですか。

実際のところわかりません。住民が主体となる対策は有効でしょうが、ワクチンは必要かつ適切でしょう、ウイルスが安定し、大きな変異を起こさないかぎりは。

 

  1. TEDMED: 他のウイルスではあるようですが、新型コロナウイルスが「バーン・アウトする」ことはありえますか。

わかりませんが、そうはならないでしょう。SARS-CoV2 はすでに世界中にしっかり根を張っています。もはや中国の問題ではありません、何十万人もすでに感染しているが検査を受けていない、中国だけでなく百近い国で。SARS-CoV2は季節的に流行するインフルエンザと同じく、長期間私たちとともにあり続けるでしょう。

 

  1. TEDMED: 新型コロナウイルスは波のように、あるいは周期的に帰ってくるのですか。そうであればいつですか。

それもわかりませんが、重要な問題です。まだ初期の段階で確かなことは言えません。1918年のスペイン風邪は第三波までありました。新型コロナウイルスは、中国で学校や職場が再開されれば第二波が起こる可能性はありますが、実際に何が起こるか見るまでは、SARSCoV2がどうなるかわかりません。

 

  1. TEDMED: 何カ月かのうちに「幸運な」ブレークが一つ二つあるとすれば、どんなことでしょう。

温かくなれば、拡散はゆっくりになるかもしれません。ただし、そうなるというエビデンスはありません。シンガポールは世界でも優れたCOVID-19対策を行っており、赤道から100キロメールなのですが、それでも120例が確認されています。ですから、少なくともこの場合は、暖かい気候で拡散が抑えられてはいません。2009年のH1N1インフルエンザのように、SARS-CoV2 がそれほど危険ではない形で常に変異し、死亡例が少なくなっているのかもしれません。しかし、それに期待しようとは思いません。早くに有効な治療薬、あるいはその組み合わせが見つかれば朗報です。それが幸運でしょう。

 

  1. TEDMED: COVID-19にハイリスクな人はどこでも同じように、死亡する可能性がありますか。

残念ながら、死亡のリスクは世界のどこにいるかに大きく左右されます。設備の整った近代的な病院で必要な治療を受けられるなら、多くの人が受けられるとよいのですが、そうすれば死亡率は大きく低下します。人工呼吸器による集中治療を受け、二次感染を防ぐことができれば。

 

  1. TEDMED: 自分は軽症のグループなのか、入院が必要なのか、どう判断するのですか。

断言はできませんが、70歳以上か持病があるならば、重症化のリスク、死亡のリスクすらあります。おおむねそうだとしか言えません、COVID-19についてはまだ十分にわかってはいません。

 

  1. TEDMED: COVID-19は、明日は我が身と思ったほうがいいですか。ピーターは心配ですか。

ハイリスクでなければ、余計な心配をすることはないでしょう。しかし、なんであれ感染を予防できるなら、するに越したことはないでしょう、何がどうなるかわかりませんから。今後二、三年は、誰にでも感染のリスクはあります。一生風邪やインフルエンザにかからずに過ごせないのと同じです。そして誰もが、兆候があったら家に留まるようにすべきです。

 

  1. TEDMED: 誰にでも感染のリスクはある、とはどういうことでしょう。

人はみな、他の人と生きており、みなが繋がっているということです。冷徹な生物学的事実です。私は慎重に予防しますが、同時に、過剰な心配はしません。無用です。

 

  1. TEDMED: 誰もが新型コロナウイルスに感染するのなら、なぜ感染を防ごうとするのですか。感染したらそれで一件落着、先に進めるのではないですか。

私たちが求めるのは、感染を遅らせること、つまり新しい感染と感染者数を抑えることです。そうすれば医療機関は業務に圧倒されることなく、緊急に対応すべき他の疾患の患者を後回しにすることなく、重症の感染者を治療することができます。

 

  1. TEDMED: 回復した患者でも感染させることがあるようですが、本当ですか。

わかりませんが、回復から間もない症例ではあるようです、確実ではありませんが。もっと研究を進める必要があります。

 

  1. TEDMED: 一度感染すれば、再び感染することのない免疫がずっと得られるのですか。はしかやおたふく風邪のように。

それもまた重要な問題ですが、答えはまだわかりません

 

  1. TEDMED: COVID-19に感染し回復した人にとって終生免疫が重要なのはよくわかりますが、社会全体にとっても重要なことですか。その理由は。

その質問はワクチン開発にとって、とても重要です。ワクチンの成否は、私たちの体が防御免疫反応を備えることができるのか、ウイルスが安定しているのか、によるからです。そして明らかに、感染しやすい人の数は時とともに減少していくと思われます。

 

  1. TEDMED: 新型コロナウイルスは、インフルエンザのように、季節性でしょうか。

季節によってSARS-CoV2に変異が起こるのか、何百万人に感染することでウイルスはどう変わるのか、まだそれがわかるだけの時間は経過していません。

 

  1. TEDMED: ウイルスは変異して、異なる症状を引き起こすことがある、ということですか。

まったくわかりません。ワクチンができれば、変異したSARS-CoV2の拡散はきっと防げるでしょう。

 

  1. TEDMED: ウイルスが自然に変異するなら、致死性が強まることも、弱まることもありえる、ということですか。

そうです。いずれもありえます。新しいウイルスなのですから、どのような変異になるのかはわかりません。

 

  1. TEDMED: コロナウイルスの脅威はなくならないならば、私は、私の家族は、どうしたらよいのでしょう。

ウイルスとの付き合い方を学び、安全な行動をしっかり身につけることです。高齢の家族のニーズに、とくに配慮すべきです。

 

  1. TEDMED: ウイルスは調理カウンターの上で9日間生きられると聞きました。本当ですか。

SARS-CoV2はおそらく、ある場所では長期間生きていけるでしょうが、どれだけ長いのかはわかりません。

 

  1. TEDMED: 近代で最大のパンデミックは、第一次大戦終末のスペイン風邪でしたが、それは変異したインフルエンザによるもので、新しいウイルスではない。その変異とSARS-CoV2 を比較して言えることは。

SARS-CoV2の感染率はスペイン風邪と同程度で、致死率もほぼ同じと思われますが、やがてわかるでしょう。注意していただきたいのは、1918年当時は、いま先進国 にあるような医療体制はなく、主要な死因である細菌性肺炎を治す抗生物質もなかったということです。

 

  1. TEDMED: いま大騒ぎしていても、夏になって振り返れば、あれは空騒ぎだった、ということになる可能性はありますか。

ありません。COVID-19はすでに100カ国以上に拡散し、強い感染力をもっています。実際に日を追って感染数も、国の数も増えている。これは予行演習ではなく、本番です。

 

  1. TEDMED: 人類が見たことのない、まったく新しいウイルスが突然、何百万もの人に感染する、というのは信じがたいことですが。

SARSやMERSは新しいものでしたが、そこまでは広がりませんでした。HIVは世界にとって新しいもので、7000万人に感染しました。そして、HIVパンデミックによって3200万人が亡くなりました。

 

  1. TEDMED: HIVは豊かな国よりもはるかに貧しい国に影響を与えています。今回の新型コロナウイルスでも同じことが言えるのでしょうか。

まったくその通りです。米国のような豊かな国では、優れた水分補給や呼吸管理、感染症の適切な制御などによって、死亡率がかなり下げられています。しかし、資源に乏しく保健システムが脆弱な国では、同じウイルスが大問題を引き起こす可能性があります。アフリカの多くの国は、膨大なリスクに直面するでしょう。世界の最貧国では壊滅的事態になるでしょう。

 

  1. TEDMED: つまり、あなたはまったく楽天的ではないように思われますが。

私は、根は楽天的なのですが、同時に、やっかいで気懸かりなことがいくつもあります。とくに自分がいずれかのハイリスク・グループに入っている場合は、恐怖を感じて当然です。しかし、よいことも伝えられています。地球規模の協調が、なかでも科学や医学の分野で、すでに進んでいます。政府の透明性も高まっています。中国の感染者数は現在急速に減少しています、今後変わるかも知れませんが。そして治療法の開発も迅速に進められています。

 

  1. TEDMED: 気懸かりなことがたくさんあるとも言っていましたね。最も大きな懸念は何ですか。

制御がうまくできなければ、コロナウイルスの拡散は、国の保健システムにとってたちまち過大な負担となり、真に医療を必要とする人が利用できなくなります。もう一つの気懸かりは、過剰反応と恐怖心が国の経済を萎縮させ、別の難題を引き起こすことです。たいへんにやっかいな二律背反です。

 

  1. TEDMED: どのような心構えでいればよいのでしょう。

米国のあらゆる都市で、検査が進んで「新しい」感染者と死亡者の増加、とくに高齢者のことが報告されています。それを心して聞くことです。それは実は「新しい」ものではない。現にあるものが初めて見えてくるのです。

 

  1. TEDMED: 期待できることは何ですか。

1.現代の生物学は急速に前進していること。

2.WHOはじめ全世界の公衆衛生のコミュニティに加えて、ハイレベルの政治指導者がこの脅威に注目していること。

3.ウイルスをすぐに分離して遺伝子配列を明らかにしたこと。

4.治療法がほどなく開発されると確信できること。

5.いずれワクチンが手に入る希望があること。

6.新しいコミュニケーションの時代に現にいるということ。危険なフェイクニュースを見抜ければ、これは大きな助けになります。

 

  1. TEDMED: 米国の準備はどうでしょう。

米国には、そして他の先進国にも有利なことは、このパンデミックに備える時間的余裕があったということです。中国の前例のない封じ込めにより拡散が遅れたことで、私たちはみな恩恵を受けています。周到な準備により、米国は最初から重症例を適切に抑えられるでしょう。

 

  1. TEDMED: もっとも気懸かりなのは何でしょう。

大きな気懸かりは資源に乏しい国ですが、死はどれも悲劇です。平均では、コロナウイルスに感染した人の1%から2%が亡くなります。たいへんな数です。つまり、百万人の1%なら1万人。特に心配なのは高齢者です。しかし98%から99%の人は、命に関わることはありません。季節性インフルエンザにより米国でも毎年、何万人も亡くなっていますが、パニックは起きていません。現実には、インフルエンザをもっと深刻に受け止め、毎年ワクチンを受けなくてはならないのですが。季節性インフルエンザとともに生きることを学んできたように、COVID-19があっても、有効なワクチンが手に入るまで、どうしたら普通の生活を送れるのかを、私たちは学ぶ必要があると思います。

 

  1. TEDMED: パンデミックは将来も起こりますか。

必ず起こります。これは人間の条件、「ウイルスの惑星」に生きるということの一部なのです。闘いに終わりはありません。準備をさらに進める必要があります。つまり、次に自分たちに火の粉がかかる前に、パンデミックに周到に備え、地球規模の消防隊を組織しなくてはなりません。

 

 

100 Questions of Peter Piot about COVID-19, MARCH 13, 2020 (Recorded at TEDMED 2020 on March 3, 2020) を、Peter PiotとTEDMEDの許可を得て、宮田一雄と樽井正義が翻訳しました。PDFはhttps://www.thetedmedfoundation.org/ 、映像はhttps://www.tedmed.com/talks/show?id=797319  に掲載されています。

TEDMED財団(TEDMED)は、「世界の保健医療分野を対象にした501(c)(3)非政府団体です。より健康な世界の実現を目指し、科学と文化の幅広い英知をコミュニティに提供することをその使命としています」と紹介されています。