新型コロナウイルス : 西浦教授からの「お願い」について もっともだと思いつつ、なお

 政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で、座長の指名を受けて流行の動向分析と対策の検討をされている北海道大学の西浦博教授が全国の保健医療従事者に向け「助けてください」というメッセージを送っています。

 そのメッセージを寄稿として掲載したヘッドラインニュースの記事です。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200324-00010000-mthree-soci&p=2

 引用のそのまた引用で恐縮ですが、保健医療従事者だけでなく、多くの人に届いてほしいメッセージでもあるので、紹介しておきます。

 西浦教授は、わが国および世界のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の発生データの分析から、我が国の状況が流行の初期段階にあり、感染がクラスターという一定の条件を備えた小集団単位に拡大していることを把握しました。

 私の理解は間違っているかもしれないので、詳しくは西浦さん自身の寄稿を読んでいただいた方がいいと思いますが、せっかくだから自分の知識の整理のためにもう少し、蛇足の説明と感想を続けます。

 3月の初めから続いていたイベントなどの自粛や学校の休校などは、クラスター発生の機会を減らし、発生したとしてもその存在を早期に把握してクラスターからクラスターへと感染の連鎖が広がることを防ごうという戦略に基づくものでした。

 国内の感染をゼロに抑えるのではなく、クラスター発生を限りなくゼロに導こうという対策でしょう。

 つまり、目に見えないウイルスの感染をクラスターというかたちに可視化することで、予防や感染の拡大防止に必要な手が打てるようになる。その努力を続ければ、過剰な不安におびえることなく感染の拡大スピードを抑えることが可能になり、やがて流行は拡大から縮小へと向かう。

 こうしたシナリオの中で、とりあえず2週間、頑張ろうというメッセージが届けられ、日本国内の流行はとりあえず「何とか持ちこたえている」という状態の維持に成功しました。

 これは流行初期としては目覚ましい成果です。そして、その成果を可能にしたのは、老若男女を問わず、あまねくたくさんの人たちに行動変容が行き渡ったからではないか。私はひそかにそう思っています。

世の中の機能が止まったような部分もあり、鎌倉などでも一時期、飲食店はがらがらでした。個人的にも、ついつい外食はもちろん、外出も避けがちになり、それはそれでちょっと切ないねという気分でもありましたが、ひとたび発せられたメッセージに対するこのあたりの忖度の浸透ぶりは、あえて誤解を恐れずに言えば日本社会の腰の強さでもあります。

 でも、さすがに2週間も我慢すると「もう、いいんじゃね?」という気分も生まれてきます。まして、外は春の陽気です。桜の花は開き、虫だって地面から這い出してきます。

 「この2週間が瀬戸際」みたいなメッセージに対する達成感もありました。ただし、これは流行拡大のスイッチが入るのを抑えたという意味では大きな成果ですが、2週間後にもう一度スイッチを入れなおしてしまったのでは意味がありません。流行本格化のスタートが2週間遅れるだけです。

 西浦さんは寄稿の中でこう書いています。

 《日本における国内感染は上記の大規模イベント自粛と行動自粛の実施中に、新規感染者の発生が減少に転じたことが知られています。この感染症は行動変容を伴う努力をもってすれば「制御できる」のです》

 ただし、これはまだ中間評価です。より正確には中間試験の前の実力テストの結果ぐらいでしょうか。実力はそこそこあるね、ということは分かったけれど、期末試験が終わったわけではではありません。西浦さんがいままさに「助けてください」というほどの危惧を抱いているのもそのためです。

 《しかし、3月19日に少しでも良いニュースが伝わり、小中学校などの休校が解除される方針が伝わったことで、市民の間で「解禁ムード」が広がってしまっていることを大変危惧しています。行動がいつも通りに戻ってしまうと、アメリカや欧州各国で見られるような爆発的な感染者数の増大が懸念されるためです》

 じゃあ、どうしたらいいかということになりますね。

 この調子でがんばろうと励ますのも一つの手ですが、鼻面にニンジンをぶら下げられたまま「もうちょっと、もうちょっと」と言われ続けるのもつらい。

 西浦さんはこう書いています。

 《今、頑張って皆で行動を変えることができれば切り抜けられる可能性が高いです。皆さんの力が必要です。お願いします、助けてください》

 ここで呼びかけられている「皆さん」は保健医療従事者です。

 でも、自粛だけでは世の中がもちません。個人的には「勝負は行動を変えること、つまりキーワードは行動変容ではないか」と私は思います。科学的根拠は何もありません。しいていえば、暇を持て余し、春の陽気に誘われてついつい外出してしまうハイリスクな老人のストリートの知恵といいますか・・・。

 人込みは避ける、こまめに手を洗う、買い物はアルコール消毒のできる店に行き入るときと出る前にフカフカと手にかけてこする、具合が悪いときは外出や会合は遠慮する、よく寝る(いわれないでも寝ちゃうけど)、在宅ワークを含め柔軟な働き方を可能にする(ほとんど働いていないけど)などなど。すでに皆さんが始めていることです。これをまず続けよう。

 また、社会的にはこの際、大規模化、大量化のメリットに対する価値観の再考を促したい。イベントがほどほどの規模で成り立つようにするにはどうしたらいいのか、クルーズ船は何人ぐらいの定員なら目が行き届くのか。

 6万人の競技スタジアムに大観衆を集める球技の試合は魅力的だけど、スタンドからは選手の動きが豆粒ほどにしか見えず、結局、巨大スクリーンの映像しかみていないなどということもあります。

 中継やスポンサー収入などで、スタンドは小観衆でもイベントが成り立ちうる新たなビジネスモデルの構築もスポーツ界には必要になるでしょう。

 自粛はまだ当面の間、必要かもしれませんが、徐々に自粛や閉鎖から行動変容への移行をはかっていきたい。

 また、その際に国が要請ではなく、きちんと禁止を命令して、その基準を示すべきだといった意見もあります。でも、私は個人的には「そんなことまでイチイチ、お上に指図されたくないね」と感じています。経済でも文化でも、政府にゆだねたらろくなことはないよ。

 禁止よりも要請レベルで、判断はこちらにまかしてくれ。それで最適解をさぐるから・・・。そういうことを言っているとまた、困った人たちが出てくるかもしれませんがそれでもこちらの在り方の方に大いなる魅力を感じます。あくまで個人的な見解ですが・・・。