残念ながら効果なし HIVワクチン臨床試験HVTN702は中止に エイズと社会ウェブ版451

 南アフリカで進められていたHIVワクチンの大規模臨床試験HVTN702の中止が2月3日、米国立衛生研究所(NIH)の国立アレルギー感染症研究所(NIAD)から発表されました。

 中間評価の段階で、対象となるワクチン候補にはHIV感染の予防効果はないという結論に達したということです。有望なワクチン候補として期待されていたのですが、残念な結果となりました。

www.hiv.gov

 ワクチン研究の分野では、ほかにも2件、大規模な臨床試験が進められているそうですが、今回の決定はHIVワクチン開発の困難さを改めて示すものとなりました。

 NIAIDの発表を受け、国連合同エイ計画(UNAIDS)も翌2月4日付けでプレス声明を発表しています。そちらの方が短いので日本語仮訳を作成しました。下の方に載っているのでご覧ください。

 そのUNAIDの発表内容も含め、HVTN702ついて私の理解の及ぶ範囲で少し説明しておきましょう(ただし、素人説明なので、的外れかもしれません)。

 HVTN702については当ブログでも2017年9月4日付で取り上げたことがあります。 

miyatak.hatenablog.com

 HIV感染予防効果は50%ぐらいということでしたが、それでもないよりはいいだろうといった程度の期待のもとにスタートした研究です。それ以前には、HIVのワクチン開発は難しいということで、世界中のワクチン臨床試験がなくなってしまう時期が何年間か続いていたので、ワクチン研究も何とか立ち直ってきたぞという意味で注目の臨床試験だったように思います。

 ところが、今年1月に中間評価をしてみたら50%どころか、予防効果はなかったということが分かり、無念の撤退となりました。2月3日のNIAIDの発表では次のように書かれています。

 『HVTN702またはUhamboと名付けられたフェイズ2b/3研究は、南アフリカで2016年に開始された。これまでにHIV予防効果がみられたワクチン候補であるRV144臨床試験の候補ワクチンをもとに開発されたプライムブースト法によるワクチン候補で進められてきた』

 RV144試験というのは、米陸軍HIV研究プログラムとタイ保健省によりタイで実施されていた臨床試験で、予防効果は30%程度にとどまり、実用化は期待できないということで打ち切られてしまいました。HVTN702のワクチン候補は、そのときのワクチン候補をもとに効果の増強をはかり、南アフリカの流行状況に合わせて開発されたもののようです。

 南アフリカ臨床試験には18歳から35歳までの性的に活発なHIV陰性の男女がボランティアで参加していました。

 参加者の60%,以上が接種開始から18カ月を経過したということで、2020年1月23日に独立のデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)が、臨床試験の中間結果を分析したところ、ワクチン候補接種群は2694人中129人がHIVに感染していました。一方、プラセボ群は2689人中123人でした。

 これでは50%どころか、ワクチンによる感染予防効果はなかったという結果です。DSMBは中止を勧告し、NIAIDもその勧告を受け入れました。参加者への経過観察は今後も続けますが、新たな接種はもうしないということで、事実上の打ち切りです。

 NIAIDのニュースリリースでアンソニー・S・ファウチ所長は「世界全体でパンデミック終結させるにはHIVワクチンが不可欠であり、このワクチン候補が機能することを期待していました。でも、残念ながらそうはなりませんでした」と語り、「安全で効果的なワクチンの研究は異なるアプローチで続けられます。私はいまも達成可能だと信じています」と付け加えています。

 UNAIDSのプレス声明によると、他の2件の大規模ワクチン臨床試験は、米国およびヨーロッパでトランスジェンダーの人たちとゲイ男性など男性とセックスをする男性を対象にしたMosaico試験、サハラ以南のアフリカで女性を対象にしたImbokodo試験ということです。以下、UNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。

   ◇

 

HIVワクチン臨床試験HVTN702は中止

 UNAIDSプレス声明

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2020/february/20200204_vaccine

 

2020年2月4日 ジュネーブ - 米衛生研究所(NIH)はHIVワクチン臨床試験HVTN702の中止を発表した。研究における安全性への懸念はないものの、独立のデータ安全性モニタリング委員会がこのワクチンにはHIV感染予防効果がないことを確認した。

 臨床試験南アフリカの14地点で、18-35歳でHIV陰性の5400人以上を対象に18カ月にわたって行われていた。参加者は6カ月の間にワクチンまたはプラセボの注射による接種を6回受けている。60%以上の参加者が18カ月を経過した段階で行った分析によると、ワクチン接種群でHIVに感染した人が129人なのに対し、プラセボ群では123人だった。

 「明らかに残念な結果だが、将来の研究に向けて重要な科学的知見が得られました。この重要なワクチン試験の研究チームにはお礼を申し上げたい」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語る。

 ほかにも大規模なワクチン臨床試験が現在、実施されている。米国およびヨーロッパでトランスジェンダーの人たちとゲイ男性など男性とセックスをする男性を対象にしたMosaico試験、サハラ以南のアフリカで女性を対象にしたImbokodo試験である。効果的なHIVワクチンの研究は、今後のHIV対策を進めるための鍵を握ることになるだろう。

 研究期間中もHIV予防には相当の投資が行われてきたものの、それでも臨床試験の対象となった女性の年間の感染率は約4%だった。これはあまりにも高い。HIV感染は予防可能である。そのためには、HIV検査の普及;HIV陽性者への抗レトロウイルス治療;曝露前予防服薬(PrEP);コンドームその他の予防オプション;包括的セクシュアリティ教育を含む性と生殖に関する健康サービス;少女たちの通学確保;そして女性と少女に対する社会的、法的、経済的な障壁の撤廃といった対策を正しく組み合わせていく必要がある。

 

 

 

HVTN 702 clinical trial of an HIV vaccine stopped

 UNAIDS PRESS STATEMENT

GENEVA, 4 February 2020—The United States National Institutes of Health has announced that its HVTN 702 clinical trial of an HIV vaccine has been stopped. While no safety concerns were found during the trial, the independent data and safety monitoring board found that the vaccine was ineffective in preventing HIV transmission.

The trial, conducted at 14 sites across South Africa, followed more than 5400 HIV-negative 18–35-year-olds over 18 months. The participants received six injections during the six-month period, either the vaccine or a placebo. An analysis undertaken after at least 60% of the participants had been in the study for more than 18 months showed that there were 129 HIV infections among the people who had the vaccine, while 123 people who had the placebo became infected.

“While we are obviously disappointed with the results, important science has been learned that can be carried forward to future trials. I thank the study team for this important vaccine trial,” said Winnie Byanyima, UNAIDS Executive Director.

Other major vaccines are currently being tested at scale—the Mosaico trial, which is testing a vaccine among transgender people and gay men and other men who have sex with men in the Americas and in Europe, and the Imbokodo trial, which is testing a vaccine among women in sub-Saharan Africa. An effective HIV vaccine may well prove to be key for sustaining progress against HIV in the future.

Despite considerable investment in prevention during the trial, there was still an HIV incidence of around 4% per year among the women in the trial. This is simply too high. HIV transmission can be prevented. This requires the right combination of interventions, including HIV testing; antiretroviral therapy for people living with HIV; pre-exposure prophylaxis, condoms and other prevention options; sexual and reproductive health services, including comprehensive sexuality education; keeping girls in school; and the lifting of social, legal and economic barriers for women and girls.