CHiPsってなんだ エイズと社会ウェブ版414

 HIVケアカスケードのスライドは18枚です。90-90-90ターゲットに向けた達成状況(あるいは達成困難状況)を示す各種グラフについてはぜひ、API-Netで日本語版をご覧ください。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20190815

 最後の方に一枚、CHiPsの概念図が載っています。えっ、CHiPs!?・・・ポテチになぞらえて親しみやすさを狙ったのかもしれませんが、何でもかんでもアルファベットの略語になってしまうので混乱しますね。名付けた人は、してやったりの気分かもしれませんが、数々のダジャレで冷たい視線を浴び続けてきた高齢おじさん層としては、逆にかなり冷え込みます。まあ、いいか。

 

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 予防対策の方法であるInterventionを介入と訳す慣習にも釈然としない思いがあります。はしなくも研究者の心根が表れてくるといいますか・・・。ただし、かく言う外野席の私も、ほかに適当な訳語を考え付くことができず、結局は、大勢に迎合するかたちで「介入」を採用しています。いい訳語をご存じの方は教えてください。

 CHiPsについては、図だけでは伝えきれない面もありそうなので、この図が掲載されているGlobal AIDS Update 2019の88ページを読んでみました。1ページだけですが、当ブログの後ろの方にも、ざっと日本語に仮訳したものを載せておきますので、ご関心がおありの方はお読みください。

 おっと、年寄りは前置きが長いですね。CHiPsは《Community HIV Care Providers》の略称です。語呂合わせのためにHIVの部分は「Hi」にするなど、それなりの苦労もしのばれます。

 つまり、HIV検査やケア提供の促進を担うコミュニティ・ヘルスワーカーのことなのですが、そうなると今度は、コミュニティ・ヘルスワーカーってなんだ!?という疑問も出てきます。

 2カ月ほど前に当ブログで紹介した本田徹著『世界の医療の現場から プライマリ・ヘルス・ケアSDGsの社会を』には次のように書かれていました。

 『保健医療分野の人材が不足しているところでは、医師から看護師へ、そして看護師からコミュニティ・ヘルスワーカーへの職務権限の移譲も含め、患者に合わせた保健医療ケアを提供できる体制を整えることで、治療の普及率が高まることが示されている』

 HIVの流行が深刻な東部・南部アフリカでは、HIV分野のコミュニティ・ヘルスワーカーをCHiPsと呼び、2013年後半から2018年初めにかけて、大規模な戸別訪問戦略に関する調査研究が行われました。それがPopART研究です。

 『各世帯を訪れ、HIVに関する情報を伝え、HIV検査を提供し、近くの公的医療施設で即時のHIV治療につなげた。また、治療継続のための支援を提供し、コンドームを配布し、性感染症結核のスクリーニング検査を行い、自発的男性器包皮切除を勧め、母子感染予防のサービスを提供した』

 こうした業務を担うCHiPSには、350~450世帯をめどにそれぞれの担当地域が割り当てられ、二人一組でその地域の全世帯を訪問して回ります。ワーカーの3分の2は実際にコミュニティ内に住んでいる人であり、HIV陽性者がかなりの割合を占めているということです。

 あくまで研究段階での成果ですが、報告書によると『コミュニティ・ヘルスワーカーが集中的に戸別訪問を行い、HIVと保健サービスを提供すれば、90-90-90検査治療ターゲットの達成と新規HIV感染の劇的な減少が可能になる』ということです。 

 それぞれの国のそれぞれの流行の規模や国内事情によって、必要とされる対応も異なるので、日本国内のHIV/エイズ対策に導入することはあまりお勧めできないのではないかと私は思います。とくに戸別訪問による検査推奨は微妙です。

それでも、保健・医療・介護の担い手をどう確保するかは、日本の社会がいままさに直面している課題でもあるので、職務権限の委譲という観点からは参考になるかもしれません。この辺りは保健医療の現場にいる人たちのご意見を伺いたいところですね。以下、仮訳です。

 

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コミュニティのHIVケア提供者(GAU2019 P88から)

 

 コミュニティ・ヘルスワーカーが集中的に戸別訪問を行い、HIVと保健サービスを提供すれば、90-90-90検査治療ターゲットの達成と新規HIV感染の劇的な減少が可能になる。南アフリカジンバブエで行われたHPTN 071 (PopART)研究はそれを示した。

 この種の調査では最大規模のPopART研究は2013年後半から2018年初めにかけて、21か所の都市コミュニティで実施され、計100万人が参加した。コミュニティの全世帯が訪問を受け、3年間にわたって少なくとも年1回はサービスの提供を受けるようにすることを研究は目指した。

 数百人に及ぶコミュニティHIVケア提供者はCHiPsの名前で親しまれ、訪問サービスを提供した。各世帯を訪れ、HIVに関する情報を伝え、HIV検査を提供し、近くの公的医療施設で即時のHIV治療につなげた。また、治療継続のための支援を提供し、コンドームを配布し、性感染症結核のスクリーニング検査を行い、自発的男性器包皮切除を勧め、母子感染予防のサービスを提供した。

 CHiPsの働きにより、対象コミュニティでは、自らの感染を知り、治療を開始し、血液中のウイルス量が検出限界値未満となったHIV陽性者の割合は、約54%だったのが、70%に拡大した。CHiPsが活動するコミュニティでは、標準ケアの対照群と比べ、HIV感染発生率が20%低く、ウイルス抑制を果たす人の割合は12%高かった。

 

CHiPsはどのように働いているのか

 コミュニティ・ヘルスワーカーの3分の2は当該コミュニティの居住者であり、HIV陽性者がかなりの割合を占めている。

 「その場所に住んでいれば家族のようなものです」とHIV陽性の若い母親であるイレーネ・ンガンヅは語る。彼女は地元のクリニックボランティアを続け、CHiPsに応募するように勧められた。

 「私はHIV陽性であり、情報を得て自分の生活を大事にすることができました。自分自身で生き残るにはどうしたらいいかと考えたときに、そうじゃない、私のコミュニティを助けたいと思いました」

 コミュニティ・ヘルスワーカーの多くは25~35歳で、二人一組になって働いている。それぞれのペアには、350~450世帯の担当地域が割り当てられる。たとえばザンビアでは、8つのコミュニティを412人のコミュニティ・ヘルスワーカーがカバーしている。ペアは活動しやすさとジェンダーのバランス(3分の2は女性だが)、担当エリアに近いこと、人格などに基づいて編成される。興味深いことに、CHiPSチームの一人に男性が含まれるかどうかで、男性参加者による介入やHIV検査の受け入れに影響することはなかった。

スーパーバイザーは、仕事ぶりをモニターし、連絡調整に当たる。HIV検査とカウンセリングの質を高めるために、熟練の看護師による訪問などの品質管理策がとられた。さらに各CHiPsには毎年、能力評価試験があり、それに受からなければ再研修を受けることになる。

 

 

 

CHiPs, Community HIV-care Providers

 

MAKING AN IMPACT WITH COMMUNITY-BASED SERVICES IN SOUTHERN AFRICA (GAU2019 P88)

 

An intensive door-to-door effort by community health workers to promote and provide HIV and health services can achieve the 90–90–90 testing and treatment targets and dramatically reduce new HIV infections, the HPTN 071 (PopART) study in South Africa and Zambia has shown.

 

The largest study of its kind, the PopART trial took place between late 2013 and early 2018 and included 21 urban communities with a total population of 1 million people. The aim was to cover the entire population so that each community resident was visited and offered services at least once a year over roughly three years.

 

The household visits and services were the task of hundreds of Community HIV Care Providers, or “CHiPs” as they became known. They visited homes, providing information about HIV and offering HIV testing and linkage to immediate HIV care at nearby government facilities. They also provided support for treatment adherence, distributed condoms, screened residents for sexually transmitted infections and tuberculosis, and promoted voluntary medical male circumcision and services to prevent mother-to-child transmission (Figure 4.14) (16, 17).

 

As a result of the CHiPs intervention, the proportion of people living with HIV in the intervention communities who knew their HIV status and took antiretroviral therapy such that the virus was undetectable in their blood increased from around 54% to more than 70%. The incidence of HIV infections was 20% lower and viral suppression levels were 12% higher in the CHiPs intervention communities than the standard-of-care control communities (Table 4.2).

 

 

How the CHiPs went about their work

 

About two thirds of the community health workers lived in the communities they served, and a significant proportion of them were living with HIV themselves.

 

“When you live in one area, you are like family,” explains Irene Ng’andu, a young mother living with HIV who had been volunteering at her local clinic when she was encouraged to apply to become a CHiP.

 “I was HIV-positive and I saw the benefit I gained, the information and the courage to focus my life. So when I thought of myself, how I was able to survive, I said ‘No, let me help my community.’”

 

Most of the community health workers were aged 25–35 years and they worked in pairs, with each pair assigned to a geographical area containing 350–450 households. In Zambia, for example, 412 CHiPs covered eight communities. The pairs were created based on availability, gender balance (although about two thirds of CHiPs were women), proximity to the work area and personal characteristics. Interestingly, whether or not the two-person CHiPs teams included a man did not seem to affect the uptake of the intervention or HIV testing among male participants (18).

 

Supervisors monitored the work and liaised with healthcare providers. Quality assurance measures, including visits by a trained nurse, were applied to ensure that HIV testing and counselling was of high quality. In addition, each CHiP underwent an annual blinded panel testing assessment; those who did not pass were retrained.