コミュニティを主体に キーメッセージから エイズと社会ウェブ版406

 2019年の国連合同エイズ計画(UNAIDS)年次報告書Global AIDS Update 2019は7月16日に発表されました。 タイトルは『Communities at the center(コミュニティを主体に)』です。すでにプレスリリースの日本語仮訳は当ブログでも7月19日に紹介してあるので、ご覧いただければ幸いです。

 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2019/07/19/001241

  報告書全体は量が多いので、とても全部は訳しきれなあと思いつつ、UNAIDSの公式サイトをよく見たら、メッセージ部分の内容を要約した『キーメッセージ』という10ページほどの冊子もPDF版で掲載されているではないか。

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  これなら、と思い、日本語仮訳を作ってみました。API-Net(エイズ予防情報ネット)に『コミュニティを主体に キーメッセージ』の日本語仮訳PDF版を掲載していただきましたのでご覧ください。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20190815

 この冊子には10項目のキーメッセージとその説明が載っています。サブタイトルは

  権利を擁護し

  障壁を打ち破り

  必要なサービスを届ける

 

 具体的には本文をあたっていただくとして、ちょっと興味深い指摘もあったので、そこだけ紹介しておきましょう。二番目のキーメッセージです。

 

 2. 新規HIV感染とエイズ関連の死亡を減らすという成果は一様ではなく、時間は尽きようとしている。HIVに影響を受けた人たちがサービスを確実に受けられるようにするには、エビデンスを踏まえたサービスを積極的に広げる政治の指導力が必要である。

 

 この説明部分に次のような記述があります。

 『国によって成果がまちまちな地域もある。例えば、ラテンアメリカでは、多くの国で新規HIV感染が大きく減少しているが、ブラジルで22%も増えたことから、地域全体の新規感染は増加する結果になった。一方で、東欧・中央アジアでは新規HIV感染が29%も増加したが、実はロシアを除くと4%の減少になっている』

 

 そうかあ、国にしても地域にしても、感染の動向を全体的にまるめて把握しようとすると、現実に起きている(あるいは起きつつある)課題に対応できなくなってしまうことがしばしばある。

 以前から指摘されてきたことですが、改めてそれを肝に銘じる必要がありそうです。

 ここではロシア、ブラジルという2つの大国の危機が指摘されています。

 ロシアの流行は本当に深刻ですね。個人的にはロシアという国を訪れたことは一度もなく、流行の様子も伝え聞く程度にしか分かっていないのですが、報道やUNAIDSの報告などから判断すると、性的少数者や薬物使用者に対するスティグマと差別が依然、流行の大きな拡大要因となっているようです。

 ブラジルはかつて、HIV/エイズ対策の輝かしい成功事例として言及されることがしばしばありました。でも、現在は「かつて、そうだった」という状態になっているのでしょうか。ブラジルのHIV/エイズ対策に詳しい方がいらしたら教えてください。

 政治の指導力、社会の安定、流行の影響を大きく受けているコミュニティへの支援といったものの重要性を改めて認識する必要があります。

「コミュニティを主体に」というメッセージはその意味でも重要です。

 アジアではどうなのか。香港の混乱した状態を見ていると、中国本土では本当にHIV/エイズ対策がうまく機能できているのかどうか、非常に疑問になります。

 日本は流行が低く抑えられている国ではありますが、それはコミュニティベースの涙ぐましい努力が何とか必要な対策を支えてきた結果です。ただし、その涙に接することもなく、「エイズはもういんじゃね」だとか「ほらね、治療の進歩で流行は抑えられているじゃないか」みたいな自己満足にお医者さんや行政の担当者が浸り始めているのではないかという危惧も私には感じられます。