『抗レトロウイルス治療のHIV感染防止効果に関する追加的エビデンスを歓迎』UNAIDS エイズと社会ウェブ版387

抗レトロウイルス治療によるHIV感染予防の効果に関するPARTNER2研究の結果が英医学誌LANCETに掲載されました。治療を継続し、体内のウイルスが抑制されているHIV陽性者からは、他の人にHIV性感染することはないということを欧州のゲイカップル約1000組の調査から結論付けています。

抗レトロウイルス薬の予防効果に関するPARTNER研究は2010年から進められ、2016年に南アフリカのダーバンで開かれた第21回国際エイズ会議(AIDS2016)でその結果が報告されています。

T as Pエビデンスとして大いに注目され、U=Uキャンペーンの根拠にもなっていますが、当時は異性間のカップルに比べると、男性の同性間カップルでは感染リスクが高いのではないかとの疑問もあり、さらに同性間のカップルを対象に調査を継続していったのがPARTNER2研究でした・・・ということはうろ覚えですが、人づてに聞いたことがあります。詳しいことは専門の方に改めてお聞きした方がよさそうですね。

ということで、また聞きの、そのまた、また聞きになってしまって恐縮ですがPARTNER2研究の報告を歓迎するプレス声明を国連合同エイズ計画(UNAIDS)が出しています。

この研究については昨年7月、アムステルダムで開催された第22回国際エイズ会議で報告されさんざん話題になったようにも思いますが、何か新しいことのように歓迎して見せるのが国際機関のたしなみというものなのでしょうか。論文が医学専門誌に掲載されることは研究者仲間にとっては大切なことなんでしょうね、きっと。

声明によると、治療の普及の現状は『2017年現在で、推定3690万人のHIV陽性者の59%2170万人)がHIV治療へのアクセスを得ており、47%が体内のウイルスを低く抑えた状態を維持している』ということで、2020年の90-90-90目標の到達は厳しそうです。成果は成果として、今後はそれを踏まえて考えていくとしても、それでも公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結に向けて、道はまだ半ばです。個人的には、世界の関心がこれだけ盛大に薄れ、なおかつUNAIDSの組織としてのガバナンスにも冷ややかな視線が浴びせられていることを考えると、掛け声は掛け声として継続するにしても、実は掛け声であることも自覚しつつ、じゃあ、どうしたらいいのということを考えていくべきではないかと思います。

それがこれからの課題であることを頭の少なくとも片隅ではしっかり意識したうえでの話なのですが、UNAIDSは『すべてのHV陽性者が抗レトロウイルス治療へのアクセスを得て、効果の高い治療を継続していけるようにするには様々な協力が必要になる』としています。誰と誰の間で、どんな協力が必要になるのか。四の五の言わずに、みんな検査を受ければいいんだ・・・とほとんど言いかけているお医者さんにお会いすることもまれにあります。でも、世の中に対して、あるいは性感染症に対して、そこまで浅薄なエビデンスが示されているわけではないでしょうとも個人的には思います。

以下、日本語仮訳をご覧ください。

 

 

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 抗レトロウイルス治療のHIV感染防止効果に関する追加的エビデンスを歓迎

 HIV陽性と陰性のゲイカップルを対象にしたヨーロッパの大規模研究で、効果的な治療を続ければHIV感染が防げることを確認 (201953日、UNAIDSプレス声明)

 http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2019/may/20190503_partner2-study

 

ジュネーブ 2019.5.3 HIV陽性者が効果的な抗レトロウイルス治療を続けていれば、他の人へのHIV感染は起きないことを示したPARTNER2研究の結果をUNAIDSは心から歓迎する。パートナーの一方がHIV陽性で他方は陰性のゲイカップル約1000組を対象にしたこの研究では、HIV陽性者が効果的な抗レトロウイルス治療を受け、体内のウイルス量が抑制されていれば、カップル間のHIV感染は起きないことが示されている。

 「素晴らしいニュースです。治療を続け、ウイルスを抑制できているHIV陽者には感染性がないという確証が得られたのです」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は語る。「これはHIVにまつわるスティグマの解消を助け、HIV陽性者の自信と自尊感情を高めることができる強力かつ前向きなメセージになります」

 8年間の研究の終了時点までに、HIVに感染した人は15人だった。ウイルスのスクリーニングにより、感染はHIV陽性のパートナーとは関連がなく、カップル以外の相手からの性感染だったことが示されている。14カ国が参加したこの研究により、8年間で472件のHIV感染が回避されたと研究者らは推定している。

 UNAIDSはこの研究結果により、早期に検査を受け、効果的な治療を受けられるようになる人が増えることを期待している。ここ数年、抗レトロウイルス治療の普及は大きく広がっている。2017年現在で、推定3690万人のHIV陽性者の59%2170万人)がHIV治療へのアクセスを得ており、47%が体内のウイルスを低く抑えた状態を維持している。すべてのHV陽性者が抗レトロウイルス治療へのアクセスを得て、効果の高い治療を継続していけるようにするには様々な協力が必要になる。

 いまなおHIV感染の多くは、自らが感染していることを知らないでいる人からの感染で占められている。HIVに感染した直後の数週間もしくは数カ月以内は、他の人へのHIV感染のリスクはが最も高くなる。ウイルス量が増え、しかも自らはHIVに感染したことを知らず、治療も受けていないので、ウイルス量の抑制にもつながらないからだ。このことはコンドーム使用と曝露前予防服薬(HIV陰性の人の予防目的による服薬)を含む一連の継続的なHIV予防の努力が必要なことを示している。

 

 

Press statement

UNAIDS welcomes additional evidence that effective antiretroviral therapy stops transmission of HIV

Results from a large-scale European study among serodiscordant gay couples show that adherence to effective treatment prevents transmission of HIV

 

GENEVA, 3 May 2019—UNAIDS warmly welcomes the PARTNER2 study results that show that HIV transmission does not occur when a person living with HIV is on effective antiretroviral therapy. The study, which enrolled nearly 1000 gay couples in which one partner was living with HIV and the other was not, showed that where the person living with HIV was taking effective antiretroviral therapy and had a suppressed viral load, there was no HIV transmission within the couple.

 This is excellent news. People living with HIV now have confirmation that provided they take treatment regularly and are virally suppressed, they are not infectious,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS. “This gives a strong, positive message that will help to reduce the stigma around HIV and improve the self-esteem and self-confidence of people living with HIV.”

By the end of the eight-year study, 15 people did become infected with HIV. Virus screening showed that none of the new infections were linked to the HIV-positive partners in the study, but came from a sexual partner outside of the couple. The researchers estimate that within the study, which took place across 14 European countries, around 472 HIV transmissions were averted over the eight years.

UNAIDS hopes that the results will encourage more people to get tested early and take effective treatment. In recent years there has been a huge scale-up in the roll-out and uptake of antiretroviral therapy. In 2017, of the 36.9 million people living with HIV, 59% (21.7 million) had access to treatment and 47% were virally suppressed. Concerted efforts are needed to ensure that all people living with HIV have access to and adhere to effective antiretroviral therapy.

A large proportion of HIV transmission still occurs before people know their HIV status. The risk of HIV transmission is highest in the weeks and months immediately after infection, when the viral load is high and the person who has contracted the virus is unlikely to know their status, is not on treatment and is not virally suppressed. This demonstrates the critical importance of continuing HIV prevention efforts, including condom use and pre-exposure prophylaxis—medicine taken by an HIV-negative person to prevent HIV.