『HIV予防:なお目標に届かず』 エイズと社会ウェブ版376

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに『HIV prevention: not hitting the mark』というタイトルで一枚のグラフが紹介されています。年次報告書などでもよく使われているグラフですが、PDF版からグラフだけうまく取り込む方法が分からなかったので、なかなか紹介できませんでした。この機会にご覧いただきましょう。

 

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 縦軸は世界全体の年間HIV新規感染件数。横軸が1990年以降のそれぞれの年です。ま、それぐらいは見れば分かりますね。2020年のところには、グラフの線から離れて下方に赤丸があります。

 蛇足になるかもしれませんが補足しておくと、2020UNAIDSが提唱する90-90-90ターゲットの目標年。赤丸の位置はそのターゲットが達成された場合の年間新規感染件数(50万件以下)を示しています。

 経年変化をたどっていくと、HIVの新規感染件数は1996年をピークに減少を続けていることが分かりますが、その減少ペースは期待通りというわけではありません。2017年の推計値は180万件なので、201819203年間でその3分の1以下にしなければ目標は達成できません。

 英文タイトルの『not hitting the mark』は、辞書で調べると『的中せず』といった意味のようですね。ここでは『なお目標に届かず』と訳しました。

 こういう場合にはどうしたらいいのか。とりあえずは、『目標の達成を目指し、いまこそ並々ならぬ決意で臨もう。そのためにも必要な対策を遂行できる資金が必要だ』と強調しておくのが国際機関の定石でしょうか。

 ただし、2019年もすでに4分の1が経過しつつあり、あと1年ちょっとでトレンドが劇的に変わるとは考えられません。

もう少し締め切りが近づいてくると、2020年までにどうするということ自体、話が成立しなくなってしまうので、例えば、2030年のゴールは95-95-95(年間新規感染だと20万件以下)なのだから、2025年までに40万件以下に到達し、そこからさらに半減を目指そう!といったもっと先の話にすり替えて努力の継続を促すことになる・・・2000年代にWHOUNAIDS3by5計画を提唱した時には何とかその方法でしのぎました。

しかし、今回は『エイズ流行終結』(本当は『公衆衛生上の脅威としての』という条件付きではありますが、ともかく)という大見得を切ってしまった以上、そういうわけにもいかないでしょう。

 UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は強権的な組織運営を批判され、今年6月末で退陣することを明らかにしています。任期とスローガンにこだわって辻褄あわせを続けるくらいなら、そろそろ看板をおろし、現実に見合った戦略への練り直しをはかる。UNAIDSにとっては、新しい事務局長で再出発をはかるための助走期間である今こそが、その潮目の時期なのではないかとも思うのですが、どうでしょうか。

 以下、UNAIDSのサイトに載っているグラフ紹介文の日本語仮訳です。

 

 

HIV予防:なお目標に届かず

 2019.3.11

www.unaids.org

 

 世界の新規HIV感染数は減少を続けています。推計モデルによると、全年齢での新規感染件数は最も多かった1996年には340万件(260万~440万件)だったのが、最新推計である2017年には180万件(140万~240万件)に減っています。しかし、その成果も、2020年のターゲットとされている年間新規HIV感染件数50万件以下への軌道にははるかに届いていません。

 

HIV prevention: not hitting the mark

11 March 2019

The number of new HIV infections globally continues to fall. Modelled estimates show that new infections (all ages) declined from a peak of 3.4 million [2.6 million–4.4 million] in 1996 to 1.8 million [1.4 million–2.4 million] in 2017—the year for which the most recent data are available. However, progress is far slower than that required to reach the 2020 target of fewer than 500 000 new HIV infections (see graph below).