♪ 別れの日はきた~ 海街diary 完結

 鎌倉で暮らす4姉妹を主人公にした吉田秋生さんの人気コミックス『海街diary』が1214日発売の第9巻『行ってくる』で完結しました。

 前作(第8巻『恋と巡礼』)から1年と8カ月。待ちに待った刊行です。今年の12月はなぜか忙しかったのですが、ようやく一段落し、若宮大路の島森書店で購入。一気に読んでしまいました。

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 ああ、ついに終わってしまうのかと思う半面、作品の中の鎌倉度みたいなものが最近は少しずつ希薄になってきた印象で、そろそろ潮時なんだろうなあという妙な納得感もあり、読後感はちょっと複雑です。ま、お別れの時が来たということですね。

 第1巻『蝉時雨のやむ頃』が刊行されたのは2007年の4月でした。鎌倉在住の方々の間で、この作品が注目されていることを私が知ったのは2か月ぐらい後だったので、実際に読んだのは6月ぐらいだったのではないかと思います。鎌倉に引っ越して1年足らずという時期ですね。

 例えば獅子舞など、物語の舞台になっていることからその存在を知り、訪ねてみた名所もいくつかあります。初心者向け鎌倉テキストとしてもなかなか魅力的でした。個人的には、もうなくなってしまったSANKEI Expressという新聞で、鎌倉をテーマにした連載を始めたばかりだったということもあり、けっこう参考にさせていただきました。改めて感謝いたします。

 もちろん、3人の姉が母親の違う4女、すず を鎌倉に迎え、4姉妹による共同生活がスタートするに至る経緯を描いたストーリー自体も鎌倉案内以上に魅力的だったことは、大急ぎで強調しなければなりませんね。

 名前は秘しておきますが、涙もろいことでは定評のある由比ガ浜在住の某おじさんなどは、蝉時雨が降り注ぐ場面をトイレで読み、鼻水でトイレットペーパーがグジュグジュになってしまったということです。

 あれから11年余りを経て完結に至ったわけですね。ま、単行本の刊行上はそれだけの年月が経過し、この間に鶴岡八幡宮の大銀杏は倒壊し、東日本大震災では鎌倉の街も計画停電で闇に包まれ、鎌倉は世界遺産を逃し、海街diaryは映画化もされ、新人として出演した広瀬すずさんは人気女優となりました。

 ただし、物語のうえで経過した時間は、すず が鎌倉の中学校(御成中学かなあ、たぶん)に1年生で転校してきてから、卒業してサッカーの強豪の高校に進学するために鎌倉を離れるまでの2年半ぐらいなんですね。その2年半を描くのに11年もの時間がかかったのは、それほど濃密な鎌倉時間があったということなのでしょう。登場する人たちの時間にも、え、2年半でこんなにもいろいろなことが起きるものなの? と思うほど、いろいろな変化がありました。

 それがどんなものなのかは、ここで説明するよりも作品でじっくり味わっていただく方がよさそうです。ひと言、第9巻について加えておけば、巻末には番外編として、第1巻の物語の発端となった温泉地が改めて登場します。『行ってくるよ』からもさらに大きく時間が経過した後日談ですが、季節は夏、おじさんは不覚にも、蝉時雨の場面でまたぐすんと涙ぐんでしまったよ。