UNAIDS事務局長が来年6月末退任を表明 任期を半年前倒し エイズと社会ウェブ版360

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長が1213日のPCB(プログラム調整理事会)で、来年(2019年)6月末に退任する意向を明らかにしました。シディベ氏の任期は2019年末までですが、それより半年早い退陣となります。

 UNAIDSの公式サイトには、1213日付で『UNAIDS理事会が「改革への課題」を直ちに実行するよう要請(UNAIDS Board calls for immediate implementation of UNAIDS agenda for change)』という見出しのプレスリリースが掲載されています。組織としてのUNAIDSはいま、惨憺たる状況のようですが、見出しだけみると、その危機感はあまり伝わってきません。

 英語が不得意なうえ、うかつなことでも定評のある私などは、プレスリリースの以下の英文を読んで、そうか、事務局長は改革という有終の美を飾って任期をまっとうするつもりなのか、しぶといなあ・・・とうっかり感心してしまったほどです。

The Executive Director of UNAIDS also told the PCB that he wanted to have an orderly transition of leadership at UNAIDS in the final year of his term. He informed the UNAIDS Board that its meeting in June 2019 would be his last Board meeting and he would complete his duties at the end of June 2019.

(日本語仮訳:UNAIDS事務局長はPCBに対し、自らの任期の最後の年に秩序ある指導者の交代が進められることを望んでいると述べた。彼はPCBに対し2019年6月が自分にとって最後の理事会になり、6月末で自らの任務を完遂したいと伝えた)

 改めて読み直してみればシディベ氏にとって現状はすでに「死に体」であり、退任の半年前倒しを申し出ることで、何とか「秩序ある指導者の交代」というかたちにしてほしいという交換条件を出し、PCBもそれを了承したということでしょうか。

 経過を簡単に説明しておきましょう。

 UNAIDSは今年春に退任した当時の事務局次長のセクハラ疑惑により、組織の在り方が問われ、独立の専門家委員会が調査を行ってきました。委員会はオーストラリア人権委員会元委員長のジリアン・トリッグス委員長をトップに4人の委員で構成されています。最初は5人でしたが、1人は国連機関の幹部ポストに就任したため途中で外れています。委員会は12月の理事会に報告書を提出しましたが、その内容はシディベ氏に極めて厳しいものでした。 

 11日提出の報告書PDF版はこちら。

 http://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/report-iep_en.pdf

 

f:id:miyatak:20181218103355p:plain

  また、同時に提出された事務局の改革案はこちらです。

 http://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/management-response-to-iep-report_en.pdf

 

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 すいません。英文なので、とても全部は読み切れません。UNAIDSプレスリリースに加え、CNN14日付ニュース

 https://edition.cnn.com/2018/12/14/world/michel-sidibe-unaids-into/index.html

 および、CNNサイトのオピニオン欄に掲載されている米医学ジャーナリスト、ローリー・ギャレットさんの論評

https://edition.cnn.com/2018/12/15/opinions/unaids-sexual-harassment-laurie-garrett/index.html

 英医学誌ランセットのリチャード・ホートン編集長の論評

 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(18)33164-7/fulltext

 といったところを読んで、おおよその内容にあたりを付けました。

以下はその範囲での感想です。報告書を読んだ方がいらっしゃれば、こんな内容だったよ、そこはちょっと違うんじゃないの、といったご指摘をいただくようお願いします。

 

 報告書は『UNAIDS事務局は危機的状況であり、通常の業務にも支障をきたしている』としています。

 シディベ氏は2009年に事務局長に就任するとただちに人事の大刷新を行い、前任のピオット事務局長が任命した高官の何人かを解雇し、他の職員を重用しました。

 ホートン編集長によると、報告書は『現事務局長におけるUNAIDSが目覚ましい成果を上げてきたこと』は認めつつも、『カリスマ的かつ独裁的な』リーダーシップのスタイルが『個人崇拝』と『えこひいき』の傾向を助長し、内向きで『ハラスメントと権力の乱用に甘い』環境を生み出してきたと指摘しています。

 『えこひいきや隠ぺいや不正の黙認、報復』といった土壌を生み出した責任の多くは事務局長にあり『UNAIDSがこの沈滞状況から脱し、スタッフが自信を取り戻し、適切な手続きのもとに差別のない運営ができる組織に戻るには、行動力があり信頼のおける指導者を任命しなければならない』とも述べています。

 この人のもとでは改革などもはや望めないから、早く変えた方がいいということでしょうね。

 ギャレットさんは《UNAIDS理事会と国連事務総長室は行動を急ぎ、新しい年を迎える前にシディベとその一党の退陣を求め、信頼に足るテクノクラート(専門技術者)を暫定指導者にすべきだ。公式の選任プロセスは2019年のできるだけ早い時期に開始しなければならない》《資金もグローバリゼーションへの関心も低下しつつある中で、HIVとの闘いは危機に直面している。HIV陽性者は自らの闘いのために声を上げ続けなければならない》と書いています。

 もうすぐホリデーシーズンの休暇に入ってしまうので、年内の退陣というシナリオはちょっと考えにくいように思いますが、報告書の事務局長批判は極めて厳しく、それに勢いを得て内外の批判が一気に噴出している感もあるので、この体制のままシディベ氏が「秩序ある交代」のために半年間、持ちこたえるのはかなり苦しいかもしれません。なにより、混乱状態をさらに半年も引き延ばすことになると、ギャレットさんが指摘するように国際的なHIV/エイズ対策への妨げや信頼の喪失も拡大しそうです。

 CNNニュースは《UNAIDSの最大のドナー国のひとつであるスウェーデン政府は水曜日(12日)にシディベ氏が自ら去るか解任されるまで、すべての財政支援を控えると発表した》と報じています。

 スウェーデン政府はUNAIDSにとって、米国に次ぎ世界第2位の資金拠出国ということです。なぜスウェーデンが・・・という点に関しては、次はだれがUNAIDSを率いていくのかといったことも含め、いろいろと憶測も広がってきそうですが、私は何の根拠も持ち合わせていないので、ここでは触れないでおきましょう。

 他の国はどう対応するのか。UNAIDSは財政的にもすでに苦境に追い込まれつつあり、新しい指導者のもとで再出発を目指すとしても、よりスピード感を持った対応が求められそうです。

 

 ところで、シディベ氏は就任の翌年の201010月と昨年2月の2回、日本を訪れています。個人的にはその2回ともお会いしてお話をうかがう機会がありましたが、昨年の来日時には予定変更が相次ぎ、ずいぶん印象が変わったなと感じたことを思い出します。ひと言で評すれば、長期にわたって組織のトップの座にいることで権力に慣れ、気まぐれな行動が周囲を振り回すようになってしまったといいますか・・・。

 最初の来日時には、日本記者クラブで記者会見を開きました。

https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/15122/report

 二度目の来日の際も222日の午後、日本記者クラブで記者会見をお願いしていたのですが、身内に急用ができたということで会見をドタキャンし、当日の朝、帰国してしまいました。司会をお引き受けしていたので、それはないだろうという釈然としない思いが私には残りましたが、あとで考えると、当時すでに批判の声が上がっていた幹部職員のセクハラ疑惑を追及されるのが嫌でさっさと帰ってしまったのではないかと思います。

 恥をしのんでいえば、こちらはセクハラ疑惑の存在すら当時は知らなかったのですが・・・。まあ、いいか。

 以下、1213日付プレスリリースの日本語仮訳です。

   ◇

国連合同エイズ計画(UNAIDS)理事会が「改革への課題」を直ちに実行するよう要請

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2018/december/pcb43

ジュネーブ 20181213日 UNAIDSプログラム調整理事会(PCB)はUNAIDSに対し、事務局におけるセクシャルハラスメントやいじめ、権力の乱用を含むハラスメント対策に取り組む「マネージメントの対応(UNAIDS改革への課題)」を完全に実施するよう求めた。この改革への課題は1211日に事務局長から理事会に提出されていた。

 この決定はスイスのジュネーブで開かれた第43回理事会で本日、行われた。また、PCBは実施状況を監督するための作業部会を設置すること、20193月までに独立専門委員会の報告について検討する臨時理事会を開くことも決めた。UNAIDS事務局の職員組合の声明、および職場におけるハラスメントにPCBの注意を喚起したことに対しては、歓迎の意を示した。

 「改革に手をこまねいている時間はありません。行動することでUNAIDSをより強く、より良い組織にしていきたい」とミシェル・シディベ事務局長は語った。「多様な人たちが働く場のモデルになるようUNAIDSのすべてのスタッフと協力していきたい」

 また、UNAIDS事務局長はPCBに対し、自らの任期の最後の年に秩序ある指導者の交代が進められることを望んでいると述べた。彼はPCBに対し20196月が自分にとって最後の理事会になり、6月末で自らの任務を完遂したいと伝えた。

 「UNAIDSの成果に誇りを持っています。過去10年にわたり何百万という人の生命を救い、何百万もの新規HIV感染を防ぐ助けになってきました。UNAIDSのスタッフは最も大きな財産であり、ともに働く栄誉にあずかることができました」とシディベ氏は語った。「円滑な移行を確実に果たせるよう努力し、スタッフのことを第一に考え、私たちが奉仕する人たちに最善の成果が届くようにすることを約束します」

 UNAIDSの改革への課題は、UNAIDSのスタッフがこれまでの成功をさらに生かし、HIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちに最大限の成果を提供きるようにするうえで不可欠なものとなる。改革は「スタッフ中心のアプローチ」「compliance and standards」「leadership and governance」「management」「capacity」の5つの行動領域に焦点が当てられ、各領域でUNAIDS事務局によるキーアクションの概要が示されている。

 UNAIDSは、互いを尊重し、透明で、責任を明確に定めた職場環境づくりの先頭に立ち、サービスを必要とする人たちのために職員が最大限の貢献を果たせるよう、あらゆるかたちのハラスメント、いじめ、権力の乱用をなくすことを繰り返し約束している。

 

 

UNAIDS Board calls for immediate implementation of UNAIDS agenda for change

 

GENEVA, 13 December 2018—The UNAIDS Programme Coordinating Board (PCB) has called on UNAIDS to fully implement the management response (UNAIDS agenda for change) to address harassment, including sexual harassment, bullying and abuse of power, at the UNAIDS Secretariat which was presented to Board members by the Executive Director of UNAIDS on Tuesday 11 December.

The decision was agreed by the members of the PCB at the conclusion of the 43rd meeting of the PCB in Geneva, Switzerland, today. The PCB agreed to establish a working group to oversee the immediate implementation of the management response and to discuss the report of the Independent Expert Panel in a special PCB meeting before March 2019. The PCB also welcomed the statement of the UNAIDS Secretariat Staff Association and the critical role they played in bringing to the PCB’s attention the issue of harassment at the workplace.

We don’t have a moment to lose in moving forward our management response. Our actions will make UNAIDS stronger and better,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS. “I look forward to working with all staff to make UNAIDS a model workplace for staff in all their diversity. I look forward to an inclusive, transparent and open dialogue and collaboration with staff in shaping a new UNAIDS.”

The Executive Director of UNAIDS also told the PCB that he wanted to have an orderly transition of leadership at UNAIDS in the final year of his term. He informed the UNAIDS Board that its meeting in June 2019 would be his last Board meeting and he would complete his duties at the end of June 2019.

I am proud of the successes of UNAIDS. In the past 10 years we have been instrumental in saving millions of lives and averting millions of new HIV infections. The staff of UNAIDS are our greatest asset and I am privileged to serve alongside them,” said Mr Sidibé. “I will work to ensure a smooth transition and pledge to keep my focus on our staff and delivering results for the people we serve."

UNAIDS’ agenda for change will be critical in ensuring that the staff of UNAIDS can continue to build on these successes and deliver maximum results for people living with and affected by HIV. It focuses on five action areas: a staff-centred approach, compliance and standards, leadership and governance, management and capacity. Each area outlines key actions that the UNAIDS Secretariat will undertake.

UNAIDS reiterates its commitment to lead by example in eliminating all forms of harassment, bullying and abuse of power by creating a respectful, transparent and accountable environment that enables all staff to contribute their full potential to deliver for the people they serve.