エイズ動向委員会の移行期を読む TOP-HAT News 第116号(2018年4月)

 

 

  TOP-HAT Newsの第116号(2018年4月号)です。巻頭には厚労省エイズ動向委員会を取り上げました。3月16日開催の委員会から、国立病院機構大阪医療センターの白阪琢磨エイズ先端医療研究部長が委員長になっています。

 前任の岩本愛吉・日本医療開発機構戦略推進部長は2005年8月から12年間にわたって委員長でした。実は岩本さんが就任した当時、国内のHIV感染報告は男性同性間の性感染による報告が(あくまで報告ベースですが)急増している時期でした。ついに日本でも局限流行期に移行したかというような印象を持った記憶があります。
 それが数年の間に(しつこいようですが、あくまで報告ベースでは)、横ばいの状況へと転化し、ここ10年は何とか感染報告の拡大を抑えてきました。国内のHIV対策はこの間、劇的な成果を上げていたのではないか(と少なくとも私は思います)。しかし、今後もその成果が持続するとは限りません。何が成果をもたらしたのか。その分析は対策を進めていくうえでも重要な宿題でしょう。
 もちろん、これは岩本さんが個人であげた成果というわけではなく、さまざまな立場の人やグループの貢献が積み重ねられた結果であるとは思います。それでも、ゲイアクティビストから「ラブ吉先生」の愛称で親しまれ、同時に研究者として国際的にも信望の厚い岩本さんが長く動向委員会のトップを務め、わが国の流行動向の把握と分析にあたる立場にあったことの意味は小さくない(とも私は思っています)。
 その成果を白阪さんがどう継承し、発展させていくか・・・ということで、タイトルはあえて「動向委員会の移行期を読む」としました。
 新規感染報告が横ばいから減少へと明確に転じていかない。したがって、いまのままの対策で満足してはいけない・・・という指摘はしばしばなされてきましたし、私もそう思う一人です。ただし、そうした指摘がこれまでコミュニティベースで積み上げてきた成果を黙殺したり、つぶしたりしていく動きに転じるようなことが、仮にあるとすると、これは大きな危機といわなければなりません。

 

 

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        第116号(20184月)

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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに エイズ動向委員会の移行期を読む

 

2  LOVE & EQUARITY》を掲げ、東京レインボープライド2018開催

 

3 第3野口英世アフリカ賞の候補者推薦を受け付け

 

4  HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン

 

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1 はじめに エイズ動向委員会の移行期を読む

 厚生労働省エイズ動向委員会が316日に開かれ、終了後の記者会見で昨年(2017年)1年間の新規HIV感染者・エイズ患者報告速報値が発表されました。

  新規HIV感染者報告数   992

  新規エイズ患者報告数     415

 感染者、患者の合計は1407件です。

あくまで速報値であり、最終的な確定値はほぼ半年後にまとまります。毎年の確定値は速報値より十数件程度、増えることが多く、2017年確定値も1400件台の前半といったところでしょうか。

 そうした報告の時間差もある程度、織り込んだうえでの話ですが、動向委員会終了後の記者会見で、白阪琢磨委員長は「感触として減ってきたという印象はあるが、本当に減ってきているのかどうかはもうしばらく見ていかなければならない」と語っています。

 少し注釈を加えておきましょう。まず、エイズ動向委員会はこれまで年4回、つまり3か月ごとに開かれていました。それが前回(20178月)から年2回に変わっています。 報告レベルで短期間の変化に一喜一憂するのではなく、中長期的な動向も見据えて対応するには半期に一度ぐらいの集約が妥当なのかもしれません。

 委員長は今回から国立病院機構大阪医療センターの白阪琢磨エイズ先端医療研究部長に代わりました。いま日本で最も多くHIV陽性者の診療にあたっている医師の一人です。

医学の進歩により、抗レトロウイルス治療の普及はHIV感染の予防にも寄与していることが明らかになっています。予防と治療を切り離して考えることはできないという意味も含め、適任というべきでしょう。

 前任の岩本愛吉委員長も東京大学医科学研究所の教授や付属病院長などを歴任した著名な臨床医であり、ウイルス感染症の研究者です。20058月から12年間にわたって委員長を務めてこられました。

岩本委員長が就任した2005年当時の記録を調べると、新規HIV感染者・エイズ患者報告数は年間1199件(感染者報告832件、患者報告367件)でした。感染者、患者報告ともその時点では過去最高です。その2年前の2003年までは1000件未満の状態が続いていましたが、右肩上がりで報告が増え、2007年には1500件(感染者報告1082件、患者報告418件)に達しています。この年も感染者、患者報告はともにその時点で過去最高の報告数でした

男性同性間の性感染による感染報告が急増していた時期でもあり、わが国でも大都市部を中心にして、一定の人口集団内におけるアウトブレークが懸念されていましたが、2007年以降は年間の報告件数が1400件から1600件の間で推移し、少なくとも報告ベースで見れば、国内の流行は感染の拡大から横ばいへと傾向が移っています。

 これは岩本委員長時代の12年間の大きな功績であり、同時にそこからさらに減少へと転じていけるかどうかが予防対策の大きな課題でもありました。

 参考までに付け加えておくと、これまでで感染者報告が最も多かったのは2008年の1126件、エイズ患者報告は2013年の484件で、少し時差があります。

 なぜ横ばいに転じたのか、そして横ばいから減少へと移行していかないのはどうしてなのか。その理由については、こうしたタイムラグも含め、今後さらに分析を進める必要がありますが、直近の3年間は新たな傾向が出てきたようにも見えます。2015年は1434件(HIV感染者報告1006件、エイズ患者報告428件)、2016年は1448件(同1011件、437件)でした。そして2017年はまだ速報値段階ですが、1407件(同992件、415件)で、新規感染者報告が1000件を下回っています。

 白阪新委員長のコメントの「感触として減ってきたという印象はあるが」という部分には、そうした傾向への期待がにじんでいるようです。そして、「本当に減ってきているのかどうかはもうしばらく見ていかなければならない」という慎重な発言には、岩本委員長時代の12年間で達成された「流行の拡大に歯止めがかかる」という実績をさらに大きな成果につなげていこうとする強い意欲があらわれているのではないでしょうか。

開催頻度が年2回になり、委員長も代わって、エイズ動向委員会も移行期を迎えています。新たな環境の背景をそうした文脈でとらえ、次の変化につながる成果を期待したいですね。

 

 

 

2   LOVE & EQUARITY》を掲げ、東京レインボープライド2018開催

 「らしく、たのしく、ほこらしく」を合言葉に、東京レインボープライド2018428日(土)から56日(日)まで開催中です。キース・ヘリング生誕60周年となる今年は、彼の作品と共に「LOVE & EQUALITY」(すべての愛に平等を。)をテーマとして掲げています。

メインイベントのプライドフェスティバルは55日(土)、6日(日)、代々木公園(東京都渋谷区代々木神園)。6日はカラフルなパレードが渋谷・原宿を行進します。

詳細は公式サイトをご覧ください。

https://tokyorainbowpride.com/

 

 

 

3 第3野口英世アフリカ賞の候補者推薦を受け付け

 感染症などアフリカの疾病対策に医学研究および医療活動の分野で顕著な功績を挙げた個人や団体に贈られる「第3野口英世アフリカ賞」の候補者推薦を内閣府が受け付けています。締め切りは今年731日(火)です。

 『アフリカの地で黄熱病の研究途上に亡くなった野口英世博士(18761928年)の志を踏まえ、アフリカにおける感染症等の疾病や公衆衛生への取組において顕著な功績を挙げた方を顕彰する』(内閣府)という賞で、医学研究分野は個人、医療活動分野は個人または団体が対象となります。賞金はそれぞれ1億円です。

授賞式は2019年の第7アフリカ開発会議TICAD7、横浜)に合わせて行われます。詳細は内閣府野口英世アフリカ賞公式サイトでご覧ください。

http://www.cao.go.jp/noguchisho/index.html

 

 

 

4  HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン

厚生労働省の『HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立』研究班が、3年間の研究の集大成となる『HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン』(初版)を発行しました。「先進国のHIV母子感染予防対策ガイドラインを比較検討し、日本の特色を考慮した母子感染予防対策を提示」しているということです。

研究班の公式サイトでPDF版がダウンロードできます。

http://hivboshi.org/