Alone が Together する夜 エイズと社会ウェブ版303

 ライブパフォーマンスとHIV陽性者の手記朗読、そして医療の専門家を交えたトークショーと盛りだくさんの2時間でした。寒風吹きすさぶ晩秋の帰り道、JR田町駅に向かってとぼとぼとカナルに架かる橋を渡る間も、余熱がなかなか冷めない。何というのかなあ、熱いというか、暖かいというか、強いて表現すれば、熱暖かくてクール・・・なんじゃ、そりゃ!?と思うでしょ、でも、そんなイベントだったんだよね。

 東京都港区のSHIBAURA HOUSE115日夜、「Living Together/STAND ALONE」が開かれました。好き勝手な感想が暴走してしまうといけないので、まずはプログラムを紹介しておきましょう。

 

Living Together/STAND ALONE

SHIBAURA HOUSE 2017年度フレンドシップ・プログラムnl/minato_ LGBT/ジェンダー/メディアプログラム

1部 「Living Together/STAND ALONE

ライブパフォーマンス + HIV陽性者による手記の朗読

出演:マダム ボンジュール・ジャンジ(ドラァグクィーン/パフォーマー

ゲスト:長谷川博史(編集者/NPO JaNP+理事)

    武田飛呂城(NPO法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会 事務局長)

2部 トークショーHIVセクシュアリティ

出演:

生島嗣(NPO法人ぷれいす東京代表 /31回日本エイズ学会学術集会・総会 会長)

岩本愛吉(東京大学名誉教授 /国立研究開発法人日本医療研究開発機構 戦略推進部長)

松中権(認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表)

 

 ね、盛りだくさんでしょう。個人的には、LGBT/ジェンダー/メディアプログラムの中心にHIV/エイズをピシッと据えたその課題設定の真っ当さと志の高さ、そこにまず敬意を表したい。

そのうえで、うっとうしい「そもそもおじさん」の疑問なんですが、そもそもタイトルが、Together(一緒)でALONE(一人)ってどういうことなの?

実はステージが始まるとこの疑問はすぐに氷解しました。

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パフォーマンスは主催者であるマダム ボンジュール・ジャンジがひとり壇上に立って(おっと最初の写真は座っていたか。ま、とにかく)STAND ALONEで進められ、手記は武田さん、長谷川さんが、これまたそれぞれおひとりで朗読されたのですが、その内容はLiving Togetherのメッセージでした。

ALONEのパフォーマンスとTogetherの朗読が交互に登場して、総体としては、それぞれにALONEな個人が、Togetherに生きているという共通の了解事項が成立し、第2部の「HIVセクシャリティ」をテーマにしたトークショーにつながっていく。ま、勝手に解釈すれば、そんな構成ですね。

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パフォーマンスはこんな感じで、七変化といいますか、次々に登場する人物はすべてジャンジさんです。

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 血友病治療の血液製剤HIVが混入していたため感染した武田さんは「問うことだけが人生だ」と題した手記を朗読しました。

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5歳ぐらいまでに感染していたと推定され、その感染をお母さんから知らされた16歳の頃には「親に心配をかけたくなかったから、静かに荒れた」ということです。生と死を行き来する数年間が続き、5年後に新薬が開発されて劇的に回復しました。「あと半年、遅かったらおそらく死んでいただろう」と武田さんは手記に書いています。先に死ぬ人がいて、治療が間に合って生き残った自分がいる。いない人がいて、いる人がいる。どうしてなのか。問いかけても誰も答えることはできない。問いだけがあって、答えはない。だが、問うことは大切だ。生きることはだいじなことだ。武田さんは手記をこう結んでいます。

「答えは見つからなくていい。問いの中にすべての人生がある」

 

 再びジャンジさんのパフォーマンスをはさみ、ステージが暗くなると、あらら、隣に座っていた長谷川さんがセンチメンタル・ジャーニーを歌いながら車いすをステージに向かって移動させていきました。相変わらず食えない人だねと思いつつ・・・。

 

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ステージにはスロープがついていないのに、車いすでどうやって上がるつもりだろう。おそらくは客席の大方の人がはらはらしながら見守っていると、車いすから離れ、ひょいとステージの先端に腰をかけて、自作の詩「さくらさくら/センチメンタル・ジャーニー」を朗読します。食えないぞ、やっぱり、と改めて思い、また、何回も聞いた詩だというのに、再び三たび、その世界に引きこまれていく。

 

一九九二年、爛漫の春

僕が通い始めた病院の庭には桜の大木が立っていて

咲き誇る満開の花の下で僕はひたすら旅立ちの日を待っていた

 

この詩に描かれている1992年から2002年までの間、長谷川さんの周囲でもたくさんの人が旅立っていった。そして長谷川さんは123錠のカプセルで薬漬けになりつつ生きながらえていた。その2002年からでも15年が経過している。勝手にセンチメンタルで恐縮ですが、私も改めて長い時を振り返る。長谷川さんにはかかわりのないことかもしれません。でも、これもまたLiving Togetherであります。

 

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 第一部の終幕にはミラーボールが登場しました。その直前のパフォーマンス(先ほどの写真の赤い服の分ですね)では少々、刺激的な場面もあったのですが、ジャンジさんからは事前に『ちょっと苦手なシーンがあるかもしれませんが、一瞬ですのでその時は目を覆っていて頂ければ』というアドバイスをいただいていました。したがって目を覆うことは覆い、それでもまあ、指と指の間は少し開いて・・・などと、もたもたしているうちに写真は撮り忘れてしまいました。悪しからず。そのかわり、というのも変ですが、3人そろい踏みのミラーボール、とくとご覧ください。

 

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 第2部のトーク。岩本さん、松中さんという分野の違うお二人は初顔合わせだったようですが、生島さんの司会で緩やかなライブ感覚のTogether Talkになりました。岩本さんはラブ吉先生と呼ばれ、まんざらでもなさそうな表情。

 2019ラグビーW杯、2020東京五輪の話題も出て、「HIVセクシャリティの課題を来たるべき巨大イベントの2年間にどうつなげていくか、個人的には新たな宿題をいただいた印象もあり、緩やかにして、かつスリリングな展開でした。